まあ、いいか

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祝福が空っぽ②

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 あの視線は何だったのかと気にしつつ、席に戻ったジューリアは一人でテーブルに置かれたスイーツを食べ尽くす勢いのヨハネスに苦笑した。


「すごい食欲……ヴィル達兄弟でも誰か大食いの人っていたの?」
「いないよ。こいつだけ」
「そっかあ」


 細いのに大食いをする人は前世でもいた。テレビに出て大食いバトルにも出ていたなあ、と思い出す。樹里亜だった時のお気に入りの大食い選手は綺麗に、楽しく食べる女性選手である。

 少ししたら皇帝に許可を貰った皇后が戻る。天使様直々に宝物を見たいと言うのだから、断りはしない。
 考えていると皇后が戻った。


「天使様、陛下がご快諾して下さいました。今からでも天使様を案内出来ますが」
「そう。なら、早速見せてもらおうか」


 ティーカップをソーサーの上に置いたヴィルはシフォンケーキかマドレーヌで悩むヨハネスに声を掛け、渋るヨハネスを無理矢理立たせた。ジューリアは、と声を掛けられ首を振った。


「私は行けないよ。ヴィル達で行ってきて」
「おれが頼めば付いて来れるよ?」
「ううん。その代わり、ちゃんと見て来てね」
「分かった。此処で待ってて」
「うん」


 行ってらっしゃい、と二人に手を振り、姿が見えなくなるとジューリアは小さく息を吐いた。ヴィルとヨハネスが戻るまで一人。一人でこの席にいるのは気まずい。あの場で皇后は何も言わなかったが、ヴィルがジューリアの同席を求めなかった事に多少ならずとも安堵した様子だった。

 天使様のお気に入りと言えど、皇族以外の者には見せられない。

 ジューリアとて重々理解していたから遠慮した。
 ヴィルとヨハネスが戻るまで違う場所にいようと席から立つと見計らっていたように「ジューリア様」と声を掛けられる。

 林檎の如く真っ赤な髪と薄緑の瞳の可愛い部類に入る令嬢が数人の取り巻きを従えジューリアの側にいた。滅多にお茶会に連れて行ってもらえないジューリアは令嬢が誰か分からない。


「失礼ですが何方ですか?」
「まあ! 同じ公爵令嬢であるのに私を知らないのですか」
「ええ、まあ。他人に興味がないので」
「強がりはおよしなさい。だってジューリア様、フローラリア家の無能だからお茶会の場に出させてもらえないですものね。お可哀想に」
「それはどうも。なので、そんな可哀想な私の事はスルーで構いませんよ」


 相手にしていたら面倒極まりないなと判断し、速やかに移動を決めた。ものの、相手はそうさせるかと言わんばかりにジューリアの周囲を囲った。


「そう仰らず、一人天使様を独占していたジューリア様に是非天使様のお話を聞かせてほしいの」
「本人に話し掛けてみては。今は皇后陛下と共に城内へ行きましたがその内戻りますよ」
「……先程も言いましたよね? 強がりはおよしなさいと」


 どこをどう見てジューリアが強がっていると思うのか不明ながらも、淡々とした対応しか続けないジューリアに若干腹を立ててきているのは肌で感じる。


「そもそも、魔法も使えない癒しの能力も使えない無能のジューリア様が何故天使様と親しくされているのですか」
「本人に聞くのが一番ですよ。もう行きますよ。私は貴女達を知らないので、貴女達が私に何か思おうと私は何も思わないので」


 遠回しに彼女達は相手をする程でもないと伝えるとちゃんと意味は伝わり、真っ白な肌が急激に真っ赤に染まった。
 取り巻きの一人が「エマ様に向かって生意気よ!」とジューリアを押した。エマというのが先程からジューリアに突っ掛かっている同じ公爵家の令嬢なのだろう。なら、他の令嬢達は公爵以下の爵位。押されるとは予想していなかったジューリアはバランスを崩し尻もちをついてしまった。

 ドレスが汚れたな……と内心溜め息を吐き、押した令嬢を強く睨み上げた。
 ひっ、と短い悲鳴を聞いた気がするも無視が一番。


「貴女の家名と名前を名乗ってもらいましょう。いくら私がフローラリアの無能だからって、やって良い事と悪い事の区別が出来ない頭の残念な貴女のご両親にしっかりとお礼を申し上げたいので」
「な、ど、どうせジューリア様の言い分なんてフローラリア夫妻は聞きませんよ! メイリン様が仰っていましたよ、ジューリア様は屋敷内で我儘で癇癪持ちで無能のくせに勉強もしないからご夫妻が大変困っていると」
「そうですか。信じるか信じないかの判断はどうでもいいですが、問題はそこではありません。多分貴女は公爵令嬢ではないでしょう? 爵位が上の相手を突き飛ばした責任を負ってもらいます」


 相手が無能の令嬢だろうが爵位が上なのは事実。ジューリアの指摘を今更になって理解した令嬢は顔を青く染め上げ、助けを求める視線をエマにやった。焦りの色を見せているエマ。恐らくエマも取り巻きがジューリアに手を出すとは思っていなかった。


「わ、私がやれと言ったからやったと言えば納得しますよ。ジューリア様をフローラリア夫妻が守るとは思えませんから」


 愛されてもいないジューリアには、何をしてもいいと言う台詞。盛大に溜め息を吐き、立ち上がったジューリアはお尻についた汚れを手で払い、相手にしていられないと背を向けた。目の前を塞いだ取り巻きに別の溜め息を吐き、どうしたものかと頭を悩ませるもすぐに考えは吹き飛んだ。


「……貴女達、一体何をしているの?」


 地を這う恐ろしい低音がジューリア達の耳に届いた。ビックリして後ろを振り向いたら、冷えきった青い瞳のマリアージュがエマ達を見下ろしていた。側にいるメイリンは何故か泣いている……とよく見たら、右の頬が赤くなっていた。


「フローラリア夫人……」


 口では強気な発言を繰り返したエマだが、実際にマリアージュに見られていたと知ると一気に顔を青ざめた。


「こ、これは、天使様を独占するジューリア様に対する警告です!」
「警告?」
「そうです!  私達だって、天使様とお近づきになりたいのにジューリア様が独占するから警告をしたんです……!  フローラリア夫人は分かってくださいますよね?」
「何を?」
「え……」
「何を分かるの?  一方的にジューリアを責めた挙げ句、ジューリアを突き飛ばした貴女達の何を分かると言うの?」
「な……え?  で、でも、ジューリア様は無能なんですから、少しくらい痛い目に遭わないとって前にメイリン様が……」
「メイリン」
「っ!!」


 成る程……メイリンの頬が赤い上に泣いている理由を知れた。
 知れたところでジューリアにとっては今更感が強い。


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