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家族とは思えない①
しおりを挟むこうやって面と向き合うのは久しぶりな気がする。顔を合わせてもどちらかが嫌味を発するかビアンコが一方的に突っ掛かってベルティーナが適当にあしらうだけ。まじまじとビアンコの顔を見ているとアニエスが執着しなかった理由が何となく分かった。兄は母に似ている。色が父でも雰囲気や顔立ちが母に似ればアニエスにとってはどうでもいい。
「お父様やお母様には、今後領地で療養して頂きます。治る見込みはハッキリ言ってありません」
寧ろ、廃人のまま生きていた方がある意味では幸せなのかもしれない。自分の意思を取り戻したところで二人に待っているのは地獄。
「治す手立てはないのか」
「あれば先に言っています」
「そんなっ」
「お父様やお母様は叔母様に長期的な魅了を掛けられ続けた影響で治療が困難なのです。精神安定剤を投与し続けても意味があるかどうか……それなら、いっそのこと二人を領地で療養させ、公爵家の事はお兄様にお任せしようかと」
元々父の後を付いて回って領地の運営や小公爵として役目を果たしていたビアンコなら、急に父がいなくなっても上手く動ける。クラリッサを離し、難しく考え込むビアンコは不意に顔を上げた。
「ベルティーナはどうするんだ」
「私は……」
「私はどうしたらいいですか……!」
王太子妃になるつもりはないと国王夫妻のいるこの場ではっきり言おうと考えた矢先、言葉を遮り自己主張をしたのはクラリッサ。さっきまで泣いていたので目元は赤く、瞳は濡れたまま。周囲を見回しクラリッサは改めて口を開いた。
「私は、モルディオ家はどうなってしまいますか」
この問いに答えたのはリエト。
「公爵は人を使って大神官の殺害未遂を起こし、夫人は父上を操って自分の意を通そうとした。どちらも極刑は免れない以上、モルディオ家は爵位剥奪か良くて爵位を子爵に落とされるかだろう」
「そんなっ!」
縋る思いで国王や王妃を見ても首を振られた。力無く座り込んだクラリッサを慰めたのはビアンコだった。
「心配するなクラリッサ。行き場が無くても僕がクラリッサを引き取る」
「ビアンコお兄様っ」
「父上や母上には領地で余生を過ごしてもらう。叔母上がいなくなるのなら、時間は掛かってもいつか元に戻ってくれる事を僕は願っている。クラリッサ、これからは王太子妃になるベルティーナを僕達で支えよう」
「はい、お兄様」
「お兄様、クラリッサ」
二人未来に向けて目標を立て急に元気になり始めたところでベルティーナの冷めた声が飛んだ。
「私は王太子妃になるつもりは、まっっったくありません」
キッパリと言い放ったベルティーナを驚愕の目で見るビアンコとクラリッサ、更には国王も。王妃はどこか納得しているような面をしており、リエトは改めて告げられた言葉にショックを隠しきれず、翳りのある瞳でベルティーナをじっと見つめた。
「散々クラリッサとの仲を見せ付けられた挙げ句、虚言とは言え婚約破棄を殿下に宣言されていますので。今更殿下との関係が修復されるとは思いません。なのでこのまま、私は公爵家を出て行きます」
王太子妃には別の令嬢がなればいい。多少歳が離れようと珍しい話でもない。
「……分かった」
長い沈黙の末にリエトが発した言葉に漸く納得してくれたかと安堵した。
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