白すぎる女神と破滅と勇者

イヌカミ

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第1品「始まりはいつも勘違い」

ついに……救世の戦士に?

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「お……おのれビデガンッ!  ソヨギさまを……ソヨギさまを……!」
「……メガ美さん?」

  ソヨギは喫煙所からこそっとのぞいてみた。そこにはぷるぷるしている豆腐が皿に乗って浮いていた。

  ひとり(?)でブツブツと言いながら、なんか激しくもだえたりしている。ソヨギはでて行こうとしたが、タバコはまだつけたばかりなので動けない。あー……しかし、声をかけるくらいはしておこう。

「メガ美さん?」

  灰皿の近くからは動かずに声をかける。だが豆腐は自分の世界に没頭していて気づいてくれない。

「……メガ美さーん」

  しかし、豆腐はなんだか叫んだりしながらぶるんぶるんしている。なんか怖い。

「おーい……メガ……」

  と、豆腐は凄い速度で飛び去ってしまった。ソヨギはぽりぽりと頭を掻いて、ふーと煙を吐きだす。

  それから一本を吸い終えたソヨギは、豆腐が飛び去ってしまったほうへと歩きだした。そしてくるっとまわれ右をして、前面が破壊されたコンビニにはいっていく。コー○がなければこの手に持っているポテチが食べれないのだ。

  ガシャガシャと割れたガラスなどを踏みつけながらコンビニに侵入する。思っていた以上に店内は無事で、本棚やコピー機が前面のガラスとともに破壊されただけだった。まあ……コー○が残っているならなんでもいい。

  しかし、ソヨギは瓦礫を踏み越えてから、ぴたりと足をとめていた。こんなことをしていてもいいのだろうか……そんな不安がよぎる。

  世界は破滅に向かっている。自分になにかできるのなら、それをやるべきなんじゃないか。そんな想いがソヨギの胸のなかにあらわれた。ソヨギは顔をしたに向けた。ビデガンの破壊のあと――雑誌だけは無事で、その瓦礫に埋もれていた分厚い雑誌を拾いあげる。ちょっとした攻撃ぐらいなら防げそうなほどの厚さである。ソヨギはそれをダウンをめくって腹のあたりにしまった。

  だが、やはりコー○は無視できない。これからの戦いのためにも、体調は万全にしておくべきだ。人間の体はガスを溜めていると激しい動きができなくなる。その溜まっている状態でなにかをすると、致命的なダメージを内臓に受けてしまう。横っ腹が痛くなるのは腸がねじれてしまう原因だったりするのだ。

  ソヨギは冷蔵室を開いてコー○を取りだした。そしてレジに向かおうとして足をとめる。視線のさきにはソヨギ式C4の残骸ざんがいが床に広がっていた。近くにはメン○スのケースも転がっている。

  ソヨギはしかたなく、コンビニの奥側をぐるりとまわって行くつもりで歩き、今度はビデガンが捨てたライフルを見つけた。ソヨギはてくてくと近づいてライフルを拾う。重い。

「……撃てるかな」

  ソヨギはライフルを手に、その場に座りこんだ。トリガーだけは触らないようにしながらガシャガシャとする。しかし使い方はまったく分からない。ソヨギにはこれが89式5・56ミリ小銃だということしか分からない。これが陸自で採用されたのはけっこう最近だということしか分からず、強化プラスチックを使用して軽量化されていることぐらいしか分からないのだった。しかたなく適当に立てかけておく。

  ソヨギはとりあえずポテチを食べようと、コー○とポテチを床に置いた。なんか座りにくいなとダウンの内側にいれておいた雑誌をだす。そして――ソヨギは緊張感を覚えた。

  ガシャッ!  というガラスを踏む音が聞こえた。豆腐には足がないのでガラスを踏んだりはしないだろう。

「ちっ……さすがにもういねえか。くそったれ!  どこにいやがる小僧!」

  ビデガンの声、それとなにかを蹴りつけたようなガンッ!  という音が耳に届く。ソヨギはバクバクと動く自分の心臓の音を聞いていた。

  なぜなら目のまえにある光景はまさに、不摂生ふせっせいの桃源郷だった。コー○、ポテチ、漫画……まさに不摂生の三種の神器をのあたりにした状況である。

  そしてなによりもついに読めるのだ。続きが気になっていた月刊誌サジャジンで連載中の漫画、『侍道サムライドオン』の続きが見れる!  先月はなぜか掲載されていなかったのだ。

  だがこれでようやく敵の策略にはまった主人公が、ソースカツ丼を手にしながらもどう流鏑馬やぶさめを成功させるかが分かる。世界の破滅に立ち向かう主人公が見れる!  早く……早くサムライワールドを救いに行かなくては!  ソヨギは緊張から震えだした手を、ゆっくりと月刊サジャジンに近づけていった。パラッと目次を見る。

「奴の容姿は本隊に伝えてあるんだ。コソコソと町中を逃げまわってるなら、監視のモンスターが報告してるかもしれねえ……いちど本隊に戻るか。しかし厄介なガキだぜ!」

  ビデガンが去っていくのが分かる。するとソヨギはおもむろにコー○を開けた。ぷしゅっという爽快な音色。それをひと口飲んでみると、シュワァと炭酸が喉を駆けめぐる。いてもたってもいられずにガサガサとポテチの袋を破る。いち枚だけ食べる。やばい……塩味が旨いこれ。それもそのはずで、体はアルコールのせいでナトリウムを失っている。そのため体が塩分を欲していたのだ!

  ソヨギは目次でサムライドオンのページを確認すると、パラパラとめくった。しかしなかなか見つからない――というよりあれだ。なぜところどころページ数が書かれてないページがあるのだろう。そのせいでなかなかサムライドオンにたどり着けない。しばらく探して、

「あった……」

  ソヨギはサムライドオンのタイトル表紙を見つけて手をとめた。そこには主人公のワキザ氏が愛馬サムにまたがり、ソースカツ丼を完食しようとする絵が描かれていた。そ……そうか。ワキザ氏は流鏑馬の直前にソースカツ丼をすべてたいらげる気だ!

  ソヨギは真剣にサムライドオンを読み始めた。月刊サジャジンはかなり分厚いのだが、ソヨギはサムライドオンしか読んでいない。なのでもっぱら立ち読みですます派なのだ。

  ……

  …………

  ………………うむ。

  やはり面白いサムライドオン!

  まだ半分くらいしか読んでいないのだが、ソースカツ丼を食べながらも妹との誓いを思いだすシーンが泣かせる。

  ……しかしこの状況。まるで休みの日になんもすることないから、とりあえず漫画読んでます、みたいなこの状況。女神とか勇者とかいったいなんなんだろう。この現実世界よりもまず、サムライワールドを救うべきなんじゃないか?  ソヨギのなかにもいろいろな想いが錯綜さくそうしていた。

  だからそう……サムライワールドを救うために全部読まなければ。しかし、このタイミングでポテチをすべて失ってしまった。コー○はまだ半分以上は残っているのに……ええい!  ポテチを追加だ!

  ソヨギはおもむろに立ちあがり、アイスのケースを越えてポテチのまえに立った。メン○スコー○の残骸を踏み、ソヨギは驚くことになる。視界のはしになにかが映った。それはちゃんと見なくても女性だと分かり、

「ソヨちゃん!」
「ちっす……」

  誰だ……?  カウンターのあたりに立ち、こちらを気安く呼んでくる女性に見覚えはない。茶色に染めた長い髪はふわっふわっのパーマ、千鳥柄のロングコート、薄い黄色と白色のふわっふわっのロングスカート……なのに赤いスニーカー。ちぐはぐなファッションセンスである。そもそもスカートが夏っぽい 。いまは真冬である。

「よかったソヨちゃん……生きてたんだ!」
「……あざっす」

  他人行儀に頭をぺこっとさげる。それよりもサムライワールドを救いたいんすよね、とポテチに手を伸ばした。

  が、ポテチの塩味がないのだ!  残っているのは海苔、コンソメ、よくわからん期間限定の……タラコバター醤油?  なんだよタラコバター醤油ってなんだ。塩と海苔とコンソメで充分ですっ!  しかし塩はないのだ。コンビニがお菓子を切らせるとは……なかなかに驚きである。しかも売れ筋を切らすとは!  あ、陳列まえに世界が襲われたのか。ソヨギはぽんと手を打った。

  と、体に衝撃を受ける。なんとファッションセンスのない女性がソヨギの胸に飛びこんできたのだ。女性はこちらの胸に手をつけながら、うるうるした瞳で顔を見あげてきた。

「ソヨちゃ~ん……」
「……あの?  これからバックヤードにポテチを取りに……」
「ねえ!  わたしが誰か分かってないでしょ?  ひどい~」
「うっす、うっす、うっす……痛いです」

  なぜかでしでしと胸を殴られる。ソヨギはそんなことよりポテチを選びたいのだ!  しかたない……ここは海苔にしよう。海苔味の袋に手を伸ばす――しかし!

「ちょ……ちょっと……久し振りに会ったのに……」
「……はい?」
「そんないきなりは……ね?」
「いや……届かないんす」

  どうやらこちらがまえに進もうとした動作を、女性は勘違いしたらしい。目のまえのポテチが取れずに手をブンブンする。届かない。これはある意味ソヨギの初陣だった。なぜかポテチを死守しようとする女があらわれた!

「……だから」
「ダメだってばもう~……ソヨちゃんてば」
「……いや海苔が欲しいんすよ」
「そんな……わたしが欲しいなんていきなり言われても」
「……海苔のメガ美さん的な?」
「ええ~なにそれ~。わたしのこと女神だなんて……」

  わずか三十センチが遥か彼方に感じられた。この女性の勘違いは凄い。だからそんな勘違いファッションなのかと、ソヨギはどこか納得していた。だがポテチを諦めるわけにはいかない!  サムライワールドを救うためにポリポリしたいのだ!  漫画のときにタバコは吸わない派なのだ。でも口は寂しいのだ!

「……どいてください」
「やだ」
「……やだじゃなくて」
「ん~」
「……ん~じゃなくて」

  けっこうギリギリと手を伸ばすが、この女の力はどこからくるのだろう。スカッスカッとむなしく空を切りながら、ソヨギは戦っていた。

  よし……こうなったら女を投げてしまおう。そうソヨギが意を決したときだった。

「ソヨギさま~」

  コンビニ入口のほうから豆腐の声が聞こえてきた。自分を探しに戻ってきたようだ。ソヨギはここですと口を開きかけたが、なぜか女に手でふさがれてしまう。

「もがふがもが……」
「だめ~。いまはふたりきりなんだから……ね?」

  女の沈黙攻撃に、ソヨギはなすすべがなかった。ね?  と言われても……そう口を動かすが、もがふがもがにしかならない。しかも動けない。早くサムライワールドを救いたいのに!  ポリポリしたいのに!  もう投げるしかない。

  しかしソヨギの世界を救いたい意思が伝わったのか、豆腐がふよよ~とこちらにまわりこんできた。ソヨギはほっと胸をなでおろした。豆腐がなんとかしてくれる……はずだった。

「ソヨギさ……あー!  わたしというものがありながらソヨギさま!」
「ちぇ……せっかくふたりきりだったのにぃ」
「ふたりきり?  ずっとふたりきりだったのですか!?  わたしがソヨギさまを探しているあいだも!」
「ていうか朝から一緒だったしぃ」
「朝から!?  ということは昨晩からずっと……」
「そうよ!」

  女は急遽きゅうきょソヨギから離れて、豆腐を敵と見なしたように対峙する。意味の分からない展開だがチャンスである。

「ソヨちゃんはわたしと一緒だったのよ!  あんたなんかがはいりこむ余地なんかないのよ!」
「くぅ……そ……そうなのかもしれない。おふたりの関係には敵わないのかもしれない……でも!  わたしの想いはとても強いのです!」
「ふん!  想いだけでどうこうできると思ってるの?  これだから負けた女ってのは……見るにたえられないわ」
「見てくれなど関係ない……真実の愛には関係ありません!」
「では証明してみなさい。あなたがどれほどソヨちゃんを愛しているのかを!」
「もちろんです!  あれはわたしがお城の下働きをしていたころ――」
「――わたしとソヨちゃんとの出会いには敵わないようね!」

  いや、そもそもあなたは誰ですか?  聞いてはみたいが聞いたらなんだかめんどうそうだ。豆腐はいつのまにやら適当なサクセスストーリーを作りだしているし……まあとにかく、ソヨギは女の戦いを横目にしながら海苔味をゲットした。

  ソヨギはそ~っとその場を離れ、わくわくしながら不摂生の聖域に向かった。

  女が誰とかそれ以外のことよりも、とりあえずサムライドオンの続きが読みたいソヨギであった。


                                         続く
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