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第一集 弐ノ巻

*夢から醒めて

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清秋「ほら。口開けろ。」

  清秋のこの言い方は命令口調のようだが、その声色は優しく、紫苑をいかに大切に思っているかがわかる。
紫苑は言われた通りスプーンが口に入るくらいの大きさに口を開いた。
そして、まだ温かく、たまごと梅干しの入った雑炊を味わうようにゆっくりと咀嚼した。


  清秋(食欲はあるな。この分だと、回復も早く済みそうだ。)


紫苑「美味しい。」


  清秋「そうか。もっと食べれるか?」


紫苑「うん。食べたい。」


   使用人が作ってくれたおじやは、京都の家庭料理らしく薄味だがしっかりとダシの味が効いた美味しいおじやだった。しかも、梅干しの酸っぱさがいい味のアクセントになっていて、食べていて飽きない。
そして紫苑は、おじやを完食した。


清秋「お前が置いておいたプリンがあるぞ。これも食べるか?」

  紫苑「食べる。」


     紫苑が本家に置いておいたプリンは、他のプリンとは違う。京都の老舗和菓子店とプリンを出しているメーカーの共同開発商品で、甘さ控えめなプリンの上に、上質な黒蜜ときなこがかかっているものだ。それも、京都にしか売っていない。
紫苑は幸せそうな顔で、プリンも完食した。




紫苑(そういえば、どーして癒良は子どもの頃から一緒の、それも身内の私とイチャイチャする夢をみてたのかな?癒良は女の子にモテる方だと思うのに。)


   そう思った紫苑は、回復したばかりで100%働いていない頭で自身の疑問の答えをさがした。紫苑は、清秋や癒良に聞けばすぐにわかるとも思ったが、夢の中というのはプライベートな空間だ。だから、夢の中事を聞くのは、いくら身内とはいえ憚られたのである。




紫苑(たぶん、あれよ。私が1番近くにいる女の子だったからイメージし易かったんだわ。)



  と、紫苑は全然見当違いの答えを導き出したのであった。
紫苑は、頭が良く、鋭いところがあるし、”お嬢様”でも世間知らずではない。(買い物も普通にできるし、料理など一部の家事も得意だ。)が、旧家のお嬢様であるせいか否か、恋愛に関してはいわゆる”箱入り娘”状態でかなり鈍い。




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