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機嫌を損ねてしまった
しおりを挟む心配が尽きないのでエルミナを教室まで送った後、3年生のフロアに続く階段の1段目に足を乗せるとリアン様に呼ばれ止まった。気遣う色を濃く宿す青い瞳はどんな時も綺麗。
「またリグレットに絡まれたとアウムルから聞いた」
「王太子殿下が助けて下さったので何もありませんでしたよ。王女殿下は生徒会への出入りを禁止されたのですか?」
入室禁止と王太子殿下が言っていたのは事実だった。私の疑問に頷いたリアン様が経緯を話してくれた。
除籍されてからは毎日王太子殿下の元へ通われ、心を入れ替えると宣言していたそうだが学院内での振る舞いや行動を全て把握され、更に特待生として入学した平民の生徒に難癖をつけたのを知られていた王女殿下は全く信用されず。何度目かの訴えを退けられると逆ギレを起こし、出入り禁止を食らったのだとか。
「そうだったのですか……」
「ムルはエルミナ嬢に手を出すかリグレットを注視していたが……フィオーレ嬢を標的にするなんて」
「リアン様。これは私からのお願いなのですがどうかエルミナを守ってあげてはくれませんか?」
今の標的が私でも、何れリアン様と恋仲にエルミナがなってしまえば王女殿下の嫉妬の矛先は変わる。私はどうせ家を出るつもりだ。1年くらいなら耐えられる自信がある。
「だが……」
「私は大丈夫です。いざという時はアウテリート様を頼ります」
「……」
一瞬顔を歪ませたリアン様だったがすぐに戻った。そうか、とだけ発し、無言のまま先を行かれたリアン様の後に続いて階段を上がった。
さっきのリアン様のご様子……ひょっとして何度も私がエルミナを勧めるから、逆に不審がられている? 2人の想いは自分だけの秘密。他人に悟られないよう今まで過ごしてきたのに『予知夢』を視て知った私が安易に踏み込んでいい領域ではなかった。機嫌が悪いリアン様の背に呼び掛けた。足を止め、顔だけ振り向いてくれた。
「先程のあれは、その、表立って守ってあげてほしい訳ではなく、陰ながらでいいので見守ってほしいのです。エルミナにもあまり1人にならないよう私からも言ってありますが何があるか分からないので……」
「…………そうだな」
「……」
長い沈黙の後に告げられた短い言葉は、低く荒々しい感情を無理矢理抑えた無理があった。無意識に、無神経に、彼の領域に土足に踏み込んだ私は拒絶されている。身長差から歩幅が違う。今はリアン様の歩く早さが違う。あっという間に距離が空いていく。
愚かな真似をしなくても――リアン様の心が私に傾くことはないのだと改めて突き付けられた。
重い気持ちを抱えたまま教室に入った。まだアウテリート様が来ていなかった。席に座っても話し相手がいないと退屈。こういう時は本があると時間潰しになるが生憎と手持ちがない。図書室で借りるか、屋敷から持ってくるか、どちらにしよう。
昼休憩はエルミナと昼食を食べるから図書室へは行けない。なら放課後にしよう。今の気分だとオーリー様に会いに行っても相談だけで終わってしまう。可能なら美味しいお菓子を食べながら楽しい会話をしたい。次の授業にある小テスト対策をしようと鞄の中に入れてあった教科書を机に広げた。
「あ……」
あの視線が体に刺さった。3年生になってから感じる謎の視線。鋭く突き刺さる視線を感じ、主を探しても――誰も私を見ていない。最初の頃は気のせいかと気にしないようにしていたが何度も何度も味わえば絶対に見ている人がいると確信を持った。誰か不明なだけ。人が少ないと言えど、皆思い思いの時間を過ごしている。リアン様もそう。席に座り、頬杖をついて瞼を閉じられている。毎日眠そうなのは王太子殿下の手伝いやロードクロサイト公爵家の跡取りとしての勉強で忙しいせいだろう。
視線を貰うだけで害意はない。不安だが下手に騒ぎを起こすより、別の変化が起きてから調査すればいいと決めているから、私は教科書に目を通していった。
アウテリート様が来たのは予鈴の鐘が鳴る直前だった。
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