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崩れる日常
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その頃、街のあちこちでねずみの姿が発見され、その規模は街全体に及び住人たちの不安と混乱を招き、気づけばギルドホールに人だかりができて神父は対応に追われた。
ドンドンとパン工房の扉を叩く音がする。アンネマリーが扉を開けると隣で飲食店を営むカスパルが眉間にシワを寄せてそこに立っていた。その顔は怒りで満ち溢れているようだった。
カスパルが開口一番に言う「出たんだよ ねずみが。それも一匹や二匹じゃない」鼻息荒くそう言った。どうやら隣の店もベルンハルト夫妻と同じ境遇に陥っているようだ。その声を聴いた奥の部屋で掃除をしていたベルンハルトが声を荒げて言葉を返す「そっちもか こっちも朝からねずみ駆除だ。保管してあった食料品がやられちまった。全部焼却処分したよ」
カスパル「そうか じゃあうちも食料品を処分するか・・・・」ため息交じりにそう呟いた。そして、続けてカスパルが言う「それにしても街のあちこちでねずみが発生しているらしい。これは何かおかしいぞ」それを聞いたベルンハルトは少し安心した表情を浮かべた。ねずみの発生源はわからないがどうやら”うちの店が不衛生だからねずみが出たわけじゃない”ようだ。自分でも気づかなかったがさっきまで緊張していた肩の荷が下りて力が抜け、まるで膨らんでいた風船が萎んでいくようだった。
出所はわからないが街全体にねずみが発生したのであればうちの店の責任は問われないし、ましてそれが街全体となるとカスパルが言うように”何かがおかしい”はずだ。その原因を調べる必要がある。
もし街全体ではなく”うちの店だけにねずみが大量発生していた”のであれば、そのウワサが広まれば都市参事会に召喚されパン屋の運営を中止させられる可能性がある。
ただ”街全体でどうしてねずみが大量発生しているのか?”は以前、謎のままだ。部屋を掃除しながらベルンハルトは今置かれている現状と最善策を考えた。
この日を境にしてメアベルクの街では、ねずみが大量発生し神父ヴォルフラムから住民たちの苦情を聞きつけた都市参事会の会員たちはギルドホールに集まり議論を始めた。
都市参事会の会長ニクラスはメアベルクの領主である。普段は街に出て来ることがなく大きな屋敷の最上階の自室のソファにゆったりと座り本を読んでいる。骨董品が好きで部屋には旅先で手に入れたティーカップやロウソクの火を灯す金の台座などがテーブルの上に置かれている。メアベルクの街の人々が穏やかで優しいのはニクラスのおかげだという人がいるほど信頼の厚い男である。そんな彼が重い腰を上げて定例会以外でギルドホールに来ることは珍しい。ギルドホールにニクラスが登場すると会員の世話係や掃除婦はやや緊張していた。彼の高貴な服装や雰囲気は貴族そのものだった。
先にギルドホールに集まっていた会員たちがニクラスの顔を見るとすぐに席から立ち上がり会長のほうに向かってあいさつをした。
「ほほう皆既に集まっておったか。まぁ座りなさい」ニクラスの言葉には安心感を与える力があった。会員たちは軽くお辞儀をしてから席についた。
神父のヴォルフラムがねずみが大量発生し不安になった住民たちが教会に押し寄せてきたことを会員たちに伝え、その経緯を説明したあとに医師であるダームに目配せをした。
ダーム「確かに街が騒がしい。このままねずみを放置しておけばいずれは流行り病が起きるだろう。メアベルク以外の街では数十年前に疫病が流行っている。それはねずみの発生から始まったと旅の者から私は聞いた。もし疫病にかかれば患者を隔離する以外に術はない」。この当時の医療ではウィルスによる感染症は死に直結する恐ろしいものだった。それを含めて事態を重く見ているダームであったが医師として伝えなければいけないことを淡々と伝えた。
ルーカス「ではどうするか?既にねずみは大量発生している。ギルド隊員を募ってねずみを駆除していくか?日が暮れちまうな。フェンナー、お前さんならどうする?」ギルド隊長のルーカスが考古学や数学、地理に詳しいフェンナーにそう尋ねた。
フェンナー「まだ私からは何とも言えないな・・・。もっと情報を集めないと答えは導き出せない。ただ今できることはねずみの駆除が優先される。そこはルーカス隊長に任せたい。ギルド隊員を募集すれば飲食店を営む住民たちは快く協力してくれるだろう。その報酬はニクラス会長の心意気にお任せいたします」
このときフェンナーは自分がまだ役に立っていないという焦りと苛立ちを募らせていた。メアベルクの街をこよなく愛し素晴らしい土地だと惚れ込んで旅先だったメアベルクに永住することを決めたフェンナーは多くの学生に慕われる識者であった。
ニクラス「ヴォルフラムはできるだけ多くの住民たちの声を聴いてあげなさい。そして、生活に困った者にはギルド隊員の応募を勧めルーカスのところへ案内しなさい。ギルド隊員の報酬は銀貨5枚だ。ギルドに入ったものにはお金も食事も用意する。もちろん家族の分もだ。確かにこの街にはねずみが溢れて多くの食料品がダメになってしまった。しかし、塩漬けチーズや塩漬け肉、ピクルスや燻製は、ねずみにやられていない。数か月分の食料の備蓄はある。だから、心配するな」と語気を強めた。
話はまとまり、それぞれの専門分野を生かしお互いに連携をとって事態の収束にあたる。異変があったことや日々に起きた出来事はフェンナーに報告するようにニクラスは指示を出した。屋敷にいる複数の世話係を会員たちに同行させ一日の終わりにフェンナーのところに向かわることとした。
しかし、それから一か月が過ぎても事態は収束せず、メアベルクの街は悪化の一途を辿った。
ドンドンとパン工房の扉を叩く音がする。アンネマリーが扉を開けると隣で飲食店を営むカスパルが眉間にシワを寄せてそこに立っていた。その顔は怒りで満ち溢れているようだった。
カスパルが開口一番に言う「出たんだよ ねずみが。それも一匹や二匹じゃない」鼻息荒くそう言った。どうやら隣の店もベルンハルト夫妻と同じ境遇に陥っているようだ。その声を聴いた奥の部屋で掃除をしていたベルンハルトが声を荒げて言葉を返す「そっちもか こっちも朝からねずみ駆除だ。保管してあった食料品がやられちまった。全部焼却処分したよ」
カスパル「そうか じゃあうちも食料品を処分するか・・・・」ため息交じりにそう呟いた。そして、続けてカスパルが言う「それにしても街のあちこちでねずみが発生しているらしい。これは何かおかしいぞ」それを聞いたベルンハルトは少し安心した表情を浮かべた。ねずみの発生源はわからないがどうやら”うちの店が不衛生だからねずみが出たわけじゃない”ようだ。自分でも気づかなかったがさっきまで緊張していた肩の荷が下りて力が抜け、まるで膨らんでいた風船が萎んでいくようだった。
出所はわからないが街全体にねずみが発生したのであればうちの店の責任は問われないし、ましてそれが街全体となるとカスパルが言うように”何かがおかしい”はずだ。その原因を調べる必要がある。
もし街全体ではなく”うちの店だけにねずみが大量発生していた”のであれば、そのウワサが広まれば都市参事会に召喚されパン屋の運営を中止させられる可能性がある。
ただ”街全体でどうしてねずみが大量発生しているのか?”は以前、謎のままだ。部屋を掃除しながらベルンハルトは今置かれている現状と最善策を考えた。
この日を境にしてメアベルクの街では、ねずみが大量発生し神父ヴォルフラムから住民たちの苦情を聞きつけた都市参事会の会員たちはギルドホールに集まり議論を始めた。
都市参事会の会長ニクラスはメアベルクの領主である。普段は街に出て来ることがなく大きな屋敷の最上階の自室のソファにゆったりと座り本を読んでいる。骨董品が好きで部屋には旅先で手に入れたティーカップやロウソクの火を灯す金の台座などがテーブルの上に置かれている。メアベルクの街の人々が穏やかで優しいのはニクラスのおかげだという人がいるほど信頼の厚い男である。そんな彼が重い腰を上げて定例会以外でギルドホールに来ることは珍しい。ギルドホールにニクラスが登場すると会員の世話係や掃除婦はやや緊張していた。彼の高貴な服装や雰囲気は貴族そのものだった。
先にギルドホールに集まっていた会員たちがニクラスの顔を見るとすぐに席から立ち上がり会長のほうに向かってあいさつをした。
「ほほう皆既に集まっておったか。まぁ座りなさい」ニクラスの言葉には安心感を与える力があった。会員たちは軽くお辞儀をしてから席についた。
神父のヴォルフラムがねずみが大量発生し不安になった住民たちが教会に押し寄せてきたことを会員たちに伝え、その経緯を説明したあとに医師であるダームに目配せをした。
ダーム「確かに街が騒がしい。このままねずみを放置しておけばいずれは流行り病が起きるだろう。メアベルク以外の街では数十年前に疫病が流行っている。それはねずみの発生から始まったと旅の者から私は聞いた。もし疫病にかかれば患者を隔離する以外に術はない」。この当時の医療ではウィルスによる感染症は死に直結する恐ろしいものだった。それを含めて事態を重く見ているダームであったが医師として伝えなければいけないことを淡々と伝えた。
ルーカス「ではどうするか?既にねずみは大量発生している。ギルド隊員を募ってねずみを駆除していくか?日が暮れちまうな。フェンナー、お前さんならどうする?」ギルド隊長のルーカスが考古学や数学、地理に詳しいフェンナーにそう尋ねた。
フェンナー「まだ私からは何とも言えないな・・・。もっと情報を集めないと答えは導き出せない。ただ今できることはねずみの駆除が優先される。そこはルーカス隊長に任せたい。ギルド隊員を募集すれば飲食店を営む住民たちは快く協力してくれるだろう。その報酬はニクラス会長の心意気にお任せいたします」
このときフェンナーは自分がまだ役に立っていないという焦りと苛立ちを募らせていた。メアベルクの街をこよなく愛し素晴らしい土地だと惚れ込んで旅先だったメアベルクに永住することを決めたフェンナーは多くの学生に慕われる識者であった。
ニクラス「ヴォルフラムはできるだけ多くの住民たちの声を聴いてあげなさい。そして、生活に困った者にはギルド隊員の応募を勧めルーカスのところへ案内しなさい。ギルド隊員の報酬は銀貨5枚だ。ギルドに入ったものにはお金も食事も用意する。もちろん家族の分もだ。確かにこの街にはねずみが溢れて多くの食料品がダメになってしまった。しかし、塩漬けチーズや塩漬け肉、ピクルスや燻製は、ねずみにやられていない。数か月分の食料の備蓄はある。だから、心配するな」と語気を強めた。
話はまとまり、それぞれの専門分野を生かしお互いに連携をとって事態の収束にあたる。異変があったことや日々に起きた出来事はフェンナーに報告するようにニクラスは指示を出した。屋敷にいる複数の世話係を会員たちに同行させ一日の終わりにフェンナーのところに向かわることとした。
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