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第四章 二人の愛し子
第二十五話
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「で、殿下?」
「おい、何言って…」
困惑する二人に目配せをする。長い付き合いの二人はラシードの考えを瞬時に理解する
「ありがとうございます殿下!アニタは怖くて…」
体を撓らせラシードにすり寄るアニタ。不快に感じつつも、これも主犯を見つけるためだと自分に言い聞かせた
「…所で、君の処遇なのだが、精霊も居なくなってしまって確認が取れなくなってしまった。すまないが確認が取れるまで客人として対応させてもらうが問題ないだろうか?」
「…構いません」
言葉とは裏腹に不服そうにするアニタ
「それは良かった。すぐに部屋へ案内するよう伝えよう。では、私は国務があるので失礼する」
軽く会釈した後、アニタの返事を待たずに部屋を後にするラシードにジェラルドが続いた
「案内の者が来るまでこちらでお待ちください」
ユアンはアニタに言った後二人に続いた。再び一人になったアニタは不快感をあらわにする
「…あの子はいったい何なの!?あんな子が居るなんて聞いてない!」
憎々しげにそう言うとドカッと椅子に腰かける
「…でもまぁ、あんな子が居たって僕が『愛し子』なのは変わらないんだから。確認が取れたらあんな子ここから追い出せばいいんだ」
不敵な笑みを浮かべるアニタ。案内人が来るまでアニタはこれからの事に考えを巡らせるのだった
ーーーー
ガチャ
シェリの部屋のドアが開く。椅子に腰を掛け書物に目を通していたシェリは顔を上げた
ドアの先に立っていたのはラシードであった
「シェリ、先ほどはすまなかったな」
「…?何の事ですか?」
本当に分からないとばかりに首をかしげるシェリに笑みをこぼすラシードはシェリの隣に腰を下ろした
「部屋に帰ってくれと言っただろう?」
「…え?それをすまないと?」
「そうだ」
「そ、そんな!謝られる事なんてありません!」
必死に首を振るシェリに再び笑みがこぼれた
「ふふ、それはありがたい」
ひとしきりシェリの頭を撫でた後、真剣な表情でシェリに向き直る
「シェリ、聞いて欲しい事があるんだ」
ラシードの真剣な表情にシェリは居住まいを正す
「先ほど、部屋に居た子の事だが…」
「はい」
「実は、彼は自分を『愛し子』だと言っているんだ」
「え?」
『愛し子』と聞いて疑問に思った。勉強にと渡された書物には『愛し子』は一人だけのはずだ
現に皆からシェリ自身が『愛し子』であると伝えられ、そのため役目を全う出来るよう勉学や訓練に励んでいるのだ
「愛し子は…」
シェリの困惑の表情にラシードは言葉をつけたした
「そうだ。『愛し子』はシェリ、君だけだ」
シェリはラシードの言葉に更に困惑した
「『愛し子』は君以外にはありえない。だけど、彼は自分が『愛し子』だと言っている。これがどういう事なのか分かるか?」
少し考えた後、シェリはおずおずと答えた
「…嘘…ですか?」
「ふふ、そうだ。だが、彼が一人で出来る事ではない。彼を利用している者がいる…私はそいつを捕まえたいんだ。その為には、私も『嘘』をつかねばならない」
「ラシードが…嘘を?」
「そうだ。今、彼を捕まえてしまっては、また精霊の犠牲が出る可能性が高いんだ。それだけは避けたいのでな」
先ほどのゴルヴァを思い出し、シェリは苦しそうに顔を歪める
「僕も嫌です…」
「私のつく『嘘』がシェリを傷つけてしまうかもしれない…だが、私を信じて欲しい」
ジッとラシードを見つめた後、シェリは言った
「僕はラシードを信じます」
「おい、何言って…」
困惑する二人に目配せをする。長い付き合いの二人はラシードの考えを瞬時に理解する
「ありがとうございます殿下!アニタは怖くて…」
体を撓らせラシードにすり寄るアニタ。不快に感じつつも、これも主犯を見つけるためだと自分に言い聞かせた
「…所で、君の処遇なのだが、精霊も居なくなってしまって確認が取れなくなってしまった。すまないが確認が取れるまで客人として対応させてもらうが問題ないだろうか?」
「…構いません」
言葉とは裏腹に不服そうにするアニタ
「それは良かった。すぐに部屋へ案内するよう伝えよう。では、私は国務があるので失礼する」
軽く会釈した後、アニタの返事を待たずに部屋を後にするラシードにジェラルドが続いた
「案内の者が来るまでこちらでお待ちください」
ユアンはアニタに言った後二人に続いた。再び一人になったアニタは不快感をあらわにする
「…あの子はいったい何なの!?あんな子が居るなんて聞いてない!」
憎々しげにそう言うとドカッと椅子に腰かける
「…でもまぁ、あんな子が居たって僕が『愛し子』なのは変わらないんだから。確認が取れたらあんな子ここから追い出せばいいんだ」
不敵な笑みを浮かべるアニタ。案内人が来るまでアニタはこれからの事に考えを巡らせるのだった
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ガチャ
シェリの部屋のドアが開く。椅子に腰を掛け書物に目を通していたシェリは顔を上げた
ドアの先に立っていたのはラシードであった
「シェリ、先ほどはすまなかったな」
「…?何の事ですか?」
本当に分からないとばかりに首をかしげるシェリに笑みをこぼすラシードはシェリの隣に腰を下ろした
「部屋に帰ってくれと言っただろう?」
「…え?それをすまないと?」
「そうだ」
「そ、そんな!謝られる事なんてありません!」
必死に首を振るシェリに再び笑みがこぼれた
「ふふ、それはありがたい」
ひとしきりシェリの頭を撫でた後、真剣な表情でシェリに向き直る
「シェリ、聞いて欲しい事があるんだ」
ラシードの真剣な表情にシェリは居住まいを正す
「先ほど、部屋に居た子の事だが…」
「はい」
「実は、彼は自分を『愛し子』だと言っているんだ」
「え?」
『愛し子』と聞いて疑問に思った。勉強にと渡された書物には『愛し子』は一人だけのはずだ
現に皆からシェリ自身が『愛し子』であると伝えられ、そのため役目を全う出来るよう勉学や訓練に励んでいるのだ
「愛し子は…」
シェリの困惑の表情にラシードは言葉をつけたした
「そうだ。『愛し子』はシェリ、君だけだ」
シェリはラシードの言葉に更に困惑した
「『愛し子』は君以外にはありえない。だけど、彼は自分が『愛し子』だと言っている。これがどういう事なのか分かるか?」
少し考えた後、シェリはおずおずと答えた
「…嘘…ですか?」
「ふふ、そうだ。だが、彼が一人で出来る事ではない。彼を利用している者がいる…私はそいつを捕まえたいんだ。その為には、私も『嘘』をつかねばならない」
「ラシードが…嘘を?」
「そうだ。今、彼を捕まえてしまっては、また精霊の犠牲が出る可能性が高いんだ。それだけは避けたいのでな」
先ほどのゴルヴァを思い出し、シェリは苦しそうに顔を歪める
「僕も嫌です…」
「私のつく『嘘』がシェリを傷つけてしまうかもしれない…だが、私を信じて欲しい」
ジッとラシードを見つめた後、シェリは言った
「僕はラシードを信じます」
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