幸せなのでお構いなく!

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妖精印のハチミツ

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「いらっしゃいませ~」


 一見普通の露店にしか見えないハチミツ店を訪れた。店主は妖精だとカレンデュラ様は仰っており、花壇から現れたミツバチ達は店主がお世話をしていて顔馴染みだとも。栗色の長髪を後ろに一つで縛り、メガネを掛けた温和な男性。テーブルに並べられたハチミツは平民が購入しやすい一般的な品から、貴族向けの高級品もある。それらを選ばず、妖精印のハチミツをと頼んだカレンデュラ様に店主は奥の入れ物から黄金に輝くハチミツ瓶を見せた。


「綺麗……」


 思わず呟くと「そうでしょう?」と嬉し気に語られた。


「これはぼくの可愛いミツバチ達が必死になって作ったハチの巣から採取した貴重なハチミツだよ。店に並べてるハチミツとの違いは、妖精のミツバチが作っているという事。妖精印のハチミツは魔力回復や美容、健康に関して万能な効果を持っていてね、一度に作られる量は限られているし、ぼくを妖精だと知る人しか売っていないんだ」
「あたしには売ってくれるわよね?」
「カレンは常連だからね、勿論さ。レイチェルの娘さんもいるからサービスしとくよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」


 一つの値段は貴族向けよりも高価だがもう一つを無料で付けてくれた。貴重なハチミツなのに店主のご厚意に甘えお礼を述べた。木箱に入れられたハチミツを私とカレンデュラ様それぞれに抱えながら、次は何処へ行こうと言う話になった。
 ミツバチ達のハチミツ塗れ攻撃にあったクリスタベル殿下達の許へ戻ったカリアス様とも合流した。殿下達は馬車を手配して城へ戻ってもらったと。


「もう鉢合わせもないよ。安心して回ろう」
「ハチミツ塗れのまま馬車に乗ったのですか?」
「下手に水魔法を使って洗い流して風邪を引かれたら僕のせいになってしまうからね。王女は自分にとって不利な状況になると他人のせいにするから」
「そ、そうなのですか?」


 知らなかった……。


「ロリーナ嬢が知らないのはセレーネ嬢が教えてないからかな。まあ、ロードナイト殿下の妹だから悪い話は耳に入らないようにしていたのかもね」


 婚約者の妹の悪い話を耳にすれば、身内にも悪い印象を持つとお姉様は恐れたのかしら。そんな話でロードナイト殿下に悪印象は持たないがお姉様なりに考えがあっての事だろう。
 私達が抱えている木箱を指差し「それは?」と訊ねられた。妖精印のハチミツですと答えるとカリアス様は破顔した。


「僕の大好物だよ。とても美味しいから、侯爵達にもお勧めしてみて」
「はい!」
「この後はどうしますか? 母上」
「必要な物は買ったし、後は花を見て終わりかしら。ロリーナちゃんは行きたい場所はある?」


 行きたい場所……特に考えてはいなかった。気になる露店があれば覗いて、後は花を見るだけと考えていたから。自分の考えを伝えると露店回り・花眺めに決まって再び歩き出した。
 お姉様とロードナイト殿下も来ているが二人とはあの後別れた。きっと仲睦まじく楽しんでいる。ちょっとだけ羨ましくなる。カフェ店内からグレン様を見掛けて以来、グレン様と会わない。私からの言伝を受け取って帰ってしまわれたのか。
 それでいい。今日で私とグレン様の婚約は終わる。
 最初で最後の思い出作りが成功しなくて悲しくもあるが、結局グレン様が何よりも優先するのはクリスタベル殿下だったのだ。
 ふと、気になる事を口にしてみた。


「グレン様は……」
「どうした」
「グレン様は、私と婚約解消をしたらクリスタベル殿下と婚約するのでしょうか」
「国王夫妻はそうするだろうね。シュタイン公爵にゴリ押ししそうだ」
「クリスタベル殿下に有利になってちょっと嫌です」
「君の悪い噂を流し続けた挙句、散々グレンに君の悪口を言っていた王女が幸せになるのは確かに僕も良い気持ちはしない。でももうグレンと君は他人になる。関わりもなくなる。無関係となる相手を気にしていたら君がもたない。君自身の幸せについて考えようよ」
「私の幸せですか……」


 私の幸せとは何かな。
 最初はグレン様と結婚し、シュタイン公爵家に嫁ぐ事だと思っていた。月日が経っても愛してくれないグレン様に諦め、結婚しても不幸な生活が続くのだと想像するだけで気が重くなった。
 婚約解消を前提に考えてみた。
 平民として生きていくのも悪くない。昔から、年に三度程一か月平民の生活をしている。私の亡き母が生まれてきた子供が貴族の生活に合わなかったら平民として育ててほしいと。母はずっと踊り子として世界中を回っており、妖精というのもあり相当な財産がある。贅沢をしても一生仕事をしなくても生きていける金額とお父様に教えられた。私が平民になりたいのならカラー侯爵家は生活の支援は惜しまないとも言われた。カラー侯爵家の支援と母の財産があれば、本当に死ぬまで仕事をしないで生きていけそうだが、私は貴族の生活が嫌いじゃなかった。
 平民になったら大好きなお姉様に気軽に会えなくなるのが一番大きい。


「まずはお姉様とロードナイト殿下の結婚式を見たいです。私の幸せはそれからでも遅くはありません」
「セレーネ嬢が安心して結婚式を挙げるのなら、君の幸せを先に見つけないとね」
「お姉様は心配性ですから……」
「セレーネ嬢が心配する気持ち僕には分かるな。君が大事だからさ。
 この前言った話、前向きに考えてほしい。勿論、無理にとは言わない」


 グレン様と婚約を解消したら、カリアス様と婚約をしてほしいという話。
 公爵令嬢や他国の高位貴族のご令嬢、何なら帝国の皇女からもアプローチされているカリアス様。私より、もっとベルローズ公爵家にとって利のある方と婚約した方がいいのでは。
 と顔に出ていたのか苦笑された。


「僕はロリーナ嬢がいい。僕に釣り合うと言うのなら、ロリーナ嬢だってそうだ。何より僕達は妖精の母を持つ者同士。これ以上ないくらいピッタリだと思わないかい?」
「すぐにはお返事が……」
「待つさ。父上と同じで待つのは得意なんだ」
「諦めが悪いってことよ」
「母上、黙っててください」
「あはは……」


 二年間もベルローズ公爵から求愛され続けたカレンデュラ様の言葉は重みが違う。


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