遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第二章 黒神子・妖精喰いのヨーミコワ編

2-13.緑の星の冒険者達

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            2ー13.緑の星の冒険者達


「おいおい、こんな所に一人だけ狼魔族の残党がいるぞ!」

「それと蛾の妖精の少女も一緒だ。くそ、来て早々不吉な物を見てしまったぜ。この戦いで不幸な事が起こらなければいいがな」

「しかし狼魔族と蛾の妖精か……これは一体どういう組み合わせだ。まさかとは思うが冒険者に協力する妖精達と同じように、狼魔族の山賊にも蛾の妖精がサポート役として協力しているんじゃないだろうな?」

「もしそうなら笑える話だが、今はとてもじゃないが笑ってられる余裕はねえぜ。こんな所でうかうかしていたらあの黒い衣に身を固めた両翼の翼を持つニワトリの姿をしたニワトリ人間がまたいつどこからともなく襲いかかって来るか分からないからな。あの一瞬の戦いで数百人はいた冒険者達が次々と倒され、抵抗する隙すらも与えられる事無く半分くらいの冒険者が瞬殺されてしまった。一体なんなんだよ、あのニワトリの姿を擬人化したような恐ろしい姿をした首の長い女性は!」

 黒神子ヨーミコワに心無い揶揄の言葉を言われ酷く落ち込んでいた蛾の妖精のルナに狼魔族のゴンタは(少し荒っぽいが)励ましとも言える言葉でルナをどうにか元気づける。だがその直ぐ後に、どこからともなく四人の冒険者達が姿を現す。
 その若い外見から四人とも人間族である事が分かったゴンタとルナは、こちらに殺意ある冷ややかな視線を向ける四人の冒険者の言動に警戒しながら一歩後ろに下がり思わず間合いを取る。

「人間か、一体なんのようだ。まさか黒神子ヨーミコワの悪食という怒濤の攻撃から命からがら逃げてきた新人の冒険者達か。なにか誤解をしているとは思うが、俺は荷馬車の回りを陣取っている狼魔族達とは全く関係のない……別の狼魔族だ」

「嘘を言うな。お前が昨日荷馬車を襲った仲間の一人だと言う事は、お前が身につけている武器や装備で分かっているんだからな!」

(ちぇ、何やら面倒くさい事になってきたぜ。相手は四人だし、どうにか隙を作ってここから逃げ出さないとな。しかし、こいつらの今の会話……まさか黒神子ヨーミコワの怒濤の攻撃から、命からがら逃げてきた奴らか)

 ゴンタが見た推察では、四人の冒険者達が身につけている武器や装備からして、彼らは第八級冒険者か第七級冒険者のまだ一~二年と日の浅い新人だと言う事が直ぐに分かる。と言う事は目の前にいる彼らは当然戦闘経験も生き残る技術も未熟な冒険者と言う事になるのだが、向こうは曲がりなりにも立派な鋼の長剣を腰に携えているのでかなり危険である事は間違いないようだ。

 冒険者としての職業は戦士か剣士と思われる。そんな前線特化型の職業の者が四人もいる彼らともしも戦いになったら、ゴンタ一人だけでは冒険者達を倒すことは先ず出来ないだろう。なので無理をせず、直ぐにでもこの場所から逃げるつもりなのだ。

 本来この四人の冒険者達は、昨日荷馬車を襲った狼魔族達を皆一掃する為に派遣された……数百人はいる一個小隊の中の人達と思われる。

 逃げ足では絶対に人間には負けない事を知っている狼魔族のゴンタは、四人の冒険者達に逃げ道を封じられる前にこの場所から離脱する事を密かに画策する。そんな一触即発しかねない彼らの元に、黒一色のローブに身を固めた牛の角と尾っぽを持つ黒神子レスフィナと、青い布地から作られた旅人の服を着用し、腰には不格好な黒い木刀を携えたラエルロットが行き成り現れる。

 ガサガサ……バッタン!

「ハア・ハア・ハア・ハア、こ、ここかぁぁ、ここが昨日荷馬車があった現場か!」

「ハア・ハア・ハア・ハア、ラエルロットさん、どうやら現場はここではないようですが、見慣れた人達を発見しましたわ」

 休み無く走って来た為か息を切らしながらその場で立ち止まるラエルロットとレスフィナの二人は、ゴンタとルナの姿を確認し少し安心したのか穏やかな笑みをこぼす。だが低級冒険者らしき人達と遭遇し対峙をしているこの緊迫した状況を察したラエルロットは、なぜかは知らないが恐怖と殺意の感情を体全体から感じる四人の冒険者達にその視線を向ける。

「すいません、こいつらはウチのパーティーの仲間なのですが、こんな何も無い道を外れた林の中に冒険者がいると言う事は、この辺りで何かあったのですか」

 取りあえずはそれらしい事を言って相手の出方を伺う事にしたラエルロットは愛想良くニコニコしながら相手に警戒心を抱かせないように努めるが、当然冒険者達は警戒と疑いを募らせる。

 なぜなら自分達よりも格下だと思われる田舎臭い人間の青年に……世間では畏怖され皆が敢えて避けている不幸の色とも言うべき黒一色のローブを身に纏った牛の角を持つ半獸人の少女に……妖精界は優に及ばず人間の社会の中でもその姿から忌み嫌われている蛾の妖精の少女に……そしてこの辺りでは討伐対象にもなっている狼魔族の一人だと疑われているまだ若い獣人といった……まさに嫌われ者の四人に疑いの目と不信感を抱いているからだ。

 そんな彼らの思いを払拭しようとするラエルロットは明るくフレンドリーに話しかけるが、冒険者の四人は明らかに疑いの目を向けると辛辣な態度で応える。

 冒険者A「何かあったかだとう、疑わしい奴らめ。そこにいる狼魔族の残党はあの残忍で恐ろしいニワトリ人間の下部だろ。隠したって無駄だぞ。あっちはあっちで色々と大変らしいから、仲間を見捨ててここまで逃げてきたんだろ。そしてその狼魔族を庇う異種族溢れる三人の仲間達もみな盗賊稼業に加担しているみたいだから絶対に逃しはしないぜ!」

 冒険者B「あの悪食の強い極めて獰猛なニワトリの魔女を倒すことは流石に無理だが、その部下に違いないお前達の首を持ってノシロノ王国に帰れば名誉と体裁は保てるはずだ!」

 冒険者C「しかしあの正体不明のニワトリの魔女は一体なんだ? 次々と我が隊の仲間達が見えない何かで体を切り刻まれたり、心臓を抜き取られたりして絶命しているんだから、なりふり構わず一目散にこの森の中に逃げ込むしかないだろ。本当にとてもじゃないが信じられないし、今も悪夢を見ているかのようだ!」

 冒険者D「そんな訳で俺達も、狼魔族の山賊行為に対する討伐に参加をした以上、第八級冒険者としてただで敗走する訳には行かない。ここで不幸にも出会ってしまったお前達だけでも倒して戦果を上げてやるぜ!」

 一同「「覚悟しろ、狼魔族の山賊ども!」」

 恐怖と疑心に捕らわれている四人の冒険者達は各々が腰に下げている鋼の剣を抜くとラエルロット達に向けて問答無用で構える。

 もうラエルロットがいくら説明や説得をしても疑心暗鬼になっているせいか話を聞く気は全くないようだ。

 そんな四人の冒険者達の変わらぬ狂気めいた態度を見たラエルロットは仕方なく腰に下げている(レスフィナの血を浴びて黒くなった)不格好な木刀を抜き放つと、その刀身をゆっくりと構える。

 その威嚇行為に当然釣られて狼魔族のゴンタもまた腰に下げている二双の短剣を両手で引き抜くと殺気だつ眼光を向けながら素早く構え。

 黒神子レスフィナと蛾の妖精のルナは素早く後方に下がり、後方支援の術の準備をしながら前方に立つ二人の援護をする。

 カッキィィィーーン、ガッシィィィーーン、ドッカアァァァァーーン!

「でっやあああーーあぁ、はああぁぁぁぁーーっ!」

「くそおぉぉぉ、ちょこまかと逃げ回りやがって!」

「どうした、もう終わりか、いいからかかってこいやぁぁぁ!」

 流れ的には四対四なので各々が一人ずつ相手をする事になるが狼魔族のゴンタとそんなにレベルが変わらない冒険者Aは互いに実力が拮抗する程にいい勝負をし。本来は勝てるはずのない蛾の妖精のルナはその小さな体を生かした空を高速で飛べるという利点を最大限に生かした戦法で冒険者Bの攻撃からちょこまかと逃げ回る。

 だが一方その頃、肝心のラエルロットの方は復讐の鎧を装備していないせいか冒険者Cに力で押し負け、けっこうな苦戦を強いられる。
 そんな三人の必死な攻防を冒険者Dの相手をしながら見ていた黒神子レスフィナだったが、レスフィナが『止まりなさい!』と言った瞬間四人の冒険者達の体が行き成りピタリと止まる。

「な、なんだ、体が動かねえーー、動かないぞ。一体俺達の体に何をしやがった!」

「足だ、足の裏を何かで固定されているぞ!」

「あ、この水のような、どす黒い液体は一体なんだ? まるで地面を這うかのように密かに現れたようだが、全く気付かなかった。くそこの液体、足にしつこく纏わり付いて来たかと思うと今度はまるで凍結された氷のようにへばりついて、足を地面から引っ剥がす事ができない!」

「くそ、くそ、ロングブーツを脱いで脱出しようとも思ったけど、地面を這う液体その物が足首まで這い上がって来て、足を強く締め上げて来たぞ。これじゃ全く動く事ができないぜ!」

 その行き成り受けた謎の攻撃にかなりの焦りの色を見せた四人の冒険者達はその大量に流れ出る謎の血液の出所を目で追い確認する。勿論その謎の液体の出所の先にいたのは自分の足の下からまるで影のように自由自在に自身の血液を操る事ができる黒神子レスフィナの力だった。

 レスフィナは静かに目を閉じると、手に持っている杖を前に突き出しながら凛とした声で言葉を掛ける。

「ラエルロットさん・ゴンタさん・ルナさん・今です!」

 その黒神子レスフィナの言葉と共にゴンタの豪快な蹴りが冒険者Aの腹部にまともにヒットし。
 蛾の妖精のルナが相手の頭上を飛びながら降りかける事ができる、飛散するしびれ粉入りの鱗粉で冒険者Bの体を麻痺させ。
 尻餅をつき動けないでいるラエルロットをフォローするかのように黒神子レスフィナは自分の血を這わせて作った血液の蔦で冒険者CとDを捕らえるとその体力を急激に吸い上げていく。
  そうこれこそが黒神子レスフィナが自分の呪いの攻撃範囲を広げる為に間接的によく使う黒い血液こと黑血食の呪いである。
 レスフィナの体とつながっている血液に触ると急激に体力や魔力といった何かを吸われる攻撃を受けてしまうのだ。

 後方にいるそんなレスフィナの援護もありどうにか戦いに勝つ事ができたラエルロット達一行は、気絶をし倒れている四人の冒険者達を木のツルで縛り上げると一先ずは安堵の溜息をつく。

「はあ、これで一先ず危機は去ったな。それでなんでお前達がここにいるんだ。荷馬車がある所で狼魔族の山賊達に捕まっている蛾の妖精達を助けに行ったんじゃなかったのか。それとゴンタ、共に先に行っていたシャクティは一体どうしたんだよ。まさかはぐれてしまったのか」

「狼魔族達を見つけるまでは一緒だったけど、捕まっている蛾の妖精の仲間達とルナを助けたら直ぐにその場から離れろと彼女に言われたんだよ。トロ女にはトロ女なりに事情と作戦があるみたいだったから全てを彼女に任せる事にしたんだ」

「それって……大丈夫なのか。第八級冒険者の資格を持つ彼女だけど、数十人の狼魔族達を相手にとてもじゃないが一人では持ちこたえる事はできないだろ。彼女はお前達に気を使って無謀な囮役を引き受けたようだが、今ごろはもう死んでいるんじゃないのか」

 青い顔をしながら本気でシャクティの事を心配するラエルロットに、狼魔族のゴンタは否定の言葉で答える。

「それはどうかな、案外そうでもないみたいだぜ」

「それはどう言うことだよ?」

「一目彼女を見た時からずーと思っていたんだが、あの女、色々とやばいような気がする。なんて言うか彼女から漂う雰囲気と匂いで分かるんだよ。長年染みついている血の匂いって言うか……そんな感じだ。大体彼女、物凄く若そうに見えるけど本当の実年齢は恐らくは四十代くらいなんじゃないかな。まあ本人に聞いた訳じゃないから事実そうなのかは分からないが、恐らくは合っていると思うぜ。俺は人を見る観察力には自信があるからな。それに犬人族という種族は代々闘士や武術家といった素手での肉弾戦に特化した種族だと聞いてはいるが、だからだろうな、若い体をいつまでも維持できる体質を持っていると言う話だぜ」

「維持できるって不老って訳じゃないだろ。大体犬人族の寿命ってどのくらいなんだよ」

「確か人間族とあまり変わらないはずだ。人間も、狼魔族も、犬人族も、蛾の妖精に至るまで、その寿命はざっと八十歳から百歳の間くらいのはずだ。ただ俺達と大幅に違うのは、犬人族は二十代で成人の大人になり、八十歳までその姿のまま若さを維持できると言う点だ」

「すげぇーーじゃん。八十歳までその若い姿のままって、それ一応は不老って事だよね。八十歳まで限定だけど、犬人族の寿命は人間とそんなに変わらないんだからそれってかなりすげえ事だよ」

「ただ八十歳を過ぎたらあれよあれよと急激に老人になってしまうらしいけどな。その急激な体力の衰えと見た目のギャップは物凄いとの話だぜ。中には老いの急激な身体機能の低下に思い悩む犬人族もいるみたいだからな。だってそうだろ、普通は徐々に年を取るからこそその体の衰えも見た目も納得する事もできるが、急激に年を取り出したらそう簡単には現実を受け入れられないだろうからな」

「なるほど、犬人族とは、そういう種族なのか」

「まあ、犬人族の中にはまれにいると言われている古代種と呼ばれている特別に稀な犬人族もいるらしいが、その古代種って奴ならその寿命はざっと五百歳の奴もいるといわれているらしいぜ。まあそんな訳で恐らくあのトロ女はその特性を上手く利用して自分の歳を誤魔化していると俺は推察するね」

「シャクティって本当は四十代なのか、まだ十代くらいかと思っていたよ」

「あの大人のような落ち着きようと余裕の表れはただ前向きな考えを持つ天然にも見えるけど、どんな無理難題な窮地に陥ってもそれらのピンチをそつなく乗り越え、仲間達に何度もダンジョンや敵のアジトの中枢に置き去りにされても何事も無かったかのように帰還し、周りの人に訳隔たり無く優しく接する事ができる懐のでかさがある。その通常ではまず有り得ない不可思議な行動から考えて……彼女は極めて油断のならない女だという結論に至ったというわけさ。だから……」

「だから大丈夫だと言いたいのか。だがそれだけではシャクティが多くの敵を前にして無事でいられる根拠にはならないだろ」

「彼女が歳を誤魔化していると言う事は……即ち新人の振りができると言う事だ。そしてその見た目の若さを利用してこの一~二年で第八級冒険者の資格に合格し、晴れて神官見習いの職業にもつく事ができた。ならその前は、神官見習いになる前は一体何をしていたんだ。別に冒険者の資格を取らなくても体を鍛えれば資格に関係なく強くはなれるんだから、その素性は怪しい物だぜ。冒険者のレベルを表す数字と言うのはその人の経験や実績や身体機能から導き出した大まかな総合的な数値に過ぎないからな。正直あてにはできないぞ。俺達の世界の人達のレベルの常識とはそんな感じの代物だが、地球という星から来た異世界召喚者達はその理事態が全く違うらしいけどな。彼らのレベルはそのまま彼らが獲得出来る強さのレベルを表しているそうだから、その人間がどんなに弱くても女神様から高レベルの数値を貰えればそのまま超人的な力を得て強くなれるらしいぜ。本当に羨ましい話だぜ!」

 そのゴンタの言葉を聞いたラエルロットの脳裏に圧倒的な力を誇っていた勇者田中の姿が目に浮かぶ。

「つまり……シャクティはこの一~二年の間に第八級冒険者になって、職業も神官見習いになったばかりだから当然女神様から貰う神聖力の力は初心者のように未熟だが、本来の彼女の戦闘スタイルは全く違うと言う事か」

「ああ、まあそういう事だな。恐らくあのトロ女の本当の得意な戦闘分野は、絶対に接近戦に特化した素手での肉弾戦だ。それ以外は考えられないぜ」

「つまりシャクティの本当の得意分野でもある職業は闘士か武術家と言う事か。薬物を使うと言うから薬物と火薬を利用した戦闘技術で今まで幾度となくピンチを切り抜けて来たとばかり思っていたんだが」

「普通に考えてそれだけじゃ流石に切り抜けられないだろ。一緒に走っていたからこそ気づけた事だが、彼女が持つ俊敏性と持続性は相当な物だぜ。俺も足の速さにはそれなりに自信はあるがあのトロ女のスピードにはついて行くのがやっとだった。しかも現場に着いたとき俺はもう既に息が上がっていたが、あのトロ女の息は全く上がってはいなかった。それだけでもあのトロ女の身体機能の高さが分かるエピソードだぜ」

「なるほど、種族的にも似通うお前がそこまで言うのだから確かにそうなのかもな。話は分かったが、一応は見に行こうぜ。もしかしたらお前の仲間の狼魔族達に思わぬ苦戦をしているかも知れないし、よしんば勝っていたとしてもそのまま荷馬車の前で俺達の到着を待っているかも知れないからな」

「そうだな、俺も正直仲間の狼魔族達の安否が気になるからな。だからついて行ってやるよ。あの泣く子も黙る黒神子レスフィナにその眷属でもある黒い鎧の勇者もどきが加勢に来てくれたのならこれに勝る助っ人は他にはないとは思うんだが、だがいいのかい……黒い鎧の似非勇者さんよ、あんたは助けに言って本当に大丈夫なのか」

「大丈夫ってなにがだ?」

「呪い、呪いだよ。あんた黒神子からの試練の呪いで、蛾の妖精を助けたらいけない呪いが掛けられているんじゃなかったのか。もし下手に蛾の妖精達を助けてしまったら試練は失敗と言う事で強制的に地獄に落とされて死んでしまうらしいじゃねえか。なら基本的に蛾の妖精のルナが関わる蛾の妖精達の件には絶対に首は突っ込めないんじゃないのか!」

「た、確かにそうだが……それでも見て見ぬ振りはできないだろ。近くで困っている人がいたら出来るだけのことをしてやるのが道理だろ!」

「道理って……あんた、自分の命が掛かっているんだぞ、それなのに黒神子の試練の呪いを無視して蛾の妖精達を助けるつもりでいるのかよ」

「俺が直接手を貸さなけねば、特に問題はないだろ」

「確かにそうだが……」

 その言葉のやり取りを不信な思いで見つめる蛾の妖精のルナと、手を貸すのでは無いかという心配な思いで見つめる黒神子レスフィナの二人だったが、そんな人達の思いをぶち壊すかのように意識を取り戻した第八級冒険者・四人の一人……冒険者Aが何やら青い顔をしながら行き成り話し出す。

「なんだよ、レスフィナって、まさかそこにいる黒いローブを着た、角の生えた獸人の少女があの英雄殺しの黒神子レスフィナだと言うんじゃないだろうな。悪い冗談はやめてくれよ。あの凶悪凶暴で悪の権化とも言うべきレスフィナがこんな所にいる訳がないだろ!」

「いや、普通に考えて妖精喰いの黒神子ヨーミコワがこの近くにいるんだから黒神子レスフィナと遭遇する可能性も当選あるだろ。現にお前達はそのレスフィナに今出会っている訳だしな」

 そのラエルロットの言葉に冒険者Aが物凄い怒り顔を向けると大きな声で叫ぶ。

「この優しそうな獸人の少女が黒神子レスフィナだとう、笑わせるな。俺達を倒せる程の魔力はそれなりにあるようだから魔術師としての才能はあるようだが、黒神子レスフィナを名乗るとは悪い冗談が過ぎるだろ。相手の体力を吸い取る魔法くらい魔術師なら普通に使えるだろうからな。そんな事よりだ、今黒神子レスフィナだけでは無く黒神子ヨーミコワもこの近くにいると言っていたが、まさか俺達冒険者の一団を襲ったあの鳥人間のような化け物が妖精喰いの黒神子・ヨーミコワだとでもいうのか」

「なんだよ、お前らはそんな事も分からずに、あの黒神子ヨーミコワと戦ったのか。それで他の冒険者達は一体どうしたんだ?」

「分からないよ、あの鳥人間のような化け物が物凄いスピードで上空から襲ってきた時には、もう既に半分以上の冒険者達がその羽と爪の毒牙に掛かって死んでしまったからな。その向こう側の荷馬車の近くでは狼魔族達が別の何かと戦っていたのを見たけどな」

 そいつは恐らくはシャクティだよなと、ラエルロット・レスフィナ・ゴンタ・ルナの四人が素直に納得する。

「それで、その後、黒神子ヨーミコワはどうしたんだ」

「だから知らねえよ、俺達四人はその鳥人間の化け物にはどうあがいても到底勝てるとは思えなかったから……だから恥を忍んで一目散に敗走したんだよ。己の誇りと名誉のために無謀な戦いを挑んでその場で死ぬよりも生き延びてその苦渋の経験を糧に明日も生きていたいからな。まあ見てはいないがあの鳥人間のような化け物が本当に黒神子ヨーミコワだと言うのならその圧倒的な強さも納得ができるしその後の行動もなんとなく予想ができるからな」

「その後の予想だとう?」

「ああ、俺達を襲ったあの怪物が本当に黒神子ヨーミコワだと言うのならあいつは好んで妖精を探し出して積極的に喰らうはずだ、そうだろ。妖精ならえり好み無く全てを呑み込むらしいがそれはあのまずそうな蛾の妖精も例外では無いとの話だ」

 そう言いながら冒険者Aはゴンタの方に止まっている蛾の妖精のルナにその視線を向ける。

「黒神子ヨーミコワはその内なる力を溜める為に精霊の力を宿すとされる妖精達を片っ端から襲っているとの話だが、話ではその荷馬車に護送中の蛾の妖精を積んでたらしいから、もしもその蛾の妖精が逃げたのならその妖精を捕まえて食べるまでこの辺り一帯からは中々離れないんじゃないかな。黒神子ヨーミコワはなぜか蛾の妖精は必要以上に徹底的に探していると前に町にいる流れの妖精からそんな話を聞いたことがある」

 その話に堪らず蛾の妖精のルナが口を出す。

「だ、大丈夫よ。蛾の妖精の仲間達もみんな無事に逃げた事だし、しばらく身を隠していたらその内諦めて黒神子ヨーミコワだってどこか遠くに他の食べられそうな妖精を探しに行くわ。黒神子ヨーミコワの話だと蛾の妖精はとても不味いらしいからね」

「おい、もう忘れたのかよ。他の妖精達はそうでも、お前やその弟・妹達はそういう訳にはいかないだろ。黒神子ヨーミコワも言っていたじゃないか、邪妖精の王女の血を引く子孫をようやく見つけたとな。ならお前ら兄弟を食べるまで黒神子ヨーミコワは絶対にこの辺りからは離れないんじゃないのか。なぜなら過去に自分を封じた復讐すべき子孫がここにいることが分かったんだからな」

 そのゴンタの的確な言葉に蛾の妖精のルナが動揺していると、話を聞いていた冒険者Aがプっと吹き出しながらまるで馬鹿にしたように笑う。

「邪妖精の王女の子孫だって、この薄汚い蛾の妖精の少女がか……それはなんの冗談だ。邪妖精族と言ったら今から五百年前に生きていて、その後は絶滅した謎の一族じゃねえか。その精霊の力は絶大で、他の種族の妖精達とは全く比較にならないくらいの力を持っていたとの事だ。その圧倒的な恐ろしいまでの力を皮肉って誰もがその黒い羽を持つ妖精達の事を邪妖精と呼んでいたそうだが、そもそも邪妖精という種族は繁殖能力が乏しくその数もそんなにいなかった為に他の妖精達ともそれ程交流がなかったとも聞いている。そんな謎の多い種族なのに、事もあろうに蛾の妖精なんかと仲良くなってつがいになる訳がないだろ。あの薄汚い羽を持つ羽虫とだぜ。更には事もあろうにあの伝説級の超有名な邪妖精の王女の血を引く者がこの薄汚い羽虫の嬢ちゃんだとでも言うのか。嘘を吐くには流石に無理があるだろ。邪妖精の羽根は深紅のような黒にまるで星屑を散りばめたような正に神秘的な色だし、枯れ葉のような羽根しか持たないお前ら蛾の妖精がいくら逆立ちしたってその子孫にはなりえないんだよ。全く嘘をつくならもっとマシな嘘をつけよな。この薄汚い羽虫がぁぁ!」

「そ、それは……」

 冒険者Aのその当然のような横柄な指摘にルナもまた嘘であってほしいと口に出して言いたかったのだが言うのを辞める。
 下手な反論をしてまた傷つくのが嫌だったからだ。そんなルナだったがまるで自分に言い聞かせるかのようにある言葉を口にする。

「でもいくら黒神子ヨーミコワが蛾の妖精を探し回っていたとしても蛾の妖精達が作り上げた術式は……隠れ里の結界は絶対に破れないはずよ。あれは黒神子ヨーミコワの探知能力では絶対に探し出せないとレスフィナも言っていたし、例え運悪く隠れ里が見つかっても村のみんなが避難できるくらいの時間は稼げるはずだから」

「フフフフ、それは流石にお気楽すぎる考えだろ。俺はそんなに甘くはないぜ!」

 そう言いながら草木を掻き分けて獣道から現れたのは犬人族のシャクティと戦っていたはずの狼魔族達のボス、ザドだ。
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