私のこと好きだったの?

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あっさりと話しちゃった

 


 生物学上母に当たる人物は、多額の報酬金目当てにお父様の研究に協力した内の誰か、としか私には分からない。お父様も然り。実際は知ってそうな気がするけど、子供が誕生した際はお互い一切関わらない約束も交わされている為、仮令分かっていようと接触する気が更々ない。生まれた時に行われる魔力検査を私だけが実施していないのを神官長は見逃してくれなさそうだ。


「マルティーナ嬢。ルチアーノ卿は、君の母親について何か言っていなかったか?」
「えっと……」


 馬鹿正直に言ったら私が禁忌の存在と認定される。お父様もスレイさんもそれを望んでいない。私自身もそう。これからもお父様と仲良く穏やかに過ごしたい。


「わ、分かりません」


 一瞬だけ振り向いたらすぐに顔を隠した。だって怖いんだもん神官長……ずっと人を睨んでる。


「ラウゼス。御覧の通り、マルティーナ様は貴方を大変怖がっています。ルチアーノ卿は施設内の何処かにいますから、会って来られては?」
「ルチアーノ卿を問い詰めたところでのらりくらりと逃げられるのがオチだ。マルティーナ嬢の様子を見るに、母親については何か知っているのは明白だな」


 ギクッと身体が強張ると私を抱いているモーティマー公爵が背中をポンポン撫でてくれた。お父様とは違う安心感がある。


「そうまでして母親が誰か知りたいのは何故と聞いても?」
「これはある筋から入手した情報だ。ルチアーノ卿が人工生命体の実験を行っていたと耳にした」


 それ私のことー!!


「お前も知っての通り、錬金術や魔法で人工生命体を創るのは禁忌中の禁忌。もしもルチアーノ卿が禁忌を破って実験を行っていたなら、如何なる理由があろうと異端審問にかける必要がある」


 異端審問? 名前からして物騒極まりない。小声でオウム返しをした私にモーティマー公爵が尋問とは名ばかりの拷問裁判だと簡潔に教えてくれた。予想通り、予想以上の物騒なものでした。


「つまり、マルティーナ様はルチアーノ様が生み出した人工生命体だと?」
「情報が確かならな。確証を得る為に来たんだ」
「馬鹿正直に言ったところでルチアーノ様は頷きませんよ」
「知ってる」


 そっか……お父様が駄目なら、口の軽そうな私に標的を変えたんだ。
 どうしよう……神官長の口振りを察するにお父様が禁忌の実験に手を出していたと確信してる。そして、生まれたのが私だと。確証を得たらお父様と離れ離れになる。

 ……。
 ……。
 …………嫌だっ。


「……ふえ…………うわああああぁん…………」


 考えただけで、想像しただけで怖くて悲しくて堪らない。お父様と離れたくない、一緒にいたい。一人じゃないのにどうしようもない恐怖に襲われ、気付くと声を上げて泣いてしまっていた。私を抱いている公爵にあやされても、慌てふためく神官長の声が届いても、涙が止まらない。


「お父様ああぁ……」


 どうしよう……どうしよう……お父様なら大丈夫だって思いたいのに……。


「どうしてくれるんですかラウゼス。マルティーナ様が泣いてしまいましたよ」
「こんなことでか!? ミエールと違い過ぎる……!」
「サンタピエラ伯爵令嬢は貴方に強く憧れを抱いています。ちょっとやそっとのことじゃ挫けませんよ」


 何だか二人が会話をしているのは聞こえるけれど、今の私はどう神官長を誤魔化そう、とか、早く泣き止まなきゃって考えてばかりで聞いている余裕がない。


「?」


 私を抱く公爵の腕の力が急に強くなったと感じた直後、大きく跳躍しその場を離れた。下を見やれば公爵の立っていた場所が凍っている。……え? なんで?
 よく見ると神官長の方もその場を大きく離れていて、元いた場所は同じく凍っていた。
 着地したモーティマー公爵に下ろされるとある方向へ体を向かされた。そこには、全身から雷を帯びた魔力を放出させているお父様がいた。
 公爵を見たら頷かれたので真っ直ぐお父様に向かって走り出した。魔力を放出させているとは言え、私が触れても怪我をしないようにする。腰に抱き付く勢いで飛び付いたら、そのまま抱っこをされ背中を撫でられる。うん……お父様の背中撫で撫でが一番安心する。


「迷子の子供は見つかった?」
「ああ。職員に渡して一旦帰れと言った」
「良かった」


 子供が見つかったなら安心だ。
「……ところで」と言葉を切ったお父様は黒眼鏡をしていない為頭にキているのが丸分かりで。口は嗤っているのに目が笑っていない。腕を少しだけ下げ私と目が合うようにすると目元を指で撫でられる。


「お前が泣いているのを感じて急いで戻ったんだ。ラナルドがお前を泣かせる真似をするとは思えねえ。となると残るのは……」


 言いながら青の瞳は神官長を明らかに疑っている。間違ってはいない。


「随分と大事にしていることだな、ルチアーノ卿。離れていたのにご息女が泣いただけで駆け付けたとは」
「生涯独身野郎には可愛い娘を持ったおれの気持ちが分かるか」
「誰が生涯独身だ!」


 大昔は禁止だったみたいだけど、現在神官に属する人は婚姻を許されている。幾つか条件はあるとお父様は付け足す。


「ラウゼス、おれの可愛い娘を泣かせて何を企んでやがる」
「泣かせるつもりは一切なかった。これだけは言わせてもらう」
「サンタピエラ伯爵令嬢と同じに扱えば、普通のご令嬢は貴方の迫力に怯えて泣いてしまうのは分かるでしょうに」
「うるさいぞラナルド」


 険悪な空気はあれど、口調が砕けている辺り三人揃ってそれなりの関係を築いているのだろう。お父様とモーティマー公爵は分かるけれど神官長はちょっと意外だった。
「で?」とお父様の意識が私に向く。


「何でラウゼスに泣かされたんだ」


 正直に話していいものかと悩めば、丁度いいと言わんばかりに神官長が話してしまった。ちっとも隠さず、全てを聞いたお父様が口を開く前にモーティマー公爵が口を挟んだ。


「それってそんなに重要ですか?」
「なんだと?」


 溜め息交じりに紡がれた台詞に反応した神官長の蟀谷がピクピクと動いてる……。


「仮にマルティーナ様が禁忌によって誕生した存在だとしても、生み出した当事者たるルチアーノ様が対処すればいいだけのこと」
「周囲に甚大な被害を齎したらどうしてくれる」
「その時はその時でしょう」


 ただ、と言いながらお父様に向いた公爵は「ぼく個人としても知りたいことがあります」と前置きし、今になって子供を持った理由を訊ねた。ずっと独身で女性遊びもせず、研究に没頭していたお父様にいきなり子供が現れたら誰だって知りたくなるよね。私が他人だったら絶対気になったもん。


「一つだけ言うなら……周りの既婚者共を見ているとおれも子供を育てたくなった。それだけだ」
「あのルチアーノ=デイヴィスが子育てをしたいだけ、なんて理由を誰が信じるんだ」
「事実だ」
「……」


 今は黒眼鏡を掛けていないお父様の素顔は丸出し。登場した時に出していた殺気は消え、比較的穏やかにはなったけれど、まあまあ真剣さが伝わる表情で言い切られれば神官長も納得するしかない。私を見下ろすと「な?」と同意を求められ頷く。


「マルティーナの母親は、前にも言ったが候補が多くて分からん。まあ、苗床を提供してくれたって点では感謝してる」
「お前……その言い方は女性を敵に回すぞ」
「知るかよ。女の方も金欲しさに協力したんだ。おれは子供が欲しい、女は金が欲しい。お互い利害が一致して不利益は被らない」


 言い方が悪いのは私も同意。まだ何か言いたげにしていた神官長だけれど、これ以上いても収穫はないと悟ったらしく、特大の溜め息を吐いた後帰って行った。


「はあ」


 今度はお父様が特大の溜め息を出した。


「しつけえな。王家も神官側も」
「王家はともかく、ラウゼスの場合は規則に則った確認でしょう」
「あいつの言ってた情報筋、探れるか?」
「やってみましょう」


 お父様って何だかんだ言いつつモーティマー公爵のこと信頼してるよね。スレイさんとかでは頼めないことを公爵には頼めるって感じ。そこには身分や権力の差があるのだろう。


「ラウゼスにはああ言いましたがぼくも多少マルティーナ様の母親が人間なのか、そうでないのかは気にはなります」
「お前もか」
「言ったでしょう。誰もがマルティーナ様の母親に興味を持っていると」
「知りたがりなのが多いな。ラウゼスが疑っている通り、マルティーナは魔法で創った人工生命体だ」


 あれ? あっさりと言っちゃったよ。相手が相手だし、今此処には私達しかいないから良いのかな。あっさりと教えられても公爵の貼り付けた微笑は崩れず、徐に口が開かれた。


「そんなところだとは思っていました。魔力検査をしていないと聞いた時点で、検査をすればマルティーナ様が普通の人間ではないと発覚する恐れがあると予想してしなかったのだと」
「人間の赤子を作る時の材料とはあまり変わらん。問題なのは、育てた環境だ」


 本来人間の赤ちゃんは母体の中で育てられる。私の場合は、母体が人間ではなく魔水晶の中だったこと。栄養は主にお父様の魔力。魔力検査を実施していたらどう発覚したか不明だが私が人間ではないとバレていた。


「子供を育てたいが為に一体どれ程の年月を費やしたのですか」
「覚えてる限りじゃ二十年は経ってるな」
「エルフって時間の使い方が案外下手なんですね」
「うるせえ」


 長生きな分、時間にルーズなのはお父様を見ていると分かってしまう。


「養子を取る選択肢は?」
「ないな。第一、どっから取るんだよ」
「孤児院があるでしょう」
「付き合いがない。持ちたくもねえ」
「やれやれ」


 血の繋がりに拘りがあった訳じゃないらしく、でも、自分の子供だと実感するなら実の子供が欲しいとお父様は至った。自然の摂理に従った子作りをしなかったのは、相手の女性に執着されるのが嫌であった為。この辺りは既に私も聞いていて知っている。

 一つ気になることがあってお父様に聞いてみることに。


「お父様は前に契約を破ったら五百年は石化するって言ってたのに、情報を提供した人は石化していないの?」
「本人が漏らしたとは限らん。研究を手伝った職員はスレイを始め口が堅い奴等ばかりだが……」


 必ずしも該当する職員が漏らしたとも限らない。情報管理は徹底してたとはいえ、小さな穴を狙って情報をくすねた人がいる。先ずは神官長に情報を提供した人を公爵に見つけてもらってからになる。
「そういえば」とジョーリィ様に渡す誕生日プレゼントについて公爵に話したよ、と話題を変えたらお父様は一旦私を下ろした。


「問題はないな?」
「構いませんよ。後日、マルティーナ様からジョーリィにプレゼントが届けられると伝えておきます」


 もう一つ気になっていたことがある私は公爵の近くまで寄り、とある旨を訊いてみた。


「公爵はジョーリィ様に何を贈りますか?」
「ぼくですか? ふむ……」


 あれ……考え始めた。まさか、贈るつもりはなかったとか? それとも考えていなかった? ……どっちも同じじゃん。


「ぼくが与えて喜ぶのか甚だ疑問です」
「喜びますよ! 絶対」
「そうですか? なら、妻に聞いてジョーリィの好きな物を渡しましょう」


 まさかのジョーリィ様の好きな物を知らなかった発言が出て驚愕。お父様も若干引いてる。
「……リディーティア夫人の好きな物は知ってるよな?」と放ったお父様の疑問も公爵は否定した……。こ、この人、本当に極一部にしか興味がないんだ……。その極一部に含まれているのがお父様で私は多分オマケ程度。

 微妙な空気が流れ始めるとタイミングよく研究員の方が公爵を呼びにやって来て幾つか言葉を交わしてお別れとなった。


「お父様。モーティマー公爵ってどうして極端なんだろうね」
「生まれもっての性質もあるだろうが……あいつの場合はちと特殊でな」


 知りたいとせがむとその内な、としゃがんだお父様にほっぺをキスされて終わり。キスで誤魔化さないで! と言いたいがお父様のキスは大好きなので抗議しない。
 公爵に許可を貰えたし、ジョーリィ様に誕生日プレゼントを渡せる日がとっても楽しみだ。

  

  

 ——ジョーリィの経過報告をし、幾つかの注意と助言を貰ったラナルドが帰宅するとリディーティアとジョーリィが出迎えた。


「お帰りなさいませ、旦那様」
「お帰りなさい、父上」
「ああ」


 昔……まだジョーリィが生まれる前でリディーティアと結婚して日が浅い時分。外から戻るとリディーティアはいつも出迎えた。執事がする真似をどうして彼女はするのかと分からなくて、一度聞いたことがあった。何故出迎えるのか? と。そうしたら——


『私が帰った貴方を出迎えたいだけ。好きでやっていることです』


 ラナルドにとってリディーティアは親が決めた婚約者。それ以上も以下もない。
 リディーティアの方はどうなのか……今更ながら一度も気にしたことがなかった。なら、これからも気にしなくてもいい。気にする程の状況になった時にまた考えればいい。

 ジョーリィの場合はきっとリディーティアに言われてやっているだけな気がする。


「ジョーリィ。魔導研究所でマルティーナ様とルチアーノ様と会った」
「え」
「お前の誕生日プレゼントについて聞かれたんだ。お前に渡していいかを」


 律儀なマルティーナは偶然もあったのだろうが態々選んだ品をジョーリィに贈っていいかを訊ねた。ルチアーノも相談されているなら、余程の物ではない限りラナルドが断る理由はなく、誕生日当日の朝マルティーナがルチアーノを連れてプレゼントを渡しに来る旨を告げると驚きと嬉しさに満ちた眼に見上げられていた。


「マルティーナ様が来て下さるのですか?」
「直でお前に渡したいと話しておられた」
「は、はい!」


 嬉しいのだろう、ジョーリィは頬を微かに赤く染めにやける笑みを抑えようと下を向いてしまう。
 玄関ホールを移動しようと視線を上げたラナルドは、遠くから此方を見ていたジュリエットと視線が合った。目が合ったジュリエットは慌てて頭を下げるなり何処かへ行ってしまった。


  
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