もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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6朝霧 奏斗と斎賀 虹

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6 朝霧 奏斗と斎賀 虹

朝霧は斎賀 虹の動向を数ヶ月にわたり、表と裏世界を行き来しながら見守ることにした。国家機関の上層部から変な勘ぐりを受けないようにと、適当な理由を言いつけることにした。


「裏世界での、現状から見て元がこちらにいるとは思えません。 表世界から送り込まれている可能性も否定できないため、表世界への視察の許可を願います。」

それらしく上層部に掛け合ったところ、少しの沈黙はあったものの、なんとか許可を得ることができ、朝霧の斎賀 虹の調査はいとも簡単に、事が進んだ。


数ヶ月に渡って、気づいたことは斎賀 虹は一定の生活サイクルを狂わせない。
起床時間、朝食時間、通学時間、通学路、学校での過ごし方、帰宅時間、就寝時間までもがほぼ一緒であった。
高校生らしい生活を送らず、家と学校、昼食を買うためにコンビニに寄ること、それ以外の場所に出向くことはなかった。

同居人の斎賀 賢治、紗英はまるで斎賀 虹の存在を見ていなかった。家にいても話すこともない。どうやら、2人は日中はパチンコ、競馬……遊びに出ているようだった。
それでも、生活していけるのは、月末になると振り込まれる誰かからのお金があるからのようだった。

朝霧は、表世界にほとんど毎日来ていた。そして、数週間経ってようやく2人のお金が何故入ってきているのかが分かった。
簡潔に言えば、斎賀 虹の暮らしを確保できれば、一月100万の支援金が入る、という事だった。

朝霧はやはり、斎賀 虹という少年は普通でないと悟った。しかし、2人の話を盗み聞きながらも彼ら自身、何故、斎賀 虹の暮らしを保障することでお金が貰えるのかは分かっていないようだった。

とりあえず貰えるから良い。遊べて暮らせるのだから……と、斎賀夫妻は思っているようで馬鹿馬鹿しいと感じた。
特に斎賀 虹を誰かが付けている影も見えず、彼が苦しい環境で育っているのは、少しの間しか見ていない朝霧でもすぐに分かった。

斎賀 虹の暮らしよりも、彼が生きていればそれで良いということのようだ。


朝霧はひどく斎賀 虹という少年を憐れに思った。どうやら、斎賀夫妻は周囲の人に彼との接触を避けるようにしていたらしい。

「親戚だから引き取ったが、元々は殺人鬼の息子だ」

「彼は幽霊が見えて、いつも独り言のように何かを話す気味の悪い奴だ」


斎賀 虹自身はそんなことを知らず、見知らぬ人達が何故自分を避けるのかが分かっていないようだった。
もちろん、彼は幽霊なんて見えていないし、独り言なんて話していない。
本当の両親はどんな人たちなのかは分からないが、斎賀夫妻が偽りの適当なことを言っていることはすぐに分かった。


朝霧が斎賀 虹を着いて回るようになってから、彼は誰と話すこともなかった。もう、他人と関係を持つことに諦めさえ感じているようだった。
他人でありながらも、斎賀夫妻が彼の生活を縛り付けていることに朝霧は怒りを覚えた。


しかし、決定的な斎賀 虹と裏世界の何らかの繋がりが見いだせないことには、彼と接触する訳にもいかず、ただ見守ることしかできなかった。



そこから、2ヶ月が過ぎた頃だった。
斎賀 虹は、学校を終え、帰宅する最中だった。見かけない年寄りの女が、通学路の角で四方を見渡していた。恐らく、何処かに用事があって遠くから来たが、道に迷ったのだろう。
朝霧は何をする訳でもなく、その女を無視しようとした。


「……あ、の……、‪✕‬‪✕‬ハイツなら、ここを真っ直ぐです……」


朝霧は驚いた。斎賀 虹が人に話しかけたこともそうだが、年寄りは何かを言うわけでもなく、周りを見渡しているだけだった。‪✕‬‪✕‬ハイツは、彼の通学路途中にあるアパートだった。

年寄りの女は、驚いた顔をしながらも、斎賀 虹の顔を見て微笑んだ。
そして、一言礼を言うと僅かに彼の口元が緩んだ。


……声には出していなかった。朝霧もあの年寄りの女がどこに向かうかなんて分からなかった。彼女は、地図のようやメモを見ていた訳でも、アパートの名前を口に出したりもしていない。

それでも、斎賀 虹は彼女が何処へ行きたがっているのかを知っていた。


1つの裏世界と斎賀 虹の関係に可能性が見えた。彼自身が分かっているのかいないのかはさて置き、彼が何かの能力を使えるという可能性だった。その場合、裏世界で生まれた可能性も無くはない。そもそも、表世界での人の遺伝子を受け継いだとして、そこに能力を持った子供が生まれたとは聞いたことがない。


そして、また何ヶ月が斎賀 虹について見ていくと、彼は人よりも音に敏感だった。少しの物音にビクッと身体を震わせることが多い。そして、ごく稀に、人の顔を見て不快に顔を歪ませることがある。何かをしていた訳でもないが、彼は人を見て軽蔑するような顔をする。


あの年寄りの女の件、何もしていない人を軽蔑した顔で見ること、人よりも何倍も耳が良いこと。

ーー斎賀 虹は人の心を読むことができる…

朝霧の出した答えはこれしかなかった。
しかし、いつも心を読める訳ではなく、非常に稀で彼自身、その事に気づいておらず、他人が口に出しているのだと思い込んでいるようだった。


しかし、裏世界と関係があるとは言えるのか。表世界の人間を裏世界に連れていくのは、禁止である。それは逆も然りであるが、もし読みが外れ、心を読めている訳ではなく、偶然であったとしたら朝霧自身、処罰対象になってしまう。
嘘までついて、表世界に出回っていることもバレてしまい、これから表世界と裏世界の行き来が不可能になることも十分に有り得る。


斎賀 虹を裏世界の大事件の元凶を見つけるための人間と判断していいのか……。
朝霧は、元凶を叩くためよりも、数ヶ月見守る中で芽生えた、斎賀 虹を斎賀夫妻によって作り出された最悪な環境での日常から救い出したいという思いの方が強かった。


「……どうするべきか……」

何時までもこの表世界への入り浸りを上層部が、許すとは思えない。収穫がないと分かれば、許可が降りなくなるのは目に見えていた。
しかし、表世界で斎賀 虹以外に裏世界との関係があるものも全くと言って良いほど見つからない。

『表世界に実は化け物を生み出す研究所があり、そこから裏世界に送り込んでいる』

数ヶ月で朝霧は、この可能性は0であることに気づいていた。表世界に魔法のような力は一切感じられない。



この数ヶ月でも裏世界での化け物による被害が格段に増加している。
化け物の数が増えていることもそうだが、それ以上に何の嫌がらせが強さも格別だ。
機関からの攻撃部隊が何十、何百と殺された。市民への被害も大きい。
国家機関の立つ中心地は良かったのだが、少し外れにある村や町は、攻撃部隊も間に合わずほとんど絶命である。

中心地にすら食い込んできた化け物の数も日に日に増え、このままでは裏世界での人類絶命も遅くはない。

朝霧は頭を悩ませながら、斎賀 虹への視察を続けていた。


「ボクノセカイニハキミタチダケデイイ」

表世界の満月の夜だった。斎賀 虹が眠りにつき、夜中の2時を回った頃だ。朝霧は、裏世界へ1度戻ろうとしていた時、眠るはずの彼は一言だけ言った。
夢を見ているのか、珍しく彼の寝言だと思った。なんとなく、一言の内容が気になり、彼の様子を見た。


「ツギノケイカクハ、マチチュウシンノエイチダイガク」

カタコトのように話す斎賀 虹は、別人のようだった。薄らと目を開けているようで、まるで彼が話しているみたいだが、彼自身に生気を感じられない。
そして、エイチダイガク……H大学、表世界には存在しない裏世界での多くの学生が集まる大学名だった。斎賀 虹が知るはずのない名前である。

(……誰だ……斎賀 虹ではない誰かが話している……。ツギノケイカク……次の計画……)


朝霧は必死で脳を働かせた。この次の計画が、今起こっている化け物と何か関係があったら…多くの学生が集まり、一般市民も集う大学で化け物の大量発生なんてものが起きたら……
朝霧はそう思うとゾッとする。これを知らずに、中心外へと攻撃部隊を派遣していたら、中心地の市民は無事では居られない。

気づけば斎賀 虹は目を閉じ、いつも通り眠っていた。スゥスゥと寝息を立てている。


朝霧は腹を括るしかないと決断した。この計画というものが事実、起こるものであるとするなら、斎賀 虹は裏世界に絶対的に必要な存在となる。この彼の一言が現実として、裏世界で起こるのならば、彼は未来予知をしたことになる。

……そして、この化け物発生の元と何らかの繋がりがあるかもしれない。

朝霧は斎賀 虹を裏世界へと連れていくことを決め、斎賀夫妻の前に現れた。

咲にその話をした際に小さな箱を渡された。

「もしも、その2人が裏世界の誰かとの"契約"として少年の安全とお金の受け渡しが条件だとしたら、この"契約箱"を使うと良い。 お前の上手い口車に合わせて、その2人に少年を襲わせろ。"契約"の条件に違反した場合、"契約箱"がその2人に何らかの罰を下す」

咲はベラベラと朝霧に説明する。国家機関の中で作り出された"契約箱"を使うことで、斎賀夫妻と裏世界の何者かが接触したか分かると言うのだ。

結果、斎賀 虹自身の2人への反抗によって、斎賀 賢治は、彼への暴行未遂、安全からの脱却と見なされ、契約の条件の違反となった。
朝霧は咲に言われ、2人に箱を渡すと虹を連れて行く際に、2人は箱に飲み込まれていった。

彼らに対して、朝霧は何も感じなかった。虹の17年の生活環境を考えると妥当な結末だと思った。

虹は何かが聞こえたようで振り返った。朝霧は虹の耳を塞いだ。きっと、喚く声か助けを求める声が聞こえたのだろうと思い、虹に前に進むように催促する。









ーーーーーーーーーーーーーー

裏世界へと虹を連れて戻ってきた朝霧は自室に虹を運んだ。表と裏世界の狭間で気を失ったらしい虹は、少し魘されている。
ベッドに横たわらせ、虹の髪を優しく撫でる。


「……頼んだよ、虹。 この世界を、何処かにいるもう1人の被検体を救ってくれ」


そう言って、朝霧は虹を残し部屋を出た。
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