思い込み、勘違いも、程々に。

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隣国の怖い人1〜アウムル視点〜

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 頭が痛い案件とはこの事か。
 学院の昼に騒動を受けこれ以上リグレットを甘く見ていては後々かなりの面倒事を引き起こすと危惧し、隣国の公爵令嬢であるアウテリート嬢に見下されたと騒ぐので、父上に判断してもらおうと敢えてリグレットの思惑に乗ることにした。父上に訴えれば、どこの国の貴族の娘も罰せられると本気で信じている。自国の貴族でさえ、そうはいかない家もあるというのに。

 早急に城に戻り、父上への謁見を求めるが先に戻っていたリグレットが話を通していたらしく、直ちに謁見の間に来るよう騎士に告げられた。
 謁見の間に着くと玉座に腰掛ける父上に泣き付くリグレットがいて、隣の王妃の席には母上がいて。リグレットの母親である男爵令嬢は父上の顔に胸を押し付けて抱き付いていた。王族と宰相しかいなくて良かった。

 大方、母上や宰相が人払いをしたんだろう。


「来たか、アウムル」


 同じ青の瞳と金色の髪。顔立ちは母上に似ていると言えど、髪や瞳の色を見ると目の前の男とは血が繋がっているのだと突き付けられる。


「リグレットから聞いたぞ。他国の令嬢如きにリグレットが傷付けられたそうじゃないか。お前は何故リグレットを守らない。たった1人の妹だろう」
「ええ。母親の違う妹です」
「酷いわアウムル様! 腹違いだろうと父親は同じではありませんか!」


 悲劇のヒロインぶって声を高くして叫ぶ愛人の言葉を無視し、王妃の座に座る母上から静かな声が。


「アウムル。そこの娘を虐げというご令嬢は何処の方かしら」
「虐げてはいません。そもそも悪いのはリグレットです。王女の権力を振り翳して生徒達に迷惑を掛けているのですよ」
「まあ……彼女が陛下に話していた事とかなり内容が違うわね」


 口では驚いている風を装いながら、長い睫毛に覆われた瞳は冷え切っていた。
 信じてはいないが敢えておれの口から言わせる事でリグレットの嘘を暴く算段だろう。


「わ、わたくしは何も悪くないわっ、言う事を聞かない学院の生徒達が悪いのよ!」
「そうよ、リグレットは王女なのよ? 上の立場の者に従って当然だわ」
「なら、王太子であるおれの言う事を聞かないリグレットはどうなのです?」
「え?」


 国王と王妃から生まれたのなら正統な血筋だと主張されるが、たかが男爵令嬢如き――本人もパッとした才能があるでもない普通の娘――が産んだ娘に王女という肩書きが与えられているのは、父親がこの国の国王からなだけ。


「そうね。立場で言うとアウムルは王太子、次期国王。リグレット、貴女より上の立場にいる人よ。貴女の言い分だとアウムルの言う事には従わないといけないわね」


 息子のおれには父上を語る時以外は決して聞かせない、心底どうでもいい他者の時しか出さない冷酷な声色で母上に問われたリグレットの顔は真っ青だ。母親と揃って父上に助けを求めるよう抱き付いていた。

「セラフィーナ」鋭い声で母上を呼ぶ父上だが。


「名前を呼ばないで頂けます? 汚らわしい」
「っ!!」


 心の底から軽蔑した母上の瞳が父上を射抜く。


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