悪魔の甘美な罠

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 魔力封じの手錠を嵌められ、人間の牢獄に放り込まれた。一応こっちは重傷だっていうのに。悪魔の情報を得るべく、俺に殺されては困るスノーは嫌々ながらも治癒魔法士を寄越した。聖女の力を持つアリアでは俺に更なるダメージを与えるだけ。本人は謙虚な態度だったが金色の瞳は欲に濡れた人間の色をしていた。一体何を企んでいるんだか。
 治癒魔法士――基、人間のフリをした魔王ちちうえの弟である叔父は、人間達に悪魔の魔力を感知されないよう、魔力のない人間が使う結界石という特殊な魔力鉱石を使って俺のいる牢獄周辺を結界で覆い怪我を治した。
 自己治癒能力で血は止まっていても痛みだけは消えない。スノーに傷口を踏み付けられた時は危なかった。危うく魔力を全開して周辺にいる奴等を八つ裂きにしているところだった。あんな狭い場所で魔力を全開したら気絶しているミリーちゃんだって危ない。

 魔力封じの手錠も外してもらい、自由に動けるようになった俺を見て叔父は大丈夫だと判断し立ち上がった。


「僕は行くよ。程々にねルーリッヒ」
「ありがとう叔父上。お礼は何がいいか今度教えて」
「たった一人しかいない甥を助けただけでお礼なんて受け取れないよ」
「なんでもいいんだけど」
「なら、さっさと片付けて彼女と共に魔界へ帰りなさい。まあ、余程の事が君に起きれば今度は兄上が来てくれるさ」


 母上の事しか頭にないあの父が?
 息子として一応は大事にされている。母上と比べるのは馬鹿らしいが、父上なりに大事にはしているのだと思う。
 人間達にバレないよう姿を消す前に叔父は言った。
 俺に何かあれば母上が悲しむからだ、と。


「ああ、納得」


 妊娠中、出産時もそうだったが俺を宿している間長く体調を崩し、出産の際は相当な体力を消費し、何年かまともにベッドから起き上がれない程衰弱したと聞く。過保護が更に過保護になり、二人目を望んでいた母上に心配面が大きすぎて父上は二度と子供は作らないと宣言した。
 冷淡に見えても息子への情はあるらしい父上なら――大前提は母上の為でも――危機が訪れたら魔界から飛んで来そうだ。

 利用するのは最後どうしても駄目だった時の為に取っておこう。
 今はミリーちゃんを助けないと。


「きっとスノーと一緒にいるんだろうな……」


 悪魔らしく惨い死体を見せ付け心を折ってやったのに、死して尚恋焦がれるのは人間が愚かだからか?とも思うも違う気がする。
 悪魔には分からない感情だ。死んだらそれで終わり。強大な魔力を持っているなら相手の魂を別の器に転生させる禁術を使えばいい。但し、相手に自分の記憶があるかは賭けに等しい。

 固く冷たい地面から起き上がり、悪魔を閉じ込めておく特別製と言っていただけあり、いるのは俺一人で広々としており――神聖な結界が全体に掛けられている。此処を出て行く間際叔父が結界に小さな穴を作ったから、穴を大きく破いて外へ出ればいいだけ。

 待っていたら誰か来るだろうか?でもミリーちゃんが心配だ。ミリーちゃんも重傷を負ったが新しい聖女が癒した筈。本意でなくても婚約者の王太子の命令なら逆らえない。


「……あら?手錠が外されてる?」
「……」


 誰かしら来るのを待っていたとは言え、予想外な相手が来たものだ。


「近くで見ると良い男ね。魔王の息子って言われるだけあるわ」
「……」
「ねえ、どうやって手錠を外したの?それに怪我も。全部塞がってる……手錠には魔力封じが込められていたのに」


 一人ペラペラと喋る女はアリア=ヘップバーン。新しいもう一人の聖女。
 聖女はその時代に一人しか現れない。現聖女ミリーちゃんは俺が殺した事にして魔界へ連れ帰った。宿で言っていた通り天界側がミリーちゃんを死んだと判断し、聖女の力をアリアに与えたとするなら納得がいく。


「ふふ……」


 質問に応えない俺に苛立ちも怒りも見せず、不敵に笑って見せたアリア。不気味で薄ら寒い。企みが何か見ようと敢えて口を閉ざしたままにした。


「傷が塞がっているなら私が治す手間が省けてラッキーだわ。魔族に私の聖女の力は猛毒だから高級な傷薬を持って来たのだけれど、無駄に終わっちゃった」


 スカーフを上げて胸元を露にしたアリアが服の中から小瓶を取り出し、躊躇なく床に落として足で踏み付けた。無惨に砕け散った小瓶の欠片を踏んだまま、女性らしい微笑みを向けてくるアリアの目には明らかに欲が塗られていて。

 俺の前に立つと勝手に人の服のボタンを外していく。


「何をしてるの」
「見て分かるでしょう。服を脱がせようとしてるの。言っておくけど貴方に拒否権はないわよ?魔王の息子。この部屋で私に魔法での攻撃は出来なくしてあるの」
「俺に拒否権がない?何を言って」

 と、口にした途端、身体に強い重力が襲った。口を開くのも億劫になり、立つこともしんどい。人の服のボタンを全て外した目の前の女が何かしたんだろう。


「貴方と私がいる牢獄限定で聖女の結界を貼ったの。今の貴方は魔法が使えない」
「……」


 試しに魔力を込めるも確かに魔法が使えないようだ。無言のまま見ているだけだとアリアは不満げな態度を隠そうともせず、ぷっくりと頬を膨らませた。


「何よ面白くないわね!もっと慌てるとか、怒るとかしないの!?」
「生憎、無駄な体力を使う主義じゃないんだ」
「ふうん?……余裕ぶっていられるのも今の内よ」


 不満げな面持ちを一転、不敵な笑みを見せたアリアに身体を後ろへ押され床に倒された。さすがに硬い石の上は受け身が取れないと痛い。微かに顔を歪めた俺の腰にアリアが跨った。


「……聖女のくせにとんだ淫乱だな」
「その強気な態度はいつまで保てるかしらね?貴方は私の物よ」


 反吐が出るな。聖女の魔力で作られた結界の中は非常に息苦しく、重苦しい。海中で重りを付けて散歩させられている気分だ。
 服のボタンを外している時点で何をしようとしてるかの見当はついていた、清らかでならない聖女が自ら積極的に男を欲するのは意外過ぎる。ミリーちゃんは何度抱いても恥じらいを捨てないから見ていて飽きない。俺がミリーちゃんを飽きて捨てる日はきっと来ない。同じに見えて違うんだ、彼女が見せる感情は。

 肌にアリアの手が触れる。これがミリーちゃんだったら嬉しいのに……他の女の手なんて嬉しくも何ともない、感じる事もない。ミリーちゃんの胸は元々大きかったのを俺が丁寧に触り続けたから更に大きくなって。柔らかさは変わらず、何度揉んでも飽きない。
 男に抱かれたい願望もなければ、女に襲われたい願望もない、感じるよう肌に触れられても不快感しか湧かなかった。


「何よ、魔王の息子は不感症なの?ちっとも硬くならないじゃない」
「悪魔でも俺は一途な悪魔なんだ。君がミリーちゃんだったらとても感じていたよ」


 さっきから胸の辺りを触られ、舌を使って愛撫されているが気持ちいいという感覚がない。触られ舐められているだけしか感じられない。

 俺が感じない事に痺れを切らしたアリアが下へ下がり、トラウザー越しから下半身を触って歪んだ笑みを浮かべ見せた。


「あら、ちゃあんと感じてくれてるじゃない。口だけなのね。悪魔が性に忠実じゃなかったら悪魔じゃないわ」
「へえ、面白い偏見をありがとう」


 欲に塗れた生物、それが悪魔。聖女が習いそうな基礎っぽい言葉だ。
 誰もかれもが欲に忠実だと魔界の秩序はとうの昔に消滅し、とてもじゃないがまともに生きられない世界となっている。
 余裕綽々の俺が余程気に食わないらしいアリアにトラウザーを膝辺りまで下ろされた。下着もだ。


「っ……」


 顔は見えなくてもアリアが息を飲んだのは想像に難くない。好きでもない女に触られて感じないと高を括っても下の方は刺激に忠実だったみたいで、性行為時と同じ大きさにまでなっているだろう。
 棒を両手で包み、先端を口に含み奉仕してくれてるのがアリアじゃなくミリーちゃんだったら……興奮したくても興奮しない。
 ミリーちゃんは奉仕が下手くそだ。互いの性器を舐め合う時、必死なのは可愛いが必死過ぎて下手に拍車が掛かってしまう。感じやすい体質だから俺がミリーちゃんの好きな場所を指や舌で愛撫してやれば奉仕の手も口も止まり、俺の上でひたすら喘ぐしかなくなる。
 可愛いミリーちゃん……君に会いたい。
 ミリーちゃんに会いたい。今頃スノーといて、俺がスノーとミリーちゃんに何をしたか話されている頃だ。
 真実を知ったミリーちゃんは俺を軽蔑する?それとも変わらず俺を好きでいてくれる?
 どちらになっても俺はミリーちゃんを手放さない。離れるなら離れないようにするだけ。縛り付ける方法なんて腐る程あるのだから。

 思わずミリーちゃんが奉仕してくれたら、なんて想像したせいで知らずの内に興奮してしまった。アリアに先端を舌で舐められ、出てくる汁を吸われ、舌の先で入口を刺激され。僅かに腰を揺らした。舌打ちしたくなるも、何も言わずに耐えた。


「んんっ……んん……、……こんな……大きいなんて……ねえ、ん……これだけ大きくなって、るんだから、感じてるのよねっ?」
「そうなんじゃない?」
「っ、減らず口を叩けなくしてあげるんだから」


 手を拘束されていないのが幸いだった。非常に重いが腕は動かそうとすれば動ける。


「んん、んんっ、……今頃、スノー殿下が、元婚約者に貴方の悪行を話している、でしょうね」
「……」
「スノー殿下はね、私を愛してるとか言いながら、抱きながらも、ずっと元婚約者を忘れられずにいたのよっ。殿下に愛されず、悪魔に無惨に殺された悲劇の聖女って呼ばれていたの」
「……」
「実家の伯爵家に知らされたのは伯爵夫人が出産を終えてからなの、王家としても、無理矢理引き離した娘を悪魔に殺された事を隠していたかったの。それを知って伯爵夫人が流産しても困るからって」
「そうみたいだね」


 後から調べて分かったがミリーちゃんの実家は王家の圧力に屈し、泣く泣くミリーちゃんを王家へ渡した。歴代の聖女が王城で住み始めたのは成人してからだった。ミリーちゃんのように幼い内から王城に住まわせた前例はない。
 聖女の力を自由にコントロールしたい国王によってミリーちゃんを渡したのに、悪魔に殺されたと知らされたのは約一年後。その間、何度手紙を送ってもプレゼントを贈っても返事が来ないのは伯爵側も国王が握り潰しているからだと諦めていた。
 娘は王子の婚約者として、聖女として、大切に扱われ幸せに暮らしている。時折ミリーちゃんの様子を報せる使者から聞く話だけが唯一の情報だった。


「馬鹿らしい」
「んう…………何か言った?」
「いや。それよりさ、君の目的を聞かせてよ。聖女が悪魔を犯す理由はなに?殺すつもりがないのは分かる。目的が見えないんだ」
「ふふ、焦らなくても直に分かるわ。早く知りたいならさっさとイきなさいよ」


 簡単には言わない、か。
 再び奉仕を始めたアリアは、手や舌だけじゃなく、胸も使いだした。豊満な胸で肉欲を挟まれ上下に擦れられる。
 普通なら気持ちいいのだろうがやっぱり相手がミリーちゃんじゃないと心の興奮は大幅に下がって気持ちが良いと感じない。が、身体の方はアリアの思惑通りの反応をしてくれて大きさと硬さを増した。

 厭らしい粘着質の音が鳴り、アリアの息も乱れてきた。


「はあ、はあ、そろそろ、いいわね」


 顔を上げ膝立ちしたアリアがスカートを捲った。下は何も身に着けていない。

 肉欲を片手で支え、自分の入口に当てたアリアは恍惚とした面持ちで俺を嗤う。


「貴方が私の中に子種を出せば、その時契約魔法が発動する算段となっているの。貴方は私の言う事を何でも聞く奴隷になり下がるの」
「ふーん?目的を教えてくれてありがとう。
 ――もういいよ」
「え?」

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