まあ、いいか

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祝福が空っぽ③

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 話を何時から、どこから聞いていたのか知らないがメイリンの頬を打った辺り、わりと最初の方から話を聞いていた気がする。


「メイリン。貴女、お茶会でそんな話を周りにしていたの?」
「事実ではありませんか!」
「それらは全てミリアムとセレーネが原因だと知っているでしょう」
「だ、だって、あの二人の嘘だと知る前に話したから……」


 呆れて何も言えないとはこの事を指すのだろう。身内の悪口をお茶会で言うのはよくある話と言えど、自分に当て嵌まると楽観視していられなくなる。
 メイリンへの説教は屋敷に戻ってからとなり、再びマリアージュの青の瞳がエマ達へ向けられた。


「貴女達のご家族に明日以降文を届けます。今後、お茶会や社交界で顔を合わせる日もあるでしょうが二度とジューリアにもメイリンにも……我がフローラリア家には一人も近付かないで」


「特に」とジューリアを突き飛ばした令嬢へ温度のない視線が刺さり、今にも倒れそうなくらい顔が青くても表情は変わらない。


「貴女のご両親には、厳重に抗議します。爵位が上の相手を突き飛ばすなんて、どんな教育をされているのか興味がありますから」
「あ……あっ、いえ……あの……っ」


 涙すら出ず、口から出る声は言葉にすらならない。

 何故か助けを求める目を向けられたジューリアだが助ける気は更々ない。
 マリアージュに対しては、今更メイリンを叱ったところで長年膨らんだジューリアへの態度が簡単に変わるとは思えない。貴族だからこそ、面子を馬鹿にされれば相応の対応を取るのもジューリアになってからよく知った。今更感が強くても口を挟まない。内心、エマ達がどうなろうとジューリアにとってはどうでもいいから。

 両親に叱られようがどうなろうが知ったところで自分には関係ないのでまあ、いいか。くらいしか感じない。
 ここでエマ達の母親が飛んできた。皆青い顔をしている。特に、ジューリアを突き飛ばした令嬢の母親はその場で娘の顔を引っ叩き、マリアージュに深く頭を下げた。


「娘が申し訳御座いません!! フローラリア夫人、どうかお許しを……!!」
「謝るのは私ではないのでは……?」
「っ!!」 


 淡々とした冷たい声にハッとなって頭を上げた女性は、ジューリアに向き直り頭を下げた。謝罪を述べられ、どうするかと考え口を開いた。


「良かったですね。私のような無能の娘を持たなくて。さぞかし、素晴らしい能力をお持ちなのでしょう。是非、この場で披露してほしいくらいです。私も今後の参考にさせてほしいので」
「あ、いや、娘にそんな力は……!」
「謝罪は受け取ります。今後、ご令嬢がどうなろうが私にとってはどうでもいいので。他のご令嬢達も同じです」


 やられっぱなしなのも性格上合わず、恐怖で青い顔のエマ達や母親達に「天使様がいない間、ご令嬢達にお相手をしてもらったと楽しくお話しさせて頂きますね」とにっこりと笑って告げ、悲鳴を上げる彼女達から離れるようにこの場を去った。
 神の祝福によって守られる帝国に住んでいるのに、己が愚行を天使に知られたとなれば、慈悲深い神であろうと見放されてしまう。背後から聞こえる悲鳴に心の中で舌を出しつつ、人気の少ない噴水付近まで移動した。城の中にも噴水があるとは……贅沢である。


「ふう」
「ジューリア?」
「あ」


 ほとぼりが冷めるまで此処にいるか、一人さっさと馬車に戻って中でヴィル達を待つかのどちらかだと考えているとヴィルの声が。いつの間にか、目の前にヴィルが立っていて側にヨハネスの姿はない。


「ヴィル一人?」
「ああ。ヨハネスはまたスイーツを食べに戻った。おれは人のいない場所に来たくなったんだ」
「そうだったんだ」
「ジューリアは? おれ達がいなくなって絡まれたの?」
「そんなところかな」


 具体的には言わず、曖昧な言い方にも関わらずヴィルは深く聞かずジューリアの隣に立った。


「皇族が持つ宝物はどうだった? 魔王さんが探していたブルーダイヤモンドはあった?」
「あったよ。あったけど問題が発生した」
「問題?」
「そう。嘗ての天使が掛けた祝福が消えていたんだ」
「え」


 物体に掛けられた祝福は術者が死のうと効果を持ち続ける。天使の祝福も同じ。魔王が探すブルーダイヤモンドは、天使の祝福が掛けられた物限定。ただのブルーダイヤモンドなら魔界で見つければ済む。無論、祝福が空っぽだと皇帝や皇后には伝え済。二人揃って大慌てになり、原因の解明をさせるべく大教会に使いを飛ばした。
 お茶会は続行として皇后も会場に戻っていると聞かされ、あの気まずい雰囲気が漂う中へ戻っていないのを祈る。


「祝福が消えた原因に心当たりは?」
「さて。宝物庫は常に厳戒態勢の警備を敷かれているから、侵入するのはまず無理だ。皇族が宝物庫に入ったのも今日が三年ぶりだと言っていたし、ブルーダイヤモンドを見た限りそれよりも以前から祝福が消えている」
「魔王さんにはもう伝えた?」
「通信蝶は飛ばした。後は、向こうがどうするかだよ」


 人間の息子への誕生日プレゼントを見つけたい魔王からすると悲しいお知らせとなってしまった。祝福が空っぽになる原因は何かとヴィルに訊ねると二つあると提示された。一つは、危機的状況に陥った誰かを守る為に祝福の効果が発揮し切れてしまった。もう一つは、ブルーダイヤモンドに込められている祝福を誰かが奪った。


「奪えるの?」
「ああ。高度な知識と技術を持つ魔法使いならね」
「厳重に警備されている宝物庫に入れて、尚且つ祝福を奪える人。……すごく強そう」
「かもね」


 悪意のある犯人であると帝国側も人員を考えて対処せねばならない。


「会場に戻る?」
「終わるまで此処にいる」
「おれもそうする。ジューリアといる方が楽しい」
「私も」


 噴水付近には多数の花壇があり、季節に応じた花が植えられている。手を差し出されたジューリアは、デートをしようとヴィルに誘われ、嬉々とした表情でヴィルの手を取った。


 ——後を追い掛けて来たジューリオは、花のような愛らしい笑顔を見せるジューリアやジューリアにそんな笑顔を向けられるヴィルを昏い目でじっと見つめ……とぼとぼと来た道を戻って行った。


「なんであいつは……僕にあんな顔を見せてくれないんだ……。天使様とずっと一緒にいられると思っているのか……?」


 本当に僕の事を想っていないのか? と……落ち込み、メイリンといても何も感じないジューリアにどう振り向いてもらえるのかと頭が一杯になった。魔族に体を乗っ取られ、目覚めた時に見たジューリアの瞳が忘れられない。

  

  

 ヴィルから通信蝶で頼みのブルーダイヤモンドから祝福が空っぽだったと報せを受けたエルネストは、丁度ネルヴァと連絡をしていた最中であった。落ち込んだ声を出すとネルヴァに訝しがられ、事情を話すと神妙な声を漏らした。


『天使の祝福が消えた……か』
「よくあるの?」
『いいや? まず有り得ない。ふむ……どうも、きな臭くなってきたな。エル君、近々私もそっちへ行くよ』
「ネルヴァくんが? リシェルちゃんは……」
『勿論連れて来るよ。リゼ君から預かっている大事なリシェル嬢を一人置いて行くなんて私がする筈ないだろう』


 魔界へ帰したらリゼルの機嫌が良くなって人間界滞在も延長してくれそう、とは言えない。もう一つ帝国へ行く理由があると話したネルヴァに訊ねると耳を疑う話を聞かされた。


『以前、私に悪魔狩りの追試を密告した主天使が教えてくれてね。……アンドリューが神の代理として、悪魔狩りの再追試を正式に決定したようだよ』


 それもヨハネスには事前に承諾を得ていると他の神族や高位天使を納得させて。ヴィルに以前にも聞かされていたエルネストだが、神の代理の座に就いたものだから本格的に動き出したのかと驚く。天界への扉が閉ざされた状態での再追試となると悪魔よりも、天使達への影響が大きい。

 最悪の場合、大量の堕天使が生まれる可能性が高くなる。今日は皇后主催のお茶会にヴィルやヨハネスは参加しており、終わったらきっと自分の所に来る。その時にヴィルに伝えよう。


『ねえ、エル君。ヴィルが気に入っている女の子について教えてくれない?』
「ジューリアちゃん? 『異邦人』だからネルヴァくんも気になるの?」
『それもあるけど……ちょっとね……』


 もう一つ気になる点があるとネルヴァは言い、エルネストに理由を語った。



  
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