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元には戻らない3
しおりを挟む話し相手がいない馬車内は当然というか、静かだった試しに瞑っても寝れる気がしなかった。
王城に到着すると城勤めの騎士が待っていた。父と国王から話は既に通っているらしく、2人が待つ部屋へと案内された。
室内には父ジン・ヴァンシュタイン公爵とクロレンス国王が立ったまま待っていた。
ミエーレは2人に挨拶を述べ、案内をしてくれた騎士が出て行くと早速口火を切った。
「結果論で言いますと、レーヴ殿下の昨日からの行動はアデリッサによる“転換の魔法”による影響でした」
「何っ!?」
滅多に声を荒げない父が思わずといった風に声が漏れた。無理もない。高等技術を必要とする“転換の魔法”を扱える可能性があるとしたら、此処にいるミエーレくらいなもの。目立った成績も能力も聞かないアデリッサにそんな力があったとは誰も思わない。
「事実であるか?」と国王。
「はい。オーンジュ公女への好意を自分に向けさせ、自分に向けられていた嫌悪をオーンジュ公女へと向けたのでしょう」
「なんと言うことだ……」
頭を抱えた国王は実は最近までレーヴがシェリを好きだったとは知らなかった。
昔から知っていると言えば、ミエーレか王太子だけである。
婚約が結ばれた当初からずっと口も聞かず、笑顔も優しさも向けなかった。
嫌っていると思いきや、それが最初を失敗したせいでどんな態度を取ればいいか分からなくなった末に初恋を拗らせたヘタレとは予想だにしなかった。
王太子がやけにレーヴに協力的だったのも【聖女】との婚約を結ぼうとした時も待ったをかけたのもーー納得であった。
ならば、と敢えて2人の婚約解消を保留にし、恥を捨て直接会い話し会えと背中を押したのが昨日の朝。
城に戻る頃には良い話があると期待して待っていたら……まさかの事態に頭を抱えた。
「レーヴ……というより、王家の血を引く者はなんというか……執着にも似た一途さを持つ。先日のパーティーの際、顔を赤くしてシェリ嬢への気持ちを白状したレーヴが違う女性と懇意になる訳がないと分かっていたが……これは見過ごせん」
“転換の魔法”は、他者の好意の矢印を別の者へ変える魔法だが王国では禁術指定とはなっていない。魅了と違い、無差別に相手を誑し込む恐ろしい力はないからだ。
しかし王子にかけるのは重罪である。犯人は公爵令嬢。ミエーレの鑑定によって判明したといえど、もう1つ確固たる証拠が欲しい。
「ナイジェル公爵には内密に報せましょう。娘に甘いと言えど、公私混同する愚か者では御座いません」
「うむ……しかし、呉々も悟られぬように。ナイジェル公爵にもそう伝えよ」
「はい」
残る問題は1つ。
ミエーレは国王に問うた。
「殿下と公女の婚約は如何されるのですか?」
「……今朝、オーンジュ公爵が来て正式に解消となった。ただ」
「ただ?」
「レーヴの気持ちをオーンジュ公爵も知っている。事実が明かされ、救いの余地があるなら再婚約も視野に入れてほしいと頼んだ」
「……」
王国の頂点に立つと言えど、目の前で心痛な気持ちを相貌に浮かべる様は普通の父親と変わらない。
元に戻す方法はない。
魅了と違い、元から存在する感情の矢印の方向性を変えられただけだから。
少し意地悪をしてみるかと、酷薄な笑みを浮かべたミエーレは怠さの中に色気が多分に含まれる碧眼を輝かせた。
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