まあ、いいか

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祝福が空っぽ①

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「ヨハネス」
 スイーツを夢中になって食べていたヨハネスを呼んだヴィルは、所在なさげにしているミチェルの相手をしてやれというもの。明らかに不満を露にしたヨハネスに一言こう告げた。


「女の子は大事にしろ。そう教えられただろう? 特に、大教会と縁の深いご令嬢だ。丁重にしろ」
「叔父さんがしたら……いった!?」


 テーブル下から足を魔力で蹴られ悲鳴を上げた。マフィンの最後の一口を食べると溜め息を吐き、顔を青くして泣き出しそうなミチェルの側に寄り、目線が合うよう膝を折った。


「で? 僕は何をしたらいいの?」
「え!? あ、いえ、えっと」


 流麗な銀の髪と瞳の美貌の男性に見つめられれば、どんな女性であれ言葉はすぐに出ない。少女であっても変わらない。


「まあ、叔父さんに言われて仕方なくだけど……君は天使と帝国の関係に詳しい?」
「は、はい! お祖父様が大教会の司祭を務めておりますので必要な知識として学んでいる最中です」
「じゃあさ……」


 意外にもヨハネスはちゃんとミチェルの相手をし出した。渋々ヴィルの言い付けを守っただけに思えただけに意外だ。


「なるほどね」
「どうしたの?」
「ヨハネスが聞き出してくれるなら、下手に周りから聞かずに済むね」
「何の話?」
「うん? 魔王が探している天使の祝福が込められた宝石」
「あ」


 元々、魔王が人間界に滞在しているのは息子への誕生日プレゼントを探す為。天使の祝福が込められたブルーダイヤモンドだと言っていて、関係が深い帝国なら管理している可能性が大。司祭の孫なら、話くらいは聞いているだろうとヨハネスも推測した。


「この後どうする?」
「どうしようかなあ」


 このままヴィル達と同じ席に座ってお茶を飲んで終わるなら願ったり叶ったり。だが、現実はそうはいってくれない。


「ジュ、ジューリア」


 気まずげに、だが気丈にジューリアに声を掛けたのはグラース。側にメイリンは……いなくて当たり前だ。ちらっと先程見た場所を見るとまだジューリオといた。そのままジューリオを口説き落としてほしい。是非に。


「なんですか、公爵令息様」
「っ、お……いや……」
「用事がないのなら、ご友人の所へ戻られたら如何です」
「天使様にご挨拶をしたくて来たんだ」


 最初にジューリアの名前を呼んだ時点で明らかに目的はジューリア。指摘するつもりのないジューリアは紅茶を飲むヴィルに視線をやった。気付いているのにヴィルは紅茶を飲む手を止めない。
 声を掛けられず、視線も向けてくれないヴィルに段々とグラースの顔色が悪くなっていく。「ふう」と息を吐いたヴィルの銀瞳が顔色の悪いグラースを捉えた。


「おれに何か?」
「あ……ぼ、僕も天使様にご挨拶を申し上げたくて」
「いらないよ。ジューリアがおれや甥っ子に粗相でもしてないか心配なのが本心だろう?」
「え? ち、違います!」
「天使は人の心が読めるんだよ。それと、人間相手なら嘘を吐いているかどうか見れる。下手な嘘はやめておくんだね」
「っ……」


 図星だったらしく、大丈夫かと逆に心配になるグラースの顔色。病人でもまだマシだと言いたくなる。初めて聞いた天使の特徴にジューリアは感心した声を漏らした。


「そんなすごい力もあるんだ」
「人間でも聖女なら身に付けられる能力だよ」


 聖女は神に選ばれた乙女。神の祝福を授かる他国に聖女はいると聞き、どんな聖女なのかと訊ねると
「さあ」で終わらされた。


「さあって……」
「おれは会ってないから。ただ、末っ子が今いる国が聖女のいる王国だよ」
「それって」


 以前に聞いた、生まれたばかりの双子の王子の内、黒髪の赤子を大天使の嘘によって捨てた王族の国。真実は力を欲した大天使の嘘と判明し、捨てられた赤子は魔王の息子として育てられた。魔族でありながら天使の祝福が込められた物を欲しがるのも人間の息子の為。
 ジューリアは視界の端に映った人影に内心忘れていたと焦り、立っているのでやっとな顔色真っ青なグラースに近付いた。


「ご心配なく。私はヴィルにも甥っ子さんにも粗相はしません。どうぞ、騎士の方に声を掛けて休憩させてもらっては?」
「……ジュ、ジューリアは?」
「私はずっと此処にいます。あ、そうだ。お茶会が終わったら私はそのまま大教会に戻りますので三人でお帰り下さいね」
「……」


 行きの馬車では言うタイミングがなく、言うのなら今だと念押しし、フラフラと去って行くグラースを見送るとヨハネスが席に戻っていた。ミチェルはどうしたかと思うと令嬢達の輪の中に戻っていた。


「どうだった? 魔王さんが探してるプレゼントの手掛かりとか聞けた?」
「う~ん? そうなんじゃない」
「なんか曖昧な言い方」
「しょうがないだろう。実物を見てないって言うから」


 司祭の孫娘と言えど、皇族が保管する宝を簡単には見られないか。


「でもさ、皇族が持ってるのは確実だよ。厳重に保管されてるって言ってた」


 マドレーヌとカップケーキ、どちらにするか迷いながらヨハネスは話し、手を伸ばした。先にあるのはマドレーヌ。興味津々に一口齧り、味を気に入ると食べる速度を上げた。

 皇族が保管しているなら、頼める相手はこの場では一人しかいない。もう一人皇族はいるが確実さで言うと一人だけ。


「その内、またこっちに来るだろうからのんびりしていよう」
「僕も賛成~。スイーツ一杯食べたいから」
「あはは……」


 他のテーブルは知らないが天使の座るテーブルは自分のペースを維持する者しかいない。絶対に。
 視線はまだまだ沢山刺さるものの、ミチェルやグラースと違い自分から来る者はいない。このまま誰も来ず、皇后が来るのを祈っていると――ジューリア達の願いは案外早く届いた。


「天使様、ジューリア嬢。如何ですか?」


 他の貴族達へ挨拶周りをしていた皇后が戻った。丁度、四杯目の紅茶を飲み干したヴィルは丁度良いとティーカップをソーサーに置いた。


「皇后に訊ねたいのだけど」
「何なりと」
「帝国が保管している天使の祝福が授けられた宝物を見せてほしいんだ。かなり昔の話だから、若いおれやそこの甥っ子は実物を知らないんだ」
「天使様の頼みとあらば。すぐに皇帝陛下に話を通して参ります」
「ありがとう」


 深く頭を垂れた皇后はすぐさま皇帝の許へと飛んで行き、見届けたヴィルは新しい紅茶を注ごうとティーポットを持ち上げるも空だと気付いた。


「私が貰ってこようか?」
「いいよ。おれが行く」
「じゃあ、一緒に行っていい?」
「いいよ」


 ヴィルと二人でテーブルから離れ、ティーポットを持って給仕を探した。偶然近くを給仕に紅茶のお代わりが欲しいと空のティーポットを見せるとすぐに新しいティーポットを持って来ると受け取り、走り去った。「テーブルで待つ?」とジューリアに訊かれたヴィルは「そうする」と手を繋いでテーブル席へ戻った。

 ……戻り際、一部の視線から強い殺気を感じたのは気のせいだと思いたいジューリアであった。


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