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終わったら3
しおりを挟む心穏やか……とは違うが、荒むことも暗い方へ落ちていくこともない。ミエーレは名前通りの男じゃないが偶にシェリにとってはそうなる。
「あ……ヴェルデ様は、この間の舞踏会が終わったら縁談の話を受けると言っていたけれど……」
もし、今回の事態で先延ばしになっているのなら申し訳ない。明日にでもヴェルデに尋ねよう。
「心配は無用じゃないかな。ヴェルデはその辺上手くやる。殿下と【聖女】様の婚約はなかったことになるんだろう? なら、彼女に正式な婚約を申し込める」
ミルティーの様子からするに、きっと彼女もヴェルデを好いている。ラビラント伯爵家に養女として迎えられ、最初に仲良くなったのがヴェルデ。親愛が恋愛に変わる時だって大いにある。羨ましくなる反面、自身も今回の事が終わったら真面目に次の婚約者を探さないとならない。冗談混じりにミエーレは自分がと言うが、貴族の当主は自由を愛するミエーレには似合わない。卒業したら、彼なりに王家の番犬としての責務を全うする姿が目に浮かぶ。そちらの方がよく似合う。
「アデリッサを罰したとしても、解除不可能な“転換の魔法”をかけられた殿下は……他の誰かを好きなるのは」
「ないね」と付け足された。
「マティアスに実際会ってみないとだけど……殿下にかけられた“転換の魔法”にはさ、面白い性質が付加されてるんだ」
「付加が?」
魔法には元々備わった性質と故意に与える性質の2種類が存在する。人と同じで後者の場合は魔法との相性が悪いと効力は十分に発揮されない。ミエーレの碧眼は何を読み取ったのか。訊ねると欠伸を挟んで答えてくれた。
「ふわあ…………“増幅”だよ」
「増幅?」
「そう。アデリッサの従者をするマティアスが殿下とシェリの関係をアデリッサからは当然聞かされていた筈だ。恐らく、シェリへの嫌いな感情をアデリッサに転換させ、尚且つ感情を増幅させて余計嫌われるよう仕向けようとしたんだろうね」
無理矢理元の主から引き離された従者なりの復讐が思わぬ形でアデリッサの思惑を成功させてしまうのだから、世の中は何が起きるか誰にも読めない。神ですらもきっと掴めない人の運命。魅了と転換の違いを魔法の才能に乏しいアデリッサが見抜く術はない。そもそも、魅了と信じ切っているので疑うことすらしていない。
「はあ……ねえ、マティアスに会えるなら、わたしも同席していい?」
「いいよ。シェリは被害者なんだ。1番の被害者は殿下なんだろうけど」
アデリッサが仕掛けさえしなければ、シェリもレーヴも婚約者としてやり直せていただろう。禁忌指定されなかった“転換の魔法”だが、今後は指定される可能性が大きい。軍事活動には極めて重要な効果を発揮する為、使用制限付きの指定とされる方が助かる、とはミエーレの言い分。扱える人間が限られている分、条件は軽くしてほしいと今度国王にお願いするのだとか。
するとミエーレの手がシェリの頭に乗った。
「なによ」
「前におれが言ったの覚えてる? シェリの婚約者に立候補しようかなって」
「ええ。……え? 本気だったの?」
「うん。おれにしては珍しく。終わってからでいい。考えといて」
「……」
普段の不敵さも、眠気も、愉快な色もない。純粋に昔からの友人を気遣う仕草はあるが、深慮を彷彿とさせる碧眼の奥にはシェリへの情を訴えていた。初めてミエーレから友人以上の気持ちを向けられ恥ずかしくなったシェリは俯いた。
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