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第一章 黒神子レスフィナとの出会い編
3.遥か闇なる世界からの使者、黒神子の力
しおりを挟む遥か闇なる世界の黒神子、英雄殺しの異名を持つ謎多き異端の少女、レスフィナです。
3.遙か闇なる世界からの使者、黒神子の力
「ぐっはっ! がはっ! グッえっ!」
「いい加減にしろよ、ラエルロット。お前はしつこいんだよ。いい加減に諦めて倒れろや。弱いくせにもうこれ以上立ち上がるんじゃねえよ!」
ドカッ! バキッ! ズカッン! バッコーン! バタン!
三人の勇ましい若者達に囲まれたラエルロットは三体一という不利な状況であった事もあり、殴られ蹴られサンドバック状態のまま一方的にやられてしまう。そんなラエルロットを見下ろしながら三人の若者達はそれぞれ驚きと焦りにも似た悪態をつく。
「はぁ、はぁ、はぁ~っ、全くラエルロットの分際でふざけやがって、なかなかに手こずらせてくれるじゃねえか!」
「全くだ、結構粘る物だから本当に殺してしまいそうだったじゃねえか!」
「思いのほか根性だけはあるようだな。それとも年上だからって無理をしているのか。いずれにせよだ、弱いくせに無様に何度も立ち上がるんじゃねえよ!」
息絶え絶えの三人の傍らでボロ雑巾のようになったボロボロのラエルロットがうつ伏せの状態で倒れている。その戦いはとてもフェアとは言えず、力の強い大人が三人がかりで取り囲み、非力な青年を袋叩きにしているようにしか見えない。
それでもラエルロットは剣で吹き飛ばされても、殴られても、或いは蹴られても、更には投げ飛ばされても必死になって立ち上がり死に物狂いに挑んだが、やはり多勢に無勢と言う事もあり、ついには疲れ果て動けなくなってしまう。
疲労困憊でもう一歩も動けないと言う状態でもあったが、それ以上に体中に受けた切り傷や打撲そして打ち身が見るからに痛々しく皆の目に入り。その傷を負わせた三人の若者達ですら、ちょっと調子に乗り過ぎたのではないかと言う空気がその仕草と表情に重く出てしまう。
「お、おい、アカイ、こんなもんでいいんじゃないのか。このままだとこいつ本当に死んでしまうぞ」
「そ、そうだな、ちょっとやり過ぎたかな。それにこいつも弱いなりにも結構頑張ってたし、そんなに弱くはないよな。ここまでやれるのに、なんでこいつ8級の試験を落ちたんだ?」
興ざめした青い顔をアカイに向けながらオジエルとキイオは言葉を掛ける。だがそんな二人の遠回しな停止をアカイは聞かず、近くにあった柄の長いバトルアックスを振り回しながら豪快に構える。
「いいや、まだだ。見ろラエルロットを。奴はまだやる気だぞ!」
アカイの言葉に皆の視線が倒れているはずのラエルロットに一斉に向けられる。そこには虫の息のはずだったラエルロットが銅剣を杖代わりにしながら何とか立ち上がろうともがいている真っ最中だった。
「お、俺は……負けない……負けないぞ。いつか必ず遺跡発掘の……冒険者になるんだ。それが俺の夢だから……」
「ならその夢、俺が完膚なきまでに叩きのめして打ち壊してやるよ。その銅剣が折れればもう練習も暫くは出来ないだろうし、現実を直視できるだろ。夢は所詮夢だし、夢とは才能や財力や権力や力の無い者には決して叶わない物なんだぜ。だからいい加減に諦めろや。お前には冒険者としての才能が無いんだよ!」
「そんな事は無い。夢に才能なんか関係あるか! 後悔しないように……己の信念と好奇心を武器に、気が済むまで夢に可能性に挑み続けてもいいじゃないか!」
「そんなのは時間の無駄だ。お前には才能が無いんだよ。少しは身をわきまえろや!」
「うおおおおぉぉぉぉーっ!」
血反吐を吐かんばかりに雄叫びを上げたラエルロットは渾身の中段突きの一撃をアカイなる人物に勢いよく放つが、その一撃を迎え撃つかのようにアカイのバトルアックスの一撃がラエルロットの銅剣を凄まじい勢いではじき飛ばす。
ガッキイィィィーン!
「ぐっわぁぁぁぁーぁぁ!」
激しい金属音が交差したその瞬間、大きく空中に吹き飛ばされたラエルロットの銅剣はボタリと地面へと落ち、その後にラエルロットが凄まじい勢いで地面へと倒れ込む。
その銅剣をまだ拾おうと這いつくばりながらも目指すラエルロットはまるで芋虫のように体を動かす。
そんな光景を面白半分に見物していた野次馬達も流石にこの状況はやばいと思ったのか「もう止めてあげて」と言う女子もいれば、「もうそのくらいでいいだろう」と言う他の男達の声が飛び合い、周りが騒ぎ出す。
ちょっとした面白半分のつもりがまさかこんな惨事になろうとは、流石のオジエルとキイオも思ってはいなかった事だろう。少し力を見せつけて脅せば怯えて頭を下げると思っていたからだ。だがラエルロットは弱いながらも必死の思いで立ち上がって来る。黙ってそのまま倒れていればその場をやり過ごせると言うのに……意地かプライドか、それとも冒険者になる夢を否定されたからか。いずれにせよアカイ・オジエル・キイオの三人は、そんなラエルロットの気持ちを理解できずにいた。
「まだだ、今ここで俺が諦めたら俺の夢や思いが……全てが嘘になってしまう。だからあいつらに俺の思いを認めさせないと……俺は……前には進めない……進めないんだ!」
あと少しで銅剣に手が届こうとした時、両手でバトルアックスを構えていたアカイが憮然とした顔を向けながらラエルロットを上から見下ろす。
「後悔が残らないように俺がこの汚らしい銅剣をへし折ってやるよ!」
「まて、その剣が折れたら練習する剣が無いんだ。や、やめろ、止めてくれぇぇぇーっ!」
そんなラエルロットの懇願も空しくアカイの持つバトルアックスは力強く地面へと叩き落とされ、その直撃を受けた銅剣は真ん中からボキリとへし折られ、真っ二つに飛び散る。
ボキリ……バキーン!
「あ、ああぁぁ、俺の銅剣があぁぁぁ……なんでここまでするんだよ。俺が一体何をしたと言うんだ。うわあぁぁぁぁぁーっ!」
地面に転がる、壊れた銅剣を眺めながら、ラエルロットは体を震わせ人にはばかる事無く泣き崩れる。その姿は周りのみんなの同情を誘い、傍にいたオジエルやキイオでさえも非難の目をアカイに向けるほどだ。
「アカイ、お前、何もそこまでやらなくても……」
「そ、そうだぜ、もう俺達の勝ちは決しているのに、ちょっと大人げないぞ!」
「いいんだよ、これで。平民の……最下層の村出身のくせに出来もしない夢なんかを持つからだ!」
足下に倒れているラエルロットにツバを吐きつけたアカイの後ろから、初々しい少女の声が飛ぶ。
『夢を持つことはそんなに悪い事ですか。誰にだって夢に向かって行動し、立ち向かう権利はあるのですよ』
誰だ? そう思いながらアカイが振り向いた瞬間、傍にいたはずのオジエルとキイオが突如口から泡を吐きながら足下から崩れ落ちる。その傍らには黒いローブを纏った一人の少女がそっと立っていた。
「いつの間にこんな近くにいたんだ。接近がまるで分からなかったぞ。お、お前は一体誰だ!」
彼女から漂う不吉な気配に後ろへと下がるアカイは「はっ」としながら彼女の正体に気づく。
「この不吉な黒い波動は……お、お前はまさか、あの……この世界で日夜起こる絶望や不幸をその呪いの力でかき集め、この世界の何処かにあるとされる闇の遙かなる世界の中心にその負のエネルギーの全てを運ぶと言われている……噂の、遙か闇なる世界の黒神子か!」
「……。」
「ちくしょう、だんまりかよ。そ、そんな事よりだ。オジエルとキイオに一体何をした!」
「半日ほど……彼らが全く動けなくなるくらいにその余りある生気を吸い取らせて貰いました。でもちょっと力の加減が分からず気絶をさせてしまいましたが」
「おのれ……魔術や呪いの類いか。この呪われし魔女め!」
恐れおののきながらも勇敢にバトルアックスを構えるアカイを無視しながら、黒神子レスフィナは地面に倒れているラエルロットの顔を覗き込む。
「生きていますか、ラエルロットさん。随分ボロボロにやられてしまいましたね」
「君は朝方……町の外れにいた……黒神子の少女……確か名は、レ、レスフィナとか言う名だったかな。なんでここに?」
うつ伏せになりながらも泣き顔を向けるラエルロットに、レスフィナはニッコリと笑顔を見せながら語る。
「あなたがこの冒険者学校で結果を聞くと言っていたのを思い出しましてね。ここならそれなりに人も集まりますし、お布施も貰えるかな~と思いまして。でもまさか今日私に話しかけて来てくれた貴方がこんなことになっているだなんて……正直驚きました。これは一体なんの儀式ですか?」
「儀式って言うか……この状況……どう考えても俺が……目の前にいる相手に不当な戦いを強いられてボコボコにされているようにしか見えないだろ」
「そうですか。つまりは苛められていると言う事ですね」
「い、苛め、それは断じて違うぞ。俺はあいつらにぼろ雑巾の用に大いにやられてはいるが、まだ負けを認めた訳ではないぞ。戦いはここからなんだよ!」
「は~ぁ、そうですか。貴方の気持ちはよ~く分かりました。ここで少し休んでいて下さい。後で体の治療をしますから」
「俺は勝ってはいないが負けてもいない。本当に本当だからな!」
強がりながらも叫ぶラエルロットにお辞儀をしながら、レスフィナはバトルアックスを構えるアカイをまじまじと睨みつける。
「何だかよく分かりませんが、ラエルロットさんには朝方お金を拾って頂いた恩があります。それに優しくもして頂きました。ですから今は助けて差し上げますわ」
そう言うとレスフィナは被っていた黒いフードを頭から外して見せる。
「な、なんだあれは……俺達と同じ人間ではない。やはり闇に属する異形の者か!」
その様子を見た瞬間、傍にいたアカイを始めとした周りにいた野次馬達が皆一斉に驚愕と恐れの声を上げる。
それもそのはず、レスフィナの耳の上の頭の左右からは、まるで牛の角のような物が飛び出ていたからだ。更にはそのつやのある長い黒髪に雪の用に透き通る白い肌、そして誰をも釘付けにする赤い眼光がレスフィナと名乗る黒神子の恐怖を更に引き立てる。そのこの世の者とは思えない程の妖艶な美しさと得体の知れない不気味さが周りにいる者達を不思議な感覚へと誘っているかのようだ。
そんな不思議な感覚にとらわれながらも屈強たるアカイは手に持つバトルアックスを構えながら目の前にいるレスフィナに激しく凄む。
「殺す、殺してやる。奴が人間で無いのなら、別に殺しても構わないよな」
「な……何を言っているんだ、あいつは。悪い気にでも当てられて冷静な判断が出来なくなっているのか? レスフィナいいから逃げろ。今のあいつは普通じゃない。おい、誰でもいいからこいつを早く止めてくれ!」
ラエルロットの必死な叫びも空しく、周りにいる野次馬達は誰一人としてその場を動こうとはしない。何故ならバトルアックスを構えるアカイに不運なる黒いオーラを撒き散らす黒神子を退治して欲しいと言う願いがそこにはあるからだ。
理不尽ながらもその願いは人々の無意識から来る物なのでかえって始末が悪い。
「行くぞ、邪悪なる者、黒神子おぉぉぉ!」
両手で豪快にバトルアックスを回しながら黒神子を威嚇していたアカイだったが、ついに未知なる恐怖に痺れを切らしたのか勢いのついたバトルアックスの重い斧の一撃をレスフィナに向けて叩き付ける。その狂気に捕らわれたアカイの攻撃は確実に相手の命を奪う為だけに放たれた殺意の隠った一撃だった。
「くらえぇぇぇ!これが俺の渾身の一撃だぁぁぁぁぁ!」
右肩から心臓にかけてレスフィナの体に深々とバトルアックスの一撃が突き刺さる。その瞬間見たことも無い量の血しぶきが飛び散り、地面やその周辺を赤黒く染めあげる。
その惨劇を唖然としながら見ていた人達は、今起きた出来事を思い出したかの用に悲鳴を上げる。
「きゃああぁぁぁー。人が斧で切り裂かれたわ。早く誰か彼女を助けに行ってあげてぇ!」
周りから聞こえる悲鳴を聞きながらアカイは薪割りのように突き刺したバトルアックスの重々しい感触を手で実感する。
今まで練習で魔物を何回か狩ってはいたが、人型生物の命を奪ったのはこれが初めてだ。そんな事を考えていたアカイだったが次の瞬間バトルアックスの一撃を受けたはずのレスフィナの痛々しい傷口がまるで時間が逆再生を始めたかの用に治り始め、体が元通りになっていく。
「ば、馬鹿な……致命傷のはずの傷口が……瞬時に治っていくだとう。回復魔法スペルを詠唱すらしていないのに……あり得ない、聖女や僧侶や大神官レベルクラスの高回復魔法じゃないと瞬時には回復再生は絶対にできないはずなのに……こんなのは絶対にあり得ない。一体どうなっているんだよ!」
「やはり八級冒険者に受かり立ての初心者の貴方程度では私を殺すことは出来ませんでしたか。まあ、全く期待をしてはいませんでしたが……実に残念です。自信満々だっただけにはっきり言って興醒めです」
「黒神子と呼ばれる者達は、例え何をされても死なないと言う噂は本当だったのか。ば、化け物めぇぇぇ!」
信じられない光景を見て頭が錯乱したのか、まるで発狂した用にアカイは直ぐさま二撃目のアックスを振り下ろそうとする。
だがレスフィナに直撃しようとした瞬間アカイの足は突如もつれ、大きく態勢を崩す。
「な、なにぃぃぃー。この緊迫した状況で足がもつれただとう。こ、こんなどうでもいいミスを……そんな馬鹿なあぁぁぁ?」
紙一重と言う所でレスフィナの横の地面にアカイの放ったバトルアックスの刃が深々と突き刺さる。
「く、くそぉぉぉぉぉぉーぅ!」と叫びながらバトルアックスを持ち上げようとするアカイの拳に向けて、レスフィナは持っていた木の杖をトンっと押し付ける。その瞬間レスフィナの体と杖に青い文字のような光が浮かび上がり、胸の辺りに埋め込まれたクリスタルが更に強く光輝く。
その青白い光の文字が点滅しながらアカイの体に伝わり始め、その後まるでその光を吸収するかの用にアカイの体から得体の知れない何かを急激に吸い取り始める。
「力が……体から力が抜けていく。生気が、命が吸い取られる。ぐっわわわわぁぁぁぁ!」
急激に体力が吸い取られていく中でアカイの脳裏に浮かんだのは、絶対的そして絶望的な死の予感だけだ。
この状況から一刻も早く逃れたいはずのアカイだったが、体が全くといっていいほど言う事をきかない。このまま生気を吸い取られ続けたら生命エネルギーの全てを吸い尽くされてしまう。
アカイはこの恐ろしい黒神子という存在に関わってしまった事に今更ながら非常に後悔する。何故なら真っ赤に目を輝かせながらアカイを見つめる彼女の顔は不気味に笑っていたからだ。
「やめろおぉぉぉぉぉぉー、やめ……て……くれぇ……うぅ……助けて……ぅぅ……」
アカイはうわごとのように小さく言葉を発すると白目を向き、口からは大量の泡を吐きながら急激に意識を失う。
そんなアカイの命の危機とも言える意識無き姿を見ていたラエルロットは、まるで狂気に取り憑かれたかのように不気味に微笑むレスフィナを必死に止める。
「もういい、もういいから……アカイの奴を許してやってくれ……頼む……頼むよ、レスフィナ!」
その言葉を最後に体の痛みと疲労が限界に達したのかラエルロットの意識はその場で飛び、周りの視界は瞬く間に暗くなるのだった。
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