婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

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覚えていますか?②




「お父様とお母様には、今後領地で療養して頂きます。アンナローロ公爵家はお兄様がいれば取り敢えずは大丈夫でしょう」
「ビアンコは?」
「ちょ、ちょっと出掛けております」


 今朝早くからクラリッサを連れて出掛けているとは何故か言えなかった。全ての元凶であるアニエスの娘とまだ親密になっていると知ったら、こうして会話が成り立っているのに出来なくなりそうで。


「そうか」
「……ルイジおじ様はイナンナ様殺害未遂、アニエス叔母様は陛下に魅了を使い、更にお父様やお母様を長年魅了により操った罪で恐らく極刑は免れません」
「……そうか」
「一つ、聞いていいですか。お父様は叔母様が異常だと子供の時から気付いていたのですよね? どうして……イナンナ様に、相談されなかったのですか」
「最初、父上や母上に相談した時、アニエスを泣かせるなと折檻を受けた。その後も続いた」


 両親を筆頭に親戚や親しくなった友人に相談しても、誰もかれもがアニエスを肯定した。誰も否定しない。冷静な思考を持っていれば大聖堂にいる大神官なら親身になって話を聞いてくれると至るだろうが、既に否定され続け疲れていた故にイナンナに相談とならなかった。


「今にして考えれば……イナンナ様に相談していれば、こんな大事にはならなかったのにな……」
「叔母様がお父様に執着したのは何故ですか? 叔母様にとってお父様が特別だったから?」
「いや……多分違う。一度アニエスが言っていた。『わたくしの理想のお兄様になって』と」
「理想……」


 イナンナの話から、前世の記憶を所持している可能性が高いと判明した。前世で兄という存在に異常な拘りがあり、生まれ変わった先に父という兄がいて自分の欲望が抑えられなくなったと見える。


「兄妹仲良く……ではありませんよね」
「兄妹で男女の関係になるのがアニエスの望みだった。私がどれだけ嫌がろうと誰もアニエスを止めなかった。私に愛する人が出来ようが、アニエスを愛してくれる人が現れようが何も——変わらなかった」
「……」


 何もしなかったのではない、何をしてもアニエスを皆肯定し、否定する父を皆否定し続けた。味方が誰もいない状況下で理性を保とうすればするだけ自分という存在を認識できなくなっていった。


「こうして私は話せているがカタリナの具合はどうだ?」
「お母様は……ずっと錯乱状態になっています」
「そうか……」


 止まらず呪詛の言葉を吐き続けているとまでは言えなかった。目の前で夫と夫の実妹の行為を見せられ続けたという事実が一気に押し寄せた事と長年掛けられ続けた魅了の影響のせいだ。二度と元には戻らないとベルティーナの説明を聞いても父は静かに「そうか」と答えるだけだった。


「お父様と話せているのはどうしてでしょう」
「何故だろうな……私もカタリナと同じになっていても不思議ではないのに……」


 ふと、頭を過ったのはあの光る球形。父の顔の上をくるくる回った後、粒子となって消えたら父が目を覚ました。

 どう話すべきか考えているとまた光る球形が現れた。

 父の顔付近をくるくる回っている。アルジェントや家令が見えなかったのなら父にだって見えていない。

 そう思ったのに——


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