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青出 風太

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File 4

薄青と記憶 38

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―オクタ―

20:25

 雨。10月末には珍しい程の警報級の豪雨。

 ワイパーの音に雨音が重なり名前のない曲を作り上げる。延々と続く雨の心地よい音の中に機械が駆動する音とゴムがガラス面を擦る音が時折顔を出す。耳触りと居心地が悪い、人が意図して作るには難しいそんな曲だ。

 人々は屋根を求め足早に目的地を目指す。逸る足音が互いの心を急かすかのように我先にと駆けていく。目的地は家だろうか、職場だろうか、それとも――

 窓の向こうではそんな光景が広がっていた。

 生憎の天気。オクタは気乗りしないままバンを走らせ、呼び出されたトンネルにやってきた。


 小さなトンネル。自動車がすれ違える程度の車線があって端には歩道もあるが長さは50メートルもない。環状線に合流する坂を支える壁の下にそのトンネルはあった。

 オクタは端に車を止め、歩道で待つことにした。

 位置情報だけが示されたメッセージ。他のことについては一切の言及がない。何をしろとも、何を用意しろともいわない。オクタにとってはそれこそが、ライースから送られてきたメッセージであることの一番の証明だった。

 秘密主義者で他人と“何か”を共有しない。駒としてしか見ていないが、だからこそ駒の能力を把握することに長けている。どれだけの情報を与えておけば行動することが出来るのか。自分の求める最低限をクリアするために必要な手札を理解している。

 要は彼にとって同じ工作員であろうと、都合よく組織の理念のために動いてくれさえすればそれでいいのだ。その仕事にどんな意味があるか、結果どんな利益を得たか、それを“知らせる必要”があるか。

 すべてライースの心次第だ。


 トンネルに雨の音が響く。わざわざトンネルに入って雨宿りをしようとする人間はいない。そんな一時凌ぎは、誰も求めていない。

(……クソっ。眠い。仕事のねぇ日に呼び出してんじゃねぇよったく)

 オクタは車に寄りかかり、タバコに火をつける。紫煙は雨に溶け暗い空に還っていった。

 タバコが半分くらいまで減った時、トンネルの端に人影が現れた。

「ライース。お前の方が待たせるなんて珍し――」

 言い終わる前にライースはオクタの胸ぐらを掴んだ。タバコが水たまりに落ち、煙を消した。

「今すぐに彼女を始末しろ!今すぐだッ!!」

 ライースらしからぬ怒号にオクタは目を見開く。

「声を荒げるなんて、お前らしくない。おい、リエール。早くコイツを」

 いつもなら彼の後ろにじっと待機して、今か今かとツッコむ隙を窺っているはずのリエールの姿がない。

「……何があった?」

「殺されました。ええ、やられましたよ……貴方の生徒にね」

 吐き捨てるような言葉。ライースらしからぬ焦り、怒り。言葉をただ、感情のはけ口にするライースをオクタは見たことがなかった。

 しかし、それすらどうでも良くなるような無視できない言葉が聞こえた。

 オクタは耳を疑う。

(俺の生徒?)

「恵冬ですよ。間違いありません」
「…………」

 自棄になっていると言っても過言じゃない。よく見るとライースの服は所々寄れていたり草臥れた感じだ。戦闘後のような。

「いいか!?蔦美樹の代わりは、いないんですよッ!」

 オクタが彼の言葉から察したことは三つ。

 ライースの生徒、リエールが死んだこと。

 死んだはずの生徒、恵冬が生きていたこと。

 そして、――――これから恵冬の殺しを依頼されるのだろうということ。

 
 
 オクタに掴みかかり、思いの丈を吐き出したライースは肩で息をしていた。息が切れても収まらないのだろう。胸を押さえ声にならない声を絞り出し、押し黙るオクタを殺気の籠った目で睨みつけていた。

「――リエールが真正面で戦っても勝てないとなると、最早正攻法で彼女を倒すのは不可能に近いでしょう……ですが、これ以上の損失は許しません。明日、全てのチームに恵冬の生存を通達し、綱紀粛正部隊を中心とした討伐隊を編成します」

「それを……俺に伝えてお前は何がしたい?」

「……情けですよ。貴方は恵冬のことを今でも探している。死に場所を求め戦闘に明け暮れていたのも彼女をその先に見つけるため。……ですが、彼女は今、我々と同じ大地に立っている。ナイフと銃を両手にね」

「…………」
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