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手遅れ―アウムル視点―
しおりを挟む「アウムル。ならばお前がリアンを説得しろ」
「は?」
「お前がリアンを説得し、リグレットを受け入れるようにしろ」
……こんな男がおれの父親で、国の王だと認めたくないが現実はとても残酷で全て現実で事実である。一瞬、何を言われたか理解が遅れるも理解したところで出るのは盛大な呆れと軽蔑だ。フィオーレ嬢に何かある度に毎回必死になってるリアンがこの場にいなくて良かったとも安堵した。
取り敢えず、若い頃から桃色の世界から戻っていない父上にリアンが絶対にリグレットを好きになることはないと断言しかけた時、横にいる母上に待ったを掛けられた。視線で待てと言われ、渋々引き下がった。
「陛下、本気で仰っていますか? 本気でそこの娘をロードクロサイト家に嫁がせると?」
「そうだ。何度も言っているだろう」
「王命で望んでもいない王女を押し付けられたロードクロサイト家を敵に回したいと?」
「酷い! わたしが嫌いだからってそんな言い方……!」
「貴女に話し掛けていないの。黙っていなさい」
更に酷いと泣き喚き、父に泣いて縋るリグレットを見やる母上の瞳は冷え切っており、愛人も一緒になって父上に泣き付くせいで執務室がかなり騒がしい。耳が痛いとはこのことかと黙って話に耳を傾けた。
「パパに愛されてもいないくせに王妃の座にしがみついたみっともない女のくせに! パパに意見しないでよ! パパが国で一番偉いのだから、パパが決定って言ったら決定なのよ!!」
「そ、そうよ! 家の身分だけで王妃になっても、陛下の愛は私達にあるのよ。調子に乗らないで!」
……隣の母から感じる冷気が氷点下にまで達した気配がした。一瞥してまた視線を戻した。無を通り超えて別の感情が出ていた気がする。
調子に乗っているのは母上ではなく、お前達だと言いたいが母上が良いと言うまでは黙ったままでいよう。
「はあ……」
長く感じた沈黙の末、母上が吐き出したのはどうしようもないと呆れ果てた溜め息で。溜め息と同じ感情を込めた瞳で父上と愛人、リグレットを見据えた。
「個人としてはともかく、国王として陛下は尽力してくれました。その点においては私も陛下を尊敬します。ですが——」
次の言葉は続かなかった。「お取込み中失礼するよ~」というのんびりとした声が後ろからしたもので……振り向くとにこやかな笑みを携えたオルトリウス様が入って来た。
「外からも騒ぎ声が聞こえていたよ。大事な話なら、もっと声量を抑えないと」
「誰よあんた! 部外者が入っていい場所ではないのよ!」
この方が隣国の隠居王族というのを愛人が知らないのは……仕方ないにしても。
「そうだ。誰だ貴様は。どうやって城に入り込んだ」
なんで面識のある父上まで知らないんだ。
さすがの母上も信じられないと言いたげな相貌で父上を見ていた。その母上の様子から、ただの部外者ではないと父上は解ったらしいがもう遅い。
「やあ陛下。最後に会ったのは、君がまだ王太子だった頃だから忘れちゃうのも無理ないね。僕が主に会っていたのは先代陛下の時だから」
「何を…………あ」
オルトリウス様の顔を凝視してようやく誰か思い出したらしい。この場に他人がいなくて良かった。お祖父様とも親しかった隣国の王族の顔を忘れていた等と知られたらとんだ恥さらしとなる。
「あ……い、いや……これは……」
「人間ど忘れする時だってある。気にしなくていいよ。僕が今此処に来たのはね、先代陛下の頼みあってこそだ」
「父上の、頼み?」
「そう。本来なら、他国の隠居王族が首を突っ込むべきではないのだけど、彼のお陰でこの国との関係が修復出来た。恩を仇で返すような真似だけは絶対にしたくない。悪いね陛下、先代陛下の願いを叶えさせてもらうよ」
「そ、その願いとは、何なのですか」
「君が国王としても駄目だと僕や王妃殿下が判断した場合、王妃が産んだ直系の王子や王女に速やかに王位を譲るという遺言があるんだ。これは隣国の魔術師の力を持つ侯爵家が立ち合い、実際に誓約されたもの。君が拒否しようが周りが拒否しようが決定は覆らない」
横暴だ、と叫んだのは父上か、それとも愛人かリグレットか。何にしてもオルトリウス様が宣言なされた今、お祖父様の遺言の強制力が動き始める。
「愛は人を盲目にさせると言うがここまでとはね……」
オルトリウス様の淡々とした声が無機質なものに聞こえたのは、父上に対する情が自分の中で消え去ったの同然ということだろう。
——後でリアンにリグレットがこれ以上フィオーレ嬢に危害を加える真似は出来なくなると伝えておこう。
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