逃がす気は更々ない

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 リナリアが慌てて見ると意識はあるようだ。


「あ……ああっ……」
「イデリーナ……」


 リナリアとラシュエルはユナンを見た。だから言ったろうと彼は苦笑した。


「嘘偽りを申せば魔法に攻撃されると。体が痺れるだけだ、一時間もしたら動ける」
「大教会は随分と物騒な部屋を持つのだな」
「元々、捕らえた敵を尋問する為の部屋ですから。城の地下室にも同じものがある。大教会に尋問部屋が存在するのは主に離婚申し立ての審議の時、夫か妻か、どちらが不貞を働いたか、離婚される原因はどちらにあるのかを知る為。嘘偽りを申せば、先程のイデリーナ嬢みたいに魔法の攻撃を受けます」


 取り敢えず命に危険がないのなら良いとラシュエルは険しさを和らげ、リナリアもソファーに座った。
 リナリアは「殿下」と発し、聖域にずっといると告げた。
 あからさまに動揺したラシュエルに理由を問われると困ったように笑みを浮かべ見せた。


「聖域にはお父様もお義母様もイデリーナも屋敷の者達もいません。とてものびのびと過ごせました。あんな風にのんびりと過ごしたのは久しぶりで……ずっと続いたら良いのにと思いました」
「リナリア……」
「殿下の事はお慕いしておりました。この言葉に嘘偽りはありません。イデリーナのような強い恋愛感情があったかと聞かれると困りますが」
「……」
「殿下がイデリーナとの婚約を解消されようとこのまま継続されようと私には関係ありません。あの父の事ですから殿下のお言葉があっても簡単に侯爵家に戻しはしません。寧ろ、イデリーナの邪魔をしたと激昂するだけ。なら私は静かな聖域で過ごしたいのです」
「……そちらにいる神官がいるからか?」
「話し相手としてとても楽しいですよユナンは」
「…………」


 苦し気に眉間を寄せ、ギュッと瞼を閉じたラシュエルは幾分か経つと黄金の瞳を見せた。


「私を嫌いになったのではないのだな……?」
「え、ええ……殿下を嫌いになど」
「そうか……」


 ホッと安堵したラシュエルは表情を和らげリナリアに告げたのだった。

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