もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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8大罪人

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8大罪人


僕に向かって朝霧は自分が助け出したいのは、"大罪人"だと言った。
しかもどういう訳か僕がその"大罪人"の声を聞いているとまで言う。
現状、僕は自分が人の心を読めるということに納得もしていない。だって、そんなことある訳がないのだから。

しかし、確かにほんの数回ではあったが、他人の声を聞いて、よく『こんなこと』を堂々と話せるな、と思ったことがあった。
『こんなこと』の内容は実に酷くて、その目の前にいる人に対しての悪口や、出来もしない犯罪に近い行為をしたいなどだった。
話すのは、同級生だったりと普段はそのような素振りを見せない子だった。


「……100歩、譲ってホントに僕が人の心を読めるとする……けど、それは目の前に人がいる時だけのはずだ……」

そう義父母の時も、目の前にいる2人の心の声を聞いた。いや、聞こえてしまった。
しかし、朝霧の言う"大罪人"という人に関しては、僕が知りもしない人のはずだ。
その"大罪人"というのは、こちらの世界での人間を指す。僕がこちらに来たのは、さっきだぞ……

「……僕はその、"大罪人"に会ったことがない」


「そう、だね……でも、私が数ヶ月見てきて、1度だけ君はとても大事なことを言ったんだ」



ーー『ツギノケイカクハ、マチチュウシンノエイチダイガク』ーー


次の計画は、街中心のエイチ大学……? 僕はそんなこと言った覚えがない。そもそも、エイチ大学ってどこだ。その名前の大学を僕は知らない。


「こっちの世界では、学校名はAからZまでのアルファベットを付けられているんだ。もちろん、そのH大学もあるし、場所は1番の中央都市にある」


アルファベットの学校名しかない…のか、無頓着な人が設立したのだろうか……

「こっちでの学校なんて、モノを教えることが出来る施設であれば何でもいいからね。 学校を建てたのだって、著名人とかではない。 国が国を守る若者を育てるために作った建物に過ぎない。 だから、名前なんてどうでも良かったんだよ」


そうなのか……と1人で納得していると、朝霧は「話がズレたね」と一言言って、会話を戻す。


「確かに虹は、それを言ったとき意識がなかった。 寝ている時だったからね、それを呟いてスヤスヤ眠ってしまったよ」

寝ている時まで見られていたなんて、もはやストーカーだぞ、と言いたいところだったが、グッと留めた。

「……けれど、それはこっちでは一大事なんだよ。そのH大学に何かが起きてしまえば、街全体に被害が広がりかねない」

深刻そうな顔で朝霧はそう言った。どうにも、現実味のない僕には、そこまで深刻には考えられない。というか、そもそも、"大罪人"って何で……?話の根本的な所から僕は分かっていない。


「……それより、何で"大罪人"なんですか…? 既にその人何かしてるんですか……」

朝霧はハッとなり、「ああ」と言うと、僕に説明し忘れていた、と言うように話し出した。



内容は、こっちの世界を騒がせる大量の化け物を生み出したのが、"大罪人"の人らしい。まず、化け物ってなんだよ……と突っ込みたかった。

「……化け物を作り出したって何で……」

頭を抱え、よく分からない話を整理していく。
数年前から急激に増えた化け物、その化け物には"とある同じ成分"が入っていて、おそらくそれが大罪人の何かであること……

僕が意識のないうちに言った一言の大学名が、こっちの世界の大学のことで、そのケイカクとやらがもし、大罪人の言葉であれば街中心にあるその大学に何かが起こるはず……普通に考えれば、その化け物とやらを発生させること……


意味がわからない中で、僕に1つの疑問が浮かんだ。

ーー計画ってなんだ……? 数年前から化け物は増えているんだから、計画せずとも大学に送り込めばそれでいいのでは……、計画って、何かを順番に行うためにしたり、下準備をすることだよな……? 計画、計画って……?


僕の考えすぎなのかもしれないな。 言葉なんて曖昧なものだし……


「虹、他に何か思い当たる節はないかい、何でも良いんだ……、知らない声が聞こえたとか……」

知らない声……そう言われて、頭を過ぎったのはさっきの眠っている間に、嫌な感じのした空間で聞いた知らない男の声だった。

眠っていたときだから、夢だったのかもしれないし、その大罪人という人の声じゃない可能性もある。けれど、何でも良いと言う朝霧は、縋るものが僕のこの力しかないようだったし、自信なさげに話した。


「……さっき、こっちに来る時、僕、気を失ってた時に……


『ワタシタチハカゾクダ』

『ダカラ、モウキミタチイガイハイラナインダ』

って、知らない男の人の声で……、でもさっきの計画とは全く無関係な内容だったし、違う人の声かも……ていうか、ただの僕の夢なのかもしれない……」


機械音のような音ともに、消えていった声の主に悪寒が走り、どうにも逃げ出したくなったことを今でも覚えている。

自信なく、下を向きながらポツポツと話し終えた後に朝霧の顔をチラッと覗き見る。
朝霧は僕の視線に気づいていないようで、何かを考え込んでいるようだった。
ブツブツと何かを唱えているようだった。その顔は、僕を見る顔と全く違うことにゾクリとした。
人とは本当に怖いものだ、二重人格かよっていうくらい別人の顔だ。


「……君たち、以外はいらない……」

そう言うと朝霧の顔が歪んだ。少し冷や汗のようなものをかいている。不味い、と言わんばかりの顔に僕までも顔が歪んだ。


「……それが、もしもあの子の言葉なら、望むのはこの世界の人を消すこと……その『家族』以外を殺すことなのかもしれないね」

そう言われ、僕はゾッとした。無理やり繋げようとすれば繋げることが出来た。
僕はどこかでこの謎の声の正体が、その大罪人に、あの子にならない事を望んでいた。

嫌だったんだ、逃げたいんだ、その声を聞けるのは僕しかいなくて、計画を知ることが出来るのも僕しかないない。

だから、『家族以外を殺す』という答えにたどり着かないように考え込んでいた。
だって、もし、そうならと考える。



その最悪な計画を止めることが出来るのは、僕でしかない。

まだ起こっていないH大学での計画、その主が求めることが、この世界の人の多くの命を奪うことであれば、事前に防ぐには僕の人の心の声を聞くことで、先回りするしかない。

だが、自分が人の心を読めるのだと知ったのは、さっき朝霧に言われたからだ。「人の心を読むこと」が出来ていても、「自分で理解すること」が出来ていない……。だから、僕には自信が無い。


頼んだと言われて、責任を持って引き受けることなんてできない。
まず、僕は「H大学の計画」なんて言った記憶も、聞いた記憶もない。たまたま、朝霧がそれを見ていて、僕の無意識の中で話した言葉に気づいただけだ。僕のおかげじゃない。本当は、朝霧が気づかなければ、見ていなければ、僕はそんな計画なんて知らなかった。



「……虹、大丈夫かい」

朝霧に名前を呼ばれ、ビクッとした。大丈夫かと聞かれるほど僕の顔は怖ばっていたらしい。



だって、僕には無理だろ……そんなこと。計画のことだって、いつ起こるとか、何をするとか、そんなことすら分からないんだ。こっちの世界の人達の命がかかっている…だから、計画の内容を知らぬ人の声を聞き出せと言うのか。


「……きっと、僕は……その子を救えない。 この計画を、止めることもできない……、僕に期待しないで……」


幼い頃から誰から期待されることもなかった。悲しいことなのかもしれないが、それで僕は良かったとさえ感じていた。
期待されなければ、何かをしてほしいと思われなければ、僕に役割や責任が無ければ責められることもないと思っていた。

嫌だった、言われのない言葉で攻め続けられることが。それなのに、誰かに失望されて、更に責められるなんて耐えられなかった。


僕に期待するな、責任を押し付けるな……僕を責めないでくれ。いつだって僕は心で叫んでいたんだ、助けて欲しいって。


それでも助けてくれる人なんていなかった、皆が敵に見えた。最初は親切な人も次、顔を合わせれば、僕から逃げ、強い言葉を僕に投げてきた。




ーーー人は理由なく僕を助けてはくれない。

「……きっと、僕はその子を救えないし、この世界の人も救えない……だから、約束はなかったことにして、ください……僕を助けなくていいので……」


この人もそうだ、僕を助けたいんじゃなくて、その"大罪人"と呼ばれる人を助けたいんだ……。
理由が必要なんだ、僕を助ける理由が…いや、僕がその子を助けなければいけない理由が……。

僕がその子を助けなければいけない理由が、「僕を守る」ことならば、その理由を無くしてしまえば良いのだ。


理解してしまえば、簡単なことだった。この朝霧は、僕を助けるんじゃない、僕にとって親切な人じゃない。いつものことじゃないか。
最初、出会った時、この人なら僕を助けてくれるんじゃないかと思った。あの義父母から助け出してくれたから。でも、それは無条件で助けたわけではなかった。
裏に合った理由がそうさせたんだ。

「……僕に、僕を助けてもらう資格なんて、ないでしょう……」

喉の奥から絞り出すように、か細い声で朝霧にそう言った。


僕も理由をなくして、その子を助けることから逃げた。
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