2 / 51
第1章 廃棄少女テア
第1話 私はラスボス廃棄少女1
しおりを挟む
「テア! 起きてテア!」
少女のような高い声。長らく幼女と触れ合えていない私にこの声は刺激が強いな、と思いつつ目を開ける。テアちゃんかー。外国の子でもいるのかな、なんて思ってゆっくり身体を起こす。
右、石壁。
左、少女。その奥に石壁。
前、牢屋?
うーん、なんで私は牢屋にいるんだろうか?
「テア、大丈夫? なかなか目を覚まさないから心配したよ」
少女が私に話しかけているようだが、私は牧田莉緒だ。
うん、段々頭がはっきりしてきた。何となくわかる。この子の名前はサーラ。確か9歳の女の子だ。ショートカットの優しそうな目をした女の子だね。
……なんでわかるんだ?
なんだろうこの感じ。私の中に牧田莉緒としての人生以外の記憶がある。前世というわけでもないだろうし、サーラが私をテアと呼ぶことにも不思議と違和感がないのだ。
ということは間違いない。テアとは私のことだ。だって他に誰もいないし。なら牧田莉緒はどこ行った?
冷静になって思い出そう。確か私は徹夜でゲームをクリアして、仕事へ行って……。階段で転んだと。ん?
私階段から落ちて死んだわけ?
なんてこったい、やっとつまらない人生から抜け出してこれから、ってときに!
いやいやいや、私今生きてここにいるじゃんか。もうこれどういうことなんだかさっぱりわかんないんだけど!?
「ごめん、なんか頭が混乱してる」
「そうだよね、無理もないよ……。盗賊団にみんな殺されて私たち売られちゃったんだもん……」
「え……?」
サーラに言われ、そのときの光景がありありと脳内で再生される。燃え盛る炎、斬り殺される村の人達、奪われる食糧。男は殺され、若い女はさらわれた。その先は想像すらしたくない。
他人事ではなく私自身に起きたこと。そんな自覚が生まれると、流したくもない涙が頬を伝う。悔しさ、悲しさ、怒りはきっとこのテアという少女のものだ。しかし間違いなく私自身の心にも芽生えている。
それが嫌でも私はもう牧田莉緒ではなく、テアという少女なのだと自覚させる。だからといって自分が自分で無くなった訳では無いようだ。だけど今はそんなことどうでもいい。そのくらい今私の心は色んな感情をぶち込まれてぐちゃぐちゃなのだ。あんまり乱雑にぶち込むものだから、きっとそこかしこにダマがあるに違いない。ミキサーで攪拌しても均一にすらならないだろう。
「ふん、目が覚めたかお前たち」
と、そこへ紫色のローブを被った不気味な男が入って来た。フードを目深にかぶっているので顔はよくわからないが、少なくとも善人ではないだろう。
まだ感情の整理がついてないんだから、しばらくそっとしておいて欲しいんだけどね。
「お前たちはこの私が購入した。今から私の実験に付き合ってもらおう」
「……実験?」
「そうだ。付いてくるといい。実験が終われば腹いっぱい食わせてやる」
腹いっぱい……。そういえばお腹が空いてきたかも。少しずつ落ち着きを取り戻すと記憶が整理されてくる。
私、牧田莉緒とテアの2つの記憶。本来交わることのなかった記憶なんだろうけど、それが1つになると新しい私になったような気さえする。それが進化か退化かはさておき、きっと新しい私は牧田莉緒であってテアでもあり、元の2人でもない新しい私なのだ。
ローブの男の後をついて行く間に色々整理できたようで良かった。テアの記憶によればここは文化レベルはさして高くもない世界のようだ。今更ながらに異世界転生とかいうものが脳裏を過ぎった。夢かとも思ったがそれはさすがにないだろう。
そういえばここの通路は全て石壁のようだ。うん、ようやく周りに目を向けられる余裕ができたということか。それにしてもこの石壁というやつはとても無機質で冷たい感じがする。裸足で歩いているせいか石床も冷たい。
「着いたぞ。入れ」
ローブの男が通路の先の扉を開け、中へと入っていく。私とサーラも中へと入っていった。
その部屋は想像した実験室とは違った。もっとこうやたらとでかいカプセルとかあるのかな、と思ったが、むしろ学校の理科室に近い。並んだテーブルの上には実験器具のビーカーやフラスコが並んでいる。中身は入っていない。奥の方では他の青いローブを来た人達が何かを調合しているようだ。
「おい、魔神の血を持って来い」
紫ローブの男が青ローブに命じる。すると奥から薬の入った注射器を2本持って来た。
それにしても魔神の血か。……どこかで聞いたような?
「よし、2人を押さえつけろ」
紫ローブが命令すると私たちの後ろにいた青ローブに拘束される。後ろから首と左腕を押さえ付けられ身動きが取れない。暴れようともがくと腕で首を締め上げられた。抵抗は無駄なんだろうけど、それでもあがくのが人間てものだ。
「よし、まずはお前からだ」
紫ローブが私の左腕を掴む。その手に持つ注射器の針が今はナイフより恐ろしい。
「嫌……!」
はっきりいって嫌な予感しかしない。しかし9歳の女の子に抗う術などあるわけがなく、わたしの左腕にチクリと針が差し込まれた。そして身体の中に変なクスリが入って来る。
少しして胸に痛みが走った。
「くぁっ……!?」
なにこれ、気が遠くなる……。
あ、思い出した、魔神の血……。
それは『君の願いは誰がために』のラスボス廃棄少女、テアがゾーア教団に打たれた薬の名前だ……。
そうか、私はラスボス廃棄少女……。この世界は……。
そこまで理解したところで、私の意識は再び暗転した。
少女のような高い声。長らく幼女と触れ合えていない私にこの声は刺激が強いな、と思いつつ目を開ける。テアちゃんかー。外国の子でもいるのかな、なんて思ってゆっくり身体を起こす。
右、石壁。
左、少女。その奥に石壁。
前、牢屋?
うーん、なんで私は牢屋にいるんだろうか?
「テア、大丈夫? なかなか目を覚まさないから心配したよ」
少女が私に話しかけているようだが、私は牧田莉緒だ。
うん、段々頭がはっきりしてきた。何となくわかる。この子の名前はサーラ。確か9歳の女の子だ。ショートカットの優しそうな目をした女の子だね。
……なんでわかるんだ?
なんだろうこの感じ。私の中に牧田莉緒としての人生以外の記憶がある。前世というわけでもないだろうし、サーラが私をテアと呼ぶことにも不思議と違和感がないのだ。
ということは間違いない。テアとは私のことだ。だって他に誰もいないし。なら牧田莉緒はどこ行った?
冷静になって思い出そう。確か私は徹夜でゲームをクリアして、仕事へ行って……。階段で転んだと。ん?
私階段から落ちて死んだわけ?
なんてこったい、やっとつまらない人生から抜け出してこれから、ってときに!
いやいやいや、私今生きてここにいるじゃんか。もうこれどういうことなんだかさっぱりわかんないんだけど!?
「ごめん、なんか頭が混乱してる」
「そうだよね、無理もないよ……。盗賊団にみんな殺されて私たち売られちゃったんだもん……」
「え……?」
サーラに言われ、そのときの光景がありありと脳内で再生される。燃え盛る炎、斬り殺される村の人達、奪われる食糧。男は殺され、若い女はさらわれた。その先は想像すらしたくない。
他人事ではなく私自身に起きたこと。そんな自覚が生まれると、流したくもない涙が頬を伝う。悔しさ、悲しさ、怒りはきっとこのテアという少女のものだ。しかし間違いなく私自身の心にも芽生えている。
それが嫌でも私はもう牧田莉緒ではなく、テアという少女なのだと自覚させる。だからといって自分が自分で無くなった訳では無いようだ。だけど今はそんなことどうでもいい。そのくらい今私の心は色んな感情をぶち込まれてぐちゃぐちゃなのだ。あんまり乱雑にぶち込むものだから、きっとそこかしこにダマがあるに違いない。ミキサーで攪拌しても均一にすらならないだろう。
「ふん、目が覚めたかお前たち」
と、そこへ紫色のローブを被った不気味な男が入って来た。フードを目深にかぶっているので顔はよくわからないが、少なくとも善人ではないだろう。
まだ感情の整理がついてないんだから、しばらくそっとしておいて欲しいんだけどね。
「お前たちはこの私が購入した。今から私の実験に付き合ってもらおう」
「……実験?」
「そうだ。付いてくるといい。実験が終われば腹いっぱい食わせてやる」
腹いっぱい……。そういえばお腹が空いてきたかも。少しずつ落ち着きを取り戻すと記憶が整理されてくる。
私、牧田莉緒とテアの2つの記憶。本来交わることのなかった記憶なんだろうけど、それが1つになると新しい私になったような気さえする。それが進化か退化かはさておき、きっと新しい私は牧田莉緒であってテアでもあり、元の2人でもない新しい私なのだ。
ローブの男の後をついて行く間に色々整理できたようで良かった。テアの記憶によればここは文化レベルはさして高くもない世界のようだ。今更ながらに異世界転生とかいうものが脳裏を過ぎった。夢かとも思ったがそれはさすがにないだろう。
そういえばここの通路は全て石壁のようだ。うん、ようやく周りに目を向けられる余裕ができたということか。それにしてもこの石壁というやつはとても無機質で冷たい感じがする。裸足で歩いているせいか石床も冷たい。
「着いたぞ。入れ」
ローブの男が通路の先の扉を開け、中へと入っていく。私とサーラも中へと入っていった。
その部屋は想像した実験室とは違った。もっとこうやたらとでかいカプセルとかあるのかな、と思ったが、むしろ学校の理科室に近い。並んだテーブルの上には実験器具のビーカーやフラスコが並んでいる。中身は入っていない。奥の方では他の青いローブを来た人達が何かを調合しているようだ。
「おい、魔神の血を持って来い」
紫ローブの男が青ローブに命じる。すると奥から薬の入った注射器を2本持って来た。
それにしても魔神の血か。……どこかで聞いたような?
「よし、2人を押さえつけろ」
紫ローブが命令すると私たちの後ろにいた青ローブに拘束される。後ろから首と左腕を押さえ付けられ身動きが取れない。暴れようともがくと腕で首を締め上げられた。抵抗は無駄なんだろうけど、それでもあがくのが人間てものだ。
「よし、まずはお前からだ」
紫ローブが私の左腕を掴む。その手に持つ注射器の針が今はナイフより恐ろしい。
「嫌……!」
はっきりいって嫌な予感しかしない。しかし9歳の女の子に抗う術などあるわけがなく、わたしの左腕にチクリと針が差し込まれた。そして身体の中に変なクスリが入って来る。
少しして胸に痛みが走った。
「くぁっ……!?」
なにこれ、気が遠くなる……。
あ、思い出した、魔神の血……。
それは『君の願いは誰がために』のラスボス廃棄少女、テアがゾーア教団に打たれた薬の名前だ……。
そうか、私はラスボス廃棄少女……。この世界は……。
そこまで理解したところで、私の意識は再び暗転した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる