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しおりを挟む「はは!」と吹き出し笑いを上げるユナンは何だと言わんばかりに睨んでくるソルトへ笑い過ぎて涙目になった瞳をやった。
「リリーシュ公爵令息。俺がリアといるのは、彼女の自棄ではありません。彼女は――」
「いい。ソルトに説明は不要だ」
ユナンの声を遮った冷たい声は変装魔法で姿を変えたラシュエルで。声は変えていない為、ソルトは彼がラシュエルだと即座に気付いた。
「ラシュエル……」
「ソルト。長年の付き合いに免じてこの場は見逃してやる。早々に立ち去れ」
「お前の婚約者はイデリーナ嬢になったんだから、リナリア嬢に近付いてもお前にとやかく言われる筋合いはない。第一、僕はリナリア嬢に婚約を申し込んでいるんだ」
「私はイデリーナと婚約をしない。もうじき白紙になる。皇太子妃になるのはリナリアだ」
「は……」
「分かったらさっさとリナリアへの婚約の打診を取り下げろ。従順な相手が良いならリナリア以外を見つけるんだな」
昨日の話を遠回しに皮肉った言い方だが、ラシュエルは長年ソルトといた。ソルトの女性の好みをある程度知っての言葉だと本人は受け取ったようで、何か言いたげに口を開きかけるがすぐに諦め黙って席を立った。ソルトが店を出て行くとラシュエルが代わりに座った。
「ソルトに変なことを言われなかった?」
「何もありません。それより、どうしてここに?」
「さっき大教会に行ったら、君が神官とリストランテへ行ったと他の神官から聞いたんだ」
今朝早くラシュエル宛にクローバー侯爵から内密に連絡が送られ、リナリアと会って話がしたいというものだと。
リナリアが大教会に保護されているとは知っており、リナリアの都合に合わせて会いに行きたいのだ。ラシュエルに問われたリナリアは今日の昼にでもクローバー侯爵と会いたいとした。
「分かった。侯爵にはすぐに伝える」
「ありがとうございます。……ところでラ……エルはもう朝食を済まされましたか?」
「いや。先にクローバー侯爵の伝言を伝えてあげたいと思ったから、まだだよ」
「ご一緒しませんか? ここのモーニングセットが美味しいと評判ですので」
「リリはセットにしたの?」
「はい」
「じゃあ、私も同じのにするよ」
丁度横を通った給仕にモーニングセットで紅茶を注文。ラシュエルと呼びそうになったのを咄嗟にエルと言い換えて正解だった。ほんの一瞬ラシュエルの表情が強張り掛けるもリナリアが昨日使った偽名で呼ぶと破顔した。ソルトと話している時はリナリア呼びだったのに、いざお忍びモードになると昨日と同じリリ呼びとなったラシュエル。リリと呼ぶ時、声が甘いのは気のせいだと思いたい。
黙って二人のやり取りを眺めるユナンは気付かれないよう小さく息を吐き、やれやれと苦笑した。
ラシュエルは誰がどう見てもリナリアが好きで。リナリアは今まで一定の距離感を保ってきたと言いながらとても嬉しそうだ。何だかんだ言いながらラシュエルが好きなのだ。帝都に戻って正解だった。“祈りの花”を咲かせた後、帝都に戻ろうと提案したのはユナンだった。リナリアは戻ったところでラシュエルとイデリーナの婚約が決まって自分の居場所は何処にもないと渋っていたが、事実かどうかだけ確かめるだけと説得して帝都に戻った。街でラシュエルと出会ったのは本当に偶然だ。体が完治してからずっとリナリアを探していたラシュエルからすれば、ヘヴンズゲート侯爵家が囁き続けた嘘が現実だっと知らされ絶望し怒るのは当然だった。幸い、ユナンが間に入って自身は聖域の管理者で“祈りの花”を求めて聖域に来たリナリアの面倒を見ていたと話したことにより、リナリアが他の男の許へ逃げたのではないと理解してくれた。
あの時ラシュエルが現れなかったら、ラシュエルとイデリーナの婚約の記事を見たら聖域に戻る予定だった。どうせヘヴンズゲート侯爵家からは追い出されると諦念が滲み出ていたリナリアを聖域に住まわせ、ずっと話相手としていてもらうつもりでいた。
残念な気持ちがないと言えば嘘になるが、誰が見てもリナリアを好きな気配を隠そうともしないラシュエルとラシュエルに微笑まれ頬を赤くしてはにかむリナリアを見ているのは楽しいユナンは、二人を見守ることにした。
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