もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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7朝食

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7朝食

    『キミタチイガイハイラナインダ』

僕の頭の中で確かにそう言った。僕の声でもなければ、知り合いの声でもない。聞いたこともないのに確かに声が流れてきた。


どうにも嫌な感じがした、夢見が悪いような心地がする。ザワザワと胸の奥が騒ぐ。
僕は知らないんだ、知らないはずなんだ。

「虹、起きたかい」


ハッと目を開けると、そこは知らない部屋だった。いつもは固く、薄い敷布団に寝ているはずなのに、フカフカなベッドで低反発な枕に後頭部が沈んでいる。

もしかしたら、目を開けたらいつもと同じで学校に行く用意をしなければいけなくなっているのではないか。見知らぬ男なんてアパートには来ておらず、また義父母と顔を合わせず、声を聞くこともなく家を出なければいけないのではないか。と考えていたが、目の前には、ベッドに腰掛ける男、朝霧が座っていた。

僕はどちらを望んでいたのだろうか。今まで見てきた嘘のようなことがただの夢であって欲しかったのか、現実であって欲しかったのか。

朝霧は立ち上がり、部屋のドアを開けた。

「起きたなら、朝ごはんを一緒に食べよう」

ニコリと笑う朝霧に、少し寒気を感じた。やはり何処か笑っていない……まるで作り物みたいだ。仮面を貼られているようだった。


「……あの、えっと……」

人とまともに会話をすることなんてなかったからか、変にどもってしまう。言いたいことがあるのに上手く言葉を発せない。

そもそも、これは本人に言っていいのか、機嫌を悪くするのではないか……と一瞬のうちに脳裏に浮かぶ。


『その顔、やめてほしい』

この言葉を言いたかったが、やめておけと頭の中で警告が鳴るようだった。喉に出かかった言葉を飲み込む。


「? どうかしたかい」

「……朝ごはん、ありがとう……ございます……」


言いかけた言葉に上手く、思ってもいなかった言葉を繋げた。変に思われはしなかっただろうか、と不安になり、チラと朝霧の顔を見たが、あの妙な笑い方で「いえいえ」なんて言っている。

……どうにも、この人は苦手かもしれない。


朝食には焼かれた食パンとイチゴジャム、目玉焼きにサラダ、そしてコーヒーが置いてある。
もともと、義父母の家では白ご飯を出されるくらいだったため、どこか豪華に感じられる。


「……いただきます」

両手を合わせて、小さくそう言い、温かい食パンを持ち、1口齧る。
本当はこれが普通なのかな、それとも他の子供も豪華だって感じるのかな、それすら僕には分からなかった。

普通の家庭環境じゃなかった、朝霧に質問責めにあった時に尚更実感した。戸籍がない以上、本当の名前も生年月日も分からない。17歳なのかも怪しい。
小学校からは、他の子供と共に1学年ごとに上がってきているのだから、間違えなく11歳以上ではあるはずだ……。


「……何も聞かないんだね、急に知らない場所に来て驚いただろう」

朝霧がそう言うと、聞きたいことは山ほどあるが、何から聞けば良いのか分からない。

今わかるのは彼の名前だけだ。信用できる人間なのかも分からない状況で呑気に食パンを頬張っている場合ではないのは明らかだ。
それでも、僕はこの人に頼るしかないのだとどこか理解していた。


「……ここは、その現実の世界じゃない…?」

この『現実の世界』が何を表しているのか、僕もよく分からない。死んだわけではない、ただ、変な光に吸い込まれて、そこからの記憶がない。
だが、食べ物を美味しいとも感じるから生きているような感じはしている。

「んー……虹が生きていた世界ではないよ、でも私にとってはここが現実の世界だ」

朝霧は頬杖をつきながら、そう言った。どうやら彼と僕の住む世界は違うらしい。
頭は何一つ整理されていない。それでも無理やり詰め込むしかないんだ。理解するんじゃなくて、そういうモノであると思い込む。これが、今の最善策だ。


「……じゃあ、僕の生きていた世界とここの世界は何が違うんですか」

「虹が住んでいたのは、無力な人間が権力や地位でどうにかする世界。こっちは、能力、魔法…力がモノを言う世界」

頭が痛くなってくる。言い分は酷いが、もといた世界の説明にどこか納得出来た。
こちらの世界は意味がわからない。ようするに、漫画やアニメの世界ってことか……? 僕はよく分からないけど、学校で少し耳にしたことはある。

「……能力や魔法って、そんな……」

「そんなモノはないって? 虹はもう見たでしょ?私が既に見せたはずだよ」

言葉につまる。そうだった、散々見せつけられた。あっちの人間には到底できっこない不可解な力……。 

「……色々、聞きたいことしかないんですけど、えっと、なんで僕のことを知って……」


「君をこっちの世界に連れてきたかったから調べた」

スパッと切り返された。連れて来たかった……? なんで僕を……? 僕はこちらの世界なんて先程まで知らなかったんだぞ……?


「……ところで、虹。 君は他の人よりも耳が良いことに気づいているかい」

こちらが質問する側だったのに、急に立場が逆転する。
意図の分からない質問だった。僕が耳が良い…? そういえば、こっちに来る前にも何かそんなこと言ってたな……「耳が良すぎる」とか……


「聴力は、人並みだと思います、けど……」


「…うん、そうじゃない。 聞こえるはずのない言葉が聞こえたり、人の考えてる言葉が聞こえたり…することはないかい」


「……ない、です。僕にはそんな、人の心の声が聞こえるとか、貴方にはその、魔法で出来るかもしれない、けど……僕はそんなこと出来ません」


もとは、能力や魔法なんて存在しない世界で生きてきた人間に、そんなことができるはずないどろう…と心では叫んでいた。もしかしたら、そんなことも出来ないのかと馬鹿にしているのか?とも考えた。


「……聞こえてるんだよ、君は。 でも、それに君自身は気づいてない。 あの、斎賀夫妻の時もそうだった」

朝霧の話し方や言葉遣いは冷静で綺麗な方だと思う。だから、育ちの良いのかと思っていたが、右手で食パンを持ち、大きな口でむしゃりと噛みちぎるように口の中に運んだ。

「……あの2人の時……?」

「……さっき、一瞬だけ2人は口にしていない言葉に、虹が反応したから2人は驚いていたんだよ」

どこだ……? 僕は聞こえた言葉にしか反応なんてしないぞ……?


ーーー『金が手に入るし、手間もかからないから家に置いておいたのに』

『あんな気味の悪い女のガキ』ーーー

「……まぁ、虹は色々重なって、2人の様子なんて気にする暇も無かっただろうけどね……」


……確かに、あの2人はそう言っていた。 聞いた、聞こえていた。2人にそう思われていたのだと実感し辛くなったのを覚えている。

「2人は一切口に出していないんだよ、君が心を読んだ」

むしゃむしゃと食べ進める朝霧を見つめる。彼の食パンは既になくなっていた。ペロリと口の横を赤く長い舌で舐めると、彼はまた、ニコリと1つ笑った。

「……君は、自分がそうしていると思わず、何度かそれをしている。 ずっと出来るわけじゃない。ごく稀に」


「……そんな、こと……」


しかし、現にあの2人の言葉は聞こえていた。もし、朝霧の言うことが本当なら僕は自分が、人の心を読んでいることに気づけていない。
否定することもできない。

「……それは、さして大きな問題じゃないんだよ。こっちの世界で生きていくなら、それが出来たとしても誰もおかしくは思わない」

両手の指を交互に絡ませ、そこに顎を乗せて朝霧はそう言った。確かに、こっちの世界では普通のことなのかもしれない。

「……なんで、君がそれを出来るのかは私にも分からない。 けどね、それより重要なことを君はしているんだ」

「……重要なこと……?」


「……君は恐らく、こっちの世界での大罪人の声を聞いている」


朝霧は真面目な顔になり、僕をジッと見つめながら目を細めてそう言った。

あぁ……もうダメだ。頭に詰め込むことも出来ない。何を言っているんだろう。"大罪人"? そんな人知らないし、そんな内容の話を聞いたことない。

「……そんな事言われても、僕はーーー……」


「虹。私との"約束"覚えているかい?」

僕は確かに朝霧と"約束"をした。


「僕を助けてもらう代わりに、ある子を助ける」


「……私が救いたいのはね、その"大罪人"になっている子なんだ」

一切笑わなくなった朝霧を見て、僕はこれは本当の事であると理解し、唾をゴクリと飲み込んだ。
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