幸せなのでお構いなく!

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ゆっくりでいい②

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 カリアス様から王城にある庭園に誘われたのはあれから数日後。普通、王城の庭園を逢引の場所に指定する貴族はほぼいない。王家と関わりが深い所くらいだ。今日はベルローズ公爵が陛下に所用があり、カリアス様は付いて来る際に話相手が欲しいからと私を呼んだとか。ベルローズ公爵が王都にいるのは一か月ぶりだ。帰る前にご挨拶をしておこう。グレン様に似て苦手意識を感じているが公爵様本人は話しやすい気さくな方。
 婚約を申し込まれているがカリアス様とは一定の距離を取って庭園を歩いていた。何事も基本は大事。


「グレンや殿下の話は聞いた?」
「はい。今までのグレン様は何だったのでしょう」
「妖精のミツバチ達が作るハチミツの香りに当てられたのかもしれない」
「ハチミツの香り?」


 ミツバチ達から直接噴射されたハチミツを短時間に大量に香りを嗅ぐと、香りの発生源に対し強い恋情を抱いてしまう副作用があると聞かされる。妖精が販売している瓶入りのハチミツは香りを抑えめにする工夫が施されてはいるが、食品として使用するから長時間蓋を開けて香りを嗅ぐ事はないだろうと軽いもの。実際蓋を開けた際に香ったハチミツの香りにうっとりするも、すぐに紅茶に入れ蓋を閉めた。ずっと嗅いでいては食品としての価値が下がってしまう恐れがあるから。
 グレン様の現状をシュタイン公爵夫人から聞いたベルローズ公爵がカレンデュラ様に話し、現場にいたカレンデュラ様が心当たりを述べたのだとか。


「妖精のミツバチさん達が作るハチミツにはその様な効果が……普通のミツバチと違うのですね」
「とは言っても、それはミツバチが敵と判断したから大量に掛けたのであって、普段は人間を襲ったりしないから安心して」
「はい」
「クリスタベル殿下から暫くはハチミツの香りは消えないと思う。毎日何度も体を洗えば肌が傷付くだろうし、下手に別の香水をつけて匂いを誤魔化しても香りが混ざって悪臭となるから、陛下や王妃様は打つ手なしで頭を抱えていらっしゃる」
「ハチミツの香りはいつまで続いてしまうのですか」
「母上に聞いたら、あれだけ大量に掛けられていたから半年は今の状態が続くと」


 半年も大嫌いな虫に怯える生活を送らないとならないなんて……私でもゾッとしてしまう。


「グレン様もその間クリスタベル殿下に?」
「そうなるね。殿下からハチミツの香りが消えて正気に戻っても、グレンは後戻りできないだろうね」
「……そうですね」


 大勢の人がクリスタベル殿下に狂おしい愛の告白を叫び続けるグレン様を目撃している。殿下が回復したら速やかに二人は婚約し、結婚してしまいそうだ。国王陛下は頭を抱えながらもグレン様に他の婚約者を作るなとシュタイン公爵に念を押している。シュタイン公爵も諦めて二人を婚約させる方向で動ているとカリアス様は話す。


「君にとっては複雑だろうけど……」
「いえ、良いのです。もうグレン様とは終わりました。正気に戻っても、最初は戸惑ってしまうかもしれませんが相手がクリスタベル殿下ならグレン様はすぐに受け入れますよ」
「あの二人が幸せになるのは、何だか癪に障るな」


 悔し気にするカリアス様に苦笑しつつ、私は向こうの道から王妃様が来たのに気付いた。カリアス様も気付き、目の前に来られると王族への礼を示した。声を掛けられ顔を上げると少々窶れていた。クリスタベル殿下の一件でかなり疲労が溜まっている様子。


「ロリーナ嬢とカリアス殿は無事で良いわね、クリスタは可哀想に毎日虫に怯えて部屋で泣いているというのに」


 恨めしい、どうして貴方達は。負の感情がタップリと込められた眼で言われると身を竦めるも、今まで根も葉もない噂を流されグレン様との関係を壊し続けた原因の一人である王妃様には、多少思うところもある私は敢えて強気に出た。


「はい!  私も虫が苦手なのでミツバチさん達にハチミツを掛けられていたらと思うと怖いです。殿下の事は気の毒に思います」
「な、なっ」


 見る見る内に顔を怒気で赤く染めていく王妃様にカリアス様は紡いだ。


「ミツバチの罰が下ったのでは。王妃殿下やクリスタベル殿下が今まで流し続けたロリーナ嬢の嘘の悪評のせいで。グレンが欲しいからと好き放題したツケが回ってきただけかと」
「私を誰だと思っているの!?」
「僕はロリーナ嬢に婚約を申し込んでいる最中です。父上には、今までロリーナ嬢の悪評を流し続けた王妃殿下やクリスタベル殿下、更に二人を止めなかった陛下のいる国に居続けるのは苦痛だと訴えたら、早速動いてくれると」
「な、何の話っ」
「僕は好きな女性の為なら何だってする。
 ――田舎で暮らすのと病人を隔離する塔で生涯幽閉されるのとどちらが良いですか?」


 赤い顔は青く染まり、言葉の意味を察した王妃様は侍女達に咄嗟に支えられる。カリアス様の真っ直ぐな言葉に照れるよりも、ベルローズ公爵が動いているとは知らなかった私は衝撃を受けてばかりで言葉が出なかった。
 私に振り向いたカリアス様にニコリと笑まれた。


「妖精は怒らせると怖い、というのは父上の言葉だよ」





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