もう1つの世界で家族を見つけた話

永遠

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H大学事件編

26ソイツのためなら

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26ソイツのためなら

闇に包まれた空間に男は1人の男を待っていた。
暗い中、フワリと浮かびながら椅子に座るように足を組んで、待ち時間を過ごしながら、1人の子供のことを考える。


自分の変装術には自信があった。国の中で1番戦いたくない、最悪の敵だと考えている朝霧 奏斗、向こうの組織が最も信じた人間ですら、気づかなかった。
自分の知っている国家組織の人間の中には、存在しなかったはずの………餓鬼だった。


朝霧 奏斗、志波 哀歌、瀬良 海未は国家組織の中でも優れた能力や、魔法の使い主だった。だから、街外れで事件を起こすことで、そちらに駆り出されることは確かだった。


……なのに、その3人があのH大学にいたのは、あまりに予想外であり、計画の邪魔でしかなかった。本当は、国家組織の人間はあの中に1人もいないはずだった。民衆のみを集め、あそこで全員を喰う……殺すはずだった。そうすれば、街中心に住む人は、少なからず死ぬ。そして、そこに間に合わなかった国家のヤツらは、国全体から避難を浴びる。それを見るのが楽しみで仕方なかったのだ。


朝霧 奏斗はそいつを『虹』と呼んだ。見たことの無い餓鬼だった。
しかも、どういうことか実験台……失敗作の人間を取り入れたペットの動きを先読みしたかのように大声で叫ぶ餓鬼だ。


……正直気味が悪いと思ったが、それ以上に興味深く面白いとも思った。
あんな気味の悪い怪物の行動を読む餓鬼、そして変に観察力があり、自分の変装に初めて気づいた。


前日に変装するために、あの大学の学生……名前は忘れたが、女を1人殺した。そいつ名前と容姿を借りて、今回の事件を起こした、朝霧 奏斗も他2人も、そして『虹』とか言うやつも初めは気づいていなかった……。
ただ、あの女学生のオトモダチの近くにいなかったことを理由に自分の存在に気づき、しかもあの怪物の失敗作を動かしていたと言った。
しかも、自分だけがいない、他の奴とはいたことを記憶していたというおかしな事も言っていた。


変装術と能力を見透かされたのは驚いた。朝霧 奏斗も人の身体を操ることはできるが、それは近くにいる人間だけであり、人間以外には恐らくできない。


……なのに、何でアイツは気づいた……?







ーーーーーーパシャン


『やぁ、兄さん。 帰りが遅かったね……、その顔、何かあったのかな』



男は至って優しい口調でそう言った。こいつは、自分に、カゾクにはこうだった。


『…………上手くはーーー……いかなかったみたい、だね。 ……………朝霧 奏斗かな……』



「…………違う、知らない餓鬼だ。 アイツが計画をめちゃくちゃにした」



男は驚くことをしない。「へぇ……」と興味ありげに、もっと詳しく聞かせろという顔で自分を見てきた。


「…………変なやつだ。 今回、国家組織の奴らが来ないようにと街の外れに過去に無いほどの、大量の、俺らのペットが現れ、朝霧 奏斗……その他の奴らもそっちに行くと踏んでいた。……だが、事件が起こるより前に、アイツらこっちにいた……まるで、こっちで本番が起こることを知っていたかのように」


『……事が起きる前に、ねぇ……。 おかしいね、おかしいな、そんなことさぁ、起こらないはずだよねぇ』


今にも笑い出しそうな声、これがこいつの普通だ。


「……朝霧 奏斗はそいつを『虹』と呼んでいた。国家組織名簿には見たことの無い名前だ」


『………………虹、虹、虹かぁ……いい名前だなぁ、僕とは真逆だ』


真逆の意味もよく分からないが、こいつが言うのならそうなのだろう。
いつだって、自分たちの中ではこいつが正しい。正しい道に導くのはこいつしかいない。他の奴らが何と言おうと、こいつが絶対だ。


『……兄さん、大丈夫だよ。 計画はまだ序盤だ……、最後が良ければ、何だって同じなんだよ』


そいつはヘラッと可愛く笑う。大事な大事なオトウト。こいつの望みが叶うなら自分たちは何でもするんだと誓った。


『……………その、『虹』って子について詳しく聞かせてよーーー……』


自分の顎をそいつの指の上に乗る。まるで、犬や猫にでもなった気分だ。けれど、そいつだけは許してやれる。





だって……オトウトなんだから。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『……虹、虹か……うん、いい名前だ。僕とは全然違う……。 でも、朝霧 奏斗の方にいるのかぁ……残念だなぁ』


男は暗闇の中をパシャ、バシャと水音を立てて歩いている。独り言を大声で言う。


久々に、朝霧 奏斗以外に、やっとできた興味深い人間が『虹』だった。名前が気に入った、どんな人かも分からなくて良い。兄から聞いた話だけで、興味深い対象になる。


『……そっかぁ、聞こえるんだぁ………、僕らの可愛いペットの声が……いいなぁ、僕には聞こえないから何言ってるか分からないのになぁ』



ふふっと子供のように、それでも不気味な雰囲気で笑う男は立ち止まる。にっと歯をむきだしにして笑いながら呟く。



『……でも、殺さなきゃ………なぁ……』




そう言って、男は暗い暗い空間からふっと姿を消した。水の波紋だけが残っている。










                ーーー第1章  終ーーー
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