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しおりを挟むサンドパンは戻ってから食べるとユナンに告げると——
「多分、戻れないんじゃないかな」
「どうして?」
「君が思っている以上に、皇太子はリアが好きみたいだよ」
そう、なのだろう。あんなキスをしてくるくらいだ。好きではない相手にしたのなら、逆に軽蔑する。
「君をリアと呼んだら、毎回怖い目で見てたくらいだ。此処に君をいさせたくないんだ」
「ユナンの気のせいじゃ……」
「まあ、行ってみたら分かるよ」
行っておいでと手を振られれば行くしかない。サンドパンが食べたかったと少しだけ引き摺りながらも、リナリアはラシュエルが待つ部屋に向かった。
中に入るとすぐにラシュエルが来て抱き締められた。突然過ぎて「殿下っ」と背を叩くがラシュエルは離れようとしない。
「会いたかった、リナリア」
「あ、あの、人がいますから離れてほしいです」
「誰もいない」
言われてみると案内してくれた神官はいつの間にか消えていた。心の中で恨めしい言葉を出しつつ、少しだけ体を離してくれたラシュエルを見上げた。
「昼食に誘いんだ来たんだ」
「態々、殿下が来られなくても使いの方を寄越してくれれば」
「私が早くリナリアに会いたかったんだ。ひょっとして、もう食べた?」
「いえ、まだです」
ユナンと食べる直前だったとは伏せておいた。口にしたら、ただ昼食を食べるだけでは済まなくなりそうで。
ラシュエルは嬉し気に「そうか」とまたリナリアを引き寄せた。
「折角だ、街で食べよう」
「殿下の護衛の方が——」
「リナリア、もう忘れた? ラシュエルと呼んでって言っただろう」
「ラシュエルの護衛の方が……」
「遠くからちゃんと見ているんだ、何処で食べたって同じさ」
同じじゃない気がするも何も言わなかった。ラシュエルと呼ぶだけで上機嫌になるくらいだ、やっぱり彼はリナリアが好きなのだと知る。が、そう考えると頭を過るのは原作だ。
自分というイレギュラーがリナリアに転生してしまった為に違いが生じているとしたら、説明がつく。
母を亡くし、長らく囲っていた愛人と娘を本邸に住まわせた父に絶望した本物のリナリアは死んでしまったと、話したところで誰も信じない。
ラシュエルを救う黄金の花を咲かせた時、誰かがありがとうと言った。きっとあれは本物のリナリアの声だったのだ。
リナリアの為を思うなら、ラシュエルと一緒になるしかない。
「食べたい物はある?」
何でもと言うと大抵の人は表面には出さなくても困る。リナリアは少し考えた後、大教会付近にあるリストランテに行こうと提案した。お昼時で席があるかは微妙だが、品数が多くどれも美味しいと評判のお店だ。
「聖域にいた頃、平民にとても人気だってユナンが……」
あ、と思った時既に遅かった。
「……あの神官と随分親しくなったね」
「え、ええ。聖域にはユナン以外、誰もいなかったので」
「大教会に属する神官でも、聖域に入れるのはあの神官と教皇だけみたいだよ。入る事自体稀なら、急な訪問者でも歓迎はするか……リナリア、聖域にいた時の話を私にして。いい?」
「は、はい」
濁りを見せだした黄金の瞳は一言了承しただけで消え、元の綺麗な黄金の瞳に戻った。
部屋を出る前ユナンに言われた言葉が蘇った。
『君が思っている以上に、皇太子はリアが好きみたいだよ』
半分冗談、揶揄っていると信じなかった自分を殴りたい。
ラシュエルに腰を抱かれ、二人は大教会の外に出た。
目当てのリストランテは予想より並んでいる人は少なく、これならすぐに入れるとなって最後尾に立った。
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