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第二章 黒神子・妖精喰いのヨーミコワ編
2-25.妖精達が持つ、精霊の力
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2ー25.妖精達が持つ、精霊の力
「コッケェェコッコウ、コケェェコッコウ、どうやら一気に形勢が逆転したようだな。この精霊の力を私に使わせたからにはもうお前達に勝機は全くないな。ラエルロット、お前はこの力で1000メートル以上上空に吹き飛ばしてから、そのままレスフィナの不死の力が供給されない遠くの彼方まで消し去ってくれるわ!」
「そんな事をされたら俺は間違いなく死んでしまうな。ならこちらも出し惜しみは無しだ。お前をここで叩きのめしてその首に提げている賢者の魔石を絶対に手に入れてやるぜ!」
「やれる物ならやってみろ。くらえぇぇーーっ、これが私の最大にして最強の技だぁぁぁ。魔風神、竜巻精霊嵐ぃぃぃぃ!」
その大型の台風と巨大な竜巻と化した大回転を発生させる爆風が回りの全ての木々を簡単に吹き飛ばし、レスフィナ・シャクティ・ゴンタの三人を物凄い力で遠くに押しやっていく。
そのどうしてもあらがうことが出来ない凄まじい猛風の脅威に晒される事になったラエルロットは徐々に威力が増してきているヨーミコワの精霊力に立ち向かう為に最後の攻撃へと移る。
「いくぞ、ルナ、準備はいいか!」
「はい、いけます。いつでもOKです!」
「なら、くらえぇーーっ、物理攻撃において、俺の最強の攻撃技、狂雷、電光石火ぁぁ!」
その叫びと共に物凄い雷鳴と雷撃を纏わせたラエルロットの体はギラギラゴロゴロと光り輝き、まさに電光石火と呼ぶに相応しい物凄い俊足と俊敏な動きで目の前にいる黒神子ヨーミコワに目がけて突進していく。
「くらえぇぇーーっ、黒神子ヨーミコワ!」
だが、黒神子ヨーミコワの体にラエルロットが持つ黒い不格好な木刀が叩き込まれようとしていたその瞬間、黒神子ヨーミコワの体が七色に光り輝き、第三波による衝撃波と激風が物凄いサイクロンとなって近くまで接近していたラエルロットの体を吹き飛ばしに掛かる。だがラエルロットの体はまだその撃風の力にあらがい続けており、その猛風のような脅威に吹き飛ばされないようにその場所で必死に踏ん張り耐える。
ゴッ、ゴゴオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオっォォ!
「ここで吹き飛ばされて溜まるかぁぁぁ、絶対にこの木刀を、黒神子ヨーミコワ、お前のその体に必ず叩き込んでやる。やはり狂雷のスキルの突進力だけでは黒神子ヨーミコワの精霊力のエネルギーの突破は難しいか。ならこちらも覚悟を決めるか。ふ、復讐の鎧よ、この俺に黒神子ヨーミコワの体に届きえる最強の力を与えてくれ!」
そのラエルロットの願いと同時にラエルロットの体に装着されている復讐の鎧が高らかに不気味に嘆きの声を上げ、ラエルロットのパワーとスピードは飛躍的に倍増するが、目は充血し、鼻と口からは大量の血が滴り落ちる。
「ラ、ラエルロット!」
ラエルロットの侵した代償と体の異変に気づいた蛾の妖精のルナが心配して思わず声を上げるが、気にする様子も無くラエルロットは更に力を求める。
「まだ足りないか。なら続けて代償を払うぜ。復讐の鎧よ、その強者に恨みを晴らそうとする亡者共よ。この俺に更なる力の上乗せを頼む。どうか黒神子ヨーミコワに届きうる一撃を与えてくれ!」
「フフフフ、無駄、無駄、無駄、無駄だぁぁ。精霊風の風よ。こちらも更に増大せよ。木の葉のようにとどまっているラエルロットを今度こそ遙か遠くの彼方まで吹き飛ばせぇぇぇ!」
更に増大に力を増した激風に対抗するかのようにラエルロットは更に更なる力を復讐の鎧に求めるが、充血していた両目からは血が溢れ、体中の皮膚という皮膚はその衝撃に耐えられなかったのか、強烈な風と共にその血の液体は後ろの方へと吹き飛ばされていく。
「まだ黒神子ヨーミコワには届かないのか。くそうぅぅ、まだ・まだ・まだ・まだだあああぁぁぁぁ、この精霊力エネルギーが大量に含んだその激流の風の流れを止める手段は最初からないに等しい。だがそれでも……無駄だと分かっていてもやらなくてはならない時があるんだ。その時がまさに今だ!」
「だけどラエルロット、このままだと更なる力を求めたあなたの方がその力の代償から来る反動で体が耐えられなくなるわ。とてもじゃないけどその体は武力による願望を叶える前に体の崩壊の方が先に訪れるわ。もう既に無理矢理に引き出された力の影響で、鼻や口からだけじゃなく、目や所々の皮膚を破いた所からも大量の血が溢れ出ている。もう体が、ラエルロットの体が持たないわ!」
そう蛾の妖精のルナが叫んだ瞬間、また黒神子ヨーミコワの精霊力の風のエネルギーが増大する。
「フフフフ、これだけの強大な風の精霊エネルギーを受けてもまだ吹き飛ばされずに必死に耐えしのいでいるのか。なら最後は一気にマックス状態まで風の力を解放して、ラエルロット、お前を確実に空が見える上空の彼方まで吹き飛ばしてくれるわ。くらえぇぇーーっ!風の精霊の力ぁぁ、マックスゥゥゥゥゥ!」
そのどうしてもあらがう事のできない絶対的な激風の力に耐えられなかったラエルロットの体はついに地面から離れ、そのまま大きな激風と強風の嵐の中へと巻き込まれていく。
「ハハハハハ、今までよく耐えたがこれでお終いだ。この私が操る精霊力のエネルギーの前では全ての努力が無駄と化すのだあぁぁ!」
ラエルロットが強烈なサイクロンの力で高らかに上空へと巻き上げられ、飛ばされたと確信した黒神子ヨーミコワは高らかに笑うと自分の勝利を確信するが、ラエルロットは荒い息を吐きながらもその荒れ狂う風の激流に逆らい、どうにかその体を空中で維持している。そう蛾の妖精のルナは己の飛行能力で、上へと吹き飛ばされそうになっているラエルロットの飛行を影ながらに手伝う。
「ルナ、お前、この荒れ狂う風の激流に逆らって、お前の方は大丈夫なのか?」
「ええ、私の方は心配しないで。でもこの風の嵐を貯蔵し吸い込める程のMPが今の私にはもう無いわ。だからこの精霊風の風の嵐を吸い込む事ができない。たく、せっかくこの精霊のエネルギーを大量に邪妖精の衣の中に保管ができる唯一のチャンスなのに、本当に口惜しいわ!」
「くそぉぉぉ、ならこっちも更なる力の要求だ。復讐の鎧よ、更なる力の倍増を更に重ねて要求する。あの黒神子ヨーミコワの体に叩き込めるだけの力を更に要求するぜ。さあ俺の願いを叶えろ! 大丈夫だ、俺も今は不死だと言う事を忘れるなよ!」
「ラエルロット、無茶はしないで。そんな力を求める頼み方を続けて何度もしたら、いくら不死の能力供給を受けているラエルロットでもその体はしばらくは動けなくなるわ。それに忘れたの、この精霊風の風をまともに浴びた黒神子レスフィナはしばらくはその魔力自体が封じられる結果になってしまった事に。だからこそ黒神子ヨーミコワに敗北したレスフィナは一時的とはいえ賢者の魔石の中に封じられる結果になってしまったんじゃない。つまり、今現在ラエルロットが受けているそのダメージはそう簡単には修復はされないと言う事よ!」
「それでも……それでも……今はこれしかないんだ。ベストを尽くす以外に俺が今できる事はこれしかないんだぁぁぁぁ。いくぞ、電光石火と遂になる技、狂雷、雷光石火ぁぁ!」
「ラエルロットぉぉ!」
その叫びと共にラエルロットは右手に持つ、思いを具現化する苗木の木刀を黒神子ヨーミコワの体に叩き込む為に最後の力を振り絞る。
だが強力なマックス状態の精霊エネルギーの前ではラエルロットの木刀による一撃は届かず、その力の反動なのかラエルロットの左腕の骨は逆にへし折れ、折られた左腕はその先端から引きちぎられ、強風と共に豪快に後ろの方へと吹き飛ばされていく。
「ぐっわあぁぁぁぁぁーーぁぁ、腕が、俺の左腕が、行き成り吹き飛びやがった。しかもレスフィナの不死の加護が薄いせいか吹き飛ばされた左腕の箇所と体中が物凄く痛い。泣きたいくらいに痛いぜ。やはりこの精霊の力をまともに受けて……今現在レスフィナはその魔力を封じられているから俺の傷の治りも悪いと言う事なのか。だとしたらかなりやばい状態だぞ、なぜなら今の俺は限りなくただの人間に等しい存在だからだ。このままでは下手をしたら出血多量と外傷性ショックで確実に死んでしまうかも知れない!」
大きな声で不安を吐露するラエルロットは最後の一撃となる攻撃を阻止された事で仕方なく飛ぶのを辞め地面へと降り立つが、そんなラエルロットとルナに黒神子ヨーミコワは邪悪な笑みを向けると二人を睨みつける。
「ルナ、いつまで頑張っているの、無駄な抵抗は止めなさい。あなたはなんの価値も無いただただ災いと死をもたらす厄介者なんだから、必死に生きていても仕方がないでしょ。お父さんもそうだけど、お母さんも当然あなたのことは大っ嫌いだったわ。生まれて来なければいいとも思っていたわ。だってあなたのお陰でわたしとお父さんは死んだんだから。私達の代わりにあなたが死ぬべきだったのよ。そうは思わない、ルナ……」
その母の声質で語る黒神子ヨーミコワの辛辣な悪意のある言葉に蛾の妖精のルナは泣きながら「お、お母さん……わたし……わたしは……」と言いながらかなりのショックを受けている様子だったが、そんな二人の会話にラエルロットが劇を入れる形で口を挟む。
「ルナ、奴の言葉など聞く価値もないぜ。本当は分かっているんだろ。君のお母さんがそんな事を言う訳がないじゃないか。これはただ単に君のお母さんの声を真似た黒神子ヨーミコワの悪ふざけだ。ただ単に頑張っている君の心に揺さぶりを掛けて精神攻撃を試みているだけだ。だけどなんでそんな事をあいつが今この時にしなけねばならないんだろうな。もう既に万策尽きた俺達とは違い、黒神子ヨーミコワの方が明らかに戦いに勝っているこの時にだ」
「なぜなの……なぜ黒神子ヨーミコワは必要以上に私を苦しめるの?」
「答えは簡単だよ、黒神子ヨーミコワは、蛾の妖精のルナ、君のことをまだ心底恐れているからだ。君が生きていたら、また五百年前のように大量の仲間達を呼び寄せられて、黒神子ヨーミコワは敗北を強いられると思っているのさ!」
「大量の仲間……でも私にはそんな仲間は誰もいないわ。他の蛾の妖精達はみんな避難所の祠の岩穴の中に隠れているし、私を助けてくれているレスフィナ・シャクティ・ゴンタ・そしてラエルロットの四人以外に私を助けてくれる仲間はもう誰もいないわ。だからこそ私達は今正に大ピンチなんじゃない」
「確かにそうかもな。でもさあ、ルナを助けようと思っている人達はなにも全くいない訳じゃないんだぜ。もしかしたら結構近くに、大量にルナの今までの奮闘や頑張りを見ていてくれている人達がいたかも知れないぜ」
「そんな人達はいないわ。他の妖精達が蛾の妖精なんかを助けてくれる訳がないじゃない。私達……蛾の妖精族は、薄汚い愚かなただの羽虫らしいからね」
「本当に……?」
「くどいわね、何度も言わせないでよ!」
「だけど俺は昨日の夜に確かに会ったぜ。蛾の妖精達を……ルナを守ろうとこの隠れ里に集まってきてくれている妖精達の存在を……」
そのラエルロットの話を聞いていた黒神子ヨーミコワは青い顔をしながら震える声で叫ぶ。
「妖精達がこの地に集まって来ているだとう、適当な事を言ってんじゃねえよ。そんな事がある訳がないじゃないか。あの嫌われ者の蛾の妖精族を好んで助けてくれる他の妖精達はこの地域には全くいないはずだ。大体この黒神子ヨーミコワに挑んで来る妖精達などもうこの世には誰一人としている訳がないんだ。そうだろう!」
その黒神子ヨーミコワの指摘にラエルロットは吹き荒む風をかき分けながら大きな声で叫ぶ。
「お前は今、自分で答えを言ってしまったぞ。そうだ、この世にはお前を止められる妖精達はもう誰もいないのかも知れないが、あの世の人達ならどうだ。今までに殺して来た様々な妖精達や……蛾の妖精のご先祖達や……そして勿論その中には一年前に亡くなったルナのご両親だって必ずいるはずだ。だからこそ昨日の夜俺は、あの場所に呼ばれたんだ。そうあの光虫が大量に……静かに飛び交うあの禁断の墓標のある土地にな。昨夜俺はその場で飛んでいる大量の虫は山によくいる光虫の類だと思って気にもしてはいなかったんだが、その朝にレスフィナにこの事を話したらそれは光虫では無くこの地で亡くなった妖精達の魂が集まる場所だと聞いたんでな、不思議な霊体験をしたと肝を冷やしていたんだよ」
「そんな、でもこの地に住み着いている私だってそんな経験はまだしたこともないのに、その話は本当なの?」
「ああ、本当だよ。あの後シャクティとゴンタにも聞いたが、あの場所に大量にいた光虫は全く見てはいないと言う話が帰ってきたよ。つまりあの場所で光虫にも似た妖精達の魂が見えていたのは、俺とレスフィナの二人だけだったと言うことさ」
「そうか、蛾の妖精達は……お父さんとお母さんは私達を影ながらに見守っててくれていたんだ……そう、そうなのね。ラエルロット」
「ああ、そうだとも、でなけねばあんな誰もいない薄気味悪い山の中で一人で出向いて、黄昏れていること事態が可笑しな事だったからな。あの時俺は、今まで亡くなった蛾の妖精達の魂に呼び寄せられていたのかもな。その証拠に恐怖体験をしたと言うのに不思議とあの時は恐怖は全く感じなかったからな。むしろあの光虫のような小さな魂達に何かをあの場でお願いされたような気がしてならなかったが、その願いがようやく分かったよ。俺にルナを守ってやってくれと言う事だったんだな。そうだろう、この地に眠りし妖精の魂達よ!」
その話を聞いていた黒神子ヨーミコワは何かを誤魔化すかのように顔を引きつらせながら豪快に笑う。
「ハハ……ハハハハハハ、あり得ぬ、あり得ぬわぁぁぁ。ラエルロット、お前は夢を見ていたんだ。そんな死者の魂がこの世にいるわけがないだろ!」
「いや、精霊力や魔力や神聖力と言った謎の力がある世界だからこそ、死者の魂の存在も確かにあるだろ。この精神世界との繋がりが深い多種多様な生き物達がいるこの世界ではむしろ魂の存在は無視できないからな。その精霊の力を取り込んで力を振るっているお前がこの事実を否定は出来ないはずだ。そうだろう黒神子ヨーミコワ。何度も言うが、だからお前は蛾の妖精のルナを恐れているのさ。またあんな事になったら正直叶わないとお前は思っているはずだからな」
「あんな事だとう、お前が一体何を言おうとしているのかが正直分からないんだが」
「しらばっくれても無駄だぜ。俺はお前に何度も思いを具現化する苗木の木刀を叩きつける事でお前の過去の強い記憶を強制的に見せられていたんだからな。嫌でもあの時のことは理解したぜ。そしてお前が五百年前に邪妖精の女王にどうやって負けたのかもな。このままだとあの時の再現が始まるぜ。そうだろう、黒神子ヨーミコワさんよ!」
「だまれ、だまれ、ラエルロット、お前の世迷い言などもう聞く耳持たんわ。変な事をラエルロットに吹き込まれない内に……蛾の妖精のルナは確実にここで殺してくれるわ!」
「おやおや、ルナを殺してしまって本当にいいのか。ルナの奴に賢者の魔石の封印を解いて貰うんじゃなかったのかよ」
「だまれぇぇぇ、もう背に腹はかえられぬわ。この場でルナの奴を殺してもまだ彼女の弟・妹はいるんだから、どうにかなるだろう!」
「内心焦りに焦って破れかぶれかよ」
「そうだ、破れかぶれだ。蛾の妖精のルナ、いいや邪妖精の女王の末裔よ、私の不安要素でもあるお前には今ここで確実に死んで貰うぞ。ルナ、邪妖精の衣を扱えるお前が正直……一番ウザかったんだよ。お前を助けてくれる妖精達などはいない……お前は一人寂しくここで死ぬべきなんだあぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」
最後の最後まで蛾の妖精のルナを下げ済み罵倒する黒神子ヨーミコワの醜態をただ黙って見ていたラエルロットは大きく溜息をつくと、哀れみにも似た言葉を送る。
「黒神子ヨーミコワ……皮肉にも彼らを呼び寄せる材料は全て揃った。あんたはやっぱりタダの馬鹿だぜ。こんなにもルナの奴を精神的に追い詰めなかったら、ルナは本当の力を発動する事はなかったのにな。彼らが次元を越えて現れる三つの条件……それは、第一に、邪妖精の衣の真の形態をその体に纏って勇者のマントに同化をしている事と……第二に、そのルナをサポートしてくれる心を通じ合わせた勇者と協力関係にある事と……そして第三に、その外敵となる相手にルナの奴の肉体や精神が極限までに追い詰められている絶体絶命な危機に達しているその時だけだ。この三つが揃った時、ルナの強い危機感なり極限の意思なりを関知して、あいつらは次元の彼方から現れるらしいぜ。そうだろう、みんな!」
物凄く強い突風をかき分けながらラエルロットがそう小さく呟いたその時、蛾の妖精のルナが大きな声で叫ぶ。
「おとうさぁぁーーん、おかあさぁぁーーん!」
そのルナの叫びと共にラエルロットが羽織る無限皇帝のマントの内側の色が星屑を散りばめたような美しい無限の宇宙となり、その無限に続く亜空間の中から無数の小さな飛行体がそのマントの中から大量に出て来る。その小さな無数の光の集合体はサイクロンと化した激風の力に左右される事無く、真っ直ぐに目の前にいる黒神子ヨーミコワの体の至る所に取り付く。そうまるでその内に隠してある精霊の力を無効化するかのように。
「や、やめろ、やめてくれぇぇぇ!、この妖精の魂達をどけてくれぇぇぇ! 吸われる、吸われてしまう。全ての負の精霊エネルギーが浄化されて、精霊風の風の嵐が消え去ってしまう。無効化されて、しまうぅぅぅぅぅ!」
その言葉の通りに黒神子ヨーミコワの体に纏わり付いていた大量の小さな光の魂達はその場で突如消え、その消滅に合わせるかのように今まで辺りを覆い吹き荒らしていた巨大な竜巻の力が突如何事もなかったかのように消えてなくなる。
「あぁ……あぁぁぁぁぁぁ……妖精達を食べることで獲得してきた……私の溜に溜めた精霊の力が……一瞬で消えて無くなってしまった。一体これだけの精霊の力を集めるのにどれだけの労力が掛かっていると思っているんだ。今までの長年の苦労が全て水の泡だ。ちくしょう、ラエルロット、そして邪妖精の女王の子孫のルナ、お前達は絶対にゆるさんぞおぉぉぉ!」
「許さないだとう……それはこっちの台詞だ。黒神子ヨーミコワ、徹甲弾となる鋼鉄の羽を失い、飛ぶことも出来ず、虎の子の精霊力をも綺麗に浄化されて、更には次に魔力が回復するのは三分五十秒後だ。なら今ならお前の体に、決定的な一撃をお見舞いできるぜ」
「ハハハハ、何かと思えばそんな事か。全く意味の無いことを。お前の木刀による攻撃など、いくら食らった所でたいしたダメージは受けないのだよ。それがまだ分からないか。私は自分の体力が回復するまで、意地でもこの首に提げている賢者の魔石は死守させて貰うぞ!」
そんな無駄な悪あがきをする黒神子ヨーミコワにラエルロットは黒い不格好な木刀を右手で持ち構えながら応える。
「何か勘違いしているんじゃないのか。俺がお前に最初にする事は、物理攻撃をお前に与える事じゃないぜ。そもそもこの思いを具現化する苗木の木刀は人を殺害したり斬り伏せる為の剣じゃない。こいつは文字通り、俺の強い思いをただ相手に届けて、その相手の記憶を読み、更には俺が思い描く理想の結果をお前に植え付ける事のできるただのツールなんだよ。俺が振るう強い思いと幻想と揺るぎない意思が……確実にお前の体に届くようにと言う願いを込めてな」
「願いだとう……そのような意味の無い願いが一体何だというのだ。たとえ私にその一撃が当たったからと言って特に意味は無いだろう!」
「そんな事は無いさ。なぜなら俺はこの黒い不格好な木刀を通して、こんな願いを込めながらお前に何度も届けたからな。【黒神子ヨーミコワ、お前が妖精達を喰おうと大口を開けたその時、お前は妖精達の体の痛みや辛い思いを直に体感する事になるだろう。そうお前が直にその痛みを、思いを、苦しみを味わうのだ!】そんな呪いとも言うべき思いを……そして願いを……この一撃を最後に、お前が生きるこの世界で絶望と共に具現化してやるぜ!」
そう堂々と言い放つとラエルロットは思いを具現化する苗木の木刀を黒神子ヨーミコワの頭部に直撃させるのだった。
無限皇帝のマントと化した亜空間の中から、精霊エネルギーとなった今は亡き妖精達を解き放つラエルの図です。
「コッケェェコッコウ、コケェェコッコウ、どうやら一気に形勢が逆転したようだな。この精霊の力を私に使わせたからにはもうお前達に勝機は全くないな。ラエルロット、お前はこの力で1000メートル以上上空に吹き飛ばしてから、そのままレスフィナの不死の力が供給されない遠くの彼方まで消し去ってくれるわ!」
「そんな事をされたら俺は間違いなく死んでしまうな。ならこちらも出し惜しみは無しだ。お前をここで叩きのめしてその首に提げている賢者の魔石を絶対に手に入れてやるぜ!」
「やれる物ならやってみろ。くらえぇぇーーっ、これが私の最大にして最強の技だぁぁぁ。魔風神、竜巻精霊嵐ぃぃぃぃ!」
その大型の台風と巨大な竜巻と化した大回転を発生させる爆風が回りの全ての木々を簡単に吹き飛ばし、レスフィナ・シャクティ・ゴンタの三人を物凄い力で遠くに押しやっていく。
そのどうしてもあらがうことが出来ない凄まじい猛風の脅威に晒される事になったラエルロットは徐々に威力が増してきているヨーミコワの精霊力に立ち向かう為に最後の攻撃へと移る。
「いくぞ、ルナ、準備はいいか!」
「はい、いけます。いつでもOKです!」
「なら、くらえぇーーっ、物理攻撃において、俺の最強の攻撃技、狂雷、電光石火ぁぁ!」
その叫びと共に物凄い雷鳴と雷撃を纏わせたラエルロットの体はギラギラゴロゴロと光り輝き、まさに電光石火と呼ぶに相応しい物凄い俊足と俊敏な動きで目の前にいる黒神子ヨーミコワに目がけて突進していく。
「くらえぇぇーーっ、黒神子ヨーミコワ!」
だが、黒神子ヨーミコワの体にラエルロットが持つ黒い不格好な木刀が叩き込まれようとしていたその瞬間、黒神子ヨーミコワの体が七色に光り輝き、第三波による衝撃波と激風が物凄いサイクロンとなって近くまで接近していたラエルロットの体を吹き飛ばしに掛かる。だがラエルロットの体はまだその撃風の力にあらがい続けており、その猛風のような脅威に吹き飛ばされないようにその場所で必死に踏ん張り耐える。
ゴッ、ゴゴオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオっォォ!
「ここで吹き飛ばされて溜まるかぁぁぁ、絶対にこの木刀を、黒神子ヨーミコワ、お前のその体に必ず叩き込んでやる。やはり狂雷のスキルの突進力だけでは黒神子ヨーミコワの精霊力のエネルギーの突破は難しいか。ならこちらも覚悟を決めるか。ふ、復讐の鎧よ、この俺に黒神子ヨーミコワの体に届きえる最強の力を与えてくれ!」
そのラエルロットの願いと同時にラエルロットの体に装着されている復讐の鎧が高らかに不気味に嘆きの声を上げ、ラエルロットのパワーとスピードは飛躍的に倍増するが、目は充血し、鼻と口からは大量の血が滴り落ちる。
「ラ、ラエルロット!」
ラエルロットの侵した代償と体の異変に気づいた蛾の妖精のルナが心配して思わず声を上げるが、気にする様子も無くラエルロットは更に力を求める。
「まだ足りないか。なら続けて代償を払うぜ。復讐の鎧よ、その強者に恨みを晴らそうとする亡者共よ。この俺に更なる力の上乗せを頼む。どうか黒神子ヨーミコワに届きうる一撃を与えてくれ!」
「フフフフ、無駄、無駄、無駄、無駄だぁぁ。精霊風の風よ。こちらも更に増大せよ。木の葉のようにとどまっているラエルロットを今度こそ遙か遠くの彼方まで吹き飛ばせぇぇぇ!」
更に増大に力を増した激風に対抗するかのようにラエルロットは更に更なる力を復讐の鎧に求めるが、充血していた両目からは血が溢れ、体中の皮膚という皮膚はその衝撃に耐えられなかったのか、強烈な風と共にその血の液体は後ろの方へと吹き飛ばされていく。
「まだ黒神子ヨーミコワには届かないのか。くそうぅぅ、まだ・まだ・まだ・まだだあああぁぁぁぁ、この精霊力エネルギーが大量に含んだその激流の風の流れを止める手段は最初からないに等しい。だがそれでも……無駄だと分かっていてもやらなくてはならない時があるんだ。その時がまさに今だ!」
「だけどラエルロット、このままだと更なる力を求めたあなたの方がその力の代償から来る反動で体が耐えられなくなるわ。とてもじゃないけどその体は武力による願望を叶える前に体の崩壊の方が先に訪れるわ。もう既に無理矢理に引き出された力の影響で、鼻や口からだけじゃなく、目や所々の皮膚を破いた所からも大量の血が溢れ出ている。もう体が、ラエルロットの体が持たないわ!」
そう蛾の妖精のルナが叫んだ瞬間、また黒神子ヨーミコワの精霊力の風のエネルギーが増大する。
「フフフフ、これだけの強大な風の精霊エネルギーを受けてもまだ吹き飛ばされずに必死に耐えしのいでいるのか。なら最後は一気にマックス状態まで風の力を解放して、ラエルロット、お前を確実に空が見える上空の彼方まで吹き飛ばしてくれるわ。くらえぇぇーーっ!風の精霊の力ぁぁ、マックスゥゥゥゥゥ!」
そのどうしてもあらがう事のできない絶対的な激風の力に耐えられなかったラエルロットの体はついに地面から離れ、そのまま大きな激風と強風の嵐の中へと巻き込まれていく。
「ハハハハハ、今までよく耐えたがこれでお終いだ。この私が操る精霊力のエネルギーの前では全ての努力が無駄と化すのだあぁぁ!」
ラエルロットが強烈なサイクロンの力で高らかに上空へと巻き上げられ、飛ばされたと確信した黒神子ヨーミコワは高らかに笑うと自分の勝利を確信するが、ラエルロットは荒い息を吐きながらもその荒れ狂う風の激流に逆らい、どうにかその体を空中で維持している。そう蛾の妖精のルナは己の飛行能力で、上へと吹き飛ばされそうになっているラエルロットの飛行を影ながらに手伝う。
「ルナ、お前、この荒れ狂う風の激流に逆らって、お前の方は大丈夫なのか?」
「ええ、私の方は心配しないで。でもこの風の嵐を貯蔵し吸い込める程のMPが今の私にはもう無いわ。だからこの精霊風の風の嵐を吸い込む事ができない。たく、せっかくこの精霊のエネルギーを大量に邪妖精の衣の中に保管ができる唯一のチャンスなのに、本当に口惜しいわ!」
「くそぉぉぉ、ならこっちも更なる力の要求だ。復讐の鎧よ、更なる力の倍増を更に重ねて要求する。あの黒神子ヨーミコワの体に叩き込めるだけの力を更に要求するぜ。さあ俺の願いを叶えろ! 大丈夫だ、俺も今は不死だと言う事を忘れるなよ!」
「ラエルロット、無茶はしないで。そんな力を求める頼み方を続けて何度もしたら、いくら不死の能力供給を受けているラエルロットでもその体はしばらくは動けなくなるわ。それに忘れたの、この精霊風の風をまともに浴びた黒神子レスフィナはしばらくはその魔力自体が封じられる結果になってしまった事に。だからこそ黒神子ヨーミコワに敗北したレスフィナは一時的とはいえ賢者の魔石の中に封じられる結果になってしまったんじゃない。つまり、今現在ラエルロットが受けているそのダメージはそう簡単には修復はされないと言う事よ!」
「それでも……それでも……今はこれしかないんだ。ベストを尽くす以外に俺が今できる事はこれしかないんだぁぁぁぁ。いくぞ、電光石火と遂になる技、狂雷、雷光石火ぁぁ!」
「ラエルロットぉぉ!」
その叫びと共にラエルロットは右手に持つ、思いを具現化する苗木の木刀を黒神子ヨーミコワの体に叩き込む為に最後の力を振り絞る。
だが強力なマックス状態の精霊エネルギーの前ではラエルロットの木刀による一撃は届かず、その力の反動なのかラエルロットの左腕の骨は逆にへし折れ、折られた左腕はその先端から引きちぎられ、強風と共に豪快に後ろの方へと吹き飛ばされていく。
「ぐっわあぁぁぁぁぁーーぁぁ、腕が、俺の左腕が、行き成り吹き飛びやがった。しかもレスフィナの不死の加護が薄いせいか吹き飛ばされた左腕の箇所と体中が物凄く痛い。泣きたいくらいに痛いぜ。やはりこの精霊の力をまともに受けて……今現在レスフィナはその魔力を封じられているから俺の傷の治りも悪いと言う事なのか。だとしたらかなりやばい状態だぞ、なぜなら今の俺は限りなくただの人間に等しい存在だからだ。このままでは下手をしたら出血多量と外傷性ショックで確実に死んでしまうかも知れない!」
大きな声で不安を吐露するラエルロットは最後の一撃となる攻撃を阻止された事で仕方なく飛ぶのを辞め地面へと降り立つが、そんなラエルロットとルナに黒神子ヨーミコワは邪悪な笑みを向けると二人を睨みつける。
「ルナ、いつまで頑張っているの、無駄な抵抗は止めなさい。あなたはなんの価値も無いただただ災いと死をもたらす厄介者なんだから、必死に生きていても仕方がないでしょ。お父さんもそうだけど、お母さんも当然あなたのことは大っ嫌いだったわ。生まれて来なければいいとも思っていたわ。だってあなたのお陰でわたしとお父さんは死んだんだから。私達の代わりにあなたが死ぬべきだったのよ。そうは思わない、ルナ……」
その母の声質で語る黒神子ヨーミコワの辛辣な悪意のある言葉に蛾の妖精のルナは泣きながら「お、お母さん……わたし……わたしは……」と言いながらかなりのショックを受けている様子だったが、そんな二人の会話にラエルロットが劇を入れる形で口を挟む。
「ルナ、奴の言葉など聞く価値もないぜ。本当は分かっているんだろ。君のお母さんがそんな事を言う訳がないじゃないか。これはただ単に君のお母さんの声を真似た黒神子ヨーミコワの悪ふざけだ。ただ単に頑張っている君の心に揺さぶりを掛けて精神攻撃を試みているだけだ。だけどなんでそんな事をあいつが今この時にしなけねばならないんだろうな。もう既に万策尽きた俺達とは違い、黒神子ヨーミコワの方が明らかに戦いに勝っているこの時にだ」
「なぜなの……なぜ黒神子ヨーミコワは必要以上に私を苦しめるの?」
「答えは簡単だよ、黒神子ヨーミコワは、蛾の妖精のルナ、君のことをまだ心底恐れているからだ。君が生きていたら、また五百年前のように大量の仲間達を呼び寄せられて、黒神子ヨーミコワは敗北を強いられると思っているのさ!」
「大量の仲間……でも私にはそんな仲間は誰もいないわ。他の蛾の妖精達はみんな避難所の祠の岩穴の中に隠れているし、私を助けてくれているレスフィナ・シャクティ・ゴンタ・そしてラエルロットの四人以外に私を助けてくれる仲間はもう誰もいないわ。だからこそ私達は今正に大ピンチなんじゃない」
「確かにそうかもな。でもさあ、ルナを助けようと思っている人達はなにも全くいない訳じゃないんだぜ。もしかしたら結構近くに、大量にルナの今までの奮闘や頑張りを見ていてくれている人達がいたかも知れないぜ」
「そんな人達はいないわ。他の妖精達が蛾の妖精なんかを助けてくれる訳がないじゃない。私達……蛾の妖精族は、薄汚い愚かなただの羽虫らしいからね」
「本当に……?」
「くどいわね、何度も言わせないでよ!」
「だけど俺は昨日の夜に確かに会ったぜ。蛾の妖精達を……ルナを守ろうとこの隠れ里に集まってきてくれている妖精達の存在を……」
そのラエルロットの話を聞いていた黒神子ヨーミコワは青い顔をしながら震える声で叫ぶ。
「妖精達がこの地に集まって来ているだとう、適当な事を言ってんじゃねえよ。そんな事がある訳がないじゃないか。あの嫌われ者の蛾の妖精族を好んで助けてくれる他の妖精達はこの地域には全くいないはずだ。大体この黒神子ヨーミコワに挑んで来る妖精達などもうこの世には誰一人としている訳がないんだ。そうだろう!」
その黒神子ヨーミコワの指摘にラエルロットは吹き荒む風をかき分けながら大きな声で叫ぶ。
「お前は今、自分で答えを言ってしまったぞ。そうだ、この世にはお前を止められる妖精達はもう誰もいないのかも知れないが、あの世の人達ならどうだ。今までに殺して来た様々な妖精達や……蛾の妖精のご先祖達や……そして勿論その中には一年前に亡くなったルナのご両親だって必ずいるはずだ。だからこそ昨日の夜俺は、あの場所に呼ばれたんだ。そうあの光虫が大量に……静かに飛び交うあの禁断の墓標のある土地にな。昨夜俺はその場で飛んでいる大量の虫は山によくいる光虫の類だと思って気にもしてはいなかったんだが、その朝にレスフィナにこの事を話したらそれは光虫では無くこの地で亡くなった妖精達の魂が集まる場所だと聞いたんでな、不思議な霊体験をしたと肝を冷やしていたんだよ」
「そんな、でもこの地に住み着いている私だってそんな経験はまだしたこともないのに、その話は本当なの?」
「ああ、本当だよ。あの後シャクティとゴンタにも聞いたが、あの場所に大量にいた光虫は全く見てはいないと言う話が帰ってきたよ。つまりあの場所で光虫にも似た妖精達の魂が見えていたのは、俺とレスフィナの二人だけだったと言うことさ」
「そうか、蛾の妖精達は……お父さんとお母さんは私達を影ながらに見守っててくれていたんだ……そう、そうなのね。ラエルロット」
「ああ、そうだとも、でなけねばあんな誰もいない薄気味悪い山の中で一人で出向いて、黄昏れていること事態が可笑しな事だったからな。あの時俺は、今まで亡くなった蛾の妖精達の魂に呼び寄せられていたのかもな。その証拠に恐怖体験をしたと言うのに不思議とあの時は恐怖は全く感じなかったからな。むしろあの光虫のような小さな魂達に何かをあの場でお願いされたような気がしてならなかったが、その願いがようやく分かったよ。俺にルナを守ってやってくれと言う事だったんだな。そうだろう、この地に眠りし妖精の魂達よ!」
その話を聞いていた黒神子ヨーミコワは何かを誤魔化すかのように顔を引きつらせながら豪快に笑う。
「ハハ……ハハハハハハ、あり得ぬ、あり得ぬわぁぁぁ。ラエルロット、お前は夢を見ていたんだ。そんな死者の魂がこの世にいるわけがないだろ!」
「いや、精霊力や魔力や神聖力と言った謎の力がある世界だからこそ、死者の魂の存在も確かにあるだろ。この精神世界との繋がりが深い多種多様な生き物達がいるこの世界ではむしろ魂の存在は無視できないからな。その精霊の力を取り込んで力を振るっているお前がこの事実を否定は出来ないはずだ。そうだろう黒神子ヨーミコワ。何度も言うが、だからお前は蛾の妖精のルナを恐れているのさ。またあんな事になったら正直叶わないとお前は思っているはずだからな」
「あんな事だとう、お前が一体何を言おうとしているのかが正直分からないんだが」
「しらばっくれても無駄だぜ。俺はお前に何度も思いを具現化する苗木の木刀を叩きつける事でお前の過去の強い記憶を強制的に見せられていたんだからな。嫌でもあの時のことは理解したぜ。そしてお前が五百年前に邪妖精の女王にどうやって負けたのかもな。このままだとあの時の再現が始まるぜ。そうだろう、黒神子ヨーミコワさんよ!」
「だまれ、だまれ、ラエルロット、お前の世迷い言などもう聞く耳持たんわ。変な事をラエルロットに吹き込まれない内に……蛾の妖精のルナは確実にここで殺してくれるわ!」
「おやおや、ルナを殺してしまって本当にいいのか。ルナの奴に賢者の魔石の封印を解いて貰うんじゃなかったのかよ」
「だまれぇぇぇ、もう背に腹はかえられぬわ。この場でルナの奴を殺してもまだ彼女の弟・妹はいるんだから、どうにかなるだろう!」
「内心焦りに焦って破れかぶれかよ」
「そうだ、破れかぶれだ。蛾の妖精のルナ、いいや邪妖精の女王の末裔よ、私の不安要素でもあるお前には今ここで確実に死んで貰うぞ。ルナ、邪妖精の衣を扱えるお前が正直……一番ウザかったんだよ。お前を助けてくれる妖精達などはいない……お前は一人寂しくここで死ぬべきなんだあぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」
最後の最後まで蛾の妖精のルナを下げ済み罵倒する黒神子ヨーミコワの醜態をただ黙って見ていたラエルロットは大きく溜息をつくと、哀れみにも似た言葉を送る。
「黒神子ヨーミコワ……皮肉にも彼らを呼び寄せる材料は全て揃った。あんたはやっぱりタダの馬鹿だぜ。こんなにもルナの奴を精神的に追い詰めなかったら、ルナは本当の力を発動する事はなかったのにな。彼らが次元を越えて現れる三つの条件……それは、第一に、邪妖精の衣の真の形態をその体に纏って勇者のマントに同化をしている事と……第二に、そのルナをサポートしてくれる心を通じ合わせた勇者と協力関係にある事と……そして第三に、その外敵となる相手にルナの奴の肉体や精神が極限までに追い詰められている絶体絶命な危機に達しているその時だけだ。この三つが揃った時、ルナの強い危機感なり極限の意思なりを関知して、あいつらは次元の彼方から現れるらしいぜ。そうだろう、みんな!」
物凄く強い突風をかき分けながらラエルロットがそう小さく呟いたその時、蛾の妖精のルナが大きな声で叫ぶ。
「おとうさぁぁーーん、おかあさぁぁーーん!」
そのルナの叫びと共にラエルロットが羽織る無限皇帝のマントの内側の色が星屑を散りばめたような美しい無限の宇宙となり、その無限に続く亜空間の中から無数の小さな飛行体がそのマントの中から大量に出て来る。その小さな無数の光の集合体はサイクロンと化した激風の力に左右される事無く、真っ直ぐに目の前にいる黒神子ヨーミコワの体の至る所に取り付く。そうまるでその内に隠してある精霊の力を無効化するかのように。
「や、やめろ、やめてくれぇぇぇ!、この妖精の魂達をどけてくれぇぇぇ! 吸われる、吸われてしまう。全ての負の精霊エネルギーが浄化されて、精霊風の風の嵐が消え去ってしまう。無効化されて、しまうぅぅぅぅぅ!」
その言葉の通りに黒神子ヨーミコワの体に纏わり付いていた大量の小さな光の魂達はその場で突如消え、その消滅に合わせるかのように今まで辺りを覆い吹き荒らしていた巨大な竜巻の力が突如何事もなかったかのように消えてなくなる。
「あぁ……あぁぁぁぁぁぁ……妖精達を食べることで獲得してきた……私の溜に溜めた精霊の力が……一瞬で消えて無くなってしまった。一体これだけの精霊の力を集めるのにどれだけの労力が掛かっていると思っているんだ。今までの長年の苦労が全て水の泡だ。ちくしょう、ラエルロット、そして邪妖精の女王の子孫のルナ、お前達は絶対にゆるさんぞおぉぉぉ!」
「許さないだとう……それはこっちの台詞だ。黒神子ヨーミコワ、徹甲弾となる鋼鉄の羽を失い、飛ぶことも出来ず、虎の子の精霊力をも綺麗に浄化されて、更には次に魔力が回復するのは三分五十秒後だ。なら今ならお前の体に、決定的な一撃をお見舞いできるぜ」
「ハハハハ、何かと思えばそんな事か。全く意味の無いことを。お前の木刀による攻撃など、いくら食らった所でたいしたダメージは受けないのだよ。それがまだ分からないか。私は自分の体力が回復するまで、意地でもこの首に提げている賢者の魔石は死守させて貰うぞ!」
そんな無駄な悪あがきをする黒神子ヨーミコワにラエルロットは黒い不格好な木刀を右手で持ち構えながら応える。
「何か勘違いしているんじゃないのか。俺がお前に最初にする事は、物理攻撃をお前に与える事じゃないぜ。そもそもこの思いを具現化する苗木の木刀は人を殺害したり斬り伏せる為の剣じゃない。こいつは文字通り、俺の強い思いをただ相手に届けて、その相手の記憶を読み、更には俺が思い描く理想の結果をお前に植え付ける事のできるただのツールなんだよ。俺が振るう強い思いと幻想と揺るぎない意思が……確実にお前の体に届くようにと言う願いを込めてな」
「願いだとう……そのような意味の無い願いが一体何だというのだ。たとえ私にその一撃が当たったからと言って特に意味は無いだろう!」
「そんな事は無いさ。なぜなら俺はこの黒い不格好な木刀を通して、こんな願いを込めながらお前に何度も届けたからな。【黒神子ヨーミコワ、お前が妖精達を喰おうと大口を開けたその時、お前は妖精達の体の痛みや辛い思いを直に体感する事になるだろう。そうお前が直にその痛みを、思いを、苦しみを味わうのだ!】そんな呪いとも言うべき思いを……そして願いを……この一撃を最後に、お前が生きるこの世界で絶望と共に具現化してやるぜ!」
そう堂々と言い放つとラエルロットは思いを具現化する苗木の木刀を黒神子ヨーミコワの頭部に直撃させるのだった。
無限皇帝のマントと化した亜空間の中から、精霊エネルギーとなった今は亡き妖精達を解き放つラエルの図です。
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