精霊の愛し子~真実の愛~

マツユキ

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第五章 精霊

第三十一話

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戻って来たアティからの報告によれば、精霊はずっと行方が分からなくなっていた精霊だった事が分かった。結界に縛られ、狭く暗い場所に閉じ込められているのだと言う。アティが言うには、生まれて時が経たないうちに攫われてしまい、自分の力の使い方も上手く理解していない為に、逃げる事が出来なかったのだろうとと言う事だった

「場所は分かった?」

『ここから、左程離れてはいない』

「行こう」

アティの言葉に即座に行動に移すシェリ

「シェリ、私も」

ラシードが一緒に行こうと動いたが、シェリは首を振った

「僕は精霊の為に行く。それしか出来ないし…それに、精霊の為に僕が出来る事は何でもしたいんだ。それが僕の幸せだから。だけど、ラシードは違う。ラシードには僕に出来ない事が沢山出来る。だからお願い。精霊を苦しめた人に正しい裁きを。僕には出来ない事だから」

シェリはニッコリと笑って言った。ラシードはそんなシェリを見て、少し寂しく感じたが、シェリの言った事はもっともな事だ。ラシードがシェリと一緒に行った所で、出来る事など何一つ無いのだから

「分かった。だが、約束してくれ。無理はしないと」

「うん。約束するよ」

『我が行くのだ。案ずる事は無い』

ヴァルがシェリの頭の上からラシードに声をかける

『それに、精霊王も共に行くのだ。何も心配する事は無い』

「そうですね…」

名残惜しそうにシェリの頬を撫でるラシード

「じゃ…行ってきます」

そう言ってシェリは転移する

一人きりになった室内。ラシードは頬をバシンと叩き気合を入れた

「よし!」

先程までのラシードはもういない。これから裁こうとしている相手は、大きな権力を持っている。正しく罪を償わせるには、確かな証拠が必要になる

そして、この人物はラシード達が裏でアニタを利用している人物なのではと、疑っていた者だった

これから長い戦いになるだろう。だが、この機を逃せば更に被害は拡散する事は目に見えている

ラシードの、負ける事が出来ない戦いの幕が上がった



ーーーー

「…ここ、なの?」

シェリは複雑な感情のこもった声で言った

それは困惑、怒り、悲しみ。シェリが転移した先は、真っ暗で手の先すら見えない程の闇に包まれていた

『少し待って』

アティがそう言うと、アティを中心に淡い光を放つ草花が広がって行く。明かりが周囲を照らし、見えてきたのは一人の精霊が魔法の鎖に縛られ、更に結界によって閉じ込められている光景だった

「…酷い、何でこんな酷い事が出来るの…?」

『…人間は欲深く、そして愚かだ。我等はそんな人間を愛した…昔は、な。欲を知った人間は、更に欲深くなる。そして高慢にも命を軽んじ、尊ぶ事を忘れてしまった者が増えて行った。私は…私たちは間違っていたのかもしれんな』

アティは哀しげに表情を歪め微笑んだ

「僕は、アティ達が間違っていたとは思わないよ。欲深く、命を何とも思わない人も確かにいる。だけど、そうじゃない、暖かい人たちも沢山いる。アティ達はそんな人達が居たから人間を愛する事を辞めなかった。僕はそんなアティ達は間違ってないと思うよ」

『愛し子に同感だ。いつの時代にも悪に染まる人間も居れば、そうでない人間もいる。そして、因果応報と言うように、悪に手を染めた者は正しく罰を受けて来た。魂が改心し、生まれ変わった者も多くいる』

『そうだな…』

「さ、早く助けてあげよう」

シェリは一歩前に進み、精霊を囲んでいる結界に触れた。その瞬間、結界は拒絶するかのようにシェリの手を弾き返した

シェリにはかなりの痛みが走っている。その証拠に、結界とシェリの間には僅かに血だまりが出来始めていた。しかし、シェリは痛みなど感じていないかの様に、眉ひとつ動かす事は無かった

そして暫くが経った時

「消えろ…」

シェリが言うと、結界ははじけて消えてしまった。シェリは、そのまま精霊を縛っている鎖に触れた。結界の時とは反対に、鎖はシェリが触れると直ぐに霞となって消えて行った

「…意識が、ない」

結界が消え、鎖も外れたが、精霊が目を開ける事は無かった

『…眠っている。意識を放棄したのだろう、耐えられなかったのだな』

アティは精霊を見て言った

『大丈夫だ。しばらく時間が必要なだけだ。心配はいらない』

「…うん。早く帰ろう」

アティが精霊を抱え、シェリ達は王宮へ転移する

「遅くなってごめね、早く目をさまして…」

シェリは抱えられた精霊の頭を優しく撫でた。精霊に『もう大丈夫』だと、伝わる様に

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