思い込み、勘違いも、程々に。

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「就職先というのは?」
「うん。フィオーレちゃんは平民と接するのは好きかい?」
「はい」
「それは良かった。隣国の教会で神官として働いてみる気ある?」
「!」


 隣国の教会といえば、女神を祭る総本山。願いを叶えてもらいたくて他国からの観光客も絶えないと有名。
 また、有名なのはそれだけじゃない。
 教会を仕切る司祭様が凄まじい美貌を誇るとか。観光客の中には、美貌の司祭様を一目見ようと押し掛ける女性もいるらしい。


「僕、顔は広い方でね。教会の助祭さんと知り合いなんだけど、今代の司祭がとっっっても女性にモテる子で女性神官がいないんだ」
「噂は聞いておりましたがそんなに凄いのですか?」
「うんうん。確かに顔の綺麗な子だし、接しやすいからね。まあ、女性神官がいなくても不便はないのだけれど、やっぱり華がいるといいよね」
「は、はあ」


 うんうんと頷くオーリー様だが、何がうんうんなのだろう。


「隣国の教会で神官になるのは、主に家を継がない貴族の次男三男だったりする。但し、誰もがなれる訳じゃない」


 神官になる絶対条件として、決して平民を下に見ず、相手が誰であろうと平等に接せられる者が第1にくる。次に必要なのは記憶力と告げらた。


「司祭や助祭のように、国中の貴族の顔を全て覚えろとは言わないけれど……毎日顔を合わせる隣人のような関係を築いていくんだ。当然、彼等のことを覚える必要がある」
「な、なるほど」
「フィオーレちゃんなら、きっと上手くやれるよ。今度、司祭宛にフィオーレちゃんのことを書いた手紙を送っておくよ」
「ありがとうございます!」


 善は急げと言うがその通りだろう。
 これで無事神官になれる準備が整え次第、お父様とお義母様に報告しよう。事後報告なのが後ろめたくなるが、決まってしまえば2人も止むを得ないと納得してくれるだろう。
 もう1つの最難関、エルミナとリアン様両想い実現作戦。本来、リアン様はロードクロサイト家の嫡男なので家を継ぐのは彼。私がいなくなれば、エーデルシュタイン家を継ぐのは自動的にエルミナとなる。
 跡取り同士の婚約なんて前例がない。

 私が視る『予知夢』には、断罪後の続きがあった。
 それのお陰で2人が昔から想い合っていたと知り、片想いの心は粉々になり、一晩中泣き崩れた訳だが――結果として、私の憂いはなくなった。

「さて」とオーリー様はフルーツタルトの載ったスイーツ皿を持って、微笑まれた。


「頂こうか」
「はい!」


 本当に不思議な人。こうやって一緒にいるだけで悩みも何もかも吹き飛んでしまう。ついつい緩んだ顔をして気が抜ける。
 ……その時だ。

 歓迎会を抜け出す直前に食らった強烈な視線を受けた。今のは特に、心臓を抉られたような恐怖と痛みを感じるほどの、強さ。
 フルーツタルトを楽しむオーリー様に悟られまいと、慎重に視線を動かすも――やっぱり誰も見ていない。
 一体何なのだろうと人知れず嘆息した。



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