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第2章 5年前の亡霊

第18話 お風呂最高!

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「ああ、生き返る……」

 私はマレフィカ=アマーレ。なんと今、私は王城で王家の人間しか使うことの許されないはずのお風呂に浸かっている。

 湯船は広く、脚を伸ばしてもまだ先がある。私の視線の先にはライオンの顔の彫刻があり、その口からお湯がドバドバ流れている。なんて贅沢なのかしらね?
 お湯は温かいし、いい香りまで漂ってきて傷ついた私のハートを癒してくれている。ああ、今私は幸せを感じているのがわかるわ。

 お湯から右腕を出すと、お湯がほんのり腕にからみ、そして滴り落ちていく。私の手の届く位置には可愛い使い魔キャトルがいてくれる。キャトルも幸せそうに目を瞑ってお湯を堪能していた。ぷかぷかと浮かんでいるけど別に泳いでいる訳じゃない。他の人には見えないけど、キャトルの能力見えざる手でしっかり身体を浮かせてるの。うん、私じゃなかったら見抜けないわね。

「キャトル、身体を洗ってあげるわ」

 私は浴槽からあがる。広い浴槽から数歩歩けば簡単な椅子があり、そこで座って身体を洗うことができてしまう。しかもこの椅子、金色なの。何故か座面に谷間があるのはなぜなのかしら?

 座りながらデリケートな所も洗えるのは便利だと思うけど、結局立膝するなりしないと全部洗えないのにね。無駄にスゴイってやつかしら?

「はいなのです」

 キャトルもプカプカと宙に浮かんで私の前まで飛んでくる。うーん、可愛いなぁ。
 タオルに早速液体石鹸を付け、こする。すると白い泡がみるみる泡立っていった。これが液体石鹸というやつか……。なんて凄いのかしら。

「気持ちいいのです……」

 キャトルの首と背中を優しく洗う。小さいんだから優しく扱わないとね。それから腕、脇、お腹とあらっていく。

 おまたも洗っちゃえ!

 ちょっと意地悪でキャトルのお股も洗う。ん?
 ない?
 もしかしてキャトルって女の子?

「キャトル、あなたってもしかして女の子?」
「女の子?    メスってことですか?    僕たちデモノイドは無性なのです。ご主人様の言う女の子は同族を産める種類で、僕らはウテロと呼んでいるのです」

 無性……。つまり繁殖行為はしないと。そうか、増えるにはウテロが産むしかないってことか。ということはデモノイドが増えるにはウテロが人間を食べるしかない、ということになる。それはつまりキャトルも元人間だということだ。

「ねぇ、ウテロに食べられてデモノイドになったら人間だった頃の記憶はあるの?」
「強く思っていたことがあれば残る場合がある、という程度なのです」
「キャトルにはあったの?」
「……あったのです。僕の願いは母様を殺してあげることだったのです」

 そう話すキャトルの声には戸惑いも怯えも怒りも感じられない。感じられるのは哀しみだ。

 でも強い願いが母様を殺してあげること……?
 それが人間だった頃の記憶だと言うのなら、この子の母親はどれだけ酷い人だったのか。でもそれだとキャトルの哀しみの感情は一体なんだというのだろう。

「キャトル……」
「いつか全てを話す日が来ると思うのです。でも今は時期ではないのです」

 なんて声をかけたらいいのかわからずにいると、キャトルが気を利かせてくれたようだ。
 うん、今は楽しいお風呂タイムだ。さて、私も自分の身体を綺麗に洗わないと。なにせこの後はなんの因果かこの国の第1王子、コーネリアス王子殿下とローラン様と会食することになっているのだから……。



 豪勢な風呂からあがると着替えが用意されていた。それも立派なドレスだ。そして下着としてコルセット。私も実物を見るのは初めてかな。コルセットには胸を支える役目もあるそうな。では庶民はどうしてるか。アポディムスと呼ばれる布の胸帯で支えたりなんだけど、私の場合胸がとても重い。布で支えると蒸れてしまうため、胸鎧から発想を得た自作の下着を着用している。私はこれをモノボゾムと名付けているんだけどね。何せ外から見ると胸がひとつにまとまっているように見えるのだ。欠点は胸が大きく見えてしまうこと……。揺れにはとても強くなるよう設計してあるし、通気性も良いのだ。

 どうやらメイドさんが着替えを手伝ってくれるらしい。コルセットをメイドさんが手に取り、私の身体に当てる。

「あら、少し胸のサイズが足りませんね……」
「まぁ、おっぱいモンスターのコーネリアス様がサイズを見間違えるなんて!」

 大きく見えてるはずなのに小さいの用意させたんだ。ていうか私の下着どこ行った。あ、キャトルに予備持たせてたんだった。
 ていうかこのメイドさん殿下をおっぱいモンスターて。もしかして残念王子様?

「あの、自作の下着がありますので……」
「そ、そうなんですか?    申し訳ございません」

 メイドさんがむっちゃ畏まって頭を下げる。王宮のメイドさんだと確かな身分のはず。平民の私に頭を下げるなんてねぇ……。

「キャトル、私の下着出してくれる?」
「はいなのです」

 キャトルに私お手製のモノボゾムと庶民が身につけるシェンティを出してもらった。このモノボゾムは通気性を確保するため、トップよりほんの少し上までをカバーしている。普段はこの上に鎖帷子を着るので問題無し!

 私がその2つを身につけると、メイドさん達が目を輝かせた。

「いいですね、その胸当て。これなら腰も締めなくていいのでゆったりしますし、通気性も良さそうです。どこで仕入れたのですか?」
「自作です。手は器用なので」

 メイドさんの質問に私が答えると、さらに目を輝かせる。

「それを是非一般販売してみませんか?    きっと売れます!    というより私が欲しいです!」
「えーと、それは検討するとして、ですね。殿下やローラン様をお待たせしておりますので……」

 うーん、お金になるのなら考えてもいいのかな?
 それよりも2人を待たせるなんて恐れ多くて、と言いつつも長湯してたけどね?
 お風呂気持ちいいから仕方ないよね?
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