精霊の愛し子~真実の愛~

松倖 葉

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第一章  始まり

第一話

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ガバッ


「ッ……!」

「はぁはぁ……」

胸元を震える手で握りしめ固く目を閉じる

「また、あの時の夢…」

少し落ち着いてきたのか、段々と震えが治まってくるのを感じた

登り始めた太陽の光が、辺りを照らし始める。差し込んでくる、暖かな光を感じ、ざわついていた心が、落ち着きを取り戻す

顔を洗うため、家から少しの距離にある泉に向かっていた時

「シェリ!」

少し離れた場所から女の子の声が聞こえてくる。
声がした方に視線を移すと、成人男性の握りこぶし大程の小さな女の子が目に映りシェリは自然と笑顔になるのを感じた。

「私のシェリ!ごきげんいかが?」

女の子がとても嬉しそうに問いかけてくる。

「とてもいいよ。君は?」

宙に浮く女の子の小さな頭を優しく撫でながら聞き返す。答えたことに興奮したのか女の子はシェリの周りを飛び回る。

「いいよ!とてもごきげん!」

キャッキャと背中の羽をピクピクとさせ、とても嬉しそうだ。

彼女は精霊と呼ばれている存在だ。精霊にもランクがあり彼女は下位の風の精霊シルフでとても好奇心旺盛だ。空の青と木々の緑が混じり合ったとても綺麗な髪が風に合わせ踊っている。

ニコニコとしているシルフを見ているうちに朝見た夢の事を忘れる事が出来た。

母に捨てられ死に際に光に包まれた時、シェリに意識はなかった。目覚めた時シェリの体は赤子から4~5才程になっており傍には精霊がいた。赤子だったが記憶は残っていて、目覚めた時から毎日の様に母に捨てられた時の夢を見るのだ。精霊はシェリを慰めるようにいつも笑顔でいてくれる。


生まれそして捨てられた場所から離れられず、心の何処かで`迎えに来てくれるかもしれない‘という思いを捨てきれなかった。日が経つにつれ、その場所がシェリにとっての家になっていった

初めは一本の大きな木があるだけの場所だったが、シルフや他の精霊たちが色々な物を運んで来てくれて決して「家」と呼べる様な物ではなかったが、シェリは心が温かくなるのを感じる事が出来てとても幸せだった。

家に戻ると森の精霊エントがいた。エントの側には木の実や果物が沢山おかれている。

「シェリ!食べ物持って来た!」

何処か誇らしげに持って来た食べ物を見せる。

「ふふっ。いつもありがとう。」

エントを抱き上げ優しく頭を撫でる。

赤子程の大きさのエントは恥ずかしがり屋で甘えん坊だ。だけど、しっかり者で思いやりがある。とても可愛らしくシェリにとって弟のような存在だった。

「今日は何処で取って来てくれたの?」

微笑みながらエントに問いかける。

「東の森まで行ってきたんだ!東の森は僕の住む森よりも大きくて色んな果物や木の実があるって聞いたんだ!シェリおいしい?」

少し興奮気味に答える。段々とシェリの反応が気になりだしたのか不安げに問いかけた。

「んっ…うん!とってもおいしい!いつもありがとうエント。」

小さな木の実を口に含みエントに美味しいと伝えると`また取ってくる‘と嬉しそうに、でも何処か恥ずかしそうに言う。

「そうだ!東の森に行った時人間がいたんだ!」

思い出したようにエントが言った。

「人間?」

シェリは不思議そうに聞き返す。

「そう!人間だよ!お馬さんが大きな箱を運んでたんだけど、その箱の中に人間がいたんだよ!」

エントは身振り手振りで伝える。エントは馬車の中に人が乗っていたと言いたいのだが、あいにくシェリは馬車の存在を知らなかった為エントの言葉そのままに受け止めるしかなく、不思議な人もいるんだなとのんきに思っていた。

「そういえば僕、人に会った事ないなぁ。会ってみたいなぁ……」

家のある森から出たことが無かった為、自分と精霊以外には会ったことが無いのだ。

「……エント。僕を東の森に連れて行ってくれない?僕も人に会ってみたい!」

ワクワクした表情でシェリにお願いをされてしまったエント

「うっ…でもっ…」

断りたいがとても断れそうにない

「お願い?」

エントには効きすぎるほどのお願いだ

「……分かった。でも!見るだけだよ!近づいちゃだめだよ!」

とても心配そうにシェリに同意を求めた。

「分かった!ありがとうエント!」

腕に抱いていたエントを強く抱きしめる

シェリはもともと好奇心旺盛で色んな事に興味を示しては実際に見にいってみたり触れてみたりと活発である。この森から出なかったのは、単に母が戻って来てくれる。この希望があったからだ。

明日の早朝に東の森へ出発する約束を交わし、早々にシェリは床に就いた
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