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1 プロローグ
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1 プロローグ
人は皆平等だと言う人もいれば、平等ではないと言う人もいる。
僕は不平等に票を入れる。容姿とか、体質とかはどうでも良かった。それは平等以前に人の個性だと感じたから。皆、同じ顔で身体で……そんな日常に約何割の人が面白さを見いだせるのか……。
違うから面白い、憧れる、好きになるんだ。
それを平等にしろ、なんて僕は思わなかった。
ただ、周りの環境はいつだって平等してほしかった。
自身が何をしたわけでもない、ただただ、周りから蔑まれた眼をされ、呪いのような言葉を受けるのは僕だった。
自我を持った時には、僕に家族はいなかった。住まいを与えてくれたのは遠い親戚らしい、40代くらいの夫婦だった。彼らだって僕を嫌な目で見ていた。昔、僕を押し付けられたと怪訝な顔をして話してきた。迷惑をかけるなと学校以外で外出することもなく、自室に籠ることを命じられた。生きる衣食住を与えてくれただけ、彼らは良かったのだろう。
学校に行き始めて直ぐに僕は友達という存在もできないのだと、理解した。最初は友達という定義に当てはめられるような子もいた。それでも、数日後には避けられ、無視され、僕をいないもののように扱った。親戚夫婦には怖くて聞けなかったが、同い年の子達に恐る恐る聞いてみた。
「どうして、僕を無視するの」
その言葉に少し息を詰まらせ、喉奥でゴクッと小さく鳴らす彼らは唇を震わせた。
「……だって、お母さんに……虹とは遊ぶなって……」
何人に聞いても答えは一緒だった。家族から遊ぶなと言われた、そして、1人の僕を学校の先生も無視した。仲間に入れてあげて、なんて助けもなかった。
小学生にして僕は、自分が誰からも好かれない人間なのだと、卑しい人間なのだと気づいた。
ーーーーもし、自分がもう1人いたらこんな環境で育って欲しくないと思った。
17歳になり、高校生になった僕、斎賀 虹(さいが にじ)は、恵まれない環境のせいかすっかり他人に興味を持たなくなった。学校でも、人とは…話すことはほとんどない、親戚夫婦との会話もゼロで話し方すら忘れていそうなくらいだった。高校2年生になり、進路について考える時期だった。僕はあと1年で、この嫌な家、土地からいなくなるつもりだった。一人暮らしを始め、成績もそれなりに良かったため、就職することはできるだろう。何年も辛抱をし、やっと1人になれると思った。
学校帰りだった。全く面白くない退屈な時間を過ごし、HR後すぐに学校を出た。マスクをして、昔の知り合いには会っても、分からないようにした。クラスメイト達は、僕を入学当初からマスクをした一人でいるおかしな学生だと思い、話しかけてくることはなかった。僕も彼らと目を合わせないようにし、何を思われているのかを知ろうとすることもしなかった。
家は灰色の少し錆のある二階建てのアパートの、二階の右端だった。一応、あの2人は義父、義母だと周りには言っている。というより、彼らがそう言えと言ってきた。
そして、その義父母は平日は夜まで帰ってくることはない……はずだった。
僕はアパート前に立ち止まり、義父母が玄関で何か言っているようだった。そして、その2人を前にし、背中しか見えない黒のスーツを来た背の高い男が静かに2人を見守る。
義父母は、怒鳴り散らすような声で男に何かを言っている。それに対して、落ち着きながら右手を前に出し、どうどうと2人を止めるかのようにする冷静な男。
僕は、面倒に巻き込まれたくなかったので1度何処かに避難しようと、後退りをする。
(コンビニ、コンビニにしよう……。)
「おや、虹。おかえり」
息が止まるかと思った。ハクっと少し息を吸い、振り向くと、黒いスーツの男が手すりに右手をかけ、左手を僕に向かって振っている。
しかも、後ろ姿だけでは分からなかったが、顔が整っている20代くらいの若い男だ。一瞬、義母の浮気相手かとも思ったが、若さや容姿の良さからそのような関係であることはないと感じた。
それよりも、僕は彼を知らないはずなのに、彼は確かに僕を「虹」と呼んだ。
(義父母が教えた?でも、なんで……)
「……だ、レダ、お前……」
「……虹!! お前は向こうに行ってろ!!」
義父の叫ぶような声に、ビクッとしながら手足が震え、その場にいるべきではないのだと感じた。
「おやおや、今まで邪魔者扱いをしておきながら、私に連れて行かれるのは御免ですか」
「虹! いいから、早くっ!! 走れ!」
久しぶりに聞いた義父母の口から呼ばれる自分の名前。僕を遠ざけたいと叫ぶ声に従うように、アパートから離れようとした。
走って数秒で右耳のすぐ横で
「虹」
先程の男の声がした。すぐ横に男がいた。なんで、先まで…アパートの2階に……飛び降りた……?でも、そんな音しなかったし、そもそも人が飛び降りれる高さじゃない……。この人、普通じゃない。
隣に来ると男の背がかなり高いことに気づいた。僕は173cmくらいだが……遥かに上回る、180……いや、190……いってるか、日本人とは思えない高身長だ。
「逃げるなんてひどいじゃないか」
「僕はっ……アンタなんてしらな、い……」
震えながら、少し上擦った声でそう言う僕に、胡散臭い笑顔でにっこりと微笑む。
何年も他人と目を合わせてこなかった。他人にどんな目で見られるか分かっていたから。いつもいつも同じだった。
"近寄りたくない" "変なやつ" "気味が悪い"
僕は何もしてないのに、そんな目で見てくる。僕が誰かに何かしたか? この容姿は何かおかしいか?純日本人の黒い髪に黒い瞳、黄色人種で何もおかしくないのに……どうしてそんな目で皆見るの……幼いながらにも叫びたかった。問い質して、正解を求めたかった。
でも、誰も明確な答えを教えてはくれなかった。皆が、周りがダメだと言った、一緒にいちゃいけないと言った。それが答えだった。
誰とも目を合わせず、耳を塞いでいる幼かった自分が、記憶の中に呼び起こされる。
久々に目を合わせた人間に感じたものは、そんな僕を嫌悪するような目には見えなかった。
ただただ、そこにあったのは、この人に対しての恐怖心だった。
ゆっくりと口を開いていく男、数秒がスローモーションのように感じ、僕は男から言われる言葉に怯えた。
「……私は、君にお願いをしにきたんだ」
怯えた顔をした僕の両手を男の両手が包んだ。他人に触られるなんていつぶりだろうか、男の手は冷たかった。かなり白くて、手の骨がくっきりと見えている。
「離れろ! ソレは俺たちのだぞ! 気味が悪いが、"支援金"が入るから置いておいたのに……」
「そ、そうよ! せっかく嫌々ながら育てたのに!どこの誰かも知らない人に渡すわけないじゃない!!」
男の後ろから義父母が鬼のような形相で、走ってきて叫ぶ。
「……はぁ……、お金お金って…そんなに欲しいですか? 朝から夜まで仕事もせずに遊び回っているからお金が無くなるだけで、働けば必然と入ってくるものなんだよ、そんなモノ」
「……し、えんきん…? 何のこと……」
頭の中がパンクしそうだ。"気味の悪い"僕を"嫌々ながら"育てた……"支援金のため"……?
色んな情報が頭の中で絡まって、上手く状況が読めない。この男は、僕にお願い…?何を?この、誰からも気味悪がられた僕に何を頼むって言うんだ……。
『金が手に入るし、手間もかからないから家に置いておいたのに』
『あんな気味の悪い女のガキ』
「……金、っ気味の、わる、い……女……?」
聞こえた言葉を言うだけで、息切れがする。すると、義父母は「ひっ」と声をあげた。そして、いつものように僕を蔑む目で見る。
「こいつ、なんでっ………」
義父が何かを言いかけた途端に、割り込んで男が僕の頭を撫でながら、話し始める。
「虹、大丈夫だよ。 私が君を守ってあげる。 その代わりに、君も私を助けてくれないか」
そう言うと向き合った男は、頭から背中へと手をおろし、僕を抱きしめた。大きな男の身体で義父母の姿は見えなくなった。
背中を優しくさすられ、目頭が熱くなっていく。
「……ん、ぼ、くを助けてほし……」
男の肩の当たりに顔を埋めて、そう言うと男は「ありがとう」とだけ言った。
男は確かに胡散臭くて怖かった、何を考えているのかも分からない。それでも、僕を助けると言ってくれたのは、男が初めてだった。
人は皆平等だと言う人もいれば、平等ではないと言う人もいる。
僕は不平等に票を入れる。容姿とか、体質とかはどうでも良かった。それは平等以前に人の個性だと感じたから。皆、同じ顔で身体で……そんな日常に約何割の人が面白さを見いだせるのか……。
違うから面白い、憧れる、好きになるんだ。
それを平等にしろ、なんて僕は思わなかった。
ただ、周りの環境はいつだって平等してほしかった。
自身が何をしたわけでもない、ただただ、周りから蔑まれた眼をされ、呪いのような言葉を受けるのは僕だった。
自我を持った時には、僕に家族はいなかった。住まいを与えてくれたのは遠い親戚らしい、40代くらいの夫婦だった。彼らだって僕を嫌な目で見ていた。昔、僕を押し付けられたと怪訝な顔をして話してきた。迷惑をかけるなと学校以外で外出することもなく、自室に籠ることを命じられた。生きる衣食住を与えてくれただけ、彼らは良かったのだろう。
学校に行き始めて直ぐに僕は友達という存在もできないのだと、理解した。最初は友達という定義に当てはめられるような子もいた。それでも、数日後には避けられ、無視され、僕をいないもののように扱った。親戚夫婦には怖くて聞けなかったが、同い年の子達に恐る恐る聞いてみた。
「どうして、僕を無視するの」
その言葉に少し息を詰まらせ、喉奥でゴクッと小さく鳴らす彼らは唇を震わせた。
「……だって、お母さんに……虹とは遊ぶなって……」
何人に聞いても答えは一緒だった。家族から遊ぶなと言われた、そして、1人の僕を学校の先生も無視した。仲間に入れてあげて、なんて助けもなかった。
小学生にして僕は、自分が誰からも好かれない人間なのだと、卑しい人間なのだと気づいた。
ーーーーもし、自分がもう1人いたらこんな環境で育って欲しくないと思った。
17歳になり、高校生になった僕、斎賀 虹(さいが にじ)は、恵まれない環境のせいかすっかり他人に興味を持たなくなった。学校でも、人とは…話すことはほとんどない、親戚夫婦との会話もゼロで話し方すら忘れていそうなくらいだった。高校2年生になり、進路について考える時期だった。僕はあと1年で、この嫌な家、土地からいなくなるつもりだった。一人暮らしを始め、成績もそれなりに良かったため、就職することはできるだろう。何年も辛抱をし、やっと1人になれると思った。
学校帰りだった。全く面白くない退屈な時間を過ごし、HR後すぐに学校を出た。マスクをして、昔の知り合いには会っても、分からないようにした。クラスメイト達は、僕を入学当初からマスクをした一人でいるおかしな学生だと思い、話しかけてくることはなかった。僕も彼らと目を合わせないようにし、何を思われているのかを知ろうとすることもしなかった。
家は灰色の少し錆のある二階建てのアパートの、二階の右端だった。一応、あの2人は義父、義母だと周りには言っている。というより、彼らがそう言えと言ってきた。
そして、その義父母は平日は夜まで帰ってくることはない……はずだった。
僕はアパート前に立ち止まり、義父母が玄関で何か言っているようだった。そして、その2人を前にし、背中しか見えない黒のスーツを来た背の高い男が静かに2人を見守る。
義父母は、怒鳴り散らすような声で男に何かを言っている。それに対して、落ち着きながら右手を前に出し、どうどうと2人を止めるかのようにする冷静な男。
僕は、面倒に巻き込まれたくなかったので1度何処かに避難しようと、後退りをする。
(コンビニ、コンビニにしよう……。)
「おや、虹。おかえり」
息が止まるかと思った。ハクっと少し息を吸い、振り向くと、黒いスーツの男が手すりに右手をかけ、左手を僕に向かって振っている。
しかも、後ろ姿だけでは分からなかったが、顔が整っている20代くらいの若い男だ。一瞬、義母の浮気相手かとも思ったが、若さや容姿の良さからそのような関係であることはないと感じた。
それよりも、僕は彼を知らないはずなのに、彼は確かに僕を「虹」と呼んだ。
(義父母が教えた?でも、なんで……)
「……だ、レダ、お前……」
「……虹!! お前は向こうに行ってろ!!」
義父の叫ぶような声に、ビクッとしながら手足が震え、その場にいるべきではないのだと感じた。
「おやおや、今まで邪魔者扱いをしておきながら、私に連れて行かれるのは御免ですか」
「虹! いいから、早くっ!! 走れ!」
久しぶりに聞いた義父母の口から呼ばれる自分の名前。僕を遠ざけたいと叫ぶ声に従うように、アパートから離れようとした。
走って数秒で右耳のすぐ横で
「虹」
先程の男の声がした。すぐ横に男がいた。なんで、先まで…アパートの2階に……飛び降りた……?でも、そんな音しなかったし、そもそも人が飛び降りれる高さじゃない……。この人、普通じゃない。
隣に来ると男の背がかなり高いことに気づいた。僕は173cmくらいだが……遥かに上回る、180……いや、190……いってるか、日本人とは思えない高身長だ。
「逃げるなんてひどいじゃないか」
「僕はっ……アンタなんてしらな、い……」
震えながら、少し上擦った声でそう言う僕に、胡散臭い笑顔でにっこりと微笑む。
何年も他人と目を合わせてこなかった。他人にどんな目で見られるか分かっていたから。いつもいつも同じだった。
"近寄りたくない" "変なやつ" "気味が悪い"
僕は何もしてないのに、そんな目で見てくる。僕が誰かに何かしたか? この容姿は何かおかしいか?純日本人の黒い髪に黒い瞳、黄色人種で何もおかしくないのに……どうしてそんな目で皆見るの……幼いながらにも叫びたかった。問い質して、正解を求めたかった。
でも、誰も明確な答えを教えてはくれなかった。皆が、周りがダメだと言った、一緒にいちゃいけないと言った。それが答えだった。
誰とも目を合わせず、耳を塞いでいる幼かった自分が、記憶の中に呼び起こされる。
久々に目を合わせた人間に感じたものは、そんな僕を嫌悪するような目には見えなかった。
ただただ、そこにあったのは、この人に対しての恐怖心だった。
ゆっくりと口を開いていく男、数秒がスローモーションのように感じ、僕は男から言われる言葉に怯えた。
「……私は、君にお願いをしにきたんだ」
怯えた顔をした僕の両手を男の両手が包んだ。他人に触られるなんていつぶりだろうか、男の手は冷たかった。かなり白くて、手の骨がくっきりと見えている。
「離れろ! ソレは俺たちのだぞ! 気味が悪いが、"支援金"が入るから置いておいたのに……」
「そ、そうよ! せっかく嫌々ながら育てたのに!どこの誰かも知らない人に渡すわけないじゃない!!」
男の後ろから義父母が鬼のような形相で、走ってきて叫ぶ。
「……はぁ……、お金お金って…そんなに欲しいですか? 朝から夜まで仕事もせずに遊び回っているからお金が無くなるだけで、働けば必然と入ってくるものなんだよ、そんなモノ」
「……し、えんきん…? 何のこと……」
頭の中がパンクしそうだ。"気味の悪い"僕を"嫌々ながら"育てた……"支援金のため"……?
色んな情報が頭の中で絡まって、上手く状況が読めない。この男は、僕にお願い…?何を?この、誰からも気味悪がられた僕に何を頼むって言うんだ……。
『金が手に入るし、手間もかからないから家に置いておいたのに』
『あんな気味の悪い女のガキ』
「……金、っ気味の、わる、い……女……?」
聞こえた言葉を言うだけで、息切れがする。すると、義父母は「ひっ」と声をあげた。そして、いつものように僕を蔑む目で見る。
「こいつ、なんでっ………」
義父が何かを言いかけた途端に、割り込んで男が僕の頭を撫でながら、話し始める。
「虹、大丈夫だよ。 私が君を守ってあげる。 その代わりに、君も私を助けてくれないか」
そう言うと向き合った男は、頭から背中へと手をおろし、僕を抱きしめた。大きな男の身体で義父母の姿は見えなくなった。
背中を優しくさすられ、目頭が熱くなっていく。
「……ん、ぼ、くを助けてほし……」
男の肩の当たりに顔を埋めて、そう言うと男は「ありがとう」とだけ言った。
男は確かに胡散臭くて怖かった、何を考えているのかも分からない。それでも、僕を助けると言ってくれたのは、男が初めてだった。
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