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序章
小さな違和感
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「白峰、これ明日の朝までにやっといてくれ。」
デスクの上に書類の山が置かれる。時刻は16時50分、定時の10分前だ。
「なっ…もうすぐ定時なんですけど!この量を明日の朝までって…」
文句を漏らしながら顔を上げると、同僚のにやりとした顔が目に入った。
「でもお前、彼氏もいないし予定も何もないだろ?俺はこれから彼女とデートだしさ~、お前仕事好きじゃん?頼むよ!」
「随分な言いようじゃない!ていうか自分の仕事なんだから自分でやりなさいよ!」
「まぁまぁ、じゃあよろしくな!」
「ちょっ…!」
言いたいことだけ言って仕事を残し、彼はへらへらと笑い「明日の会議で必要だからさ~」などと言い手を振りながらオフィスを後にした。残された書類の山を見て、私はため息をついた。こんな量、とても定時までに終わるわけがない。しかし渡されてしまったからにはやらざるを得ない。一度電源を落としたPCの電源を入れなおし、私は仕事に取り掛かった。
…
夜10時、誰もいないオフィスで私は大きく伸びをした。
「はぁー…やっと大体はできたかな…」
モニターに映る資料の出来の良さにうんうんと頷きながら、データを保存する。くるくると回るカーソルを横目に私は帰り支度を始めた。
「残りは帰ってからやるとして、今日発売の漫画は買いに行けなかったな…」
そう、私は根っからのオタクである。最近のお気に入りは、転生もので、仕事が嫌になった時は自分が伯爵令嬢に転生する妄想をしたりしている。転生ものの何がいいかというと、現実とは違う圧倒的美少女に生まれ変われることであり、二次元の美少女はとても夢にあふれている。
「こんな残業やってらんないよ、あいつ、何が彼女とデートよ。自分の仕事くらい自分でやりなさいよね…。あーあ二次元の美少女に転生しないかな」
なーんて…と呟いた途端、PCのモニターがまばゆく輝きだした。
「ちょっ!輝度!!は?!パソコン壊れた?!」
あまりの眩しさに目を閉じ、輝度のバグかと思い急いで調整しようとマウスに手を伸ばす。しかし、掴んだのはデータを保存しようと差し込んでいたUSBだった。
「や…待って待ってデータ保存中だったのに…!え、データ飛んでないよね!?」
慌てて何とかしようとするが、眩しさは益々強まるばかりで、思わず私はよろけて尻もちをついてしまった。
そしてそのまま、ゆっくりと意識が遠のいてゆく。もしかして、本当にこれが異世界転生ってやつでは?この世界に未練はさほどないし、転生っていうのも悪くない。でももしそうじゃなくてただのパソコンの不具合だったら嫌だから、目が覚めて現実のままだったら記憶喪失のフリでもしよう。
そんな事を考えながら、抜けてしまったUSBはしっかりと握りしめ、そのまま意識を手放した。
…
目が覚めると、ふかふかの天蓋付きベッドの中にいた。
明らかに見覚えのない豪華な部屋に、はっとした。
「え、本当に異世界転生!?」
驚き思わず飛び起きると、部屋の隅にいたメイドらしき人物がこちらへ歩いてきた。
「お目覚めでしたか、お加減いかがですか?」
にっこりと微笑みながら彼女は水の入ったグラスを差し出してくる。
「え、えぇ…特になんとも…」
ありがとう、と小さくお礼を言い、グラスを受け取り一口飲むと、まだ少しぼんやりとしていた頭が冴えてくる。まさか本当に異世界転生するなんて。ものは言ってみるものだなぁなどと考えていると、ふとあることに思いつく。
「あの、ここってどこなんでしょう?それと私は…」
異世界転生だとするならば、一体どのような世界で、ここは誰の屋敷なのだろうか?
この部屋の絢爛豪華な感じ、伯爵家か…もしかしたら王城…?!まさか一国のプリンセスに転生!?
「それに関しましては、陛下よりご説明すると聞き預かっております。
後ほど陛下の執務室にご案内いたします。」
まずはお召替えいたしましょうか、と彼女は言うと、両手を顔の前でパンパンと2回叩いた。
すると同時に部屋のドアがノックされ、3人のメイドが入ってきた。
そして恭しくお辞儀をすると、そのまま部屋の奥の方へ向かい、衣装などを運んできてそのまま4人掛かりで衣装替えをされる。
されるがままになりながら、先ほどの言葉を思い返す。
陛下…陛下って言ってた、ということは、やっぱりもしかして私王族に転生したんじゃない?!
それか王族の婚約者である伯爵令嬢とか?
なんにせよ私がお姫様になるなんて、やるじゃん異世界転生!ナイス異世界転生!
そんな風に考えていると、着替えが終わった。
なんだか思っているお姫様のドレスとは違う。シンプルで…そしてかなり動きやすい。
まぁ、この世界ではこれが普通なのかもしれないしと、ひとり納得していると、ついに陛下とやらのいる執務室に案内されることとなった。
部屋を出て長い廊下を4人のメイドと共に歩く。
けれど全体的に何か違和感を感じる。
それが何かわからないまま、私は執務室に向かうのだった。
デスクの上に書類の山が置かれる。時刻は16時50分、定時の10分前だ。
「なっ…もうすぐ定時なんですけど!この量を明日の朝までって…」
文句を漏らしながら顔を上げると、同僚のにやりとした顔が目に入った。
「でもお前、彼氏もいないし予定も何もないだろ?俺はこれから彼女とデートだしさ~、お前仕事好きじゃん?頼むよ!」
「随分な言いようじゃない!ていうか自分の仕事なんだから自分でやりなさいよ!」
「まぁまぁ、じゃあよろしくな!」
「ちょっ…!」
言いたいことだけ言って仕事を残し、彼はへらへらと笑い「明日の会議で必要だからさ~」などと言い手を振りながらオフィスを後にした。残された書類の山を見て、私はため息をついた。こんな量、とても定時までに終わるわけがない。しかし渡されてしまったからにはやらざるを得ない。一度電源を落としたPCの電源を入れなおし、私は仕事に取り掛かった。
…
夜10時、誰もいないオフィスで私は大きく伸びをした。
「はぁー…やっと大体はできたかな…」
モニターに映る資料の出来の良さにうんうんと頷きながら、データを保存する。くるくると回るカーソルを横目に私は帰り支度を始めた。
「残りは帰ってからやるとして、今日発売の漫画は買いに行けなかったな…」
そう、私は根っからのオタクである。最近のお気に入りは、転生もので、仕事が嫌になった時は自分が伯爵令嬢に転生する妄想をしたりしている。転生ものの何がいいかというと、現実とは違う圧倒的美少女に生まれ変われることであり、二次元の美少女はとても夢にあふれている。
「こんな残業やってらんないよ、あいつ、何が彼女とデートよ。自分の仕事くらい自分でやりなさいよね…。あーあ二次元の美少女に転生しないかな」
なーんて…と呟いた途端、PCのモニターがまばゆく輝きだした。
「ちょっ!輝度!!は?!パソコン壊れた?!」
あまりの眩しさに目を閉じ、輝度のバグかと思い急いで調整しようとマウスに手を伸ばす。しかし、掴んだのはデータを保存しようと差し込んでいたUSBだった。
「や…待って待ってデータ保存中だったのに…!え、データ飛んでないよね!?」
慌てて何とかしようとするが、眩しさは益々強まるばかりで、思わず私はよろけて尻もちをついてしまった。
そしてそのまま、ゆっくりと意識が遠のいてゆく。もしかして、本当にこれが異世界転生ってやつでは?この世界に未練はさほどないし、転生っていうのも悪くない。でももしそうじゃなくてただのパソコンの不具合だったら嫌だから、目が覚めて現実のままだったら記憶喪失のフリでもしよう。
そんな事を考えながら、抜けてしまったUSBはしっかりと握りしめ、そのまま意識を手放した。
…
目が覚めると、ふかふかの天蓋付きベッドの中にいた。
明らかに見覚えのない豪華な部屋に、はっとした。
「え、本当に異世界転生!?」
驚き思わず飛び起きると、部屋の隅にいたメイドらしき人物がこちらへ歩いてきた。
「お目覚めでしたか、お加減いかがですか?」
にっこりと微笑みながら彼女は水の入ったグラスを差し出してくる。
「え、えぇ…特になんとも…」
ありがとう、と小さくお礼を言い、グラスを受け取り一口飲むと、まだ少しぼんやりとしていた頭が冴えてくる。まさか本当に異世界転生するなんて。ものは言ってみるものだなぁなどと考えていると、ふとあることに思いつく。
「あの、ここってどこなんでしょう?それと私は…」
異世界転生だとするならば、一体どのような世界で、ここは誰の屋敷なのだろうか?
この部屋の絢爛豪華な感じ、伯爵家か…もしかしたら王城…?!まさか一国のプリンセスに転生!?
「それに関しましては、陛下よりご説明すると聞き預かっております。
後ほど陛下の執務室にご案内いたします。」
まずはお召替えいたしましょうか、と彼女は言うと、両手を顔の前でパンパンと2回叩いた。
すると同時に部屋のドアがノックされ、3人のメイドが入ってきた。
そして恭しくお辞儀をすると、そのまま部屋の奥の方へ向かい、衣装などを運んできてそのまま4人掛かりで衣装替えをされる。
されるがままになりながら、先ほどの言葉を思い返す。
陛下…陛下って言ってた、ということは、やっぱりもしかして私王族に転生したんじゃない?!
それか王族の婚約者である伯爵令嬢とか?
なんにせよ私がお姫様になるなんて、やるじゃん異世界転生!ナイス異世界転生!
そんな風に考えていると、着替えが終わった。
なんだか思っているお姫様のドレスとは違う。シンプルで…そしてかなり動きやすい。
まぁ、この世界ではこれが普通なのかもしれないしと、ひとり納得していると、ついに陛下とやらのいる執務室に案内されることとなった。
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