逃がす気は更々ない

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 お腹辺りまで伸ばした白い髭を撫でながら、現教皇リドルは皇太子に会わせろと子犬の如く吠えるイデリーナを揶揄った。


「して、お主はわしを知らんと」
「当り前よ! あんたみたいな年寄りの顔なんて覚えるわけ……」
「そうかそうか。わしこれでも教皇なんだがの」
「え……」


 大教会の頂点を知らないと大声で啖呵を切ったイデリーナは相手が教皇だと知らされ顔を青褪めた。周囲は平民ですら教皇を知っているのに貴族の令嬢が知らないのはどうしてかと好奇の視線を浴びせた。羞恥心で顔を真っ赤に染め、小刻みに震えるイデリーナをどうしようか神官達は教皇の指示を仰いだ。

 髭を撫でながら応接室へ案内しろと指示を出されるとさっきまではとは別人のように大人しくなったイデリーナは神官と向かった。
 残った神官に後を任せた教皇が隠れているリナリア達の許へやって来た。


「ヘヴンズゲート侯爵令嬢」
「も、申し訳ありません……」


 イデリーナの代わりに同じ家の者としてリナリアが謝ると軽快に笑われた。


「元気な異母妹を持ったな。あれなら性根を叩き直す甲斐があるというものじゃ」
「どういう意味ですか?」
「後日話すが聖女はわし預かりとして大教会にいさせる。折角目覚めた聖女の能力を下らん事で消滅させるのは痛い」
「マジかよ……」


 げんなりとした声で呟いたのはユナン。


「なんじゃユナン。文句があるのか」
「純粋培養の性悪を叩き直すのは骨が折れるのでは」
「誰もお前がやれとは言わん。わし直々に叩き直すつもりだ」
「というか、なんで彼女に? 普通、聖女は清らかな心を持つ女性限定だった筈」
「神の人選ミスだろう」
「最悪……」


 歴代の聖女についてユナンから話を聞かされたリナリアも疑問には感じていたが、何でもないように教皇が言うのでそういうものなのかと納得してしまいそうになった。


「教皇」


 ラシュエルが前に出た。


「皇太子殿下。お体の具合は如何かな?」
「見ての通りだ」
「して、今日はどの様なご用件かな?」
「先にそこの神官から聞いた。聖女の能力について教皇に訊ねたかったんだ」


 教皇の意見も聞いたらいいと言うユナンの助言に従い、聖女の能力について訊ねた

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