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アデリッサの天国1
しおりを挟むアデリッサ・ナイジェルの今は人生の絶頂期と言えるだろう。ずっと想い続けていた愛しの王子と両思いになれたのだから。
ずっと役立たずだと罵っていた従者が初めて役立った。浮き足立って朝1番に会えた愛しい人は今日も、恋人であるアデリッサに蕩けるような青い宝石眼を注いでくれた。
「おはよう、アデリッサ」
「おはようございます、殿下!」
10歳の頃、初めて王妃主催のお茶会で会ったレーヴを一目見た瞬間恋に落ちた。絶世の美姫と名高い王妃譲りの美貌、直系にしか受け継がれない特殊な瞳――青く輝く宝石眼。同い年でありながら、冷徹とも見えるレーヴの冷静さと他者を圧倒する王族としての風格を目の当たりにし、すっかりと入れ込んでしまった。
屋敷に戻ったら、早速父に王子との婚約をお願いしようと楽しみにしていたアデリッサの心はすぐに地に落とされた。
恋をした王子には既に婚約者がいた。
波打つシルバーブロンド、妖艶な美しさを放つ紫水晶の瞳の美少女シェリ・オーンジュ。オーンジュ公爵家の1人娘である。
父によるとレーヴとシェリの婚約は数年前に結ばれたらしく、理由もレーヴに一目惚れをしたシェリの我儘によるものだとか。
アデリッサは憤慨した。好きになる日、出会う日が早ければ彼の隣は自分の物になっていたのに。
それからは2人が参加するお茶会には必ず参加した。レーヴ1人の時も絶対。
分かったことがある。
シェリはレーヴに大層嫌われていた。必死に話し掛けたり、振り向いてもらおうと気を引こうとしたり、色々な行動を取るも全てにレーヴは気を許した素振りは見せず、嫌そうな顔を崩そうとしなかった。
観察している内にアデリッサはある自信がついてきた。
(レーヴ殿下はシェリが嫌いなのね! だったら、まだわたくしにもチャンスはあるわ!)
どうせ2人の婚約はシェリの我儘によって成立したんだ。自分がレーヴと恋仲になった後婚約破棄をしてもらい、後から自分とレーヴとで婚約を結び直したら良い。
嫌っている相手と婚約していないとならないレーヴが不憫で、可哀想。
それからは徹底的にレーヴに近付き、シェリを敵意し始めた。
嫌っているシェリを退ければ、冷たい美貌に隠された温かい微笑をレーヴが向けてくれると信じていた。なのに1度もレーヴはアデリッサに笑ってくれなかった。否、礼儀として挨拶をしてくれるが声を掛けても存在を認識されているのか疑わしく殆ど無視をされた。
相手をされないのは同じなのに、あの時のシェリの嘲笑は何度思い出しても怒りが込み上がる。
「今日のランチは何を召し上がりますか?」
「Aランチかな。日替わりだから、どんなメニューが出るか楽しみなんだ」
「わたくしもです」
2人でクロレンス王立学院の廊下を歩く。まだ時間は早く人踊りは少ないが、生徒達の視線は2人に向けられる。
第2王子とオーンジュ公爵令嬢が婚約者なのは学院に通う者なら知っている常識だからだ。
そして、王子が婚約者を嫌っているとも有名だが他の女性と懇意にしているという噂はなかった。
【聖女】であるミルティーに関しては、王家が代々【聖女】を保護すると伝えられてる上に適切な距離を保っていたので2人の噂は流れなかった。
一昨日から今日にかけてアデリッサといる為、学院内ではシェリがレーヴに遂に捨てられたと嗤う者もいれば、存在を認識されているか疑わしいアデリッサと親しくするのは可笑しいと囁く者で分かれる。
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