私のこと好きだったの?

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モーティマー公爵

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 ドレスが完成したら屋敷に届く運びとなり、今か今かと待ち続けているとあっという間に日数は過ぎていき、今朝リコリスさんのブティックから完成したドレスが運ばれた。
 庭でお父様と散歩をしていた私にテノールさんが伝えに来た為、一緒に玄関ホールへ向かったのだが……。


「うん?」


 どんなドレスになったのかな、とお喋りをしながら歩いていると怪訝な声を漏らしたお父様に釣られて前を向いた。リコリスさん自身が届けに来たと道中テノールさんに聞き、彼女がいるのは問題ない。問題なのは全く知らない男の人がいること。服装を見るに高位貴族の男性であるのは間違いなさそうだけど……。


「はあ」
「お父様、お知り合いですか?」
「まあな」
「わっ」


 繋いでいた手を解かれ急に抱っこをされる。吃驚するじゃない! と抗議の意を込めて肩を叩くも、背中を撫でるお父様の手付きが完全に子供をあやすものですっかりと怒りは冷めた。対応をしていた侍女長のヘレンさんが私達に気付くと「旦那様っ」と駆け付けた。


「リコリス様がお嬢様のドレスを届けに来たのと同時に、モーティマー公爵様が来訪されまして……」


 モーティマー公爵って、以前私宛に招待状を送った家の……。お父様に聞かされていない客人は、原則邸内に入れない規則。ただ、相手が相手なだけにヘレンさんやテノールさんは無理に追い帰せなかったのだろう。


「ご苦労だったなヘレン。後はおれが対応する。リコリスと一緒にドレスをマルティーナの部屋に運んでくれ」
「承知致しました」


 頭を垂れたヘレンさんとリコリスさんは同時に動き出し、私のドレスが入った箱を持ち上げ奥へ行ってしまった。残ったのは私とお父様、テノールさんとモーティマー公爵という人。
「はあ」
「申し訳ないルチアーノ様」
「そう思うなら押し掛けて来るなよ」
「ぼくも断ったのだが陛下はどうしてもルチアーノ様のご息女を第二王子殿下の婚約者にしたいみたいなんです」
「はあ」


 連続二回も溜め息を吐くお父様は、至極面倒くさそうにモーティマー公爵と向かい合う。
 混じりっ気のない純白の髪を右耳に掛けた公爵はお父様とはまた違う色男だ。垂れ目な薄紫の瞳を覆う睫毛は長く、儚げな雰囲気が漂い美男子というより美女に近い。公爵の口から困ったと言いたげな溜め息が吐かれると「溜め息を吐きたいのはおれだっつうの」とお父様が言い放った。


「ええ、分かっていますよ。ただ、陛下は諦めが悪いもので」
「知るかよ。おれに追い返されたと言えばいいさ。誰に何を言われようと娘を王族、貴族の婚約者にする気は更々ない」
「ルチアーノ様がそう考えようと周りは簡単に諦めませんよ。陛下が筆頭かと」


 私が口を挟んでもいいものかとお父様を見上げていたら、視線を感じたらしく、どうしたのかと聞かれずっと気になっていた事を訊いた。


「前にスレイさんが第二王子殿下と同い年の高位貴族の令嬢はいるって言ってたよね? その人達じゃ駄目なの?」


「だ、そうだが?」とお父様はモーティマー公爵に答えを求めた。私と視線が合った公爵にニコリと笑まれ、思わず会釈をしてしまう。うう、ちょっとだけ人見知りが発動しちゃってる……。


「駄目ではありません。ただ、ルチアーノ様も薄々勘付いている筈。陛下の狙いはエルフの里と繋がりを持つことです」
「やっぱりか」


 この世界に存在する種族の内、最も他種族と関わり合いにならないのがエルフ族。理由は諸説あると言い、一番大きいのは寿命の差。人間以外の種族もまあまあ長生きらしいのだけれど、エルフ族に関して言うと飛び抜けて長生きをする。おまけに魔力の扱いや魔法の種類も全種族の内最も優れている。


「自分達で努力しろよ。人間は馬鹿じゃないんだから」
「これはぼくの推測ですけど……ルチアーノ様に子供が生まれたからですな。仮令、子供が息子だろうと娘を嫁に差し出す貴族は大勢いた」


 王妹が嫁いだ侯爵家に娘がいた為、結局王家の血を引く者との婚約を求められたと話され私は身震いを起こした。お父様の娘というだけでそこまで執着されるなんて。赤ん坊の頃、お父様の娘になった以上凡る面で厄介事が降り注ぐと警告されていた。私の予想を上回ってばかりで気のせいか眩暈がする。


「ね? 一度だけで良い。招待に応じてはくれませんか」
「まだ友達作りのパーティーとやらを開いてなかったのか」


 まあまあ前だったよね? 招待状が来たの。


「元々、ご息女を招く口実もありましたから」
「はあ」
「ルチアーノ様。そのパーティーにヴィクター殿下も招待します。そこでご息女とヴィクター殿下が対面すれば、陛下の希望には一応叶うかと」
「ふむ……」


 公爵の言う通りではある。王子様に興味ないとは言え、どんな人なのかは一度くらい見てみたい。思案するお父様の言葉を待っていると私を抱いてない手で黒眼鏡を外した。レンズに隠されていた青の瞳は私のことを心配げに見つめていた。


「マルティーナ。どうする? お前が嫌だと言うなら、無理強いはしない」
「でも、私が参加しないと陛下は何時までもお父様にしつこくするでしょう? 一度だけ第二王子殿下に会ってみるよ」


 今回やって来たモーティマー公爵は穏便に済ませようとしているが、今後来る人達も同じとは限らない。私の言葉にお父様は考え込み、軈て——深い溜め息と共に分かったと紡いだ。


「ラナルド、日取りは何時だ?」
「予定を組み直します。決まり次第ルチアーノ様に報せましょう」
「ああ」


「しかし」と感慨深く声を漏らした公爵は、珍しいと吐息と共に紡いだ。珍しいとは、お父様が人前で黒眼鏡を外した行為を指す。国王陛下の前でも基本外さないと言ったお父様がこの場で外したのは、私の顔色を直で見たかったからだった。レンズ越しだと見えない細かな部分を見逃して私に無理をさせたくなかったと。


「見れば見る程、貴方に瓜二つですね。母親が誰か気になるところです」
「母親はいないも同然だと思え」
「ご息女の母親について様々な噂が社交界で飛び交っておりますよ? 亡国の姫君、絶世の美女と名高い踊り子、深窓の令嬢、等ね」
「どれも外れ。まあ、敢えて言うなら金さえ渡せば言うことを聞くような女が母親だ」 


 いや言い方。事実と嘘を織り交ぜたお父様の言葉を信じるか信じないかは公爵だけれど、肩を竦め「そういうことにしておきましょう」とこれ以上は追及してこなかった。母親が誰であろうとルチアーノ=デイヴィスの娘であることが彼等にとって最も大切なだけだ。


「ではね、ルチアーノ様。マルティーナ嬢も」


 しっしっと早く帰れと手を振るお父様にまた肩を竦めた公爵は帰って行った。閉じた扉を眺めていれば欠伸を漏らしたお父様を半眼で見上げた。お父様に意見を言える人が少ないと言えど、国王陛下の右腕たる公爵にあんな態度を取ってもいいのかと疑問をぶつけたら、いいのいいのと抱き締められる。これされると弱いと知ってて……。


「テノール」
「はい」
「モーティマーの手紙が届いたらいの一番におれに言え」
「畏まりました。しかし、本当にお嬢様の参加を?」
「ああ言った手前参加するしかないだろうな。どうしてもおれが嫌になったらすっぽかしてやる」


 約束した予定をすっぽかすのは大人としてどうなの。


「そうなったら、モーティマー公爵が旦那様を引っ張ってでも参加させるでしょうね」
「あーはいはい」


 見た目によらず意外と強引な人なのは、急に押しかけて来た辺り昔からのよう。テノールさんとの会話を程々に、マリンとリコリスさんがドレスを運んだ部屋は私の私室と聞いてすぐに向かった。

  

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