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連載
目覚めたら生まれたての赤ちゃんでした
しおりを挟む黄金に輝く髪、青い瞳の美女の顔がドアップで映し出され、川に落とされ流され死んだ筈の樹里亜は悲鳴を上げた。が、声にならなかった。小学生の頃、友人母が産んだ赤ちゃんの声と同じだった。え? と手を持ち上げたら小さな紅葉があった。
「あらあら? どうしたのジューリア」
ジューリア? 美女は樹里亜をジューリアと呼ぶ。樹里亜という名前は父がつけた名前でキラキラネームっぽくてあまり好きじゃなかった。友人は小菊という名前で名前に似合わない長身を嫌っていた。
樹里亜がジューリア。あまり変化のない名前。と感心している場合じゃない。声を出してもまともな言葉が出ない。
「ジューリア。私の可愛い娘。早く大きくなるのよ」
何となく予想していたがやはり女性は母親だった。母の腕の中というのは、優しい温かさがあるのだと初めて知った。友人母や祖母に何度も抱き締めてもらっても母親の温もりというのは分からなかったから。
そこに三歳程の男の子が女性に連れられて入って来た。母と同じ黄金の髪に此方は薄紫の瞳だった。将来美少年になること間違いなしの顔をしている。
「おかあ様」
「グラース。妹に挨拶をなさい。お前の妹ジューリアよ」
「はじめましてジューリア。僕はおにいちゃんだよ」
おにいちゃん、女子高生で終わった人生の時は兄達を一度も兄と呼んだ事はない。向こうも呼ばれるのを嫌っていた。自分から声を掛ける事は決してなかった。呼んだら悪態をつかれ何を言われるか分かったものじゃなかったから。
グラースの小さな手が更に小さなジューリアの手を握った。兄と手を触れ合うのが嬉しいと思ったのも、怖くないと思ったのも初めて。
次の客が来た。銀色の長髪を後ろに一つに括り、グラースの瞳と同じ色の目がジューリアと母を優しく視界に入れた。
「とても可愛い子だ。君によく似ている」
「ありがとうシメオン」
恐らく男性は父なのだろう。グラースと似ている。兄は父、自分は母に似たといったところ。
死ぬ前の願いを神様は叶えてくれた。
父が伸ばした手を力強く握った。愛おしさが溢れた薄紫の瞳にはジューリアを嫌う感情はどこにもない。
新しい人生では家族と仲良く暮らせる。
――と赤ん坊の時希望を持っていたジューリアは十歳になると既にいなくなった。正確には七歳辺りで完全に消え去った。
ジューリアの家はフローラリア公爵家といい、帝国において唯一癒しの能力が扱える家系。それも女性限定にしか現れない。膨大な魔力を持って生まれたジューリアはよく体調不良を起こした。原因はその身に宿る魔力の膨大さのせい。魔法騎士である父に似た魔力は幼い子供には荷が重かった。六歳くらいになると体調は安定したが別の問題が起きた。
魔法やフローラリア家の女性なら必ず扱える癒しの能力が一切使えなかった。様々な検査を受けたが原因解明には至らず。魔力しか取り柄のない娘とこの時烙印を押されたジューリアを見た両親や兄の失望した顔は忘れられない。ジューリアの二歳下の妹メイリンは魔力量こそジューリアより劣るも、癒しの能力に関してはかなりの才能を持っており、最も優れた能力者になると期待を掛けられている。その証拠にメイリンの瞳の色は母よりも濃い青。青が濃い程癒しの能力は強いとされている。ジューリアの瞳の色は海や空の開放感を彷彿とさせる青緑の瞳。この時点で癒しの能力に関しては平均並みと判断されていたらしいが何も使えない無能とは両親も周囲も思わなかったろう。
フローラリア家の無能、落ちこぼれ、お荷物と使用人にまで陰口を叩かれる始末。
家での扱いは前世と比べるとマシなのか、そうでないのかの判別は難しい。
両親からは兄グラースや妹メイリンより非常に厳しく接せられ、会話も殆どしない。食事の場で顔を合わせる以外ではジューリアに会おうとすらしない。その代わりグラースやメイリンには沢山構っている。と世話係でありながら毎日嫌がらせをしてくる侍女が楽しそうに語っていた。
兄に関しては常に冷たい瞳を向けられ、魔法も癒しの能力も使えないのなら公爵令嬢としての品位を保てと言うだけでメイリンに向けるような妹への愛は一切感じられない。
妹に関しては無能な姉を見下しており、暇を見つけては部屋に突撃しに来て自慢をしてくる。お母様にぬいぐるみを買ってもらった、お父様に褒めてもらった、お兄様とお茶をした。等々。気付くと家族で一番顔を合わせているのはメイリンだけとなっていた。
更に部屋の位置までジューリアの蔑ろ振りが露にされていた。グラースやメイリンは公爵夫妻の部屋と近い部屋なのに対し、ジューリアだけ同じ階の最奥の部屋。大きなテラスは付いているが木が陰となっているので日当たりが悪い。
「ま、暴力を奮ってこないだけかなりマシか」
ベッドに寝転がるジューリアは一人呟いた。
もうすぐ昼食の時間。
食事中ジューリアは会話に参加しない。仲良し四人家族の会話を適当に聞きながら美味しい食事を頂いている。
時折ジューリアの存在を思い出しても勉強はしているのか、魔法が使える特訓はしているのか、等ばかり。両親や兄が向ける眼差しは冷たく厳しい。メイリンになると途端に変わるのだから笑わないでいるのが辛い。
「よっこいしょ」と上体を起こしたら扉が乱暴に開かれた。「ジューリア様ご昼食の時間です。早く支度してください」とノックも無しに入室したのはジューリアの世話役を任されている侍女セレーネ。無能の烙印を押されてから使用人達のジューリアに対する陰口や態度は日に日に酷くなっていった。このセレーネはその筆頭だ。公爵夫妻に見捨てられているジューリアに何をしても良いと思っている。
朝の支度では頭皮が剥がれると抱く程強く引っ張られ、ドレスは雑に着せられ、挙句掃除も手抜き。仕方なく自分で掃除したら何故か両親に叱られた。意味不明である。
「さあ早くしてくださいよ。暇じゃないんですから」
ベッドの上にいるままのジューリアが動かないとセレーネも部屋を出て行けない。苛々と組んだ二の腕を指で叩く仕草をする。
無能と判った瞬間から彼等がジューリアを見捨てたように、ジューリアだって彼等に対し一切の情を消し去った。望みを抱いて歩み寄ろうとしても無駄なのは前世でしっかりと経験している。なら、気にする必要はない。
「聞いてますか!?」
セレーネが怒鳴ろうがジューリアは動じない。
うるさい声は嫌いなのでそろそろ動こう。ベッドから降りてセレーネを素通りして食堂へ向かった。後ろからセレーネの声が飛んできても無視。食堂に着く直前でセレーネが走って前へ来ると扉を開けた。中には既にジューリア以外の面子が揃っていた。
「遅いぞ。何をグズグズしている」
「貴女が遅いせいで折角のお料理が冷めてしまうじゃない。いつも言っているでしょう、もっと早く来なさいと」
「申し訳ございません旦那様、奥様。ジューリアお嬢様は中々動いてくださらなくて」
多分だがセレーネは態と時間が経ってからジューリアを呼びに来ている。早く行ったところでお腹を空かせたと眉間に皺を寄せるのだろう。
食堂に入り心が一切籠ってない謝罪をしてグラースとメイリンの間にセレーネが椅子を引く前に席に着いた。
隣の兄が小言を言ってくるが無視。メイリンから文句が飛んでくるも無視。気にしないのが一番。
父が深い溜め息を吐くも食事にしようという一言で昼食が置かれていった。
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