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■ 一寸一息 ■ 王太子はつらいよ
しおりを挟む何だろう? 最近、後頭部に視線が刺さる。
私の名はヴィクトル、この国の王太子という地位についている。自覚はないが金髪碧眼のこの顔は、周りからは整った顔立ちだと言われている。この王都学園では生徒会長をしているため、王族と言うことも相まって目立つ存在でもある。
今までは、そんな私を見ると生徒達が(主に女生徒達が)静かにだが、きゃっきゃと歓声を上げているのを知っていた。たまたま目が合うと、顔を真っ赤にして通り過ぎて行ったこともあった。
だが、今の状態はそれとは違う。
廊下ですれ違う生徒のほとんどが、私と目を合わさないようになのか、不自然に目を逸らして通り過ぎる。そして、通り過ぎた後に私の方を見て、コソコソと話をしているように感じるのだ。
視線がチクチク刺さる。コソコソ話しが耳に障る。
しかし、どうしてそんなことになっているのか、まるで分からない。
「今流行っている小説や劇を知らないか?」
書類整理の合間にお茶を入れながらそう言ったのは、生徒会を一緒に運営している側近候補のデニスだ。
公務と勉強と、間近に迫った生徒会主催の卒業パーティの準備が忙しくて、娯楽どころか婚約者のアレクサンドラに会うこともままならないくらいだ。彼女の方が1学年上のため、学園内ですれ違うことも少ない上にこの状況は寂しい限り。
仕事をこなして寝るだけの日々。流行り物のことなんて知る暇も無い。
「知らないが、その小説と、この刺さる視線に何の関係があるんだ?」
デニスからお茶を受け取りながらそう返すと、まあいいから話を聞いてくれと言う。
「『貴婦人の友』って言う庶民向けの雑誌があるんだが、それに掲載されていた『 やられたら、やり返すのは当たり前でしてよ。悪役令嬢は負けません!』っていう小説が庶民の間で大人気なんだ。その人気にあやかって大衆劇も作られて、それがまた大ヒットしているんだよ。」
それがどうしたんだ? 視線や内緒話とは関係ないだろう?
納得のいかない顔をしてデニスを見ていると、まあ待て、と言う手振りをされたので、うなずいて話の続きを待つ。
「で、その人気作品がメイドから貴族の家に入り込んで、ジワジワと貴族女性に浸透していったんだ。
最初は、主人公と同じくらいの年齢の女の子から母親へ、お茶会を介して段々とその上に年代へと広がって行った。」
「詳しいな。」
そう言う私に、デニスは言う。
「家が発端らしい。多分だけど。」
デニスが言うには、メイドが話題にしているのを妹付きの侍女が聞き、読んでハマった侍女が妹にこんな小説があると話をし、妹が母とのお茶の時に、面白い小説があってそれが王都で大衆劇になっているから見てみたいと懇願し、熱意に負けた母が一緒について行くことを条件に演劇を見に行くと母ハマり、母が他家でのお茶会でそれを話題に出して……という感じで、広まっていったそうだ。
「読んだのか?」
「読んだよ。突拍子もない内容だった。」
舞台はとある国の学園。
その国の王子が、公爵令嬢という婚約者がいるにもかかわらず、男爵令嬢 - この男爵令嬢は訳あって平民から男爵家へ入った - と浮気して、男爵令嬢の言われるがままに、公爵令嬢に濡れ衣を着せ断罪。断罪された令嬢は、証拠を持って断罪返しをして婚約を破棄。そして、断罪劇を見ていた隣の国の公子が公爵令嬢に求婚してハッピーエンド。
デニスによるあらすじはこんな感じだった。
「……その国大丈夫か?」
「だよな……。そうは思うが、とりあえず、それは脇に置いて。
あらすじを聞いて、何か気がつかなかったか?」
「何を?」
「ヴィクトル、お前の置かれている環境と似通っているだろう?」
「環境? 王子か?」
「それもそう。それ以外にも、お前の婚約者は?」
「アレクサンドラ……あぁ公爵令嬢だ。」
「そうだ。そして、」
「まだあるのか? まわりくどいぞ。」
「あるだろう? リリアナだよ。彼女は平民から男爵家へ入った。」
「わ、私は浮気なんてしていないぞ。アレクサンドラとの仲は良好だ。
リリアナとはクラスメイトであり、生徒会でも一緒というだけで何もない! アレックスたんに誤解されたらどうする!!」
リリアナとの関係を疑われたと思い、私は思わず声を荒げてしまった。冗談じゃない。
「俺は分かっているが、周りがそうだとは限らないって話だ。
だから最近、王太子達の仲はどうなんだろう? って、生徒達がチラチラとお前を見ているんだよ。おそらくアレクサンドラの方も、面と向かって何かを言うヤツはいないだろうが、チラ見はされていると思うぞ。
それと、心の声が漏れてる。アレックスたんって……」
アレックスたん、いやいや、アレクサンドラの方まで……まさか、そんな馬鹿げたことが起きているなんて……
と、ふと私は思い出した。
「そう言えば、リリアナと並んで歩いている時や、打ち合わせで話をしている時に、周りの人間がざわざわと、少しうるさいと思うことがあったんだが、もしかしてそのせいだったのか?
最近タイミングが悪くて、アレックスた……アレクサンドラとお昼もお茶も一緒にできていないのに、卒業パーティのこともあって、リリアナとは一緒にいることが多い……」
うぁっっと、私は頭を抱えてしまった。
たまたまだが、自分の行動が噂話に拍車をかけている気がしてきた。いや、しているだろう。
そんな小説が流行しているなんて、知らなかったんだよ、アレックスたん!
「大変だよなぁ、まったく。作り話と現実をごっちゃにしちゃだめだよなぁ。」
デニスのまるで関係が無いような軽口に、私は憤る。
「そもそも、お前が発端なんだろう!?」
私は思わずデニスの胸ぐらをつかんで、ガクガクと揺さぶってしまった。
「うぉっ、おいおい、止めろって、落ち着けよ。俺じゃないだろ、妹や母だ! それに、流行らせたくて流行らせた訳じゃない! だいたい、小説を書いたのは俺じゃないんだぞ!」
焦ってしまったんだ。アレックスたんが嫌な目にあっていないか心配になったんだ。
「すまん……お前のせいじゃない、分かっている。八つ当たりだった。
しかし、作り話とはいえ、本当に登場人物の設定が私の周りと似ているな。
はっ、もしや、私を貶めようという陰謀……」
「なわけないだろ。こんな馬鹿げた話で陰謀って。
まあ一応、設定が設定なだけに学園に関係している者かどうか、出版社に問い合わせてみたんだが、どこの誰だかは教えてもらえなかった。ただ、作者のサキ・クララは筆名で本名ではないのと、今現在、学園に在籍はしていない、在籍者の関係者でもないということは教えてもらえたよ。
お前に嫌がらせというわけでも無く、本当に偶然似たような設定だっただけ。
出版社の方も、まさかこの小説でそんなことが、と驚いていたよ。ただの恋愛喜劇なのに……ってね。ヒットする作品というものは、色んな影響がでるもんだな。」
感心したような、呆れたような顔でデニスはそう言っていたが、私にしてみれば、偶然の一致にしても迷惑な話だった。
「同一視されて迷惑極まりないよ。」
「端から見ているだけの人間にとっては、娯楽の一つなんだろうな。流行の小説にそっくりな人物設定が、現実に目の前にある状況ってのは。
もしかしたら、小説のような展開になっているのでは? とか想像して、なんとなくチラチラ見て、周りの人間と、どうなんだろうね? と、話をして盛り上がるのはある気がするよ。お前には申し訳ないが。」
忙しくて疲れているところに、こんな面倒事までプラスされて、
「はぁ……」
ため息しか出てこない。
癒やしが欲しいなぁ。アレックスたんに会いたい……
そう思いながら、私は冷めたお茶を口にした。
※※※
理不尽に面倒なことから逃げるように、ヴィクトルが会えない婚約者に思いを馳せていたその頃、面倒事を作った張本人は、
「カラアゲ美味しい~~♪ ユーリウス様も食べて食べて♪♪」
と言いながら、お皿に盛り上げたカラアゲを頬張っていた、かもしれない。
そして、出版社の方では、この騒動があってから、小説の最初にこう書くようになったそうだ。
『この物語は創作で、登場する人物や国、組織、集団、風俗、事件等は架空のものであり、実在するものとは一切全く些かも関係はございません。』
■人物紹介■
ヴィクトル王太子殿下 ー 王都学園2年生で生徒会長。クラーラとサキが書いた「やられたら、やり返すのは当たり前でしてよ。悪役令嬢は負けません」の被害者(?) 設定が王太子周りと似通っていたため、学園で同一視されてしまう。心の中で婚約者のアレクサンドラをアレックスたんと呼んでいる。
アレクサンドラ・ベルカ公爵令嬢 ー 王都学園3年生。ヴィクトルの婚約者で彼より1つ年上。
リリアナ・クバート男爵令嬢 ー 王都学園2年生。平民から男爵令嬢になった。成績優秀で生徒会に入っている。
デニス・シュヴァンダ侯爵令息 ー 生徒会役員。ヴィクトルの側近候補。
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