ラスボス廃棄少女は幸せになりたい

まにゅまにゅ

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プロローグ

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    人は誰だって幸せになりたいと願う。たとえ今この瞬間に全てに絶望して身を投げようとしている人がいたとしても、その人は今まで幸せを求めて生きてきたはずだ。

   どんな境遇だろうと人は幸せを願う。たとえば10歳の頃に両親を亡くし、厄介者扱いされて親戚中をたらい回しにされたとしよう。そして最後に厄介になった家で疎まれながら生きていても、将来の為に勉強をしたはずだ。

    いつかこんな生活から抜け出してやると誓って。

    そして高校生になって一人立ちするためにアルバイトをしていたら、クラスメイトに「付き合いが悪い」と言われて相手にされなくなったとしよう。それでもアルバイトはやめない。今より未来に向かって進みたかったから。

    少なくともこの私、牧田莉緒はそうだった。世話になった家と関わるのが嫌で、ちょっと離れた所に就職するのは別におかしくないと思う。そりゃ食わせてもらったんだから感謝していない訳じゃない。でも義務感だけで育てられて愛を感じたことがない。そういえば生まれてこのかた誰かに愛されたことあったかな?

    まぁいわゆる喪女というやつだ。もうじき20歳になるというのに。でもいいのだ。

   私には『君の願いは誰がために』のレオン様がいるのだから。レオン様は素敵だ。乙女ゲーには珍しい隻腕の美青年なんだけど、そんな不幸を背負っているのにひねたところがなく、自分に誇りを持って生きる様に憧れた。

    正主人公じゃないけどそれ以来レオン様は私の推しだ。そしてヒロインのディアーヌも可愛く、清濁併せ呑む強さが素晴らしい。ただ1つこのゲームにも難点があった。

「テアちゃん不幸過ぎる……」

    今私はこの君の願いは誰がためにのラストバトル直前だ。もちろんレオン様ルートなのは言うまでもない。

 そのラストバトル、といってもロールプレイングゲームじゃないからルートさえ間違えてなきゃ勝てるんだけどね。

 そして今ゲームに一枚絵で表示されている銀髪赤眼の美少女。そしてゲーム内で最も不幸な彼女が自らの半生を涙ながらに訴えるシーンに差し掛かる。

『実験動物にされて廃棄され、なんとか生き延びたのに、奴隷にされて殺し屋として育てられた私の気持ちなんてあんたらにはわかんないよ!』

    ゲーム内にテアちゃんのセリフが流れた。はっきり言って不幸すぎる。この子は最後にゾーア教団の手によって世界を憎み、滅ぼそうとする魔神になってしまうのだ。

『眠りましょう、そして全てを忘れましょう。辛かったことも生きていた意味なんてなかったことも全部なくなってしまえばいい』

 テアがその血に宿した魔神に全てを明け渡し、変態が始まる。赤い蝶のような羽根を生やし、銀色の美しかった髪は黒く妖しい光を放つ。ヒロインたるディアーヌの言葉なんて届かない。テアは邪悪な笑みを浮かべ、最後の戦いが始まった。

 ラスボスが完全な悪なら良かったのに、なんでこんな巻き込まれただけの年下の女の子をラスボスにするのか。何度やってもこの子が助かるルートは見つかっていない。

  それでも私はテアちゃんを倒す。倒さねばならないからだ。そして流れるエピローグ。最後にディアーヌとレオン様の間に子供が出来て、テアって名前をつけて終わった。

    正直モヤる。もっと救いはないものか。
    いけないいけない、感情移入し過ぎたかな。何度もクリアしたのに徹夜する私も相当重症な気もするが、仕事の時間だ。何時でも行けるよう準備だけは出来ている。

「行ってくるね、お父さん、お母さん」

    両親の遺影に言葉だけを贈り、私は愛用の安物のカバンを持って戸を開けた。私のアパートは2階だ。鉄製のあの踏むとカンカンカンと鳴る階段は好きになれない。しかし文句を言っても始まらないけどね。

「ふぁ~あ」

     欠伸をしながら階段を降りる。

「あ……」

    踏み外した。そう思った時には遅かった。私は階段を転げ落ちると、後頭部に激しい痛みを覚えた。

  そして何が起きたか理解するより早く、私の意識は消失した。
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