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34話
しおりを挟む茶会での疲れがどっと出て小さな欠伸を漏らしたラヴィニアはベッドに腰掛けた。このまま少し眠ってしまおうかと横になると拗ねた声色が上から降ってきた。
「俺がいるのに寝てしまうの?」
「ううん……欠伸が止まらなくて……すごく眠いの……」
堪えようとするが欠伸が止まらず、これなら一旦眠った方が眠気もマシになるだろうと横になった。隣を叩くとメルも寝転んだ。
「メルは眠くないの?」
「あまり」
「私はこのまま寝る……ふあ……」
言いながらも欠伸が出る。眠たげに小さく口を開き、瞼を閉じて寝の体勢に入った。
「……」
横からメルの視線を感じる。寝顔を見られるのは今更だと言われても恥ずかしい。が、やはり眠気には勝てない。
額に温かい何かが触れた。「おやすみラヴィニア。ゆっくり眠って」とメルの声の後にまた額に何かが触れた。きっとキスをしてくれたのだ。メルの服をギュッと掴み、ラヴィニアは心地良い眠りに就いた。
――次に目を覚ますと空が朱色に染まり掛けていた。
「起きた?」
ぼんやりと瞬きを繰り返していると自分を抱き締めているメルの声が。ゆっくりと顔を上げるとメルの瞳と目が合った。
「メル……」
「どう? 眠れた?」
「うん。メルも寝ていたの?」
「ああ。さっき起きたばかりだよ。多分、誰も起こしに来てはないようだ」
又は、二人が寝ているのを見てそのままにしてくれたか。
「二、三時間は寝ていたようね」
「夕食までもう少しだけど、食べるまで寝る?」
「ううん。起きる」
眠たげに手で瞼を擦り、上体を起こした。小さく欠伸をし、横になったままのメルの頬を撫でた。
「ふふ」
「俺の顔を撫でて楽しい?」
「うん。小さい時もこうやって撫でていたでしょう?」
「そうだったかな」
撫でるラヴィニアの手を掴み、膝に頭を乗せたメルに苦笑しながらも髪を撫でると綺麗な瞳に見つめられくすぐったい気持ちとなる。
「ラヴィニア、前に修道院へ行きたいと言っていただろう? 落ち着いたら一緒に行こう」
「うん」
前は修道院へ行きたいと言ったら嫉妬して意地悪な真似をしたのに、今度はメルから提案をされた。不思議に思うがお世話になった院長にお礼を言える、ハリーがいたらハリーにもお礼が言える。
「ラヴィニアの言っていたハリーが誰か分かったから」
「カトレット公爵令息だったのよね。全然知らなかった」
そして、ハリーの方もラヴィニアがキングレイ侯爵令嬢とは気付いていなかった。
「剣の鍛錬にばかり日々を費やしているから、社交にもあまり顔を出さないんだ。母上がお茶会を開く時、カトレット公爵夫人も招かれるが大体ハロルドについて嘆いているよ」
「そうだったの……道理で知らないわけね」
「出席が必要な夜会には出るが基本ハロルドは出ない。だから、ハロルドもラヴィニアを知らなかったんだ」
院長の知り合いの理由も知れた。今度会う時はお互い貴族だ。しっかりと覚えておこうと決めたラヴィニアは体を起こすなり胸に顔を埋めて押し倒したメルの髪を少し引っ張った。
「もうっ、メル」
「今夜、俺の部屋においで」
「駄目、だ、大体公爵夫妻がいるからシルバース家の屋敷では抱かないって言ったのメルだよ」
「そろそろ限界」
「我慢して」
「……」
渋々顔を上げたメルの表情も同じで若干拗ねている。隣に寝転がったメルに頭をキスされ、夕食を呼びに執事が訪れるまで二人はじゃれあった。
――食事の席に来ると既にマリアベルが座っている。が、隣の席には誰もいない。
「母上、父上は?」
「魔法監査室」
「え?」
マリアベルが口にした魔法監査室は、今日フラム大公家を押し込んだ。更に皇帝も入れると言っていたが明日以降だと思っていたとメルが言うとマリアベルも同意した。
「明日にしましょうとは言ったのよ? それでも――」
『面倒事は今日終わらせてくる。明日、変身魔法が解けたプリムローズ様とロディオン様を見せてあげよう』と言い残し魔法監査室へ転移した。
「父上らしい……」
呆れるメルにマリアベルも同意した。
ヴァシリオス不在で夕食を頂きましょう、とマリアベルの言葉を受けラヴィニアとメルは席に着いた。
――魔法監査室ではヴァシリオス以外の面々は呆然としていた。放り込むタイミングは同じがいいとヴァシリオスは敢えてフラム大公家を別室に置いていた。嫌がる皇帝の首根っこを掴み無理矢理魔法監査室に投げた。合図を受けた部下達も次々にフラム大公家を連れて入った。
泣き叫ぶ大公夫人の声を聞き、意味を悟った皇帝はヴァシリオスに泣き叫んだ。
が、彼等への慈悲等持ち合わせていないヴァシリオスは薄い笑みを浮かべたまま変身魔法が解けたプリムローズとロディオンを見つめた。
髪の色も瞳の色も皇帝と同じで、夫人譲りの顔も皇帝の面影を残す顔に変わった。
顔を青ざめ、絶望する夫人と皇帝。
呆然とするフラム大公。
プリムローズとロディオンも鏡で自分の姿を見せられ呆然とした。
「さて、お馬鹿さん達。楽しい夜にしよう」
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