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この国で婚約は神聖なものです。神聖な婚約を破棄した婚約者は許されますかしら。
しおりを挟む「 本当は婚約破棄なんて考えてもいなかったんだよ。クラウディア信じてよ。お願いだからー。」
私の目の前で土下座してるのは、私に大勢の前で婚約破棄を言い渡したダン王子。
あの日の事は忘れたいのに忘れられない。と言っても私は全部覚えているのだけれど。
「 クラウディア、お前は聖女ではないのに聖女のふりをしていた悪人だ。よって婚約は破棄させてもらう。」
婚約者のダン王子は魔法学院のパーティの席で、私に婚約破棄を突きつけた。
しかも私を悪人呼ばわりした。
それもこれも、今夢中になっている女の子ガーベラの為。
彼女に泣きつかれて、彼女を聖女にしてあげると約束してしまったのだ。
ガーベラは見た目は可愛い女の子。しかし、私には見える。彼女の身体からはまがまがしいドス黒いオーラがたちのぼっている。
何の魔法も上手く使えないのに、貴族のコネでなんとか魔法学院に潜り込んだ。
お茶会やパーティで王子に近づくと、まるで息を吐くように嘘をついた。
ガーベラはピンクの長い巻いた髪をフリフリ揺らしてダン王子にくっついて回る。
ダン王子の言う事に大げさに相槌をうち、楽しそうに振る舞った。
楽しそうに、というのがポイントで本当に楽しいのでは無い事は、目つきやオーラを見れば一発でわかるんだけどな。
なぜだかダン王子にはわからない。
しかもガーベラの嘘を全部信じて疑わない。
しまいには聖女の私に大勢の目の前で婚約破棄までする始末。
精霊達から全ての報告があったから、私は全部知っていたけれどね。
だから、落ち着いて、
「 本当にいいのですか?大変な事になりますよ。」
って、教えてあげた。
だって聖女の私がこの国を出たら、誰がこの国を守るの?
私はこの国もこの国の民も愛してる。
だから毎日一生懸命働いて来た。
自分の事より、まず人のために命をかけて頑張りました。
何も見えない人達に、私の見えてる世界の事を言っても話にならない。
だいたいの人は見えるものしか信じない。
それは私の両親がそうだったから、何となく分かる。
自分の両親でさえ、目に見えるものしか信じないのに。
この世の大切なものって目に見えない事が多いんだけどなぁて思った。
目をひん剥き、ツバを飛ばして怒鳴り散らす婚約者。
その姿は幼い頃見た、自分の両親と同じ目をしていた。
怒りに震えてブルブルしながら、恐ろしいものを見るような目をして私を見ている。
決して理解しようとはしない。
そして私はこの人は愛せないと悟った。
「 わかりました。出て行きます。」
私が言うと、ガーベラは、
「 わかりましたって言ったわ。認めたわ。
自分が聖女じゃないって認めたのよー。」
と、嬉しそうに笑ってダン王子に抱きついた。
私は城を出た。
精霊達に頼んで国民に全てのいきさつを見てもらった。聖女が去った国がどうなるのかは皆様ご存知の通りだ。
私の後ろには国民の列が出来た。
祖国には東の方から魔獣が侵入した。
山は燃え噴火してマグマが地面を燃やし、水はニガヨモギの味になり飲めなくなって、空気はよどんで白黒の世界になった。
この世の地獄とはこのような光景のことだろう。
私は国民を結界で守り、それぞれが行きたいところまで送った。
歩けない人達はドラゴンで送ってあげた。
隣国で幸せに暮らす私をダン王子が訪ねて来た。
「 お願いだから、戻って来て。
僕はだまされたの。そう、だまされただけなんだ。僕は悪くないよね。」
言い訳ばっかりで土下座するダン王子を見ても帰るつもりは全くない。
だってダン王子は昔言っていたもん。
「 土下座してすむなら、平気で出来るよ。僕凄いでしょう。偉いよね、王子なのに。」
私ははっきりと覚えている。
それに魔獣が侵入したのも、私が復讐したからだと思っているみたい。
確かに祈りを止めたからかもしれないけど、私は復讐なんてしてません。
全ては神さまの言う通りですもの。
応援ありがとうございます!
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