婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

文字の大きさ
77 / 79

これからも変わらず

  

 広い会場内から父を見つけるのは案外簡単だった。ベルティーナも顔を知っている貴族達が父の周りにいて、濃い紫の瞳がベルティーナを見つけると断りを入れて輪から抜け出した。


「殿下との話は終わったのか?」
「はい。お互い、今後は公爵となる者として頑張りましょうと」
「そうか」


 次の婚約について父からは何も言われない。多分だがアルジェントがいるからだと予想している。少々疲れた表情の父に帰宅の提案をしてみた。もうしばらくはいると答えられ、ベルティーナは戻りたい時に戻ればいいと告げられ別の方へ行ってしまった。

 今まではアニエスが常に引っ付いていた父の側には紳士しか近づけなかったものの、今は女性達も話し掛けていた。殆どが愛人狙いか後妻の座を狙っている欲深い人ばかりでも、中には昔から交流があって心配そうに話し掛ける人もいる。

 知らないことが多くてもこれから知っていけばいい。

 結局ベルティーナは舞踏会が終わるまで父と残り、二人馬車に乗り込みアンナローロ公爵邸に到着した頃には既に日付が変わっていた。

  


 ——半年後。

 今日も今日とて小公爵の仕事を熟すベルティーナの机周りには大量の紙の束が積まれている。数日前、邸内で風邪が流行りベルティーナや父も漏れなく引いてしまった。人間ではないアルジェントは風邪に倒れた父娘と使用人達の看病にベルティーナに走らされ、ぐうたらしている暇がないと零しながらも面倒を見た。

 風邪を引いて寝込んでしまって溜まった書類仕事を熟すベルティーナの側にはアルジェントがいて。書類に不備がないかを確認していた。


「ある程度ケリがついたら休憩しようよ」
「そうね。ずっと書類を睨めっこしていたら肩が凝ってきたわ」
「揉んであげようか?」
「お願い」


 手にしていた書類を机に置き、ベルティーナの後ろに回って肩に触れた。


「はは、凝ってるね」
「いたた、自分が思う以上に凝ってるみたい」
「ちょっとくらい休んだっていいのに」
「あら、それは私の台詞ではなくて」


 昔、アルジェントを拾った際に言われた。ぐうたらしたい、退屈は嫌いだと。退屈が嫌いならぐうたらは実現出来ないのでは、とベルティーナは自分の従者になるよう求めた。


『魔法で何でもしちゃおうか?』
『いらないわ。自分の力でもどうしようもなくなったら頼むわね』
『変わってるね。人間って楽が好きな奴が多いって聞いたのに』
『自分の力でどこまで出来るか試したいじゃない』


 確かにと納得したアルジェントはベルティーナに頼まれる以外では魔法の使用を抑えた。


「今でもぐうたらしたい願望はある?」
「まあね」
「ぐうたらさせてくれるご主人を探す事ね。私はアルジェントをただぐうたらさせるつもりはないもの」
「酷い飼い主だね。ペットの面倒は最後まで見てよ」
「勿論。一生面倒を見てあげる。その代わり、私の手伝いをしてちょうだいね」
「はいはい」


 婚約破棄をリエトからされるかもと期待していた時、アンナローロ家を出るなら結婚しようとアルジェントに言われていた。当時は行く当てのないベルティーナを気遣っての発言と捉えた。本当はどう思っての言葉なのかと今になって訊ねると目を丸くされ、もう、と苦笑された。


「本心だよ。ベルティーナなら、君が死ぬまで一緒にいたいと思える」
「今は?」
「今も同じだよ」


 従者でも夫でもベルティーナの側にいるのに変わりはない。
 肩揉みを終え、凝りがマシになったとお礼を言い。

 椅子から立ち上がってまだ後ろにいたアルジェントを抱き締めた。珍しいね、と言いつつ背中に腕が回った。


「偶にはいいでしょう」
「そうかもね」
「さあ、休憩が終わったら続きをするわよ」
「はいはい」


 アルジェントから体を離すとまた椅子に座り直し、書類仕事を再開させたベルティーナ。

 呆れつつも彼女らしいとアルジェントも手伝いを再開した。

  

 
  

 ●〇●〇●〇●〇

 本編はこれにて完結です。お付き合いいただきありがとうございました!

  
感想 345

あなたにおすすめの小説

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。