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H大学事件編
24咲 夢花
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24咲 夢花
身体の痛みがすぅと消え、病院のような薬の匂いに包まれる。自分は生きているのだと実感し、ゆっくりと目を開けた。
知らない白衣を身に纏う女の人が、僕の横に立っていた。自分がベッドに転がされているのだと気づき、薬品のような匂いに女医さんなのかと思った。
「……っ、ぅ、げほっ、ぉぇっ」
僕の嗚咽のような咳のような声にその女の人は、僕の方を振り向いた。綺麗な顔の女性だった。黒く長い髪が束ねられていて、振り向くとそれがふわりと浮かぶ。
「……あぁ、良かった。目が覚めたのか」
言葉遣いは男のような感じだったが、目を覚ます僕に白く細い腕が近づき、額に手を当ててくる。
「……うん、熱もなさそうだ。 身体の痛みはまだあるか?」
僕はそう言われ、ハッとし、ブンブンと顔を振る。しかし、振ったはいいが、少し喉に違和感はある。締め付けられたせいか、声が出そうにない。
「……っぁ、あ"、っ!」
声を無理やり出そうとすると、痛みがあった。女の人は「声を出すな」と僕に言って、喉辺りに手を当てる。哀歌同様に手を当てるとそこが光る。この人も回復魔法を使える人なのか……。ただ、哀歌と違って力で圧をかけずしても、魔法が使えるようだった。
「…っ、は、はぁ……あの……」
僕の声は元通り、出るようになり痛みもなかった。喉を擦ると掴まれた時の痛みや跡も消えていた。哀歌がやったのか、この人がやったのか……。
「……よかった、目が覚めたんだね」
朝霧の声がした。少しホッとしたような声で僕に話しかける。しかし、哀歌と海未の姿はそこにはなかった。
「……2人はもう、部屋で休んでいるよ。 ほとんど無傷だったしね、虹は重症だったからこっちに運んだけど」
僕はホッとした。あの後、気を失い何か起きたのでは無いか、あの怖い不気味な男に何かされたのでは無いか、と思い不安になっていたからだ。
「……あ、あの……、朝霧さん……」
けれど、聞きたいこと言わなければいけないことが沢山あることに気づいた。あの化け物の中にいた人の声、言葉。そして、真城 白葉のこと。あの不気味な男について……。
「虹、聞きたいことがあるんだね」
僕は急いで首を縦に振る。しかし、それより隣にいる女の人の存在が気になって仕方がない。すると、気づいたように朝霧は「ああ…」と言った。
「彼女は咲 夢花、研究員だ。 ここで1番優秀な研究員でね、今日の化け物の……、中から出た身体の解析を頼んだんだ」
「……咲 夢花だ。 目が覚めてよかったよ」
手を出され握手を求められているのだと理解し、僕も手を出し握る。
「……あの遺体……、化け物の本体の人間は先日化け物によって襲われた小さな村での被害者家族の遺族……、亡くなった戸籍名簿に名前もなく、村から姿を消した人物だ」
「……その家族って……娘さんと……奥さんです、か」
そう言うと咲は驚いた顔をした。そして、「そ、そうだが」と答えた。やっぱり、あの男が言っていた嫁と娘……ペットに喰われたっていうのは……化け物のことだったんだ。
「……あの人、その2人を助けたかったって……助けるためにあんな風になったんだって……」
僕は足に覆いかかる掛布団をギュッと握りしめる。
「……虹、あの中身の人間の声、そして、あの影の中でのことを聞かせて欲しい」
朝霧は僕の握り締める手の上に自分の手を置いてそう言った。相変わらず朝霧の手は冷たい。
「っ……あの人、あの、不気味な男に……操られていたんだ、きっと……。本当はこんなことしたくないって、殺したくないって……言ってた。ただ、家族を助けたいからっ、あんな風になっちゃったんだ……、亡くなった2人を助けれるって思ってたんだ……! ……動いてた手足もあの男がどこからか、指示してた。それに反応するように中で復唱していたのを僕が聞いたんだ、だから次動く方向が僕には分かって……、それから……っ」
僕は息切れをしながら、話すことが上手くまとまらずに思い出したことをそのまま話している形になっていた。
咲は「落ち着け」と僕の背中を擦り、朝霧も微笑みながら僕を見ている。
大丈夫、この人は信じてくれる……。
「っ、あの影の中はよく分からない空間だった。真っ暗だし、あの男と僕以外いなかった…と思う。朝霧さんの名前も……多分2人のことも知っていた。僕のことは知らなかったみたいだけど……。計画っていうのも詳しくは分からなかったけど、今日のことだったみたい……それに、『アイツの望み』が叶えられないって言ってた……。他の街の外れに化け物が出たのも、朝霧さんがそっちに行って、大学には来れないようにするためだった、らしい……。今日のは最初の計画って言った、たから……………」
言い終えて僕の顔が真っ青になっていく。冷や汗が垂れた。最初………ってことは、続きがある。
「っあ、ど、どう、しよ……、こ、こ、れが最初って……」
「落ち着いて、虹。 それは私も気づいていた。あの男が去り際にやらなきゃいけないことがあるって言っていただろう、恐らく……これで終わらない」
朝霧はグッと顔をしかめる。今回のことは僕が知らない……恐らく計画を企てた男の声を聞いて知ることができた。けれど、これに次があり、それを僕が聞くことが出来るとは限らない。
……もし、続きの計画が分からず、朝霧や哀歌、海未のいないところで同じことが起きたら……街への被害、住民の命は無いと考えて良い。
「……化け物の解体は、これまでに何度もしているが、人間の遺体が出てきたのは初めてだ。 計画というものの1つの準備が、人間を化け物化させることだとしたら、これからの計画にはこんな人間の遺体を取り込んだ化け物が出てくることになるかもしれない」
咲は冷静な声でそう言った。人が、取り込まれている化け物……。しかも、声が聞こえていたということは、取り込まれている時は死んでいない、生きた状態だ……。化け物を狩らなければ被害が出る。けど、中身はもとは人間、化け物を狩るということはその人を殺すということだ。
「……っぉえ……」
吐きそうになる。嗚咽が漏れる。誰かが死ななければ計画を止めることも進めることもできない。きっと、僕らは止める方……化け物に取り込まれた人間を殺す方にしかなれない。
殺す、僕達が……殺さなきゃ、終わらない……。
僕はきっと手を下す側にはならない。力がない。朝霧や海未のような剣術もできない。けど、目の前で2人が人を殺していると思うと、気持ち悪くなる。
正しいのに、守っているのに、2人が怖く感じる。人を殺すと処罰されるのが僕の元いた世界の規定だった。だから、殺すのは悪いことで、それをする人は悪い人……じゃあ、2人は悪い人で処罰される対象なのか……? この世界では違う。
「……ぅう……」
「……虹、今日は疲れたね。 もうここで休みな」
朝霧にそう言われ、僕は頷いた。頭がガンガンと痛む。傷つけられた痛みじゃない。中から、痛みが増していく。
朝霧は部屋を出た。「上に報告してくるね」と言い残して。僕は咲と2人になり、咲は僕に横になるように促した。
「……っふ……、やはり気味が悪いな、今のアイツは」
咲がぼそりと何か言った。僕は聞き返そうとしたが、そうしてはいけない気がした。咲の顔が切なそうで、深く聞いてはいけないと感じた。
咲は横になった僕の顔を見ると、また額に手を当てた。
「……君は良い子に育ったんだな………、あんな環境だったのに……」
当てたかと思えば、額を撫でるようにしてそう言った。その手が心地よくなってきて、咲が「もう寝な」と言うと、頭が楽になり、睡魔が襲う。恐らく額に手を当てながら、何か魔法をかけたのか。僕はすぅと寝てしまった。
「……上のやつらはなんだって」
「まぁ、勝手に私たちがH大学に潜入していたことに文句は言われたけど、結果が結果だからね、お咎めはなしだったよ」
朝霧と咲は真夜中に、研究室の一室で話をしていた。上層部の人達に呆れながらも、化け物の中にあった遺体の欠片を見つめる。
「……そういえば、さっき報告がきた。 昨夜から真城 白葉は行方不明で家族から昼頃に連絡が来ていたらしい」
「……あの男が攫ったのかな、それで?」
遺体の欠片をピンセットでツンと触る咲は、朝霧の方を見ずに欠片を試験管の中に入れる。
「……先程、家の前に遺体が置かれていたらしい。ご丁寧に返すとは……良い奴なんだか悪い奴なんだか…………」
「……死因は」
「市販で売っている刃物で心臓を一突き、特に魔法なんてものはかけられていなかった。指紋もないし、遺体を置いた人を見た人もいない」
試験管にトプトプと液体を流し入れていく。
「……情報はなし、ってことだね」
試験管を振りながら、液体の色が変わっていくのを見ながら、咲は朝霧の言葉に頷いて返事をした。
身体の痛みがすぅと消え、病院のような薬の匂いに包まれる。自分は生きているのだと実感し、ゆっくりと目を開けた。
知らない白衣を身に纏う女の人が、僕の横に立っていた。自分がベッドに転がされているのだと気づき、薬品のような匂いに女医さんなのかと思った。
「……っ、ぅ、げほっ、ぉぇっ」
僕の嗚咽のような咳のような声にその女の人は、僕の方を振り向いた。綺麗な顔の女性だった。黒く長い髪が束ねられていて、振り向くとそれがふわりと浮かぶ。
「……あぁ、良かった。目が覚めたのか」
言葉遣いは男のような感じだったが、目を覚ます僕に白く細い腕が近づき、額に手を当ててくる。
「……うん、熱もなさそうだ。 身体の痛みはまだあるか?」
僕はそう言われ、ハッとし、ブンブンと顔を振る。しかし、振ったはいいが、少し喉に違和感はある。締め付けられたせいか、声が出そうにない。
「……っぁ、あ"、っ!」
声を無理やり出そうとすると、痛みがあった。女の人は「声を出すな」と僕に言って、喉辺りに手を当てる。哀歌同様に手を当てるとそこが光る。この人も回復魔法を使える人なのか……。ただ、哀歌と違って力で圧をかけずしても、魔法が使えるようだった。
「…っ、は、はぁ……あの……」
僕の声は元通り、出るようになり痛みもなかった。喉を擦ると掴まれた時の痛みや跡も消えていた。哀歌がやったのか、この人がやったのか……。
「……よかった、目が覚めたんだね」
朝霧の声がした。少しホッとしたような声で僕に話しかける。しかし、哀歌と海未の姿はそこにはなかった。
「……2人はもう、部屋で休んでいるよ。 ほとんど無傷だったしね、虹は重症だったからこっちに運んだけど」
僕はホッとした。あの後、気を失い何か起きたのでは無いか、あの怖い不気味な男に何かされたのでは無いか、と思い不安になっていたからだ。
「……あ、あの……、朝霧さん……」
けれど、聞きたいこと言わなければいけないことが沢山あることに気づいた。あの化け物の中にいた人の声、言葉。そして、真城 白葉のこと。あの不気味な男について……。
「虹、聞きたいことがあるんだね」
僕は急いで首を縦に振る。しかし、それより隣にいる女の人の存在が気になって仕方がない。すると、気づいたように朝霧は「ああ…」と言った。
「彼女は咲 夢花、研究員だ。 ここで1番優秀な研究員でね、今日の化け物の……、中から出た身体の解析を頼んだんだ」
「……咲 夢花だ。 目が覚めてよかったよ」
手を出され握手を求められているのだと理解し、僕も手を出し握る。
「……あの遺体……、化け物の本体の人間は先日化け物によって襲われた小さな村での被害者家族の遺族……、亡くなった戸籍名簿に名前もなく、村から姿を消した人物だ」
「……その家族って……娘さんと……奥さんです、か」
そう言うと咲は驚いた顔をした。そして、「そ、そうだが」と答えた。やっぱり、あの男が言っていた嫁と娘……ペットに喰われたっていうのは……化け物のことだったんだ。
「……あの人、その2人を助けたかったって……助けるためにあんな風になったんだって……」
僕は足に覆いかかる掛布団をギュッと握りしめる。
「……虹、あの中身の人間の声、そして、あの影の中でのことを聞かせて欲しい」
朝霧は僕の握り締める手の上に自分の手を置いてそう言った。相変わらず朝霧の手は冷たい。
「っ……あの人、あの、不気味な男に……操られていたんだ、きっと……。本当はこんなことしたくないって、殺したくないって……言ってた。ただ、家族を助けたいからっ、あんな風になっちゃったんだ……、亡くなった2人を助けれるって思ってたんだ……! ……動いてた手足もあの男がどこからか、指示してた。それに反応するように中で復唱していたのを僕が聞いたんだ、だから次動く方向が僕には分かって……、それから……っ」
僕は息切れをしながら、話すことが上手くまとまらずに思い出したことをそのまま話している形になっていた。
咲は「落ち着け」と僕の背中を擦り、朝霧も微笑みながら僕を見ている。
大丈夫、この人は信じてくれる……。
「っ、あの影の中はよく分からない空間だった。真っ暗だし、あの男と僕以外いなかった…と思う。朝霧さんの名前も……多分2人のことも知っていた。僕のことは知らなかったみたいだけど……。計画っていうのも詳しくは分からなかったけど、今日のことだったみたい……それに、『アイツの望み』が叶えられないって言ってた……。他の街の外れに化け物が出たのも、朝霧さんがそっちに行って、大学には来れないようにするためだった、らしい……。今日のは最初の計画って言った、たから……………」
言い終えて僕の顔が真っ青になっていく。冷や汗が垂れた。最初………ってことは、続きがある。
「っあ、ど、どう、しよ……、こ、こ、れが最初って……」
「落ち着いて、虹。 それは私も気づいていた。あの男が去り際にやらなきゃいけないことがあるって言っていただろう、恐らく……これで終わらない」
朝霧はグッと顔をしかめる。今回のことは僕が知らない……恐らく計画を企てた男の声を聞いて知ることができた。けれど、これに次があり、それを僕が聞くことが出来るとは限らない。
……もし、続きの計画が分からず、朝霧や哀歌、海未のいないところで同じことが起きたら……街への被害、住民の命は無いと考えて良い。
「……化け物の解体は、これまでに何度もしているが、人間の遺体が出てきたのは初めてだ。 計画というものの1つの準備が、人間を化け物化させることだとしたら、これからの計画にはこんな人間の遺体を取り込んだ化け物が出てくることになるかもしれない」
咲は冷静な声でそう言った。人が、取り込まれている化け物……。しかも、声が聞こえていたということは、取り込まれている時は死んでいない、生きた状態だ……。化け物を狩らなければ被害が出る。けど、中身はもとは人間、化け物を狩るということはその人を殺すということだ。
「……っぉえ……」
吐きそうになる。嗚咽が漏れる。誰かが死ななければ計画を止めることも進めることもできない。きっと、僕らは止める方……化け物に取り込まれた人間を殺す方にしかなれない。
殺す、僕達が……殺さなきゃ、終わらない……。
僕はきっと手を下す側にはならない。力がない。朝霧や海未のような剣術もできない。けど、目の前で2人が人を殺していると思うと、気持ち悪くなる。
正しいのに、守っているのに、2人が怖く感じる。人を殺すと処罰されるのが僕の元いた世界の規定だった。だから、殺すのは悪いことで、それをする人は悪い人……じゃあ、2人は悪い人で処罰される対象なのか……? この世界では違う。
「……ぅう……」
「……虹、今日は疲れたね。 もうここで休みな」
朝霧にそう言われ、僕は頷いた。頭がガンガンと痛む。傷つけられた痛みじゃない。中から、痛みが増していく。
朝霧は部屋を出た。「上に報告してくるね」と言い残して。僕は咲と2人になり、咲は僕に横になるように促した。
「……っふ……、やはり気味が悪いな、今のアイツは」
咲がぼそりと何か言った。僕は聞き返そうとしたが、そうしてはいけない気がした。咲の顔が切なそうで、深く聞いてはいけないと感じた。
咲は横になった僕の顔を見ると、また額に手を当てた。
「……君は良い子に育ったんだな………、あんな環境だったのに……」
当てたかと思えば、額を撫でるようにしてそう言った。その手が心地よくなってきて、咲が「もう寝な」と言うと、頭が楽になり、睡魔が襲う。恐らく額に手を当てながら、何か魔法をかけたのか。僕はすぅと寝てしまった。
「……上のやつらはなんだって」
「まぁ、勝手に私たちがH大学に潜入していたことに文句は言われたけど、結果が結果だからね、お咎めはなしだったよ」
朝霧と咲は真夜中に、研究室の一室で話をしていた。上層部の人達に呆れながらも、化け物の中にあった遺体の欠片を見つめる。
「……そういえば、さっき報告がきた。 昨夜から真城 白葉は行方不明で家族から昼頃に連絡が来ていたらしい」
「……あの男が攫ったのかな、それで?」
遺体の欠片をピンセットでツンと触る咲は、朝霧の方を見ずに欠片を試験管の中に入れる。
「……先程、家の前に遺体が置かれていたらしい。ご丁寧に返すとは……良い奴なんだか悪い奴なんだか…………」
「……死因は」
「市販で売っている刃物で心臓を一突き、特に魔法なんてものはかけられていなかった。指紋もないし、遺体を置いた人を見た人もいない」
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