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第二章 黒神子・妖精喰いのヨーミコワ編
2-19.妖精喰いとの全面対決
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2ー19.妖精喰いとの全面対決
黒神子ヨーミコワの傲慢なプライドを上手くついたレスフィナの咄嗟の機転でどうにか無事に蛾の妖精のルナを助けることに成功した四人は、それぞれが黒神子ヨーミコワと距離を測りながらその間合いを見定める。だが、そんな緊迫する状況下の中でも黒神子ヨーミコワは余裕をみせるとラエルロット・ゴンタ・シャクティ・レスフィナの四人のレベルを目測による数値で見定める。
(黒神子ヨーミコワのスキル……鑑定眼力! お前達の強さや経験を数値化してそのレベルを計ってくれるわ。一人目は、あの黒い鎧を着た人間か。そのレベルは……レベル1だと。なんだただの雑魚じゃないか。確かあれだけご大層な大口を叩いて自称勇者を名乗っていたが、その正体が実は実力が全くないただのハッタリ野郎ではもう笑うしかないな。どこで手に入れたのかは知らないがあの纏ってある復讐の鎧の力を使ってしまったらただの人間は即座に死に至るというのに愚かな男だな。しかもレベル1の最低な数値で勝つとか、この男は一体何を言っているんだ。恐怖の対象でもあるこの私とまともに戦うつもりでいるし、もしかしたら頭の可笑しな人間なのかな。だとしたならばもう嘲りを通り越して哀れみしか感じないのだがな、本当に理解に苦しむよ。それにこれならまだ邪妖精の衣を持っているあの蛾の妖精の娘の方が強いかもしれんぞ。
二人目は、狼魔族の生意気そうな若者か。レベルは2か。あの人間よりは強いようだがいずれにしても雑魚だな。ワタシにとってはレベル1もレベル2もたいして変わらないからな。まあ薄汚いぱしりのオオカミなどこんな物か。
続いて三人目は、とろそうな犬人族の神官か。レベルは2と出ているが……こいつは意図的に情報偽装している疑惑があるからな。その本当の手の内をもう少しだけ見てみないとちゃんとした事は分からないと言う事か。こいつには少し注意が必要だな。
そして四人目の最後は、黒神子レスフィナを名のる偽物か。だがいくら鑑定しても彼女のレベルだけはどうしても見定める事ができない。何か情報遮断の魔法やアイテムを使用しているのか。それは分からないが、いずれにしても魔道においてはかなりの実力者であることだけは間違いないようだな。
あと、おまけに蛾の妖精のルナのレベルは、レベル1だ。まあその者が異世界召喚者か冒険者の者ならその特定も簡単だが、そのどちらの資格も無い者はそもそもレベルが測れないからな。レベル1という結果になっても仕方が無いと言った所か。そしてそのレベルが上がることは決してない。その数値を元に大まかな評価をしているのだから実際はどんなに実威力のある猛者だったとしても冒険者組合か異世界召喚者のいずれかに所属をしていないとその者の強さは測れないと言う事だ。それが私が出した結論であり結果だ。だからこのメンツでは特に警戒をする事も無いと言う事だ。全てが予想範囲内だ!)
そう結論づけた黒神子ヨーミコワは、黒い不格好な木刀を構えるラエルロットとすまし顔のままに立つ黒神子レスフィナを激しく睨みつけるが、直ぐに笑顔になり頭を振りながら大きくその視線を外す。
「フフフフ、やめよ、やめ、あなた達とは何だか戦いたくないから見逃してやってもいいわよ。勿論他の蛾の妖精達も同様にね」
「そ、それは、本当か。でもなぜそんな事を行き成り言い出すんだ?」
その思いがけない言葉につい気が抜けたのかラエルロットは手に持つ黒い不格好な木刀を下に下げながら警戒心を解くが、その気の緩みを感じた黒神子レスフィナが大きな声で叫ぶ。
「ラエルロットさん、油断してはいけません。黒神子ヨーミコワはそのタイミングを外して私達の意表を突く作戦ですわ。直ぐに攻撃が来ますよ!」
「な、なにぃぃーーぃ!」
「ホホホホ、もう遅いわ。くらえぇぇーーぃ、両翼の羽から繰り出される最速の徹甲弾の威力を!」
その最速の徹甲弾と化した鉄の羽が砲弾のように飛び、目の前にいるラエルロットとレスフィナの体を貫き瞬時に蜂の巣にしていく。その鋭利な刃物を飛ばしてくる散弾の雨にラエルロットとレスフィナの体は大きく吹き飛び、地面に倒れる頃には体中に大きな穴の開いたただの肉塊へと化していた。
「ラエルロットさん! レスフィナさん!」
「馬鹿共が、行き成り攻撃をくらうなよ!」
「コケェエコッコウゥゥ、無駄だ無駄だ、自称黒神子を名のる少女も、自称勇者を名のる人間の青年も、嘘つき同士仲良くあの世に行ったよ。そんな見え透いた嘘までついて一体なぜここに来たのかは理解に苦しむが、恐らくは黒神子や勇者に憧れた変わり者が手柄欲しさにここに来たのだろうよ。全く馬鹿げた話だ。そんな訳で次はお前達の番だ。狼魔族と犬人族は兄弟の種族のような物だから、お前達も二人仲良くあの世に送ってくれるわ!」
「ハハハ、黒神子レスフィナや黒い鎧の人間のように俺達もあの世に送ってくれるらしいぞ。どうするよシャクティ!」
「これは謹んでお断りしないといけませんね。それにしても黒神子ヨーミコワさんはもう勝った気でいるんですか。あのくらいの奇襲攻撃を当てたくらいで勝った気になれるだなんてちょっと気が早すぎるんじゃありませんか」
「な、なんだとう?」
どう見てもまず助からないラエルロットとレスフィナの絶対的な死に黒神子ヨーミコワは余韻にも似た勝ちどきに浸っていたが、ゴンタとシャクティの反応が今一鈍い事に疑問の目を向ける。
「なんだ、どう言う事だ。あの二人は私の放った徹甲弾を喰らって確実に死んだはずなのに、何をそんなに落ち着いているんだ。あの肉の塊と化した死体がお前らには見えないのか。お前ら狼と犬のコンビもその数秒後には同じ運命を辿る事になるのだぞ、それが分かっていてそんなトンチキな強気な言葉を発しているのか。もう私の勝ちは最初からわかりきっている事だと言うのに」
「何も分かっていないのはあなたの方です。あなたがたった今徹甲弾で殺したと豪語するラエルロットさんとレスフィナさんの二人に目を向けて下さい。そしてあなたが頑なに信じないその事実を受け入れて下さい。あの二人もまた不死身だという真実に。一体どういう経緯で二人は出会いそして旅を共にしているのかは知りませんがレスフィナさんもラエルロットさんも勿論正真正銘の本物の黒神子とその眷属ですし、本当の戦いはここから始まると認識した方がいいと思いますよ!」
シャクティの強い言葉に黒神子ヨーミコワは思わずその視線を死んだはずの二人に向けると、そこにはまるで何事も無かったかのように立つ黒神子レスフィナとその眷属でもあるラエルロットの姿があった。
徹甲弾という手厚い歓迎をまともに受けたレスフィナとラエルロットの二人は、風穴を空けられた体が超再生能力で元通りに直っていく過程を確認しながら、その不快感を行き成り攻撃してきた黒神子ヨーミコワに向ける。
「くそ、行き成りあんな姑息な攻撃をして来るとは正直思わなかったぜ。ちくしょう、完全に意表を突かれてしまった!」
「姑息な攻撃と言うか、極めて古典的な攻撃と言った所でしょうか。わざと心のタイミングを外して……ずらして行き成り攻撃を仕掛けてくる辺りが小悪党的だと言うほかはありませんね。まあ、私達に取っては焼け石に水ですけどね!」
「ば、バカな、私が挨拶代わりに与えた徹甲弾での負傷の傷穴がもう完全に塞がってやがる。というかその身にまとっている服すらも元通りに直っていると言う事は身体的再生だけではなく、時間の逆戻りもあるのかも知れないな。まあいずれにしてもだ、あの黒神子レスフィナを名のる偽物とひ弱な正義を振りかざす似非勇者の二人だけは瞬時に傷を直せる力があるようだな。面白い、面白いわ!」
両翼の翼を広げながらそう絶叫すると全方位攻撃とばかりに逆立った幾つもの羽を鋼鉄に変えながらまるでミサイルのように撃ち放つ。
「くらえぇぇーーっ、全方位徹甲弾の雨を!」
その行き成り放たれた直線に飛ぶ徹甲弾と化した鉄の羽は無数に散らばり高速の速さであらゆる物を貫き切り裂いていくが、犬人族のシャクティはその身体機能の高さで全ての散弾を簡単に避け。狼魔族のゴンタは直ぐに近くにある太い樹木の陰に隠れながら徹甲弾の直撃を上手く回避する。
そして肝心のラエルロットはレスフィナを守る為に敢えて文字通りの盾となる為に前線へと立ち。その後方で抱きかかえた蛾の妖精のルナを守りながらも黒神子レスフィナは手に持つ杖を前に突き出すと呪いの術を発動させる。
「黑血食呪殺術、血壁の結晶柵!」
力強く叫ぶレスフィナの言葉と同時にラエルロットの目の前に現れた血の液体で出来た血液の金網は瞬時に恐ろしい硬度へと固まり、硬度20と化した絶対無敵の血の網は、無数に発射される黒神子ヨーミコワの徹甲弾を全て直前で留め跳ね返していく。
バキーン、ゴッカーン、ガッコーン、ガッシャン、バッコーン、シュッキーン!
(うっひょぉぉぉ、あぶねえぇーー、正直助かったぜ。このまま肉の壁になって立ちはだかっても俺の体に風穴を空けてそのままレスフィナの所まで届きそうだったからな。だからレスフィナが発動させた術は何よりも心強いぜ。しかしレスフィナの術はすげえぇぇーーな、あの黒神子ヨーミコワが放つ徹甲弾を全て直前で跳ね返してやがる。黒神子ヨーミコワが放つ徹甲弾の威力と硬度よりも、黒神子レスフィナの血液で出来た強固な柵の網の方がより強いと言う事か。話では黒神子ヨーミコワは賢者の魔石の力の効力によって本来の三分の一しかその力を発揮できないみたいだから、百パーセントの力を発揮できる黒神子レスフィナの方がこの戦いでは遙かに有利と言う事になる。しかしこの後は一体どうしたものかな。俺はこの木刀が届く範囲でしか戦うことができないから、このまま突っ込む以外に戦う選択肢はないんだが。さてさてどうした物かな)
目の前に注意を払いながらラエルロットがそんな事を考えていると「有り得ない……こんな事があってたまるかあぁぁぁ!」と絶叫しながら今度は天高く空へと舞い上がる。
上空の空の上から悠然と下を見下ろす黒神子ヨーミコワはその長い足についた鋭い鉤爪を地上にいる黒神子レスフィナに向けて目標となる照準を定める。
「これならどうだ。今度こそくらえぇぇーーっ、必殺闘鶏キックゥゥゥ!」
物凄い落下速度を追加した飛行能力の速さで真下にいる目標目掛けて必殺技の蹴り足で迫る黒神子ヨーミコワだったが、その必殺の蹴りすらもレスフィナの頭上にザルの網のように展開した黑血食術の血の防御壁を黒神子ヨーミコワは当然破ることができない。
「くそ、くそ、ちくしょう、まさか本当にこいつは黒神子レスフィナじゃないだろうな。姿形や性格は私が知っている頃とは明らかに違うが、この自らの血液を利用した呪いの力は明らかに黒神子レスフィナが使う本来の戦い方だ。ならこの圧倒的な力を認めなくてはならないようだな。非常に悔しいがな。ちくしょう、私の体が万全なら、黒神子レスフィナの黑血食術なぞ直ぐにでも破れるのに!」
「いい加減に降伏して下さい。本来の半分の力も出せないあなたが私に勝つことはまず絶対にできません。今現在襲っている蛾の妖精達から手を引いて下さい。もしも手を引いてくれるなら、これで互いに痛み分けとしますから」
「痛み分けだとう……私と取引でもしようと言うのか。あの悪名高い黒神子レスフィナともあろう者が随分とお優しくなった物だな。そして随分とふざけた事を言いよる。この誇り高い私がお前の意をくんで痛み分けにする訳がないだろ。邪妖精の王女の子孫をぶち殺せるチャンスとようやく巡り会えたのだから、絶対的な絶望を与えてから美味しく食してくれるわ。そんな訳で蛾の妖精に味方するお前とはとことん戦わせて貰うぞ!」
「なら仕方がありませんね、あなたを力ずくで押さえ込むとしますか。私の能力でなら空を飛ぶあなたを地面に固定し、たたき落とす事も可能ですから」
「クククク……どうやら私は、妖精達を食す事によって溜に溜めて来た力を開放しなけねばならない所まで追い込まれてしまったようだな。長年隠し続けて来た奥の手を今ここで披露しなけねばならないとは正直口惜しいが……まあ仕方がないか!」
「奥の手とは一体なんの事ですか。あなたが持つ遙か闇なる世界の黒神子の力は一年前の異世界勇者との戦いで賢者の魔石に封じ込められた状態では殆ど使えないはずですから、今のこの段階では本来の三分の一の魔力しかその力は出せないはずです。だからこそあなたは私との戦いの上でもかなりの後れを取っている。ですがあなたの言うその奥の手の力とは賢者の魔石の封印術の影響を受けないと言う事ですか。まあ、ただの苦し紛れのハッタリだとは思いますが、もしも本当にそんな切り札があるのなら是非とも私に見せて下さいな。勿論正々堂々と受けて立ちますよ!」
「その台詞……やはりお前は以前のレスフィナではないな。お前がもしも私が知る五百年前以前の黒神子レスフィナだと言うのなら一体お前の身になにがあったと言うんだ。姿形も性格も、やることなすこと全てが本来の黒神子達とはまるで真逆ではないか!」
「そうなのですか。ごめんなさい、あなたのことや他の黒神子達の事も知識では知ってはいるのですが、私個人の記憶はなぜか一切思い出せないのですよ。なぜでしょうね。十八年前から以前の記憶は全てこの世から消失したかのようです。十八年前、私の身に一体なにがあったのでしょうか。その手掛かりを聞こうと同じ黒神子でもあるあなたに聞いてみようと思っていたのですが、どうやら何も知らないみたいですね。非常に残念です」
「それはそうだろ、邪妖精の女王の手により五百年前に古代の魔道兵器の封印術機の中に封印され、そこから約三百年間外にでる事は出来なかったのだからな。そこから二百年間は復讐とばかりにこの世界にいる妖精達を手当たり次第に遅い喰いに喰いまくったが、一年前に蛾の妖精達の村を襲撃した際に異世界勇者が持っていた古代の遺物、賢者の魔石でまた一年間だけ封印されてしまった。だがまあその封印も完璧ではなかったが為に中途半端な形で出られる抜け道が出来てしまったのだがな」
「あなたの経緯と嘆きは分かりました。そして私とは五百年前からは一度も出会ってはいないことも。でもそんなあなたが私に勝てる見込みがあるのですか。封印されて本来の力が発揮できないのではありませんか」
「フフフフ、そう案ずるなよ。大体なぜ私が以前から妖精ばかりを好んで襲ってその肉を食べているのか、その訳を今ここで見せてやるよ。妖精達の命を喰らってこの体に蓄積させた精霊力の力の神髄をな!」
「精霊力の力ですか。普段の魔力とは別に精霊力は封印の対象外と言う事でしょうか。それとも普段はただ精霊力を蓄積させているだけなのでその隠された力を検閲して封印する事は流石に出来なかったのかも知れませんね。いぜれにしてもその溜に溜めた精霊力の力を使えるのなら確かに脅威です。恐らく十二人の黒神子達の中でも精霊の力を使える者は妖精を食べてその力を蓄積させた黒神子ヨーミコワ以外には誰もいないでしょうからね!」
「そういう事だ。いくぞ黒神子レスフィナ、数々の妖精達から奪いしその強大な精霊の力をお前に全てぶつけてやるわ。くらえぇぇーーっ、魔風陣・竜巻精霊嵐ぃぃぃ!」
その言葉と共に黒神子ヨーミコワの体からは今まで感じたことのなかった精霊の力が内側から外部へと放出される。その力は凄まじく、本来妖精が生命エネルギーとしてその命に宿している精霊の力を黒神子ヨーミコワは食べに食べてその力を体内で凝縮させた事で他の精霊達では比較にならない程の強大な精霊の力を保持しているのだ。
そんな未知なる強大な力が自然霊を宿した巨大な竜巻となって黒神子レスフィナに襲いかかる。
ゴゴゴゴゴゴゴーーシュゴッオォォォォォ、ドッシュゥゥゥゥーーン!
「ハハハハ、これ程の強大な精霊の力は今現在いる紋白蝶の妖精の女王でも得られてはいない力だ。そんな私に危惧した当時の邪妖精の女王は五百年前にある一人の勇者の力を借りて私を魔道兵器の封印機の中に封じたが、それでも私はこの五百年間一度もこの精霊力を使うことはなかった。なぜだと思う、そうだこの精霊の力はこの緑ある世界でしか使えないからだ。つまりこの世界にある大自然の力と干渉しなけねば使う事のできない力なのだよ。だから何も無い封印内の檻の中では精霊の力は全く使えなかった。でも外に出た今なら使える。しかも私が遙か闇なる世界のお母様からいただいている魔力を賢者の魔石で大半が封じられている今、黒神子レスフィナに対抗できる力はこの精霊の力を置いて他には無いからな。だから今こそ惜しみもなくこの力を使わせてもらうよ。黒神子レスフィナ、お前を倒す為にな!」
黒神子ヨーミコワの言葉と共に襲い来る強烈な竜巻の嵐に黒神子レスフィナは直ぐさま黑血術の血の防御壁を解き、その力の全てを目の前にいるラエルロットの体を守る為だけに使う。
「この竜巻の攻撃をまともに受けたら流石に不味いです。この竜巻は普通の竜巻じゃない!」
そう思いを口にした黒神子レスフィナは全てが凝縮した黑血術の血の液体でラエルロットの体を包み込むと、瞬時にその強度と硬度を強固にする。その黑血術の素早い術の完成を見届けた黒神子レスフィナは両手で抱きかかえている蛾の妖精のルナを胸の懐に入れるとしっかりとガードを固める。その瞬間黒神子レスフィナの体は突風で宙へと吹き飛ばされ、全てを薙ぎ払うかのような凄まじい回転をしながらレスフィナの体は激しく何度も至る所にぶつかりズタボロになっていく。
ゴゴゴオオォォォォォォォーー、グルグルグル、バキ・ドカ・ゾコ・ガシャン!
「ぐっはぁ! がはっ! うぐっ! げほっ! ががぁぁーーぅぅ!」
回りの木々は全てが折れ、大地は削れ、大きな岩は砕かれ、蛾の妖精達が住まう小枝と藁で出来た小さな家々は強烈な風の嵐で全てが吹き飛ぶ。
そんな風の精霊を纏う竜巻と共にあらがえない大自然の力の渦へと巻き込まれた黒神子レスフィナは体中至る所をぶつけながら隠れ里の回りをグルグルと螺旋状に高速回転するが、最終的には遙か上空へとその体は巻き上げられてしまう。
「な、なんて力なの……」
竜巻の勢いは上空付近で止み、直ぐさま攻撃態勢を取ろうと体を動かそうとするが、なぜか体の自由が全く効かない黒神子レスフィナは何も出来ないまま下へ下へと真っ逆さまに落ちて行き、剥き出しの地面へと激突する。
ドッカアァァーーン!
その凄まじい衝撃と激突で落ちた箇所が真っ赤に染まった黒神子レスフィナの体は体中の骨が砕け、血は飛び散り、臓器が至る所に飛び出てしまったが、直ぐに再生が始まることを信じてただひたすらに待つ。
だが直ぐに自動修復するはずの超再生能力の起動は緩やかにしか行われず、体に受けたダメージの治りが悪いのかレスフィナは自分の体をなぜか1ミリも動かすことができない。
(そ、そうですか……これがやはり……黒神子ヨーミコワの本当の狙いですか。この風の精霊の凝縮した力を宿した竜巻をその体に浴びてダメージを喰らってしまったら、自然治癒の超再生能力の力はかなり阻害されてしまい、更には受けた体へのダメージも直ぐには戻らないというおまけ付きですか。だから私は自分の体を一切動かす事ができないのですね。本来なら自己再生と共に体への体力も戻るはずなのですが……これはかなり不味い状況です。どうやらHPとMPを同時にゼロにさせられてしまったようです。しかも治りも極端に遅いです。こうなってはもう私に出来ることは何もありません。でも黒神子ヨーミコワも私を完全に殺すことはまず出来ませんから、だからこそ次に何を狙っているのか。その次の行動がなんとなく読めるのです。本来なら私達がやろうとしていた事を、ヨーミコワさんが逆に私に向けて行おうとしていると言う事でしょうか。全く……本当に困った物ですわ)
そう心の中で呟いたレスフィナの元に勝ち誇った顔をしながら近づく黒神子ヨーミコワの姿が見える。
黒神子ヨーミコワは無様に倒れるレスフィナを見つめながら感無量とばかりに仁王立ちをしていたが、フと何かを思い出したのか黒いローブの胸元からネックレスの紐をたぐり寄せると、ある物をこれ見よがしに見せつける。
そこに見えたのはここに来る際に狼魔族のボス・ザドから受け取ってきたと思われる古代の遺物の一つ、賢者の魔石だった。
黒神子ヨーミコワはその首から下げている賢者の魔石を下で身動き一つ出来ずに倒れている黒神子レスフィナの頭に無造作に押し当てると、ニヤリと邪悪に笑う。
「コケェエコッコウゥゥ、お前が本当に黒神子の一人だと言うのなら私達の殺し合いほど無意味な事はないと言う事は勿論知っているな。なぜなら私達は限りなく不死だからだ。つまりいくら互いに傷つけあっても決して死なないのだ。なら私達に取っての終わりとは……勝負の決着とは一体何だと思う」
「それは……」
「フフフフ、そうだよ、何かに封印される事だ。どんな事をされても決して死ねない体を持つ私達に取っての死よりもつらいことは強力な封印の手段で長時間拘束をされる事だ。そしてレスフィナ……この私の最後の切り札でもある精霊の力を見事に使わせ、その結果私に敗北したお前はまさにこれで終わりだと言う事だ。一年前に私が、勇者の手により一体どうやってこの賢者の魔石の中に封印されたのかを今ここで教えてやるよ!」
「この私をその賢者の魔石の中に封印するつもりですか。今現在三分の二の本体が封じ込められているあなたの体と同じ場所に……」
「ああ、招待してやるよ、我が別荘に。行きは入りやすいが帰りは中々出られない、重大な罪を犯しと者には絶対に出る事が許されない……禁断の牢獄にな!」
賢者の魔石を翳す黒神子ヨーミコワがそう言葉を掛けると、レスフィナの体は強烈な何かの強い光に包まれ、そのまま魔石の中に吸い込まれるような形で消えて行くのだった。
翼から徹甲弾を放つ黒神子ヨーミコワの図です。
黒神子ヨーミコワの傲慢なプライドを上手くついたレスフィナの咄嗟の機転でどうにか無事に蛾の妖精のルナを助けることに成功した四人は、それぞれが黒神子ヨーミコワと距離を測りながらその間合いを見定める。だが、そんな緊迫する状況下の中でも黒神子ヨーミコワは余裕をみせるとラエルロット・ゴンタ・シャクティ・レスフィナの四人のレベルを目測による数値で見定める。
(黒神子ヨーミコワのスキル……鑑定眼力! お前達の強さや経験を数値化してそのレベルを計ってくれるわ。一人目は、あの黒い鎧を着た人間か。そのレベルは……レベル1だと。なんだただの雑魚じゃないか。確かあれだけご大層な大口を叩いて自称勇者を名乗っていたが、その正体が実は実力が全くないただのハッタリ野郎ではもう笑うしかないな。どこで手に入れたのかは知らないがあの纏ってある復讐の鎧の力を使ってしまったらただの人間は即座に死に至るというのに愚かな男だな。しかもレベル1の最低な数値で勝つとか、この男は一体何を言っているんだ。恐怖の対象でもあるこの私とまともに戦うつもりでいるし、もしかしたら頭の可笑しな人間なのかな。だとしたならばもう嘲りを通り越して哀れみしか感じないのだがな、本当に理解に苦しむよ。それにこれならまだ邪妖精の衣を持っているあの蛾の妖精の娘の方が強いかもしれんぞ。
二人目は、狼魔族の生意気そうな若者か。レベルは2か。あの人間よりは強いようだがいずれにしても雑魚だな。ワタシにとってはレベル1もレベル2もたいして変わらないからな。まあ薄汚いぱしりのオオカミなどこんな物か。
続いて三人目は、とろそうな犬人族の神官か。レベルは2と出ているが……こいつは意図的に情報偽装している疑惑があるからな。その本当の手の内をもう少しだけ見てみないとちゃんとした事は分からないと言う事か。こいつには少し注意が必要だな。
そして四人目の最後は、黒神子レスフィナを名のる偽物か。だがいくら鑑定しても彼女のレベルだけはどうしても見定める事ができない。何か情報遮断の魔法やアイテムを使用しているのか。それは分からないが、いずれにしても魔道においてはかなりの実力者であることだけは間違いないようだな。
あと、おまけに蛾の妖精のルナのレベルは、レベル1だ。まあその者が異世界召喚者か冒険者の者ならその特定も簡単だが、そのどちらの資格も無い者はそもそもレベルが測れないからな。レベル1という結果になっても仕方が無いと言った所か。そしてそのレベルが上がることは決してない。その数値を元に大まかな評価をしているのだから実際はどんなに実威力のある猛者だったとしても冒険者組合か異世界召喚者のいずれかに所属をしていないとその者の強さは測れないと言う事だ。それが私が出した結論であり結果だ。だからこのメンツでは特に警戒をする事も無いと言う事だ。全てが予想範囲内だ!)
そう結論づけた黒神子ヨーミコワは、黒い不格好な木刀を構えるラエルロットとすまし顔のままに立つ黒神子レスフィナを激しく睨みつけるが、直ぐに笑顔になり頭を振りながら大きくその視線を外す。
「フフフフ、やめよ、やめ、あなた達とは何だか戦いたくないから見逃してやってもいいわよ。勿論他の蛾の妖精達も同様にね」
「そ、それは、本当か。でもなぜそんな事を行き成り言い出すんだ?」
その思いがけない言葉につい気が抜けたのかラエルロットは手に持つ黒い不格好な木刀を下に下げながら警戒心を解くが、その気の緩みを感じた黒神子レスフィナが大きな声で叫ぶ。
「ラエルロットさん、油断してはいけません。黒神子ヨーミコワはそのタイミングを外して私達の意表を突く作戦ですわ。直ぐに攻撃が来ますよ!」
「な、なにぃぃーーぃ!」
「ホホホホ、もう遅いわ。くらえぇぇーーぃ、両翼の羽から繰り出される最速の徹甲弾の威力を!」
その最速の徹甲弾と化した鉄の羽が砲弾のように飛び、目の前にいるラエルロットとレスフィナの体を貫き瞬時に蜂の巣にしていく。その鋭利な刃物を飛ばしてくる散弾の雨にラエルロットとレスフィナの体は大きく吹き飛び、地面に倒れる頃には体中に大きな穴の開いたただの肉塊へと化していた。
「ラエルロットさん! レスフィナさん!」
「馬鹿共が、行き成り攻撃をくらうなよ!」
「コケェエコッコウゥゥ、無駄だ無駄だ、自称黒神子を名のる少女も、自称勇者を名のる人間の青年も、嘘つき同士仲良くあの世に行ったよ。そんな見え透いた嘘までついて一体なぜここに来たのかは理解に苦しむが、恐らくは黒神子や勇者に憧れた変わり者が手柄欲しさにここに来たのだろうよ。全く馬鹿げた話だ。そんな訳で次はお前達の番だ。狼魔族と犬人族は兄弟の種族のような物だから、お前達も二人仲良くあの世に送ってくれるわ!」
「ハハハ、黒神子レスフィナや黒い鎧の人間のように俺達もあの世に送ってくれるらしいぞ。どうするよシャクティ!」
「これは謹んでお断りしないといけませんね。それにしても黒神子ヨーミコワさんはもう勝った気でいるんですか。あのくらいの奇襲攻撃を当てたくらいで勝った気になれるだなんてちょっと気が早すぎるんじゃありませんか」
「な、なんだとう?」
どう見てもまず助からないラエルロットとレスフィナの絶対的な死に黒神子ヨーミコワは余韻にも似た勝ちどきに浸っていたが、ゴンタとシャクティの反応が今一鈍い事に疑問の目を向ける。
「なんだ、どう言う事だ。あの二人は私の放った徹甲弾を喰らって確実に死んだはずなのに、何をそんなに落ち着いているんだ。あの肉の塊と化した死体がお前らには見えないのか。お前ら狼と犬のコンビもその数秒後には同じ運命を辿る事になるのだぞ、それが分かっていてそんなトンチキな強気な言葉を発しているのか。もう私の勝ちは最初からわかりきっている事だと言うのに」
「何も分かっていないのはあなたの方です。あなたがたった今徹甲弾で殺したと豪語するラエルロットさんとレスフィナさんの二人に目を向けて下さい。そしてあなたが頑なに信じないその事実を受け入れて下さい。あの二人もまた不死身だという真実に。一体どういう経緯で二人は出会いそして旅を共にしているのかは知りませんがレスフィナさんもラエルロットさんも勿論正真正銘の本物の黒神子とその眷属ですし、本当の戦いはここから始まると認識した方がいいと思いますよ!」
シャクティの強い言葉に黒神子ヨーミコワは思わずその視線を死んだはずの二人に向けると、そこにはまるで何事も無かったかのように立つ黒神子レスフィナとその眷属でもあるラエルロットの姿があった。
徹甲弾という手厚い歓迎をまともに受けたレスフィナとラエルロットの二人は、風穴を空けられた体が超再生能力で元通りに直っていく過程を確認しながら、その不快感を行き成り攻撃してきた黒神子ヨーミコワに向ける。
「くそ、行き成りあんな姑息な攻撃をして来るとは正直思わなかったぜ。ちくしょう、完全に意表を突かれてしまった!」
「姑息な攻撃と言うか、極めて古典的な攻撃と言った所でしょうか。わざと心のタイミングを外して……ずらして行き成り攻撃を仕掛けてくる辺りが小悪党的だと言うほかはありませんね。まあ、私達に取っては焼け石に水ですけどね!」
「ば、バカな、私が挨拶代わりに与えた徹甲弾での負傷の傷穴がもう完全に塞がってやがる。というかその身にまとっている服すらも元通りに直っていると言う事は身体的再生だけではなく、時間の逆戻りもあるのかも知れないな。まあいずれにしてもだ、あの黒神子レスフィナを名のる偽物とひ弱な正義を振りかざす似非勇者の二人だけは瞬時に傷を直せる力があるようだな。面白い、面白いわ!」
両翼の翼を広げながらそう絶叫すると全方位攻撃とばかりに逆立った幾つもの羽を鋼鉄に変えながらまるでミサイルのように撃ち放つ。
「くらえぇぇーーっ、全方位徹甲弾の雨を!」
その行き成り放たれた直線に飛ぶ徹甲弾と化した鉄の羽は無数に散らばり高速の速さであらゆる物を貫き切り裂いていくが、犬人族のシャクティはその身体機能の高さで全ての散弾を簡単に避け。狼魔族のゴンタは直ぐに近くにある太い樹木の陰に隠れながら徹甲弾の直撃を上手く回避する。
そして肝心のラエルロットはレスフィナを守る為に敢えて文字通りの盾となる為に前線へと立ち。その後方で抱きかかえた蛾の妖精のルナを守りながらも黒神子レスフィナは手に持つ杖を前に突き出すと呪いの術を発動させる。
「黑血食呪殺術、血壁の結晶柵!」
力強く叫ぶレスフィナの言葉と同時にラエルロットの目の前に現れた血の液体で出来た血液の金網は瞬時に恐ろしい硬度へと固まり、硬度20と化した絶対無敵の血の網は、無数に発射される黒神子ヨーミコワの徹甲弾を全て直前で留め跳ね返していく。
バキーン、ゴッカーン、ガッコーン、ガッシャン、バッコーン、シュッキーン!
(うっひょぉぉぉ、あぶねえぇーー、正直助かったぜ。このまま肉の壁になって立ちはだかっても俺の体に風穴を空けてそのままレスフィナの所まで届きそうだったからな。だからレスフィナが発動させた術は何よりも心強いぜ。しかしレスフィナの術はすげえぇぇーーな、あの黒神子ヨーミコワが放つ徹甲弾を全て直前で跳ね返してやがる。黒神子ヨーミコワが放つ徹甲弾の威力と硬度よりも、黒神子レスフィナの血液で出来た強固な柵の網の方がより強いと言う事か。話では黒神子ヨーミコワは賢者の魔石の力の効力によって本来の三分の一しかその力を発揮できないみたいだから、百パーセントの力を発揮できる黒神子レスフィナの方がこの戦いでは遙かに有利と言う事になる。しかしこの後は一体どうしたものかな。俺はこの木刀が届く範囲でしか戦うことができないから、このまま突っ込む以外に戦う選択肢はないんだが。さてさてどうした物かな)
目の前に注意を払いながらラエルロットがそんな事を考えていると「有り得ない……こんな事があってたまるかあぁぁぁ!」と絶叫しながら今度は天高く空へと舞い上がる。
上空の空の上から悠然と下を見下ろす黒神子ヨーミコワはその長い足についた鋭い鉤爪を地上にいる黒神子レスフィナに向けて目標となる照準を定める。
「これならどうだ。今度こそくらえぇぇーーっ、必殺闘鶏キックゥゥゥ!」
物凄い落下速度を追加した飛行能力の速さで真下にいる目標目掛けて必殺技の蹴り足で迫る黒神子ヨーミコワだったが、その必殺の蹴りすらもレスフィナの頭上にザルの網のように展開した黑血食術の血の防御壁を黒神子ヨーミコワは当然破ることができない。
「くそ、くそ、ちくしょう、まさか本当にこいつは黒神子レスフィナじゃないだろうな。姿形や性格は私が知っている頃とは明らかに違うが、この自らの血液を利用した呪いの力は明らかに黒神子レスフィナが使う本来の戦い方だ。ならこの圧倒的な力を認めなくてはならないようだな。非常に悔しいがな。ちくしょう、私の体が万全なら、黒神子レスフィナの黑血食術なぞ直ぐにでも破れるのに!」
「いい加減に降伏して下さい。本来の半分の力も出せないあなたが私に勝つことはまず絶対にできません。今現在襲っている蛾の妖精達から手を引いて下さい。もしも手を引いてくれるなら、これで互いに痛み分けとしますから」
「痛み分けだとう……私と取引でもしようと言うのか。あの悪名高い黒神子レスフィナともあろう者が随分とお優しくなった物だな。そして随分とふざけた事を言いよる。この誇り高い私がお前の意をくんで痛み分けにする訳がないだろ。邪妖精の王女の子孫をぶち殺せるチャンスとようやく巡り会えたのだから、絶対的な絶望を与えてから美味しく食してくれるわ。そんな訳で蛾の妖精に味方するお前とはとことん戦わせて貰うぞ!」
「なら仕方がありませんね、あなたを力ずくで押さえ込むとしますか。私の能力でなら空を飛ぶあなたを地面に固定し、たたき落とす事も可能ですから」
「クククク……どうやら私は、妖精達を食す事によって溜に溜めて来た力を開放しなけねばならない所まで追い込まれてしまったようだな。長年隠し続けて来た奥の手を今ここで披露しなけねばならないとは正直口惜しいが……まあ仕方がないか!」
「奥の手とは一体なんの事ですか。あなたが持つ遙か闇なる世界の黒神子の力は一年前の異世界勇者との戦いで賢者の魔石に封じ込められた状態では殆ど使えないはずですから、今のこの段階では本来の三分の一の魔力しかその力は出せないはずです。だからこそあなたは私との戦いの上でもかなりの後れを取っている。ですがあなたの言うその奥の手の力とは賢者の魔石の封印術の影響を受けないと言う事ですか。まあ、ただの苦し紛れのハッタリだとは思いますが、もしも本当にそんな切り札があるのなら是非とも私に見せて下さいな。勿論正々堂々と受けて立ちますよ!」
「その台詞……やはりお前は以前のレスフィナではないな。お前がもしも私が知る五百年前以前の黒神子レスフィナだと言うのなら一体お前の身になにがあったと言うんだ。姿形も性格も、やることなすこと全てが本来の黒神子達とはまるで真逆ではないか!」
「そうなのですか。ごめんなさい、あなたのことや他の黒神子達の事も知識では知ってはいるのですが、私個人の記憶はなぜか一切思い出せないのですよ。なぜでしょうね。十八年前から以前の記憶は全てこの世から消失したかのようです。十八年前、私の身に一体なにがあったのでしょうか。その手掛かりを聞こうと同じ黒神子でもあるあなたに聞いてみようと思っていたのですが、どうやら何も知らないみたいですね。非常に残念です」
「それはそうだろ、邪妖精の女王の手により五百年前に古代の魔道兵器の封印術機の中に封印され、そこから約三百年間外にでる事は出来なかったのだからな。そこから二百年間は復讐とばかりにこの世界にいる妖精達を手当たり次第に遅い喰いに喰いまくったが、一年前に蛾の妖精達の村を襲撃した際に異世界勇者が持っていた古代の遺物、賢者の魔石でまた一年間だけ封印されてしまった。だがまあその封印も完璧ではなかったが為に中途半端な形で出られる抜け道が出来てしまったのだがな」
「あなたの経緯と嘆きは分かりました。そして私とは五百年前からは一度も出会ってはいないことも。でもそんなあなたが私に勝てる見込みがあるのですか。封印されて本来の力が発揮できないのではありませんか」
「フフフフ、そう案ずるなよ。大体なぜ私が以前から妖精ばかりを好んで襲ってその肉を食べているのか、その訳を今ここで見せてやるよ。妖精達の命を喰らってこの体に蓄積させた精霊力の力の神髄をな!」
「精霊力の力ですか。普段の魔力とは別に精霊力は封印の対象外と言う事でしょうか。それとも普段はただ精霊力を蓄積させているだけなのでその隠された力を検閲して封印する事は流石に出来なかったのかも知れませんね。いぜれにしてもその溜に溜めた精霊力の力を使えるのなら確かに脅威です。恐らく十二人の黒神子達の中でも精霊の力を使える者は妖精を食べてその力を蓄積させた黒神子ヨーミコワ以外には誰もいないでしょうからね!」
「そういう事だ。いくぞ黒神子レスフィナ、数々の妖精達から奪いしその強大な精霊の力をお前に全てぶつけてやるわ。くらえぇぇーーっ、魔風陣・竜巻精霊嵐ぃぃぃ!」
その言葉と共に黒神子ヨーミコワの体からは今まで感じたことのなかった精霊の力が内側から外部へと放出される。その力は凄まじく、本来妖精が生命エネルギーとしてその命に宿している精霊の力を黒神子ヨーミコワは食べに食べてその力を体内で凝縮させた事で他の精霊達では比較にならない程の強大な精霊の力を保持しているのだ。
そんな未知なる強大な力が自然霊を宿した巨大な竜巻となって黒神子レスフィナに襲いかかる。
ゴゴゴゴゴゴゴーーシュゴッオォォォォォ、ドッシュゥゥゥゥーーン!
「ハハハハ、これ程の強大な精霊の力は今現在いる紋白蝶の妖精の女王でも得られてはいない力だ。そんな私に危惧した当時の邪妖精の女王は五百年前にある一人の勇者の力を借りて私を魔道兵器の封印機の中に封じたが、それでも私はこの五百年間一度もこの精霊力を使うことはなかった。なぜだと思う、そうだこの精霊の力はこの緑ある世界でしか使えないからだ。つまりこの世界にある大自然の力と干渉しなけねば使う事のできない力なのだよ。だから何も無い封印内の檻の中では精霊の力は全く使えなかった。でも外に出た今なら使える。しかも私が遙か闇なる世界のお母様からいただいている魔力を賢者の魔石で大半が封じられている今、黒神子レスフィナに対抗できる力はこの精霊の力を置いて他には無いからな。だから今こそ惜しみもなくこの力を使わせてもらうよ。黒神子レスフィナ、お前を倒す為にな!」
黒神子ヨーミコワの言葉と共に襲い来る強烈な竜巻の嵐に黒神子レスフィナは直ぐさま黑血術の血の防御壁を解き、その力の全てを目の前にいるラエルロットの体を守る為だけに使う。
「この竜巻の攻撃をまともに受けたら流石に不味いです。この竜巻は普通の竜巻じゃない!」
そう思いを口にした黒神子レスフィナは全てが凝縮した黑血術の血の液体でラエルロットの体を包み込むと、瞬時にその強度と硬度を強固にする。その黑血術の素早い術の完成を見届けた黒神子レスフィナは両手で抱きかかえている蛾の妖精のルナを胸の懐に入れるとしっかりとガードを固める。その瞬間黒神子レスフィナの体は突風で宙へと吹き飛ばされ、全てを薙ぎ払うかのような凄まじい回転をしながらレスフィナの体は激しく何度も至る所にぶつかりズタボロになっていく。
ゴゴゴオオォォォォォォォーー、グルグルグル、バキ・ドカ・ゾコ・ガシャン!
「ぐっはぁ! がはっ! うぐっ! げほっ! ががぁぁーーぅぅ!」
回りの木々は全てが折れ、大地は削れ、大きな岩は砕かれ、蛾の妖精達が住まう小枝と藁で出来た小さな家々は強烈な風の嵐で全てが吹き飛ぶ。
そんな風の精霊を纏う竜巻と共にあらがえない大自然の力の渦へと巻き込まれた黒神子レスフィナは体中至る所をぶつけながら隠れ里の回りをグルグルと螺旋状に高速回転するが、最終的には遙か上空へとその体は巻き上げられてしまう。
「な、なんて力なの……」
竜巻の勢いは上空付近で止み、直ぐさま攻撃態勢を取ろうと体を動かそうとするが、なぜか体の自由が全く効かない黒神子レスフィナは何も出来ないまま下へ下へと真っ逆さまに落ちて行き、剥き出しの地面へと激突する。
ドッカアァァーーン!
その凄まじい衝撃と激突で落ちた箇所が真っ赤に染まった黒神子レスフィナの体は体中の骨が砕け、血は飛び散り、臓器が至る所に飛び出てしまったが、直ぐに再生が始まることを信じてただひたすらに待つ。
だが直ぐに自動修復するはずの超再生能力の起動は緩やかにしか行われず、体に受けたダメージの治りが悪いのかレスフィナは自分の体をなぜか1ミリも動かすことができない。
(そ、そうですか……これがやはり……黒神子ヨーミコワの本当の狙いですか。この風の精霊の凝縮した力を宿した竜巻をその体に浴びてダメージを喰らってしまったら、自然治癒の超再生能力の力はかなり阻害されてしまい、更には受けた体へのダメージも直ぐには戻らないというおまけ付きですか。だから私は自分の体を一切動かす事ができないのですね。本来なら自己再生と共に体への体力も戻るはずなのですが……これはかなり不味い状況です。どうやらHPとMPを同時にゼロにさせられてしまったようです。しかも治りも極端に遅いです。こうなってはもう私に出来ることは何もありません。でも黒神子ヨーミコワも私を完全に殺すことはまず出来ませんから、だからこそ次に何を狙っているのか。その次の行動がなんとなく読めるのです。本来なら私達がやろうとしていた事を、ヨーミコワさんが逆に私に向けて行おうとしていると言う事でしょうか。全く……本当に困った物ですわ)
そう心の中で呟いたレスフィナの元に勝ち誇った顔をしながら近づく黒神子ヨーミコワの姿が見える。
黒神子ヨーミコワは無様に倒れるレスフィナを見つめながら感無量とばかりに仁王立ちをしていたが、フと何かを思い出したのか黒いローブの胸元からネックレスの紐をたぐり寄せると、ある物をこれ見よがしに見せつける。
そこに見えたのはここに来る際に狼魔族のボス・ザドから受け取ってきたと思われる古代の遺物の一つ、賢者の魔石だった。
黒神子ヨーミコワはその首から下げている賢者の魔石を下で身動き一つ出来ずに倒れている黒神子レスフィナの頭に無造作に押し当てると、ニヤリと邪悪に笑う。
「コケェエコッコウゥゥ、お前が本当に黒神子の一人だと言うのなら私達の殺し合いほど無意味な事はないと言う事は勿論知っているな。なぜなら私達は限りなく不死だからだ。つまりいくら互いに傷つけあっても決して死なないのだ。なら私達に取っての終わりとは……勝負の決着とは一体何だと思う」
「それは……」
「フフフフ、そうだよ、何かに封印される事だ。どんな事をされても決して死ねない体を持つ私達に取っての死よりもつらいことは強力な封印の手段で長時間拘束をされる事だ。そしてレスフィナ……この私の最後の切り札でもある精霊の力を見事に使わせ、その結果私に敗北したお前はまさにこれで終わりだと言う事だ。一年前に私が、勇者の手により一体どうやってこの賢者の魔石の中に封印されたのかを今ここで教えてやるよ!」
「この私をその賢者の魔石の中に封印するつもりですか。今現在三分の二の本体が封じ込められているあなたの体と同じ場所に……」
「ああ、招待してやるよ、我が別荘に。行きは入りやすいが帰りは中々出られない、重大な罪を犯しと者には絶対に出る事が許されない……禁断の牢獄にな!」
賢者の魔石を翳す黒神子ヨーミコワがそう言葉を掛けると、レスフィナの体は強烈な何かの強い光に包まれ、そのまま魔石の中に吸い込まれるような形で消えて行くのだった。
翼から徹甲弾を放つ黒神子ヨーミコワの図です。
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