17 / 17
美味しいスイーツを一緒に
新しい宿は、以前に利用していた宿と同等の豪華な部屋で着いて早々ルーにドレスを脱がされお風呂に入った。お風呂ではしたくないと言った私のお願いをルーはちゃんと聞いてくれて、体を洗った後は二人でお湯に浸かりながらお喋りをして、お風呂から出た後は濡れた体をタオルで拭いて服を着た。
夕食は軽い物を宿の人に用意してもらい、食後は二人ベッドに寝転んでのんびりとした。
眠そうに私を抱き締めるルーにちょっとした悪戯心で「しないの?」と問うた。
「ん~? ミリーちゃんを可愛がりたい気持ちはあるけど……自分で思っている以上に、体力は消耗していたみたいだ。眠くて仕方ない」
「だったら今夜は寝ましょう」
無理をしてまでルーに抱いてほしくない。顔を見ていると本当に眠そう。強い魔族のルーでさえ、聖女の攻撃はキツイものがあったのだ。ルーの首元にすり寄ると私を抱き締める腕に力が籠った。
「やっぱりミリーちゃんが欲しい」
「え? でも、疲れてるならちゃんと寝なきゃ駄目。休まないといけない時は休もう?」
ね? と上目遣いでお願いしたら、渋々といった様子でルーは納得してくれた。今夜は何もせず寝るとても稀な日になる。それでもいい。こうやってルーと一緒にいられるだけで私は幸せだから。
「お休み、ルー」
「お休み、ミリーちゃん」
額にチュッとキスをしたルーに更にすり寄って眠りに落ちた。
翌日。目を覚ますとルーは先に起きていて、私を腕に抱きながら宙に紙を数枚浮かせていた。因みに時間は既に昼近くだと教えられて驚いた。そんなに寝ている実感は無かったから。ルーと同じで私も想像以上に疲れていたらしい。
「何を見ているの?」
「うん? これ?」
「うん」
「俺達が寝ている間、王家は大変な事になってるよっていう叔父上からの連絡。アリアに悪戯をしたのが効果的だったんだね」
「悪戯?」
離れた場所で捕まっていた際、ルーから悪魔の情報を得ようとしたアリア様に悪戯を仕掛けたと話された。その悪戯というのが……聖女のアリア様を召還した悪魔に襲わせていたというもの。
「死ぬようなものじゃないから安心して」
「う、うん」
「アリアの威厳や自尊心は木っ端微塵だろうけどね」
「……」
悲しんだらいいのか、喜んだらいいのか……ちょっと複雑。
「スノーに関してもあるよ。生きていた君を捕らえた筈なのに、肝心のミリーちゃんがいないから国王にミリーちゃんは何処へ行ったのかと問われて俺に攫われたって話したそうなんだ」
「でも、私は死んだ事になってるよね?」
「ああ。国王もミリーちゃん本人を見るまでは信じない事にしていた。だが、アリアやスノーの様子からミリーちゃんが生きているのは信じた」
しかし結局、私は悪魔に再び攫われた事になったと判断されてしまい、国王陛下は責任をスノー殿下に押し付けた。死んだと思っていた私が生きていたと知り、二人の聖女を王国が有すると期待していただけに国王陛下の怒りと失望はすごいとルーは嗤う。
……私の生家、アクアローズ家の耳にも当然入った。ほんの少し前にお父様が登城し、国王陛下に問い詰めたのだとか。
無残に殺された筈の私は生きていて、でも、また悪魔に攫われたと聞いたお父様は失望の声でその場を去った。
「ねえ……ルー」
「なあに」
「全然、嬉しくないの。お父様は私が生きていると知って、でも悪魔に攫われた事に怒っているのだろうけど——全然嬉しくない」
「……」
初めて登城した時の記憶は今も残っている。置いて行かないでと私が伸ばした手を冷たく振り払ったお父様の冷たい声や瞳は、ずっと忘れられない。王家に圧力を掛けられていようと私はお父様達の子供なのに、伸ばされた手さえ振り払うなら私も捨てると決めた。
「会いに行く?」
「え」
「ミリーちゃんのご両親に。報告書によるとアクアローズ伯爵は、城を出た後は真っ直ぐ屋敷に戻ったとある。どうする?」
「……」
人間界に戻って一目見た、お母様と名前も知らない弟達が戯れている姿を。幸せな家族そのものだった。今更私の居場所なんてない。
寧ろ、会わなくてもいいとさえ思っている。
「ううん、会わない」
「いいの? 俺を気にしてるなら」
「違うの。ルーじゃない。私の気持ちの問題。ルーも見たでしょう? お母様と弟達が楽しく戯れていたのを」
「うん」
「そこにお父様が加わったら、幸せな家族四人が完成する。でも、私が行ったら? 私が行ったって居場所なんてないよ。弟達からしたら、既に殺されたと聞かされていた姉が突然現れるんだから」
「じゃあ……良いんだね?」
「うん……」
良いんだよ、と言うとルーは何か考え……軈て、徐に口を開いた。
「なら、俺の我儘を聞いてくれる?」
「どんな?」
「母上のお土産にフルーツタルトを買って魔界に戻りたいんだ。街には、評判のケーキ屋があるって聞いているから最後に行きたいんだ。付き合ってくれる?」
「勿論!」
メリル様へのお土産は、魔王陛下へのお土産にもなる。特に食べ物なら、皆で食べられるから。
売り切れる前に早く行こうと体を起こすとルーに苦笑されるが、ルーも早いことに越した事はないと言って出掛ける準備を始めたのだった。
ルーの言っていたケーキ屋に着くと店の前で五、六人で列を成していた。評判が良いとやはり行列が出来るもの。早速最後尾に並んだ。
「フルーツタルト、私達の番まであるといいね」
「そうだね。無かったとしても他のケーキを買っていこう。母上は大体甘い物なら何でも好きだから」
「うん!」
フルーツタルトの他にも品はあり、どれが食べたいかをルーと話していると私達の順番となった。店に入り、ガラスケースに入れられているケーキの種類に目がいきそうになるもまずは大事なフルーツタルトがあるかを確認した。
最後の一つがあった。
「良かった。残ってるね」
「ああ。他に食べたいのはある?」
「えっと」
どれも美味しそうで決められそうにないけど、私達の後ろには待っている人がいるからあまり悩まず直感で選んだ。
いちごケーキ、チョコレートケーキ、クリームケーキ、いちごタルトを選ぶとルーがその通り店員に言い、フルーツタルトとその他ケーキで箱を分けてもらい、会計をしてお店を出た。
「一つ私が持つ?」
「俺が持つよ」
片手で二箱を持ち、空いている手は私と手を繋ぐ。早々に魔界へ戻ろうと言うルーに待ったを掛けた。
「あ、待って、ルーの叔父様にご挨拶したい」
「残念。父上からの仕事を押し付けられている最中だから、忙しくて会えないよ」
「そっか……」
お礼を言いたかったな……としょんぼりしていると「……ミリディアナ?」と女性の声に呼ばれた。
……知っている、懐かしい声。
——でも。
「……行こう、ルー」
「いいの?」
「うん……私は死んだ事になってるもん。私がいなくても、双子の弟達がいるんだから……会わなくたっていいよ」
「そう……」
ルーはそれ以上は言わず、私の意思を尊重して歩き出してくれた。
「待って! 待って、ミリディアナ!」
早足で道を進んで行けば行くほど声は小さくなっていく。
待って、行かないで、と叫んでいた声は気付くと聞こえなくなった。
街外れまで来ると体力的にきつくて息を切らす。私の息が整うまで待っているルーが零した。
「……うん。追い掛けて来る気配はないね」
「はあっ、はあっ、良かった」
「ちょっと休む?」
「う、ううん、大丈夫だよ。早く魔界に帰ろう」
この場に留まって休憩する程の疲れじゃないからとルーに魔界への扉を繋いでもらった。足を一歩踏み入れただけで世界は変わった。人間界から魔界に。
長く人間界に滞在していないのに、久しぶりに帰って来た感覚が湧く。ルーも同じなのか「やっと帰って来れた」と息を吐いていた。
「ミリーちゃんはケーキを持って母上の所に行って。俺は父上に報告をしてから行くよ」
「メリル様の部屋にいるんじゃないの?」
「いや?今日戻るって伝えていたから、一応執務室にいると思う。いなかったら、そのまま母上の部屋に行くから」
「分かった。待ってるね、ルー」
ルーからケーキとフルーツタルトの入った箱を二つ受け取り、別れる間際キスをして私はメリル様の部屋に向かった。
魔王城の最上階にあるメリル様の部屋の前には結界が貼られており、決められた人しか入れない。私一人でも入れるようになっており、ノックをすると「どうぞ」と鈴の音を転がした美しい声が応えた。
扉を開けて一礼するとソファーに座って刺繍を刺していたメリル様の表情が綻んだ。
「お帰りなさい、ミリディアナ」
「只今戻りました。メリル様、人間界で買ったフルーツタルトとケーキを持って来ました」
「ありがとう。ルーリッヒやフィロン様が来たら頂きましょう」
室内にいたのはメリル様一人。ルーの言っていた通り、魔王陛下は執務室でルーを待っているのだろう。
メリル様の勧めで隣に座らせてもらい、ケーキの箱はテーブルに置かせてもらった。
「どうだった? 人間界は。私はフィロン様がルーリッヒにどんな仕事を与えたのか詳しくは教えられていないから、あまり分からないけれど。ミリディアナにとっては故郷でしょう?」
「懐かしいと感じる物は沢山ありました。でも、やっぱり私はルーがいる此処が良いです」
人間界に二度と戻れなくても、お父様やお母様に二度と会えなくても後悔はない。たとえ、王家に圧力を掛けられたとしても幾らでもお父様なら私と会える機会は作れた筈。きっと、あの時手を振り払われたショックが今になってどれだけ大きいか私自身が感じているんだろう。
「ねえミリディアナ。人間界の話を私にも聞かせて? 私の知らない事が沢山あると思うから」
「勿論です、メリル様」
私の居場所はルーの側だ。
●○●○●○
一人父上の執務室に入り、人払いを済ませた俺は一応待っていたらしい父上に簡単に報告した。話し終えたタイミングで「そうか」とだけ言われた。
「てっきり、お小言が飛んでくるかと構えてたのに」
「言ってほしいなら山のようにあるが?」
「嘘。要らない。どうせ、俺が油断して聖女の攻撃を食らったのを言いたいんでしょう」
「そういう事にしといてやる」
「……」
他にも言いたい事があるなら言えばいいものを。と言ったところでお小言であるのは変わらない。
「神がアリアに聖女の力を与えたちゃんとした理由までは分からないけど……一つだけ分かるとすれば、アリアは前世の記憶を持つ人間だった」
「ほう」
「前世持ちは神の加護を受けやすい。多分、聖女の力を与えたのも前世持ちだったからだろうね」
「聖女は殺してないそうだな」
言葉と違って声は責めていない。殺さずとも既に殺したも同然の状態にしたんだ、本当に殺す必要はない。
「人間界に行って良かったと思う点もある。ミリーちゃんの家族がどうしてミリーちゃんを見捨てたのか、俺も気になっていたんだ」
実際は、聖女を自由に扱いたかった王家がアクアローズ家に圧力を掛けて、泣く泣くミリーちゃんを手放すしかなかった。
「ミリーちゃんを必ず守ると約束したのに、悪魔に殺された挙句、一年間隠されていたと知って相当怒ったそうだよ。今回の件もそう。ミリーちゃんが生きていたと知らされても、結局ミリーちゃんは再び悪魔に攫われた後だったから」
「欲を出した分、相応のしっぺ返しはくる。対策を講じているか、いないかの違いだろう」
まあ、攫ったのは俺だけど。死を偽装したのも俺。
「そうだ。父上、人間界のお土産を母上に買ってきたんだ。今ミリーちゃんと部屋にいるだろうから、一緒に食べよう。母上は父上が来ないと食べようとしないよ」
「分かった」
何でも一緒に、というのが大好きな母上の為なら、どんな時だって父上は動く。先に行っているよと告げ執務室を出た。
ミリーちゃんとはこれからも一緒だ。俺が吐いた嘘は永遠にバレないし、疑いもしない。
ずっと大事に、愛してあげるから、ミリーちゃんも俺以外の相手に目を向けないでほしい……。
「なんて」
そんな日は絶対に来ない。
ミリーちゃんが愛しているのは俺だけだから。
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
長編になってるけど短編な気がするのと風呂敷広げたまくって駆け足打ち切りEND臭が凄い。
ろくでもねー国王にクソビッチが聖女とか神はこの国を滅ぼしたいようにしか見えん。
元婚約者がバーンと現れてニヤリして油断して
グワー!なのスゲー間抜け・・・
更新ありがとうございます。
アリアがおしゃべりだからルーの聞きたい情報を肝心なときに言ってしまうのですね。ルーには頑張ってもらいたいですね。
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
ありがとうございます(*≧∀≦*)