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ベルティーナのお使い①
イナンナからの返事はすぐに送られた。光を纏う伝書鳩を腕に乗せたアルジェントから聞かされたのはOKの言葉と王家を交えた、アンナローロ家とモルディオ家を一度に集める場を設けた事、更に国王の魅了を解いたというもの。精神安定剤を光る伝書鳩に結び付け、再びイナンナの許へ飛ばした。同席したいのなら戻っておいでとはイナンナの追伸。どうする? と問われたベルティーナは神妙な面持ちをしていた。
「さっきの薬剤師から聞いた話……魅了を長期間掛けられ続けたせいでお父様は変わられてしまったのなら、無理に正常に戻す必要はないと思うの。戻しても廃人となるくらいなら、いっそ、そのまま忘れていた方がお父様だって幸せでしょう」
「人の気持ちなんて俺にはよく分からないけど、公爵が本心ではどう思っているかが重要じゃない?」
「お父様が?」
「そう。公爵が理性を残している時に、何か残していれば良いのだけど」
ベルティーナはふと、思い出した。父クロウはよく日記を書いていると。子供の時からの習慣で夜眠る前に一日あった出来事を綴っていると何時かの食事の場で話していたのを聞いた。
無論、その会話にベルティーナは入れない。クラリッサがいない時のアンナローロ家の食事は両親と兄しか声を出していない。ベルティーナは黙々と食べるだけ。時折、存在を思い出したようにどこからか嫌味が飛んでくるだけ。私室で食べようとしたら家族団欒も出来ないのかと何度も叱られた。透明人間の如く扱う人間が何を言っている、と何度も言ってやりたかった。
父の日記を手に入れれば手掛かりとなる事柄があるかもしれない。ベルティーナの視線を受けてアルジェントは頷くも、その前にと街に来てすぐに入ったカフェにまた寄った。
店内の席に座らされたベルティーナは「俺が戻るまで待ってて」と言い残したアルジェントが去ると同じ給仕に不思議そうな顔をされて苦笑し、小腹が空いた時にお勧めなスイーツを訊ねた。
「それでしたら、ラズベリーパイは如何ですか? 丁度今焼き上がったところなんです」
「まあ、美味しそうね! 頂くわ。ホットミルクとセットでお願い」
「畏まりました」
伝票に注文の品を書き終えた給仕が店の奥へ行った。ベルティーナは待っている間、テーブルで頬杖をついてぼんやり店内を眺めていた。
妙な胸騒ぎは未だ消えていない。
●〇●〇●〇
転移魔法はイナンナだけが使える訳じゃなく、力の強い悪魔なら大体扱える。アルジェントは転移魔法でアンナローロ公爵邸に戻り、姿を見られないよう自身を透明にした。これで自由に出歩ける。
念の為、ベルティーナの部屋が荒らされていないかを確認するべく向かい、周囲に誰もいないのを確認して慎重に扉を開けた。室内にも人はいない。
「荒らされてはいないか」
一通り室内を見回し、安心したのも束の間、自分が部屋として寝泊まりしているウォークインクローゼットへの扉が微かに開いている。普段は必ず扉を閉めて出ているのに不自然。恐る恐る隙間から室内を覗き、一驚して危うく声を出し掛けた。恋は盲目、という言葉が人間にはある。人の寝具の上で横になっている彼女——クラリッサは自分の何を見て好きだと言うのか、欲するのかが不明だ。
無断で入ったであろうクラリッサは誰もいないのを良いことに横になっているようだが、目撃したアルジェントは盛大に呆れ果てた。
「アルジェント君……ベルティーナお姉様なんて見限って、私を選んでよぉ……」
「私ならアルジェント君を扱き使ったりしないし、ペット扱いもしない」
「ベルティーナお姉様は、王太子殿下に愛されているんだからアルジェント君は要らなくなるのに……私に頂戴よ……」
ある悪戯を思い付き、横になっているクラリッサにそっと近づいた。
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