もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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H大学事件編

25羨む心

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25羨む心

真城 白葉の遺体は胸に刃物が刺さったまま、自宅の玄関前に置かれていたらしい。夜になって、仕事から帰宅した彼女の父親に発見された。人通りの多くない住宅街ではあったが、置かれる現場を目撃した人もおらず、父親が帰ってくる数分前にでも置かれたのか、彼女のことを通報する電話もなかった。


「母親は叫ぶように泣いていたらしい、そりゃそうだろうな、帰ってこなくて心配だった実の娘が遺体となって帰ってきたんだから」

咲 夢花は淡々と何の感情もないような声で朝霧なそう言った。咲は研究隊員の中のトップ、リーダー的存在であり、誰よりも知識が高く、優れた研究結果を出していた。


初めての能力強化の薬を作り出したのも咲だった。裏の世界では人によっては魔法や能力を持ち、生まれる者とそうでない者に分かれる。朝霧は、それの持って生まれた側の典型例。身体能力、魔法、飲み込みの速さ……何をとっても優秀な恵まれた男だ。
咲自身も回復魔法に特化した能力を持って生まれた。親の遺伝も強く影響するのか、親も回復魔法を使うことができた。しかし、咲はそれを上回る程に魔法の力が強く、死人以外であれば元通りにできる全回復魔法を使えた。


かと言って、持たない人間が虐げられることがないわけではない世界だ。そこで作り出したのが、害を与えない程度に身体を強化させる、威力はかなり落ちるが魔法、能力を持つ身体を作り出せる薬を開発した。外から身体内部に注入する注射型の薬である。
身体内に外からそれらを作り出せる細胞を入れる。過剰摂取すれば身体が耐えられず死に至る可能性もあるが、それを調整し作り出した。欲しがる人は多かった。
しかし、国家機関に所属する者だけに与えられる規定となっており、一般には出回っていない。
力が欲しければ、国のもとで働けと言う上からの圧だ。



「……虹には言うべきではないかもね、他人の死に対して慣れていないんだ。 きっと今もそれで悩んでいる。 化け物とはいえ中にいたのは人間。それを殺すということは、虹にすれば人間を殺していることと同じだ」



「……随分、あの子に優しいんだな」


咲は嘲笑うように朝霧にそう言った。そして、1枚の紙を朝霧に渡す。


「死人で思い出したよ、今日の街外れでの隊員の死人リストだ」



もちろん力を手に入れれば、強くはなる。しかし、それより強いものがいるのも確かであり、それが今における化け物たち。それに負ければ怪我、死に至る、それが普通の世界だ。
機関内では死人は当たり前のように出る。攻撃部隊なんてほぼ毎日そんな状態だ。それを率いる朝霧や、死体解剖をする咲にとって死人を見ることなんて日常茶飯事だ。


「……ここにいる子たちは皆、死に近い存在だと分かっている。だから、麻痺してたんだ、死人が出ることが異常であることに。虹を見てやっぱり、人が死ぬってのは恐いことなんだと思ったよ」



「……それを私たちが感じるはずないだろう。 恐いと思っていてもそんなのと毎日対面するんだ、恐いも何も無くなる。 辛い日々がどんどんと当たり前になる」



感情がない訳では無い、ただ2人は感情が麻痺していた。恐い、辛い、悲しい、それをずっと感じていれば苦しいのは自身だと分かってしまったから、それを普通のことだと思い、強く感情が揺れないようにした、そうなった。



「……………私が守らないといけないんだよ、虹は。 彼は今の世界においてこの事件を止めるのに必要な子だ」


「…………ふふっ」


咲は朝霧を見て、声を出して笑う。朝霧は「何」と冷たく咲を見た。







「やはり似合わないな、お前が『私』なんて。何度聞いても震えが止まらないよ」



そう言いながら、咲はまた嘲笑うように朝霧を見た。














「アンタ、大丈夫なの」


咲に貸してもらったベッドの上に寝ていると、ノックもなしに扉が開き、ズカズカと哀歌が入ってきた。
そして、僕が寝ていたベッドの上に腰をかける。僕は驚いて、身体の動きが静止した。


「……あ、哀歌さん、どうして……ここに……」



「奏斗さんに聞いたら、ここにいるって言ってたからよ」



そうじゃなくて、何で僕の元に来たのかを聞きたかったのだけど……。


「……傷、消えてるわね。 夢花さんに魔法をかけて貰ったのね」


僕の首元に哀歌の手がピタリとくっつき、昨日の締められて出来た痣のあったであろう場所を見た。


「……………やっぱり、夢花さんは凄いわね」


悲しそうな顔をして、哀歌はそう言った。僕にはその顔の理由が分からなかった。
哀歌は僕の方を睨むような目つきで見てきた。ドキッとし、顔を少し後ろに動かした。




「……私、アンタが羨ましいわ」


ボソリとそう呟く哀歌は俯きながら、今にも泣きそうな顔だった。何で僕が羨ましいんだ……? 朝霧の横にいるから……?


「……な、なんで……、僕より哀歌さんとか、海未さんとかの方が強いし……」


「……………私は強くなんかないわよ」


ベッドにシーツをグッと握り締め、絞り出すような声で僕にそう言った。
そして、僕の首に再度手を当ててくる。


「…………アンタ、この機関のことなんて何も知らないんでしょ。 確かに私はこの中じゃそれなりに優秀な方よ」

威張り気味にそう言うのだから、やっぱり凄いんじゃないか、と思った。自慢をしたいのか、とも思ったが、どうやらそうでは無いようだ。



「……でもね、上には上がいるの。1番上は奏斗さん、私がこの世で最も尊敬する人よ。……分かりやすく言うとね、奏斗さんは何でも出来ちゃうの」


僕は少し疑問があるような顔をしながら話を聞き続ける。その顔に気づいたのか、1度ため息をついた哀歌は、だからね、と続けた。


「あの人だって完璧な訳じゃない。もちろん、あの人は強いし、魔法だって使えるわ。でもね、力を10段階で分けると、攻撃は10だとしても魔法……、あの人も回復魔法を使えるの。けど、それは5、頭もいいけど研究員の夢花さんには、叶わない……そうね7くらいね。 でも、あの人には0のものなんてなかったわ」


分かりやすく説明してくれているのだろうけど、何一つ理解は出来ていない。つまり、ほとんどのことはそれなりに出来るし、攻撃においては完璧な人と言いたいのだろうか。


「……アイツ、海未は回復魔法なんて使えないけど、攻撃の力は7、頭の良さは3くらいはあるわ。けどね、私は力がないのよ、0なの。回復魔法だって、完璧じゃない。せめて人を死なせないように保つのが精一杯、夢花さんみたいに全回復なんてできないの。そうね、6か7くらいよ」


僕は何となく哀歌の言いたいことが分かった気がする。自分は何も出来ない訳では無いけど、周りよりも自分が劣っていると思ってしまったのだ。


「……回復魔法は生まれつき持ってた。 けど、夢花さんがいれば私は必要ないの。 あの人がいれば私よりも役に立つの。攻撃部隊において、回復魔法ができるのは私と奏斗さんだけ。 けど、奏斗さんは攻撃を率先しているから回復魔法を使うのは私だけ、だから私がいる」


僕の首元からするりと手が落ち、僕の服の袖を握る。それでも、僕を羨む気持ちが分からない。


「……っ、アンタは、力も魔法もないし、頭も悪いの!0なのに……」


急な怒ったような口調にビクリと身体を震わせた。
哀歌は悲しそうな辛そうな顔をする。

「……でもね、奏斗さんにも、誰にもない、皆が0な特殊な才能が能力が、アンタにはあるの。それが1だとしても、アンタが唯一それを持ってるの。 アンタしか、誰もそれに関しては頼れる人がいないのよ……」


僕の袖を掴む力がギリギリと強くなっていく。哀歌は僕、というよりも僕の持った人の心が聞こえる力が羨ましいのだ。


「……アンタには替えがいないのよ……、でもね、私にはいくらでも替えがあるのっ……」


そんな風には辛く言う哀歌に僕は何も声をかけることができない、見つからない。
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